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2006年1月27日 (金)

邦楽と洋楽との境界 ──レコード協会が縛られるべき言質

http://himagine9.cocolog-nifty.com/watchdogs/2006/01/post_d40c.html
「洋楽盤差止めじゃないか──と話題になってるヤツですが。」
(エンドユーザーの見た著作権)

 当ブログ「洋楽盤差止めじゃないか」の続きです。
 前の記事で、日本レコード協会の「輸入差止申立に係る対象レコードリスト」にあった“洋楽疑惑盤”がどうやら国内原盤らしいということまでお伝えしました。具体的には、 Grady Tate 『All Love』 ・ Lady Kim 『Everything Must Change』 ・ Clementine 『Made In France』 『30℃』 『CLE』 ですね。
 しかしながら、これらのCDが国内原盤であるからと言って、はたして輸入差止めを許しても良いものなのか。そこのところが問題となります。

 ちなみに著作権法上では、発売より4年(法では政令委任をし、政令で4年と規定)を超えていないこと、当該盤の内外ライセンス料差が大きいこと、輸入業者が「情を知」っていること──を本制度の適用要件としています。また文化庁ガイドラインでは、当該盤について日本先行発売か同時発売であること、表示に一定の様式を用いることなどの要件が追加されています。もっとも海外の権利者については著作権法上の規定にのみ縛られる可能性があるのですけど(つまり日本先行発売などのガイドライン要件は、文化庁が「洋楽盤を止めない」ことを目的に設けているに過ぎません)。
 日本レコード協会は文化庁の監督下にありますから、ガイドラインを遵守しなければなりません。ところが、このガイドラインには原盤権のことは一切書かれていません。
 つまり、原盤権が日本にあるか海外にあるかは、本当のところ還流防止措置の運用には関わりない訳です。いずれにしてもガイドラインの要件を満たしてさえいれば、制度上は輸入差止めが税関に申立てられるのですね。

 それにもかかわらず、レコ協会員各社が日本原盤のアルバムのみを申立てているのは、レコ協自らが邦楽限定での「輸入権」を求めた結果 還流防止措置が創設されたからです。エンドユーザーの強硬な反対にあって「洋楽輸入盤を止めない」と“約束”したことで、レコ協は自らその縛りを受けたということです。
 ところが、この「洋楽」と「邦楽」の定義で食い違いが生じ始めています。それが上記の海外アーティストの日本原盤CDなのです。確かにレコ協としては海外原盤の「洋楽」以外は「邦楽」(それぞれ○にY・○にLのマークを付していることは前の記事にも書きました)との認識のようではあります。ただそれが還流防止措置を創設したときの議論の前提となっていたのか否か。
 少なくとも、私たちエンドユーザーからすれば、海外アーティストの日本原盤CDが「邦楽」であるとは到底納得できるものではないのですが。




■還流防止措置はどう議論されてきたか?

 レコ協側にしてみれば、先を見越した思惑があったのかも知れません。「邦楽」の定義もそうですし、「欧米からの洋楽CDの輸入盤は止まりません」と宣言しておきながらアジアからの洋楽CDについては全く答えようとしなかったこと‥‥。しかし、いざ還流防止措置が運用されている現在、この制度下で可能であるからと言って何でも差止めさせる訳にはいきません。
 もともと還流防止措置は歪んだ制度でした。文化発展を目的とし経済(利益分配)を手段とする著作権制度において、譲渡権の国際消尽原則に反して「輸入権」類似の権利を“創設”し、本来流通は市場に委ねていたのに自由貿易原則に干渉し、ベルヌ条約にある内国民待遇を運用で回避するというものです。そのような制度で、条文やガイドラインから“適法行為”を読んでいこうとすると、問題が生じてくるのは当たり前です。
 制度運用の適・不適はどう判断すれば良いのか。それは、立法趣旨に立ち返ることだと思います。特に、文化庁やレコ協が国会においてどのような説明をしてきたのか。それを逸脱するような行為は、少なくとも文化庁とレコ協に関しては許されないと考えるのが妥当でしょう。そのような事態に至ったならば還流防止措置を廃止すべきです。

 立法趣旨を確かめるために、還流防止措置が創設されそうだった頃の話を思い出してみましょうか──

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/04083101/005.htm
「文化審議会著作権分科会
 法制問題小委員会(第1回)議事録 [資料4−2]」
(文部科学省)



※ 平成十六年第百五十九回国会「著作権法の一部を改正する法律案資料」より

   著作権法の一部を改正する法律案提案理由説明
          文部科学大臣
 (中略)近年、アジア諸国において、我が国の音楽の人気は年々高まっております。ところが、これらの国において我が国の権利者から許諾を受けて生産された商業用レコードが、我が国に還流し、安価に販売されることにより、権利者の経済的利益に大きな影響を与えるという事態が生じております。
 今回の改正は、このような事態を解消し、我が国の音楽文化の海外普及を促進するため、専ら国外において頒布することを目的とする商業用レコードを、情を知って、国内において頒布する目的をもって輸入する行為等を、著作権又は著作隣接権を侵害する行為とみなすこととするものであります。ただし、国内において最初に発行された日から七年を超えない範囲内において政令で定める期間を経過した商業用レコードについては、適用除外としております。

 「我が国」(つまり日本)の音楽──というのは立法趣旨を読み解くキーワードです。

「参議院文教科学委員会会議録」
平成十六年四月十五日(木曜日)より
※ 会議録を参照されたい方は、「国会会議録検索システム」で。


○参考人(依田巽君) (中略)近年、中国、韓国、台湾、香港などの東アジアの国々では、日本と文化の面で共通するところが多いこともありまして、日本語の歌が広く受け入れられてきておりまして、もちろんこれらの国でも最初から日本の音楽が受け入れられたわけではございません。日本レコード協会を始め、音楽関係団体が中心になりまして、アジア諸国に日本の音楽を普及させるため、平成五年に財団法人音楽産業・文化振興財団、略称PROMICと申しておりますが、設立いたしました。(中略)
 さて、このようなアジア諸国での日本音楽に対する需要にこたえるためには、言質レコード会社に対して日本の音楽の積極的なライセンスを行うことが必要でありますが、還流防止措置がないままライセンスを行えば、日本より圧倒的に低価格の音楽レコードが国内に還流し、国内で流通しているレコードの販売と競合することになるわけでございます。(中略)
 還流防止措置が創設された場合には、日本の音楽文化の海外への普及が促進され、音楽を通してアジア諸国等の日本及び日本国民に対する理解が非常に深まると考えております。また、音楽産業の活性化はもとより、その効果は関連産業にも波及し、日本経済全体に好影響をもたらすこととなりますので、その結果、国民はより一層多様な価格と幅広いジャンルの音楽作品を享受することが可能となると考えております。

 参議院・文教科学委員会における依田巽氏(当時のレコ協会長)の発言です。「日本語の歌」と具体的に挙げた上で、「アジア諸国での日本音楽に対する需要にこたえる」「日本の音楽文化の海外への普及」と還流防止措置創設の目的を述べています。

「参議院文教科学委員会会議録」
平成十六年四月十五日(木曜日)より



○参考人(若松修君) (中略)始めに、いわゆる還流防止措置につきまして、その趣旨が我が国の音楽文化の海外普及を促進するために必要な措置であるという点において、これを支持するものであります。しかし、法案がその目的を日本語CD、いわゆる邦楽に絞っているにもかかわらず、条約上の内外平等の原則により、法文上、洋楽につしても同じ規制が生じ得るのは明らかであります。この点、法改正の概要及び表記において、還流防止としてあたかも邦楽だけが対象であるかの錯覚を与えたことが消費者や有識者の間に大きな誤解と疑惑を植え付けてしまったことを指摘しておきたいと思います。(中略)
 この点につき、私たち販売店は、昨年来、日本レコード協会と度々意見交換の場を持ち、その都度洋楽の輸入盤への適用は想定していないとの説明を受け、その誠意ある姿勢を高く評価するものであります。

 若松修氏は CDVJ の方。ここの発言は参考程度に見ておいてください。
 法案の目的として「日本語CD」(これを「邦楽」と定義していますね)に絞っていることが示されています。この場にいた人たちの認識はおそらく同様でしたでしょうし、またこの法案の話題を聴いていた我々も同様でした。
 還流防止措置の目的を邦楽(すなわち「日本語CD」)に限定しているという前提において国会で議論されていた傍証になろうかと思います。

「参議院文教科学委員会会議録」
平成十六年四月十五日(木曜日)より



○阿南一成君 (中略)日本から発信されるコンテンツは、アニメーションなどを始めとして、文化発信として重要であるとともに、これから我が国の経済を支え、重要な産業として発展をしていくものと考えております。(中略)
 還流防止措置は、日本の音楽の海外発信のための環境を整備するためのものと理解をさせていただきました。

 阿南議員は自民党。与党議員の「理解」でも「日本の音楽の海外発信のための環境を整備するためのもの」とありますね。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009615920040601024.htm
「第159回国会 文部科学委員会
 第24号(平成16年6月1日(火曜日))」
(衆議院・会議録)



○依田参考人 (中略)近年、中国、韓国、台湾、香港などの東アジアの国々で日本語の歌が広く受け入れられるようになってまいりました。アジア諸国に日本の音楽を普及させるため、平成五年に、日本レコード協会を初め音楽関係団体が中心になりまして、財団法人音楽産業・文化振興財団、略称PROMICを設立いたしまして、日本音楽情報センターを北京、ソウル、上海、済州島に設立いたしまして、現地の人々が気軽に日本の音楽を試聴できる環境を提供してまいりました。また、これらの国々では今なお海賊版が多く流通しておりますので、著作権セミナーや啓発コンサートなど、種々開催してまいっております。十年たった今日、このような活動が日本音楽の人気となって実を結ぼうとしているわけでございます。
 さて、このようなアジア諸国での日本音楽に対する需要にこたえるためには、現地のレコード会社に対して積極的なライセンスを行うことが必要ではありますが、還流防止措置がないままライセンスいたしますと、日本より大幅に安い価格のレコードが日本に還流し、国内で流通しているレコードの販売と競合することになります。そのようなことになれば、レコード製作者にとって、レコード製作への投資を回収することができなくなるばかりでなく、日本のレコード価格を基準に収入を得ている日本の作詞家、作曲家などの著作権者や、歌手、演奏家などの実演家は極めて少ない収入しか得ることができなくなりますので、活動の基盤が脅かされ、新たな音楽作品をつくり出す上で大きな打撃となります。その結果は、日本の音楽文化の衰退につながることになるわけでございます。
 還流防止措置が導入された場合には、日本の音楽文化の海外への普及が促進され、音楽を通してアジア諸国の日本及び日本国民に対する理解が深まるものと考えております。

 衆議院・文部科学委員会における依田巽氏の発言。「日本語の歌」「アジア諸国での日本音楽に対する需要にこたえるため」「日本の音楽文化の海外への普及が促進」‥‥とまぁ、参議院での発言と同じではあるのですけど、これは二院の審議の中でレコード協会の主張する「目的」が変化していないことを示しています。

http://www.riaj.com/whatsnew/w040614.html
「著作権法改正法案の成立について」
(社団法人 日本レコード協会|新着情報)



2004年6月

社団法人 日本レコード協会
会 長 依田 巽
著作権法改正法の成立にあたって

 拝啓 時下益々ご清祥の段お慶び申し上げます。平素は格別のご厚情を賜り、厚くお礼申し上げます。
 さて、6月3日、衆議院本会議において、「音楽レコードの還流防止措置」の導入を含む著作権法の一部を改正する法律案が可決、成立し、来年1月から施行されることとなりました。これもひとえに、関係各位のご理解とご支援の賜物と感謝申し上げます。
 今後、当協会会員レコード会社は、アジア諸国からの日本音楽に対する需要の拡大に応え、積極的に海外進出を図り、日本音楽文化の海外普及の促進に努めてまいります。
 また、法案可決に際し衆参両院で付された決議を真摯に受け止め、欧米諸国からの洋楽の並行輸入や個人輸入等を阻害するなど消費者の利益が損なわれることのないよう、立法趣旨に則り、制度の適切な運用を図るとともに、音楽ファンへの利益の還元に更に努めてまいる所存であります。
 引き続き皆様のご指導ご鞭撻を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。

敬具

 還流防止措置の創設を含む著作権法改定案が成立した直後のレコ協コメントです。
 やはり「日本音楽」と明記していますね。「洋楽」と対比されるところの「邦楽」の語を使っていません。




■国会審議においてレコ協が要望した範囲は?

「日本音楽」「日本音楽文化の海外普及」→これが目的。
「欧米からの洋楽輸入盤」→これは否定。
「アジアからの洋楽輸入盤」→これは答えず。
「海外アーティストの日本原盤CD」→これには触れず。

 還流防止措置は(法に規定されたものに比して)非常に限定的に運用されるべきものと考えられます。この適用範囲をなし崩しに広げてしまうと、法で許された範囲すべてに適用させてしまうおそれがあります。また、レコ協が要望し、その議論の中で明示してきた部分についてのみ、本制度の適用が許されたのだと考えるべきでしょう。
 すなわち、還流防止措置で輸入が差止められるべきだと国会が認めたのは、「日本音楽」であるということです。「欧米からの洋楽輸入盤」は勿論、「アジアからの洋楽輸入盤」「海外アーティストの日本原盤CD」についても適用すべきではないと私は考えます。

 さてどうですか。「日本語の歌」としてレコ協の会長が示した「日本音楽」。これに先の Grady Tate ・ Lady Kim ・ Clementine の作品は「日本音楽」なんでしょうか?




■で、「日本音楽」って何よ?

 ぶっちゃけた話、「邦楽」でも「日本音楽」でも構わないんですが、それと「洋楽」を分ける線を考えるのは難しい話ですよね。ただ、「日本音楽」と聞いた時に自然に考えるのは「日本人による日本語の曲」でしょう(インストだったら「日本語の」を無視してください)。
 確かにレコ協は日本原盤CDを「邦楽」と呼んでいるのでしょうが、そのような定義は外の人間とは共有されていません。国会や国民、とりわけ音楽ファンにそれを納得しろというのは無理な話です。

 ただ「日本音楽」と「洋楽」の境界線を考えれば、必ずしも先の「日本人による日本語の曲」という印象は厳格である必要がありません。日本人が外国語で歌っても やはり「日本音楽」だとみなされますよね。また、外国人(欧米人とは限りませんが)でもデビューから一貫して日本の音楽業界で活躍してる人もいます。これは「日本音楽」としてもあまり抵抗が無いのでは?
 となると、大枠としては、「日本人であるか日本を拠点に活動している人の作品」ということになるでしょうか。これなら「日本音楽」としても納得できそう。

 じゃ、日本音楽なのか、そうでないのか、どうやって判断しましょうか。
 もともとレコード協会の要望で始まった制度です、彼らの意識に訴えてみるとしましょう。すなわち Grady Tate ・ Lady Kim ・ Clementine は「日本音楽」を送り出しているのか否か。

http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Arch/VR/GradyTate/index.html
「Sony Music Online Japan : グラディ・テイト」

http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Arch/VR/LadyKim/
「Sony Music Online Japan : レディ・キム」

http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Special/Clementine/
「CLEMENTINE/クレモンティーヌ」
(Sony Music Online Japan)

http://www.toshiba-emi.co.jp/st/artists/index_j.htm
「Sound Town」
(東芝 EMI)

 いや、結果は判ってたんですけどね(他のブロガーさんも調査されてましたから)。
 ことごとく「海外アーティスト」(もしくは 「International」)。

 「海外アーティスト」のCDをアジアでライセンスしたとします。それは「日本音楽文化の海外普及の促進」なのでしょうか? 還流防止措置によって保護されるべきライセンスなのでしょうか?




■で、結論は?

 日本レコード協会は、自らが要望した立法趣旨においてのみ権利行使すべきです。
 すなわち、「日本音楽文化の海外普及の促進」のために。

 その目的のために創設された還流防止措置を「海外アーティスト」のCDに適用しようというのは虫が良すぎます。手前で「日本音楽」から外して売っているものを、アジアでライセンスする時だけ「日本音楽」に解釈するという。

 私は、今後「海外アーティスト」のアジア盤を「洋楽盤」と呼称し、これに対する輸入差止めを「洋楽輸入盤の差止め」とみなします。
 また、この事例を〈還流防止措置の立法趣旨に反した行為〉として判断します。

Posted by 谷分 章優 音楽と著作権 |

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