« 還流防止措置にかかるレコ協への質問と回答 | トップページ | 著作権分科会 #17 ──資料にすら目を通しているとは思われない勉強不足の分科会委員たち »

2006.01.07

著作権法改定後の状況

 『Where is a limit?』 さんの記事に触発されて(ついでにデータもパクらせてもらって)、新しい内容で知財戦略本部へ意見を出した。締切りの 1月6日 を目一杯使って書き上げたものだ。 2004年の 著作権法改定(施行は 2005年) の中心だった還流防止措置と書籍・雑誌貸与権のふたつについて、施行後1年の状況をまとめたものである。
 ただし私も“事情通”という訳ではないので、あくまでも私の視点からしか描けないわけだが。特に貸与権に関しては、あまり情報が流れてこない(ように見える)。そのようなわけで、事実誤認等あるかもしれない。指摘されたし。

 ──以下、提出した意見である。




 2004年の 著作権法改定(施行は 2005年1月1日) により、商業用レコードの還流防止措置が創設され、また書籍・雑誌に貸与権が及ぶこととなった。それぞれについて、施行後1年の状況を以下 考察したい。


【還流防止措置】

●2005年中に アジアでライセンスされた邦楽CD、および差止申立ての受理されたCDがあまりに少なすぎる。還流防止措置の目的は邦楽CDのアジア展開を促進することにあったのだが、日本レコード協会の調査によると、 2005年上半期では むしろ前年比 21%減 であることが明らかになっている。 2005年 全体では最終的に前年並みにまで回復する見通しとのことであるが、これでは還流防止措置を創設した意味があったようには思われない(自由貿易の国是を曲げてまで創設された制度だけに、効果が得られなかった場合は撤廃すべきである)。
 なお アジアでライセンスされた邦楽CD、および税関に差止申立てされたCDに関する集計データを以下に幾つか引用する。

△2005年1月〜3月
 ライセンス 延べ 229 (133 タイトル)
 ※知的財産推進計画 2005 「知的財産戦略の進捗状況」より

△2005年4月8日 時点
 申立予定 延べ 17
 受理済み 延べ 9
 ※ブログ 『Where is a limit?』 調べ

△2005年1月〜6月
 ライセンス 延べ 494 (286 タイトル)
 受理済み  延べ 32 (13 タイトル)
 ※日本レコード協会調べ。
  前年同期からライセンス 21%減。 タイトル 23%減。
  なお 2005年は 最終的に前年並みになる見通しとのこと。
  公正取引委員会『音楽CD等の流通に関する懇談会(第2回)』
  資料より。

△2005年6月30日 時点
 申立予定 延べ 226
 受理済み 延べ 34
 ※ブログ 『Where is a limit?』 調べ

△2005年9月6日 時点
 申立予定 延べ 276 (153 タイトル)
 受理済み 延べ 81 (39 タイトル)
 ※公正取引委員会調べ。
  『音楽CD等の流通に関する懇談会(第2回)』資料より。

△2005年9月6日 時点
 申立予定 延べ 275
 受理済み 延べ 85
 取下げ済み 延べ 6
 ※ブログ 『Where is a limit?』 調べ

△2005年12月26日 時点
 受理済み 延べ 157 (82 タイトル)
 申立予定 延べ 352
 取下げ予定 1タイトル
 (計 510)
 ※ブログ 『Where is a limit?』 調べ

 全体を通して見ると、アジアでのライセンス数が前年割れである以外に、そのライセンス数が差止申立受理・申立予定の合計を上回っていることが判る。すなわち還流防止措置を利用していない邦楽アジア盤も存在しているということである。
 日本レコード協会は差止申立てを行なう盤はすべて「輸入差止申立てに係る対象レコードリスト」に掲載するとの方針であるから、ここに掲載されず アジアでライセンスされた盤は輸入可能であると思われる。そこで問題になるのは当該盤に「日本国内頒布禁止」の表示が付けられていないのかだ。この辺り、レコード協会には実態把握および適正化の努力義務があるのではないか。


●ライセンス数はともかく、差止申立予定数と申立受理数とを比較しても、受理済みの盤はあまりにも少ない。特に、日本レコード協会での公表リストに掲載され現地発売から半年も経過していながら、「申立て予定」のまま放置されているものが のべ 114項目 (タイトル数にすると 70) ある。

※上のデータは、 2005年12月29日 現在のリストを元に、現地発売が 2005年6月30日 以前のものを計数した。ちなみに同条件で「受理済み」の項目は のべ 120 (タイトル数にすると 60) ある。本来「受理済み」で然るべきの項目のうち、半分程度しか実際に「受理済み」となっていない訳だ。

 還流防止措置の実効性を得るためには、アジア盤が発売される前に申立てが受理され、輸入が止められるようでなければならない。その意味では、この「申立て予定」が当該盤発売後も(まして半年ともなれば尚更)続くのは、還流防止措置の正当性をレコード会社自らが失わせるものであり、同措置を続けていく意味があるのかという疑義を生じさせるところである。


●逆に、「申立て予定」のままでもレコード会社が慌てずに済むということは、輸入差止申立てが受理されなかったものでも還流防止措置の恩恵に与っているのではないかという疑義が生じるところである。還流防止措置に限らず、税関への輸入差止申立てについては申立て時点から輸入が止められているとの報道もある。税関の実務として、還流防止措置においてどのような扱いが為されているのか、もっと詳細な情報公開が欲しいところである(申立て中・申立て受理における輸入差止のタイミングや、申立てしている盤のデータなど。なお現在は、申立ての受理された盤のみが公表されている)。
 還流防止措置に限って言えば、申立て盤が措置適用要件を満たしているか否かが申立て受理という事実でしか判断できず、「日本国内頒布禁止」表示や国内外のライセンス料の比較などの正確な判断が要求されるため、申立て受理の時点で初めて差止めるのが適当である。本来 措置適用要件を満たさないような盤が虚偽の申告によって差止められ、本措置創設時に懸念された無差別的な輸入制限を引き起こす結果となる。慎重な実務が求められるところである。


●還流防止措置の対象となるべき邦楽盤については、日本レコード協会が公表するレコードリストで申立て予定・受理済み等の情報が参照できるところである。が、このレコードリストには現地発売日やタイトル・品番などの記載に不備が多く見られる(「未定」や度重なる変更など)。また、申立て予定のまま記載内容が変わらず、本当に申し立てが為されているのか判然としないものすらある。酷い例だと「申立て予定」のまま、結局 無断で削除されたものすらある(文化庁によるガイドラインでは「取り下げ予定」でしばらく掲載した後に削除することとなっている)。このようなレコードリストの不備を、レコード協会に是正させる必要がある。
 なお、レコード協会のリストの不備で特に酷いものでは、次のような例がある(ブログ 『Where is a limit?』 調べ)。

△東芝 EMI 発売 『Love For NANA Only1 TRIBUTE』
 2005年4月21日 「申立て予定」としてリスト追加
 2005年6月7日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/05/下旬から2005/06/下旬に変更
 2005年6月23日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/06/下旬から2005/07/中旬に変更
 2005年7月25日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/07/中旬から2005/08/上旬に変更
 2005年8月3日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/08/上旬から2005/08/中旬に変更
 2005年8月30日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/08/中旬から2005/09/下旬に変更
 2005年9月29日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/09/下旬から2005/10/下旬に変更
 2005年10月28日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/10/下旬から2005/11/下旬に又伸ばす
 2005年12月02日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/11/下旬から2005/12/下旬に又伸ばす、
 2005年12月29日
 マレーシアの現地発行(予定)日を2005/12/下旬から2006/01/下旬に又伸ばす、

 2005年12月29日の 時点で合計9回の発売日延長を行なっている。なお このタイトルはマレーシア盤に限らず、1枚も「受理済み」とはなっていない。そもそも申立て自体が行なわれているのか疑問のあるところである(レコードリストの記載によれば、マレーシア盤以外は既に発売されているようだ)。

△VAP 発売『そら』(タテタカコ)
 2005年10月25日:レコードリストから無断で削除。

△また、 2005年12月29日 現在のレコードリストでは次のような不備がある(ここだけ私自身の調査)。
 ユニヴァーサル 『エンジン』(オリジナルサウンドトラック)台湾盤
 →現地発行日が 「2005/09/上旬」
 日本クラウン 『THE SIXTH DAY』 (Gackt) 香港盤
 →現地発行日が 「2005/10/中旬」
 日本クラウン 『THE SEVENTH NIGHT』 (Gackt) 香港盤
 →現地発行日が 「2005/10/中旬」
 ソニー 『fo(u)r』 (CHEMISTRY) シンガポール盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 ソニー 『fo(u)r』 (CHEMISTRY) マレーシア盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 ソニー 『To All Tha Dreamers』 (SOUL'd OUT) 中国盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 ソニー 『Diva』 (VARIOUS) インドネシア盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 ソニー 『Do You Know?』 (nobodyknows+) 中国盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 ソニー 『BEST』 (中島美嘉)韓国盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 ソニー 『BEST』 (中島美嘉)シンガポール盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 ソニー 『歌バカ』(平井堅)シンガポール盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 エイベックス 『5 elementS』 (SweetS) 韓国盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 エイベックス 『HEAVEN』 (Tourbillon) 韓国盤
 →現地発行日が 「2005/12/下旬」
 エイベックス 『a-nation '05 BEST』 (V.A.) 香港盤
 →現地発行日が 「2005/08/中旬」
 エイベックス 『a-nation '05 BEST』 (V.A.) 台湾盤
 →現地発行日が 「2005/08/中旬」
 エイベックス 『a-nation '05 BEST』 (V.A.) 韓国盤
 →現地発行日が 「2005/08/下旬」
 エイベックス 『musicmind』 (V6)香港盤
 →現地発行日が 「2005/11/中旬」
 エイベックス 『musicmind』 (V6)韓国盤
 →現地発行日が 「2005/12/中旬」
 エイベックス 『DOPE SPACE NINE』 (m-flo) 香港盤
 →現地発行日が 「2005/11/下旬」
 エイベックス 『DOPE SPACE NINE』 (m-flo) 韓国盤
 →現地発行日が 「2005/11/下旬」(さらに品番未定)
 エイベックス 『Queen of Hip-Hop』 (安室奈美恵)中国盤
 →現地発行日が 「2005/08/中旬」 (さらに品番未定)
 エイベックス 『R.U.O.K?!』 (相川七瀬)香港盤
 →現地発行日が 「2005/11/下旬」
 エイベックス 『R.U.O.K?!』 (相川七瀬)韓国盤
 →現地発行日が 「2005/12/下旬」

 いずれも現地発行日を既に過ぎており、この期に及んで現地発行日が明確に決まっていないのは異常だ。いかに上記レコード会社が情報公開に正確性を期していないかが判る。自らが望んで創設された制度の運用すら、自ら全うできないということである。


●また、還流防止措置の際には「洋楽輸入盤も止まる」のではないかとの問題点が指摘されてところであるが、現運用状況にも疑問がある。ソニーと東芝から海外アーティストのクレモンティーヌの作品が発売されており、これもレコードリストに記載されている(洋楽盤と目されるものが他にも幾つか指摘されている)。どうやら原盤が日本側で作られた模様であり、洋楽盤か邦楽盤かの区別が難しい例であるのは確かだ。
 しかしながら日本での発売を国外発売に先行させることを措置の要件とする文化庁ガイドラインの趣旨からすれば、洋楽盤の輸入差止めを防ぐ意図があるものであって、それが国内原盤であるからと言って差止めるのは一貫しないのではないか。洋楽盤を止めないのが国内のレコード会社の方針だったのだから、自らの輸入差止申立てにおいてもそれを一貫させるべきである。すなわち、海外アーティストのレコードについては自ら申立てを自粛するなどの方針を強く打ち出すべきである。
 日本レコード協会は音楽ファンに対する「約束」を果たさねばならない。


●以上のように、還流防止措置の運用において(現状では)問題点が多く発生しており、当初の目的を果たせない状態である。施行後1年もしないうちに適切な運用すらままならない状況。今後は還流防止措置の廃止も視野に入れて、動向を注視する必要がある。


【書籍・雑誌貸与権】

●まず特筆すべきは、書籍・雑誌の貸与権を管理すべき事業者「有限責任中間法人出版物貸与権管理センター」が全く機能していないということである。本来 2005年1月1日の 施行までに権利行使が可能となるようにすべきだったところ、管理委託契約約款の提出が 2005年3月28日 に届出、使用料規程に至っては未だに提出されていない。著作権等管理事業法は使用料規程の届出を義務づけており、これがなければ管理センターとしての事業が全く出来ない。
 さらには、貸与権使用料にかかる利用者団体との協議が暗礁に乗り上げたままという事情がある。一応は、運用準備のための暫定合意をすることで混乱を回避しているようではあるが、その後の実運用については全く先が見えない状態と言える。ここで合意に達しなければ、そもそもの使用料規程を定めることもできず、貸与権管理センターの機能不全が限りなく続くこととなる。
 暫定合意については以下の PDF を参照のこと。

http://www.cdvnet.jp/date/oshirase/050127rentalcomic.pdf


●また利用者団体との協議の中で、貸与権管理センターが法外な使用料を提示しているとの事実も指摘されている。特に見過ごせないのは、管理団体側の目論見として出版社や取次にも「使用料」を分配しようとしているところである。書籍・雑誌にかかる貸与権はあくまでも著作者に付与されるものであって、出版社や取次に利益誘導を行なうものではない。著作者の同意のもと、著作者が得るべき使用料から幾らかの分配が出版社や取次に回されるのであるなら ともかく、著作者が得る使用料に出版社・取次の取り分まで上乗せするという考えは異常であり、また法の趣旨に反しているとすら言える。
 このような指摘に対し、事実関係を調査し適正化を図る必要があるのではないか。

 なお協議中のやりとりを窺わせる資料として、以下の PDF を参照のこと。

http://www.cdvnet.jp/date/cdvjnews/041119cimicteiansyo.pdf

 さらに貸与権管理センターの取り分である管理料にも問題がある。これもまた著作者の得る使用料に上乗せして請求しているようなのである。他の管理事業者において権利者の得る使用料から一定割合が控除されて「管理料」とされている。これが当然の形といえるだろう。貸与権管理センターの管理料についても、これに準じた形をとらねばならない。


●現状、雑誌・書籍にかかる貸与権は全く行使されていない。この権利付与を求めていた権利者団体は早急な管理団体の立ち上げを国会で約束していたのだが、施行後1年たっても その約束は果たされていない。今のままではアウトサイダーによる権利行使を招きかねないこともあり、暫定的にでも当該貸与権の停止をすべきである (2004年改定前 の状態に戻すということ)。

投稿:by 谷分 章優 06:21 午後 [「輸入権」問題, 著作権行政 watch, 音楽業界の愚行] | 固定リンク

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/42184/8046967

この記事へのトラックバック一覧です: 著作権法改定後の状況:

» 未だ間に合う?知的財産基本法の施行状況に対する意見募集 [Where is a limit? から]
う~~ん、ちと考えてみたのですが、正式には知的財産基本法の施行状況に対する意見募集の〆切は2006/01/06の17時が〆切なのですが、知的財産基本法の施行状況に対する意見募集をクリックすると未だ送信可能状態になっています。確かに、知的財産戦略本部のトップページを見る..... 続きを読む

受信 2006/01/09 12:01:49

コメント

コメントを書く