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2006.01.14

著作権分科会 #17 ──資料にすら目を通しているとは思われない勉強不足の分科会委員たち

 1月12日に 文化審議会著作権分科会 (第17回) が開かれ、報告書が了承された。今期の法制問題小委員会で議論された「権利制限の見直し」「私的録音録画補償金の見直し」についての方針が、小委員会での議論通りに決定したこととなる。
 分科会の内容を伝える報道については 『Where is a limit?』 が追いかけているので参照されたい。残念ながら これといった記事はまだ出てきていないのだが。どうしても視点が私的録音録画補償金に偏ってしまうきらいがある(報道機関がそれじゃまずかろう)。

 さて、ここでは 『zfyl』 の「議事概要(メモ)」をもとに感想を述べたい。委員発言に看過できないものが あまりに多いからだ。かと言って、気合い入れてツッコむほどの中身でもない。だから ゆるゆるとツッコんでみる。

http://nirvana.blog1.fc2.com/blog-entry-54.html
「文化審議会著作権分科会(第17回)」
(zfyl)




○ 金原委員(社団法人日本書籍出版協会副理事長〔株式会社医学書院代表取締役社長〕):権利制限の見直しについて。報告書に含まれる特許、薬事、教育について、非常に公共性が高いのはよくわかるが、見直しに当たって考慮いただきたいのはベルヌ条約との整合性である。ベルヌ条約は、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件としているが、公共の場合についての定めはない。もともと公共性の高い部分で利用される著作物がその為に作られている場合には、著作物の通常の利用を妨げることを考慮いただきたい。

▲小委員会での議論でも、ベルヌ条約との整合性に配慮されていたことは言うまでもない。それよりも、どのように「正当な利益を不当に害」することとなるのか具体的に指摘すべきであろう。それとも具体例を示せない理由でもあるのか?
▲「公共の場合についての定めはない」(つまり公共の場合には権利制限できない?)との見解はベルヌ条約を誤解しているのではないか。
▲論理的な議論がしたいのであれば、「公共性の高い部分で利用される著作物がそのために作られている場合」を特定し、その場合と そうでない場合それぞれについて権利制限の可否を判断すべきであろう。また、許諾権・報酬請求権の扱いもそれぞれ考える必要がある(必ずしも報酬請求権まで制限しなければ実現できないというものでもない)。こういう論の立て方が出来ず、同じ台詞ばかり繰り返していても能がない。

※金原委員発言

 薬事のところでは、製薬企業は複製物を提供することについて直接の対価を得ないということだが、製薬会社による複製物の提供は業務に密接に関係あると思うので、検討いただきたい。

▲国民の生命に関わる情報提供について、その公共性を全く理解していない。また、ここでも許諾権と報酬請求権をごっちゃに述べているが故意なのか否か(理性的判断としては報酬請求権までの後退を主張すべき場面だろう、これは)。

※金原委員発言

 著作権法42条が想定しているのは、内部利用であり、同様の趣旨であると考えるのは行き過ぎと思う。あくまで、行政の内部利用と限定されているのであり、対外的頒布まで延長したり、同種と考えるのは拡大解釈があるのではないか。

▲ならば法改正して「対外的頒布」を認めるべきであろう。

※金原委員発言

 入手困難については、ここで入手困難とは、許諾のことと思うが、すでに権利団体による許諾が機能しているので、誤解のないようにしていただきたい。

▲権利団体による許諾が大して機能していないことが資料に掲載されている(当該手続で使われる資料のうち、多くが許諾対象となっていない)。権利者側は、アウトサイダーの問題をあまりにも過小評価している。
▲また、アウトサイダーの許諾権についても無理やり既存管理団体で扱わせるべきとの意見もチラホラ見るが、これとて一種の権利制限であろう。こうした考えは、権利者団体側の「自分たちの権利だけは守りたい、他人のは知らん」というエゴでしかない。というか、これは法律で許諾権を制限するのと同じ手法である。

○ 神山委員(社団法人日本新聞協会新聞著作権小委員会委員長):(中略)今回提案の特許・薬事は、特許を得たい、新薬の承認を得たいという私企業の営利目的行為に対して権利制限を認めようということで、筋が違うと思う。例えば、特許を得るために必要な手続のためにコストがかかるというのは当然負担すべきコストであり、権利制限を認めるのはいかがなものか。医薬も、副作用情報の提供も社会的責任として当然すべきことであり、権利制限を認めるのはいかがなものかと思う。

▲ここでも許諾権と報酬請求権をごっちゃにした意見が出ている(権利制限に反対するための方便か?)。許諾権を制限させて、報酬請求権を行使するという発想が なぜ出てこないのか。
▲特許での権利制限について「私企業の営利目的行為に対して権利制限を認め」るという認識の奇妙さ。今までの配付資料(「審議の経過」や「報告書」)にきちんと目を通していれば このような解釈になりようがない。中山委員が分科会の場でも説明しているが、特許にかかる権利制限は瑕疵ある特許を認めないための対抗策である。瑕疵ある特許が存在することで迷惑するのは国民であり、技術発展阻害・訴訟コスト負担など後々大きな影響を被るのである。また、医薬関連の公共性については言うまでもない。
▲「私企業の営利目的行為」と表裏一体の手続であるがゆえに反対が出てくることはまだしも理解できるが、ならば どう区別すれば「私企業の営利目的行為」から切り離せるのか、そういった視点で権利者側から論点をなぜ提示できないのか。多くの人権が「公共の福祉」に制限される以上、著作権を理由に公共性を切り捨てることもまた許されまい。にもかかわらず、彼らの主張は公共性を切り捨てろということなのである。
▲公共性に配慮し、出来ることなら著作権も守る。そのバランスを全く考えない権利者は害にしかならない。

○ 中山法制小委主査:特許を例に答える。これは、出願人が自分の利益のためにコピーするのではなく、第三者が特許をつぶすために使うのである。むしろ出願人としては出てこない方がよいこと。特許という重大な権利が瑕疵あるものとして力を持たないための公益目的である。

○ 神山委員:自分のコストで潰せということである。

▲中山委員がここまで説明しているにもかかわらず、理解できない分科会委員。

○ 岡田委員(社団法人日本音楽著作権協会理事〔作詞家〕):(中略)報告書の内容を蒸し返すことなくとおっしゃったが、これは報告書であって絶対的なものではない。間違ったものであった場合には、それに基づく検討により間違いが広がるので、むしろ、蒸し返したり、内容を振り返ることは必要なことである。この報告書を前提とすべきとの考えは少しおかしいのではないか。

▲「絶対的なものではない」のは私的録音録画補償金も同じ。根本的に再検討すべきは、いわゆる私的録音・録画問題そのものなのである(私はこの議論が正確に行なわれたことは今まで無かったと確信している)。論理的基礎を蓄積できるような議論をこれから やり直さねばならない。
▲結局のところ、権利者として都合の良いように詭弁を弄しているに過ぎない。そういう発言だ(彼らは私的録音録画補償金を「前提とすべき」と考えているのだから)。

○ 中山法制小委主査:現在政令指定されていない機器で私的録音する行為は違法ではないので、政令指定されていないiPodに課金しないことが著作権を侵害するということではない。しかし、著作権侵害ではないが、実際上の利益侵害はあるかもしれない。もし、現在権利侵害があれば、直ちに違法だから何とかしないといけないということになる。
 (中略)報告書ではiPodに課金することの是非は述べてない。30条の見直しを早急にしなければならないということ。また、利用者は何でも無料で利用できなければならないということは言ってないし、審議会でもそういう意見は皆無であった。

▲「実際上の利益侵害はあるかもしれない」との言い方に注意。あくまでも断言できないのである。
▲中山委員の立場(その考えも含め)では当然の発言ではあるが、「利用者は何でも無料で利用できなければならないということは言ってないし、審議会でもそういう意見は皆無であった」との話には違和感を持つ。「無料で利用でき」るべき場面というものを考えていただきたいものだ。

○ 大林委員(社団法人日本芸能実演家団体協議会専務理事):(中略)以後の会というのは、委員構成を含めてどういう構成になっているのか。これ以後の議論は細かい具体的な問題が出てくるから、是非権利関係の方、直接の当事者を入れていただいて、激論でも結構なので、はっきり議論を戦わせた方がよいと思う。なぜか。たとえば、二重徴収という論旨がある。別なところには、制度上の問題点ということで、汎用的機器、媒体が用いられる実態がある一方で使用しない場合にも負担が生じるとある。誤解かどうかわからないが、これは矛盾しているので、その整理を含めて当事者に是非出てきていただきたい。
 (中略)ここにいる人の全てがエンドユーザーでもあって、いろいろ考えがあると思うので、エンドユーザーとしてどう考えるかは我々も考える必要があるが、今後は関係者も入れて議論をお願いしたい。

▲「直接の当事者」にエンドユーザーが含まれているのか否か。怪しい。
▲二重徴収の問題と、汎用機器・記録媒体の問題とは全く別の話である。何がどう「矛盾」しているのか教えてもらいたいものだが。
▲「ここにいる人の全てがエンドユーザーでもあって、いろいろ考えがあると思うので、エンドユーザーとしてどう考えるかは我々も考える必要がある」という発言に至ってはナンセンス。権利者と名のついた者が今までエンドユーザーのことを考えたことがあったか?(皆無ではないが。) エンドユーザーの意見については「我々も考える」のではなく、エンドユーザー自身に参加させて反映していくしかあるまい。最低限、パブコメの意見だけでも読むべし(エンドユーザーを騙るイタいものもあるが)。

○ 土肥委員:(中略)補償金問題にとっても、確かに実際上の不利益が起きているのだろうと思う。来年以降引き続き検討することとされているが、これは今年引き続きという趣旨と思うので、適宜調整いただきたいが、いずれにせよ、DRMが完全にできるようになっても補償金制度はなくならないのだろうと思う。集中的に議論しないと、現在利益が損なわれているとしたら不公平な状態になると思うので、集中的で端的な議論が行われる必要がある。

▲「補償金問題にとっても、確かに実際上の不利益が起きているのだろう」と。「実際上の不利益」がどのようなものなのか示してほしい。断言されているわけではないが‥‥。「現在利益が損なわれているとしたら」みたいな仮定の話にしかならないから、この私的録音・録画問題が進展しないのだ。

○ 瀬尾委員:(中略)現在の私的利用について、音楽に限定されず、これまで個人的に簡単にするものだったのが、現在は個人が非常に精度の高いものをつくって、それを発信もできてしまう。家庭内という定義が当てはまらなくなっているのではないか。

▲「現在は個人が非常に精度の高いものをつくって、それを発信もできてしまう」? そりゃ「私的利用」じゃないだろう。そもそも前提がおかしい。
▲もし発信者本人が制作した著作物を指しているとしたら、それはそれで問題のある発言である。著作物の発信を“プロ”が独占し、「家庭内」での著作物制作までも阻害しようとする思想かも知れない。しかしながら“プロ”であっても、著作物制作が著作権法の保護下に入るのは それが「家庭」の外へ出た時点である(正確には、「家庭」の中にある時点でも公表権が関わってくるけれども。ここでは著作者人格権ではなく著作財産権に限定して考えることとする)。となると「瀬尾委員」の言っていることは まるっきり無意味ということになるが如何か。

○ 常世田委員(社団法人日本図書館協会常務理事):権利制限について図書館の立場から。図書館は理不尽なエンドユーザーの要求に対抗して権利を守っている立場である。(中略)
 図書館の権利制限について。他館から借りた本のコピーについてはガイドラインが動き始めており、これにより一定程度問題は解決できると思うが、権利者団体に全ての権利者が参加しているのではないし、図書館は、法律とは異なるガイドラインのようなものについては過剰に規制してしまう場合もあり、これでは不十分だという認識を持っている。それについてもご理解いただきたい。
 6つの要望について、多数が支持したとしているにもかかわらず先送りなのはなぜか。後退しているのではないか。「7その他」の積極的に政令に委任するというのが重要だろうと思う。今回、積極的に委任するとされているにもかかわらず、そういう手段が執られていないのは残念である。
 4番目の再生手段の入手困難についても、以前の報告書で明確に法改正すべきとされているもので、早急に法改正が必要と思っている。
 官公庁の報告書については自由利用マークでとあるが、実効が上がってないので要望しているのである。不可能な場合のみ表示するのが現実的ではないか。
 障害者については法の下の平等を保証されていないということ。憲法にも抵触する。全く対応されてない障害者もいるということも理解いただきたい。

▲あくまでも この「議事概要」の中身が正確だったらという話でしかない(正確な言い回しについては公式議事録での確認を待つしかない)が、「図書館は理不尽なエンドユーザーの要求に対抗して権利を守っている立場である」などという発言を図書館側の代表者がしても良いものなのか? むしろそのエンドユーザーの「理不尽な」要求の問題点を解説したり、それが「理不尽」にならないようガイドラインなり法改正なり模索すべきであろう。図書館はエンドユーザーを“商売相手”にするものであり、かつ そのエンドユーザーを啓蒙していくという役割を担っているにもかかわらず、図書館協会を代表する者がこのような暴言を吐くとは。あまりにも思慮に欠ける発言ではないか(それとも何か、図書館関連の権利制限要望はエンドユーザーの「理不尽な」要求の結果だとでも?)。
▲図書館関連の要望が全滅したのは先の法制問題小委員会で既に決していたことだが、今までに日本図書館協会から声明が発せられたとは聞いていない。まして唯一実現の見通しがあった図書館間の相互貸借資料の複製については、文化庁著作権課による勝手な解釈で要望取下げのような形に扱われている(直後、図書館側と権利者側とのガイドラインが発表されたが)。このような不透明な検討を受けていながら沈黙し続け、この著作権分科会の場で反応を初めて返した。これだけ言いたいことがあったのなら、何故いままで沈黙していたのだ。
▲日図協は、さまざまな場面でもっと情報発信を強化すべきであろう。特に、言うべきことについては素早く声明を出すくらいの姿勢が必要だ。この点、あまり良い例ではないが JASRAC や文藝家協会を見習うべき。

投稿:by 暇人#9 05:20 午後 [著作権行政 watch] | 固定リンク | コメント(0) | トラックバック

2006.01.07

著作権法改定後の状況

 『Where is a limit?』 さんの記事に触発されて(ついでにデータもパクらせてもらって)、新しい内容で知財戦略本部へ意見を出した。締切りの 1月6日 を目一杯使って書き上げたものだ。 2004年の 著作権法改定(施行は 2005年) の中心だった還流防止措置と書籍・雑誌貸与権のふたつについて、施行後1年の状況をまとめたものである。
 ただし私も“事情通”という訳ではないので、あくまでも私の視点からしか描けないわけだが。特に貸与権に関しては、あまり情報が流れてこない(ように見える)。そのようなわけで、事実誤認等あるかもしれない。指摘されたし。

 ──以下、提出した意見である。




 2004年の 著作権法改定(施行は 2005年1月1日) により、商業用レコードの還流防止措置が創設され、また書籍・雑誌に貸与権が及ぶこととなった。それぞれについて、施行後1年の状況を以下 考察したい。


【還流防止措置】

●2005年中に アジアでライセンスされた邦楽CD、および差止申立ての受理されたCDがあまりに少なすぎる。還流防止措置の目的は邦楽CDのアジア展開を促進することにあったのだが、日本レコード協会の調査によると、 2005年上半期では むしろ前年比 21%減 であることが明らかになっている。 2005年 全体では最終的に前年並みにまで回復する見通しとのことであるが、これでは還流防止措置を創設した意味があったようには思われない(自由貿易の国是を曲げてまで創設された制度だけに、効果が得られなかった場合は撤廃すべきである)。
 なお アジアでライセンスされた邦楽CD、および税関に差止申立てされたCDに関する集計データを以下に幾つか引用する。

△2005年1月〜3月
 ライセンス 延べ 229 (133 タイトル)
 ※知的財産推進計画 2005 「知的財産戦略の進捗状況」より

△2005年4月8日 時点
 申立予定 延べ 17
 受理済み 延べ 9
 ※ブログ 『Where is a limit?』 調べ

△2005年1月〜6月
 ライセンス 延べ 494 (286 タイトル)
 受理済み  延べ 32 (13 タイトル)
 ※日本レコード協会調べ。
  前年同期からライセンス 21%減。 タイトル 23%減。
  なお 2005年は 最終的に前年並みになる見通しとのこと。
  公正取引委員会『音楽CD等の流通に関する懇談会(第2回)』
  資料より。

△2005年6月30日 時点
 申立予定 延べ 226
 受理済み 延べ 34
 ※ブログ 『Where is a limit?』 調べ

△2005年9月6日 時点
 申立予定 延べ 276 (153 タイトル)
 受理済み 延べ 81 (39 タイトル)
 ※公正取引委員会調べ。
  『音楽CD等の流通に関する懇談会(第2回)』資料より。

△2005年9月6日 時点
 申立予定 延べ 275
 受理済み 延べ 85
 取下げ済み 延べ 6
 ※ブログ 『Where is a limit?』 調べ

△2005年12月26日 時点
 受理済み 延べ 157 (82 タイトル)
 申立予定 延べ 352
 取下げ予定 1タイトル
 (計 510)
 ※ブログ 『Where is a limit?』 調べ

 全体を通して見ると、アジアでのライセンス数が前年割れである以外に、そのライセンス数が差止申立受理・申立予定の合計を上回っていることが判る。すなわち還流防止措置を利用していない邦楽アジア盤も存在しているということである。
 日本レコード協会は差止申立てを行なう盤はすべて「輸入差止申立てに係る対象レコードリスト」に掲載するとの方針であるから、ここに掲載されず アジアでライセンスされた盤は輸入可能であると思われる。そこで問題になるのは当該盤に「日本国内頒布禁止」の表示が付けられていないのかだ。この辺り、レコード協会には実態把握および適正化の努力義務があるのではないか。


●ライセンス数はともかく、差止申立予定数と申立受理数とを比較しても、受理済みの盤はあまりにも少ない。特に、日本レコード協会での公表リストに掲載され現地発売から半年も経過していながら、「申立て予定」のまま放置されているものが のべ 114項目 (タイトル数にすると 70) ある。

※上のデータは、 2005年12月29日 現在のリストを元に、現地発売が 2005年6月30日 以前のものを計数した。ちなみに同条件で「受理済み」の項目は のべ 120 (タイトル数にすると 60) ある。本来「受理済み」で然るべきの項目のうち、半分程度しか実際に「受理済み」となっていない訳だ。

 還流防止措置の実効性を得るためには、アジア盤が発売される前に申立てが受理され、輸入が止められるようでなければならない。その意味では、この「申立て予定」が当該盤発売後も(まして半年ともなれば尚更)続くのは、還流防止措置の正当性をレコード会社自らが失わせるものであり、同措置を続けていく意味があるのかという疑義を生じさせるところである。


●逆に、「申立て予定」のままでもレコード会社が慌てずに済むということは、輸入差止申立てが受理されなかったものでも還流防止措置の恩恵に与っているのではないかという疑義が生じるところである。還流防止措置に限らず、税関への輸入差止申立てについては申立て時点から輸入が止められているとの報道もある。税関の実務として、還流防止措置においてどのような扱いが為されているのか、もっと詳細な情報公開が欲しいところである(申立て中・申立て受理における輸入差止のタイミングや、申立てしている盤のデータなど。なお現在は、申立ての受理された盤のみが公表されている)。
 還流防止措置に限って言えば、申立て盤が措置適用要件を満たしているか否かが申立て受理という事実でしか判断できず、「日本国内頒布禁止」表示や国内外のライセンス料の比較などの正確な判断が要求されるため、申立て受理の時点で初めて差止めるのが適当である。本来 措置適用要件を満たさないような盤が虚偽の申告によって差止められ、本措置創設時に懸念された無差別的な輸入制限を引き起こす結果となる。慎重な実務が求められるところである。


●還流防止措置の対象となるべき邦楽盤については、日本レコード協会が公表するレコードリストで申立て予定・受理済み等の情報が参照できるところである。が、このレコードリストには現地発売日やタイトル・品番などの記載に不備が多く見られる(「未定」や度重なる変更など)。また、申立て予定のまま記載内容が変わらず、本当に申し立てが為されているのか判然としないものすらある。酷い例だと「申立て予定」のまま、結局 無断で削除されたものすらある(文化庁によるガイドラインでは「取り下げ予定」でしばらく掲載した後に削除することとなっている)。このようなレコードリストの不備を、レコード協会に是正させる必要がある。
 なお、レコード協会のリストの不備で特に酷いものでは、次のような例がある(ブログ 『Where is a limit?』 調べ)。

△東芝 EMI 発売 『Love For NANA Only1 TRIBUTE』
 2005年4月21日 「申立て予定」としてリスト追加
 2005年6月7日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/05/下旬から2005/06/下旬に変更
 2005年6月23日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/06/下旬から2005/07/中旬に変更
 2005年7月25日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/07/中旬から2005/08/上旬に変更
 2005年8月3日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/08/上旬から2005/08/中旬に変更
 2005年8月30日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/08/中旬から2005/09/下旬に変更
 2005年9月29日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/09/下旬から2005/10/下旬に変更
 2005年10月28日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/10/下旬から2005/11/下旬に又伸ばす
 2005年12月02日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/11/下旬から2005/12/下旬に又伸ばす、
 2005年12月29日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/12/下旬から2006/01/下旬に又伸ばす、

 2005年12月29日の 時点で合計9回の発売日延長を行なっている。なお このタイトルはマレーシア盤に限らず、1枚も「受理済み」とはなっていない。そもそも申立て自体が行なわれているのか疑問のあるところである(レコードリストの記載によれば、マレーシア盤以外は既に発売されているようだ)。

△VAP 発売『そら』(タテタカコ)
 2005年10月25日:レコードリストから無断で削除。

△また、 2005年12月29日 現在のレコードリストでは次のような不備がある(ここだけ私自身の調査)。
 ユニヴァーサル 『エンジン』(オリジナルサウンドトラック)台湾盤
 →現地発行日が 「2005/09/上旬」
 日本クラウン 『THE SIXTH DAY』 (Gackt) 香港盤
 →現地発行日が 「2005/10/中旬」
 日本クラウン 『THE SEVENTH NIGHT』 (Gackt) 香港盤
 →現地発行日が 「2005/10/中旬」
 ソニー 『fo(u)r』 (CHEMISTRY) シンガポール盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 ソニー 『fo(u)r』 (CHEMISTRY) マレーシア盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 ソニー 『To All Tha Dreamers』 (SOUL'd OUT) 中国盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 ソニー 『Diva』 (VARIOUS) インドネシア盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 ソニー 『Do You Know?』 (nobodyknows+) 中国盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 ソニー 『BEST』 (中島美嘉)韓国盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 ソニー 『BEST』 (中島美嘉)シンガポール盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 ソニー 『歌バカ』(平井堅)シンガポール盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 エイベックス 『5 elementS』 (SweetS) 韓国盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 エイベックス 『HEAVEN』 (Tourbillon) 韓国盤
 →現地発行日が 「2005/12/下旬」
 エイベックス 『a-nation '05 BEST』 (V.A.) 香港盤
 →現地発行日が 「2005/08/中旬」
 エイベックス 『a-nation '05 BEST』 (V.A.) 台湾盤
 →現地発行日が 「2005/08/中旬」
 エイベックス 『a-nation '05 BEST』 (V.A.) 韓国盤
 →現地発行日が 「2005/08/下旬」
 エイベックス 『musicmind』 (V6)香港盤
 →現地発行日が 「2005/11/中旬」
 エイベックス 『musicmind』 (V6)韓国盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 エイベックス 『DOPE SPACE NINE』 (m-flo) 香港盤
 →現地発行日が 「2005/11/下旬」
 エイベックス 『DOPE SPACE NINE』 (m-flo) 韓国盤
 →現地発行日が 「2005/11/下旬」(さらに品番未定)
 エイベックス 『Queen of Hip-Hop』 (安室奈美恵)中国盤
 →現地発行日が 「2005/08/中旬」 (さらに品番未定)
 エイベックス 『R.U.O.K?!』 (相川七瀬)香港盤
 →現地発行日が 「2005/11/下旬」
 エイベックス 『R.U.O.K?!』 (相川七瀬)韓国盤
 →現地発行日が 「2005/12/下旬」

 いずれも現地発行日を既に過ぎており、この期に及んで現地発行日が明確に決まっていないのは異常だ。いかに上記レコード会社が情報公開に正確性を期していないかが判る。自らが望んで創設された制度の運用すら、自ら全うできないということである。


●また、還流防止措置の際には「洋楽輸入盤も止まる」のではないかとの問題点が指摘されてところであるが、現運用状況にも疑問がある。ソニーと東芝から海外アーティストのクレモンティーヌの作品が発売されており、これもレコードリストに記載されている(洋楽盤と目されるものが他にも幾つか指摘されている)。どうやら原盤が日本側で作られた模様であり、洋楽盤か邦楽盤かの区別が難しい例であるのは確かだ。
 しかしながら日本での発売を国外発売に先行させることを措置の要件とする文化庁ガイドラインの趣旨からすれば、洋楽盤の輸入差止めを防ぐ意図があるものであって、それが国内原盤であるからと言って差止めるのは一貫しないのではないか。洋楽盤を止めないのが国内のレコード会社の方針だったのだから、自らの輸入差止申立てにおいてもそれを一貫させるべきである。すなわち、海外アーティストのレコードについては自ら申立てを自粛するなどの方針を強く打ち出すべきである。
 日本レコード協会は音楽ファンに対する「約束」を果たさねばならない。


●以上のように、還流防止措置の運用において(現状では)問題点が多く発生しており、当初の目的を果たせない状態である。施行後1年もしないうちに適切な運用すらままならない状況。今後は還流防止措置の廃止も視野に入れて、動向を注視する必要がある。


【書籍・雑誌貸与権】

●まず特筆すべきは、書籍・雑誌の貸与権を管理すべき事業者「有限責任中間法人出版物貸与権管理センター」が全く機能していないということである。本来 2005年1月1日の 施行までに権利行使が可能となるようにすべきだったところ、管理委託契約約款の提出が 2005年3月28日 に届出、使用料規程に至っては未だに提出されていない。著作権等管理事業法は使用料規程の届出を義務づけており、これがなければ管理センターとしての事業が全く出来ない。
 さらには、貸与権使用料にかかる利用者団体との協議が暗礁に乗り上げたままという事情がある。一応は、運用準備のための暫定合意をすることで混乱を回避しているようではあるが、その後の実運用については全く先が見えない状態と言える。ここで合意に達しなければ、そもそもの使用料規程を定めることもできず、貸与権管理センターの機能不全が限りなく続くこととなる。
 暫定合意については以下の PDF を参照のこと。

http://www.cdvnet.jp/date/oshirase/050127rentalcomic.pdf


●また利用者団体との協議の中で、貸与権管理センターが法外な使用料を提示しているとの事実も指摘されている。特に見過ごせないのは、管理団体側の目論見として出版社や取次にも「使用料」を分配しようとしているところである。書籍・雑誌にかかる貸与権はあくまでも著作者に付与されるものであって、出版社や取次に利益誘導を行なうものではない。著作者の同意のもと、著作者が得るべき使用料から幾らかの分配が出版社や取次に回されるのであるなら ともかく、著作者が得る使用料に出版社・取次の取り分まで上乗せするという考えは異常であり、また法の趣旨に反しているとすら言える。
 このような指摘に対し、事実関係を調査し適正化を図る必要があるのではないか。

 なお協議中のやりとりを窺わせる資料として、以下の PDF を参照のこと。

http://www.cdvnet.jp/date/cdvjnews/041119cimicteiansyo.pdf

 さらに貸与権管理センターの取り分である管理料にも問題がある。これもまた著作者の得る使用料に上乗せして請求しているようなのである。他の管理事業者において権利者の得る使用料から一定割合が控除されて「管理料」とされている。これが当然の形といえるだろう。貸与権管理センターの管理料についても、これに準じた形をとらねばならない。


●現状、雑誌・書籍にかかる貸与権は全く行使されていない。この権利付与を求めていた権利者団体は早急な管理団体の立ち上げを国会で約束していたのだが、施行後1年たっても その約束は果たされていない。今のままではアウトサイダーによる権利行使を招きかねないこともあり、暫定的にでも当該貸与権の停止をすべきである (2004年改定前 の状態に戻すということ)。

投稿:by 暇人#9 06:21 午後 [「輸入権」問題, 著作権行政 watch, 音楽業界の愚行] | 固定リンク | コメント(0) | トラックバック

還流防止措置にかかるレコ協への質問と回答

 実は、還流防止措置関連で日本レコード協会に質問を出していた。きっかけは 『Where is a limit?』 での指摘である。

http://tontonsblog.seesaa.net/article/10575678.html
「輸入差止申立に係る対象レコードリスト更新」
(Where is a limit?)



 ソニーミュージックエンタテインメントの
受理済みのT-SQUAREの「Passion Flower」の大韓民国の国外商品番号をSB-70011Cから受理済みになった後でSB-70013Cに直す、
 ・・・つまり、税関には虚偽の書類を提出して受理済みにさせた後、国外商品番号を直した訳ですね。何でもやり放題ですわな。

 で、事実確認をするためにレコ協へ質問してみたのである(問い合わせ先はレコ協サイトの「音楽レコードの還流防止措置」ページ参照)。

 質問は以下の通り(質問に関する部分のみ抜粋)。

 日本レコード協会での「輸入差止申立に係る対象レコードリスト」において、「受理済み」盤の中に T-SQUARE 『Passion Flower』 というアルバムがあります。 SME の扱いとされているものです。この盤の品番としてリストに掲載されているのが、日本盤の VRCL-10004、 韓国盤の SB-70013C、 タイ盤の TJC-151 です。
 本リストの中でこのアルバムが「受理済み」となったのが 9月27日 でした。ところがこの時点でのリストでは、韓国盤の品番が SB-70011C でした。現在あるように掲載品番が変更されたのは 12月12日 になってからです。
 質問とは このことについてです。

 1.実際の輸入差止申立が受理された盤の品番は
   SB-70013C と SB-70011C のいずれなのでしょうか?
   あるいは両方とも「受理済み」なのでしょうか?

 2.当該盤が「受理済み」とされた時点の掲載から
   3ヶ月後になって、リストの品番を
   変更したのは何故なのでしょうか?
   誤記していた情報を訂正したのでしょうか、
   それとも何らかの事情があって訂正されたのでしょうか?

 3.T-SQUARE 『Passion Flower』 韓国盤の発売日は
   リストにある 2005年4月21日で 間違いないでしょうか?

 4.本リストでの「更新履歴一覧」によると、
   SB-70011C が削除され
   SB-70013C が「新規登録」されたとあります。
   データ変更を「変更」として行なわなかったのは
   何故でしょう?
   「削除」の際には
   「取下げ済み」としてしばらく掲載し続けるよう
   文化庁のガイドラインにあることも含め、御説明ください。

 5.今後も、たとえば他のアルバムなどで
   このような掲載品番の変更が行なわれるのでしょうか?

 6.レコード協会が公表している本リストは、
   音楽レコードの輸入に携わる業者にとって
   適法な取引を維持するために重要なものであり、
   安易で頻繁に過ぎる内容変更を行なうことは
   好ましくないと思われます。
   レコード協会として、リストの安定性を
   どう確保される方針なのでしょうか。

 事実関係として、税関への申立てで申告されている筈の品番がどう扱われたのか、ぜひ御回答ください。単に間違いで掲載されていたのか、何か事情があって変更されたのかがリストを見ただけでは全く判りません(混乱を生じさせかねない変更であるため、その事実と理由をリストに特記すべきと私は考えます)。
 本リストの更新を継続的に見ていると、「国外商品番号」や「現地発行(予定)日」が頻繁に変更されているきらいがあります。発売元が提供している情報を掲載したリストであるにもかかわらず、結果として不正確な情報が掲載され続けるという項目が多々生じています。極端な例だと、「タイトル」すら「未定」としたまま掲載され続けた事例もありました(当然、国内発売された同盤ではタイトルが付いていました)。
 リストに掲載されている情報の正確性をレコード協会で保つことは勿論、もし何らかの理由があって変更せざるを得なかった場合に、それをきちんと公表していくことが必要なのではないかと思われます。

 そして、レコ協からの回答は以下の通り(公表の承諾も得ている)。

1. 当該韓国盤について、税関において輸入差止申立てが受理された国外商品 番号は「SB-70013C」です。当初掲載されていた「SB-70011C」という商品番号 は、全く別のアーティストのレコードの番号であり、還流防止措置の対象では ありません。

2. 当該会員社が、当協会ホームページの対象レコードリストの掲載情報に誤 りがあることに最近気づき、誤記を訂正したものです。

3. 当該韓国盤の現地発行日は2005年4月21日で間違いありません。

4. 「更新履歴一覧の表示について」(「更新履歴一覧」のページ上部からの リンク)の「注2」でご説明しておりますが、対象レコードリストの掲載情報 のうち以下の点に変更があった場合、更新履歴一覧の上では当該タイトルは 「更新」としては表示されず、「削除」→「新規登録」として表示されます。
○ 「国内商品番号」
○ 「国名または地域名」
○ 「国外商品番号」
 このような表示方法となる理由は、会員社から新たなデータの登録があった 場合、それが新規掲載タイトルの登録か又は既掲載情報の変更かをデータベー スが自動的に判断するために、上記3つの情報をキーとして用いています。そ のため、キーとなっている情報の何れかに変更があった場合、データベースは それを「新規登録」と判断し、以前の情報は「削除」します。従って、会員社 に取り下げる目的での「削除」を行う意図はなく、会員社によるデータの修正 は「更新」の意図で行われておりますが、上記のようなシステム上の制約か ら、更新履歴一覧では便宜的に「削除」+「新規登録」のペアで表示しています。
 なお、更新履歴一覧は、更新情報のみを簡単に閲覧していただけるように新 設した補助的なページです。本体の対象レコードリストでは、今回のケースは 「国外商品番号」が変更されているだけで、取り下げる目的での「削除」には 当たりません。

5. 当協会会員社は、対象レコードリストに正確な情報を掲載するよう細心の 注意を払っておりますが、今回は、図らずも、国外商品番号の掲載情報の誤り が「受理済み」後に発見されたため、修正いたしました。今後このような事態 が生じることのないよう、当協会及び会員社では適切な情報掲載を心がけてま いります。しかし、それでも今回のような重要な修正を行わざるを得なくなっ た場合には、その理由等を何らかの方法でお知らせすることを検討いたします。

6. 当協会会員社は、文化庁施行通知により、当協会ホームページ等において 輸入差止申立てに係るレコードの情報を速やかに公開及び更新することが求め られています。これは、輸入業者等への情報の便宜を図ることにより輸入業務 への影響をできるだけ軽減することを趣旨としており、その目的のため、輸入 差止申立てを予定するレコードの国外発行があれば、「国外商品番号」や「現 地発行(予定)日」等が確定する前に対象レコードリストに掲出するケースが 多々あります。また、特に発行(予定)日は、現地のビジネスの状況や戦略等 によって、一度予定された発行日が変更となるケースも少なくなく、当協会会 員社では、そのような変更または未定情報が確認され次第、速やかに情報の更 新を行っております。
情報の変更が頻繁過ぎるというご指摘ですが、それを避けるため、情報が ある程度確定した段階で当該リストに掲出する運用としたとすれば、リストで の公表の時期が現在よりも遅くなり、文化庁施行通知の趣旨からはかけ離れた 運用となってします。
一部に不確定な部分がありながらも、可能な限り速やかに輸入差止申立て を予定するレコードの情報を公表し、情報の正確性を保持するための更新を都 度速やかに行うことが、適法な輸入業務への影響の軽減に繋がることをご理解 いただければと思います。

 ──回答に対する感想は別記事にて。

投稿:by 暇人#9 06:13 午後 [音楽業界の愚行] | 固定リンク | コメント(0) | トラックバック