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2006年2月11日 (土)

今ごろ始めてるのか ──「中国へ邦楽正規CDの波」? 「値下げ攻勢」?

http://mal.cocolog-nifty.com/antena/2006/02/post_71af.html
「事実か、広報か:還流盤禁止の実態」
(MAL Antenna)

http://www.asahi.com/international/update/0210/003.html
「中国へ邦楽正規CDの波 逆輸入禁止機に値下げ攻勢」
(asahi.com - 国際)

『MAL Antenna』 さん経由、朝日新聞に中国(上海)での邦楽盤進出の様子を伝えた記事が掲載されたようです。「音楽や映画のソフトを違法にコピーした海賊版が横行している中国で、日本のレコード各社が正規版CDの販売に力を入れ始めた。日本の法改正で昨年から海外向けの低価格CDの日本逆輸入が禁止されたからだ。割高でも正規版を買う邦楽ファンが中国で増えてきたことも後押しする。だが、正規版が流通していない映画やテレビドラマは依然として海賊版天国が続く」とのこと。
 ‥‥むぅ〜、てな感じです。この記事を読んで感じられる疑問点を 『MAL Antenna』 さんでは提示されています。私も同感です。ただ、ここではなるべく重ならないように感想を述べます(私も中国でのCD売りの実態が判りませんので)。

 まず、真っ先に出てくるのが〈なぜ今このタイミングで この記事が出るのか〉です。還流防止措置が実施されるようになったのは 2005年1月 のことです。が、1年以上たって「日本のレコード各社が正規版CDの販売に力を入れ始めた」などと〈いま始まった〉かのように記事にしている。本当に〈いま始まった〉のなら、あれだけの騒動を引き起こしながら導入を強行した還流防止措置が最初の1年は機能不全であったという証明なのですが、そこまで朝日新聞は責任持って記事を出しているのでしょうか? そもそも朝日新聞は還流防止措置の動向についてフォローしていましたか?
 この記事、還流防止措置に対する批判的観点も 事実を多角的に捉える態度も全く持っていないくせに、その“効果”についてだけは積極的に書いているんですよね。ジャーナリズムというよりは広告の臭いがプンプンしますね。まぁ気になったところをツッコんでみましょうか。

 邦楽盤を買うとかいう「女子高生」の話を載せてるのですが、彼女によると正規盤は「音質が信頼でき、訳詞も正確」と言います。ふむ、こう言えるということは、海賊盤を聴いたことがあって かつ日本語を理解できるということですね。そのような「女子高生」って珍しくないのですかね(仮に多いとしたら、取材のしどころだったりしませんか?)。それと、CD音源の海賊盤を作るにしても そう音質は酷くならないのと違いますか(劇場公開時に盗み撮りする DVD とは違って、CDの場合はデジタルコピーが可能なわけですから)? どうもレコード産業側が喧伝していることを鵜呑みにしている感じがあるのですが。
「日本と同じ3000円前後では高すぎてとても売れないが、現地価格に近づけて値を下げると、日本に逆輸入される懸念があった」なんて一文も、不公平と言わざるを得ませんね。「懸念」ですか。これはあくまでもレコード産業側にとってのものであって、自由市場の動きとしては日本への逆輸入は当然 起こるべきことなわけですよ。朝日新聞の当該記事ではこのあたりの視点が全くありません。いいですか、いま引いた この文章の本質は、レコード会社が中国でダンピングをし、その損失補填(まぁ制作費回収分ということです)を日本人に押しつけるという実態を示しているのですよ。朝日の記者は考えようとしていませんが。
 エイベックスの「まだ市場が小さく、利益が出る段階ではない」という言葉も裏読みできますね。利益が出てしまえば、それを国内価格に反映しなければなりませんから。ここでわざわざ利益が出ないとアピールしている感じがします。 2005年の ライセンス実績が前年を下回りそうな体たらくでしたから当然と言えば当然ですけど(公取委の『音楽CD等の流通に関する懇談会(第2回)』── 議事録 PDF ──で報告されたレコ協調べのデータによると、 2005年 上半期の段階で前年同期比 ライセンス 21%減、タイトル 23%減 とのこと。最終的な 2005年 のデータは「前年並みになる見通し」とかいうことですが、果たして?)。
「一方、著作権法改正の対象外だった映像ソフトは、日本の正規版がほとんど売られていない」などというくだりを読むと、ますます朝日の見識を疑いたくなるところです。映像ソフトでも「輸入権」を付与させるべきと言わんばかりですね。そもそも「正規版」の進出と還流防止措置は別問題でしょうが。はっきり言いますが、アジア盤 DVD が日本に入ってきても そんなには売れませんよ。映画 DVD は日本でも廉価化が進んでますからね(音楽 DVD 以外は。笑)。まぁ最終的には“正規版を売らないことには海賊版対策も何もない”的に締めてますので、この部分だけバランスは取れていますが。

 最後に、 『MAL Antenna』 さんでも指摘されていますが、「05年1月の改正著作権法施行で、海外販売用の正規版CDを販売目的で日本に持ち込むことが違法となった」という書き方は正確さに欠けます。幾つかの要件が定められているのは勿論、日本レコード協会の会員社が発売するものについては「対象レコードリスト」に掲載されているもののみ権利行使するという実運用です。そこを、さも全ての「海外販売用の正規版CD」が輸入禁止になっているかのような報道をしてしまえば、輸入業者に対して誤った知識を与えかねません(もっとも輸入業者なら正しい知識があって然るべきですけどね)。
 確かに、著作権法の規定をそのまま読むなら「海外販売用の正規版CDを販売目的で日本に持ち込むことが違法となった」とも言えなくもありません。そこが件の著作権法改定の最大の問題点ですから。かといって(限られた文字数で記事を書くことが必要だとしても)あの書き方は事実を正確に表現しているとは言えませんわね。
 どこを取っても、あの記事は首を傾げざるを得ない内容です。それが朝日クオリティなのかも知れませんが。




■この話題を採り上げたブログさん

http://park5.wakwak.com/~rung/mt/archives/000572.html
「邦楽が中国本土で値下げ攻勢だそうですわよ」
(趣味の問題2)

http://tontonsblog.seesaa.net/article/13097613.html
「ぼったくりまくりの邦楽CD」
(Where is a limit?)

http://blog.livedoor.jp/whats_my_scene/archives/50324350.html
「中国で買えばJ-POPのアルバムは1枚256円らしい」
(what's my scene? ver.7.0)

 還流防止措置に対して批判的観点があれば当然にして指摘されるべき事実というものは間違いなくあると思います。それぞれのブログさんで指摘されているのがそれです。別に私が意地悪だとか、上のブロガーさんたちが捻くれているとか そういう訳ではないのです。いかに朝日新聞の報道姿勢が軽々しいか判るというもの。
 別に朝日新聞に〈批判派の視点で書け〉と言ってる訳ではなく、多角的に取材してから書けということです。当該記事では、あまりにお粗末な取材が透けて見えます。




■ツッコミ追加

http://blog.livedoor.jp/storemaster/archives/50391073.html
「輸入CD・レコードが買えなくなる??…その40」
(雑貨屋の広報掲示室)

http://blog.drecom.jp/ecolin_profile/archive/668
「中国では、今の日本盤の10分の1で新譜が買えるらしい。」
(ふっかつ!れしのお探しモノげっき)

http://ameblo.jp/chosaku/entry-10009039102.html
「論理と状況が否定していてもすべては還流盤禁止の法改正のおかげらしい」
(音楽リスナーとPCユーザのための著作権パブコメ準備号)

 件の朝日記事について、ツッコミが続々と(笑)。

『雑貨屋の広報掲示室』さんでは「業界側の提灯持ち記事」との疑いを提示されています。同感ですね。
『ふっかつ!れしのお探しモノげっき』さんでは、音楽CDにかかる再販制廃止への動きとの関連性を指摘されています。これについては、還流防止措置の運用実態をアピールすればするほど再販制廃止が正当化され得るという諸刃の剣な感じがしますけどね(しかも還流防止措置の運用が滞っているようなら、こちらを廃止すべきとの議論が起こることになるでしょうし →我々が起こすもんね)。
 凄いのは『音楽リスナーとPCユーザのための著作権パブコメ準備号』さん。論理的にねちねちと(笑)ツッコんでいらっしゃいます。一文一文の根拠の薄さを指摘するところから始めて、「音質が信頼でき、訳詞も正確だから」の部分に対しては──

いいなあ。海賊コピーが異様に少ない日本では、コピーコントロールが導入されて音質も犠牲になったのにな。あと、訳詞が正確なのは、非常にうらやましいですね。洋楽の日本盤は必ずしもそうじゃないから。そういう努力を日本盤出す時にやってくれれば、国内盤を買う理由になるのになあ。

 そうか、そういうツッコミ方があったか!
 確かに、日本でこのザマなレコード会社が、中国では「音質が信頼でき、訳詞も正確」かどうかは推して知るべしというもの。ちなみに還流防止措置が創設される前には 「CCCD」 の還流盤も出回ってましたから、既に音質劣化盤が日本のレコード会社によってバラ撒かれていたことは確かです。

 あと、当記事のコメント欄で謎工さんから指摘されました 101匹 ワンちゃん事件も朝日記事の拙さを知るバロメーターと言えるでしょう(いえ、これは私も忘れてたんですけどねぇ。苦笑)。少なくとも日本では、映画ビデオソフトの並行輸入を頒布権で止めることを認めた判例があるということなのです。謎工さんの言葉を借りれば「立法は不要と言う見方が有る」と。
 もちろん、これがそのまま DVD に当てはまるかというと議論の余地があるかと思います。が、少なくとも“還流防止措置があれば安心して中国に進出できる”といった方向性の件の記事においては、その論旨を大きく否定する事例であると言えます。 101匹 ワンちゃん事件という格好の判例がありながら、未だに映像分野では中国で正規版が発売されていないのは何故なのか(その理由を権利処理や採算性に求める『音楽リスナー〜』さんの考えの方が自然であると思います)。件の朝日記事は理由をねじ曲げて考えようとしたので自爆状態です。

『音楽リスナー〜』さんの記事に戻りますが、これの最初で「上海にいる記者が法改正の経緯知らないのはわからんでもない」とあって成程と思いました。そりゃ、還流防止措置の様子をさぐりに わざわざ上海へ記者を送るなんて考えづらいですものね。我ながら迂闊でした。
 上海にいる記者が送った記事だったとしたら、たまたま上海のレコード店に入ったら邦楽がいっぱい置いてあって、そういえば「還流盤並行輸入禁止」みたいな法律が出来てたなぁ、きっとそれで邦楽盤が並んでるんだな──なんてウキウキして記事にしたんでしょうか(私の想像)。
 そういうことなら、あのような地に足のついてない記事も肯けるというか‥‥本社の方できちんとチェックしろよって感じですけど。

(追記: 2006.2.13)

Posted by 谷分 章優 音楽と著作権 |

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「中国へ邦楽正規CDの波 逆輸入禁止機に値下げ攻勢」(asahi.com 2006.02.10) MAL Antenna 「事実か、広報か:還流盤禁止の実態」 エンドユーザーの見た著作権 今ごろ始めてるのか ──「中国へ邦楽正規CDの波」? 「値下げ攻勢」? 趣味の問題2 邦楽...... 続きを読む

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コメント

少なくとも、VCDやDVDについては「101匹ワンちゃん事件」判例により立法は不要と言う見方が有ることをこの記者は知らないのでしょうね。

投稿: 謎工 | 2006/02/13 5:02:41

そうですねぇ(私も「101匹ワンちゃん事件」判例を忘れてたりしてましたが。笑)、映画ビデオソフトと並行輸入の話をし始めると さらに押さえるべき視点というのが出てきてしまいます。件の記者は取材の入口にすら立てていなかったということが言えそうですね(音楽CDの並行輸入と軽々しく比較すべき問題ではなかった)。

DVD にはハリウッド側の要請でリージョンコードが付されていて それではアジアが同じコードとなっている点、そのリージョンコードをフリーの状態にして販売される映画 DVD ・音楽 DVD も少なくない点、ディズニーアニメのいくつかは韓国盤と日本盤とが同一であるという点、音楽 DVD (ただし洋楽)は既に韓国あたりから並行輸入されている点など──掘り下げていけば面白い状況ではあります。
DVD の並行輸入をやめさせたい立場からでも、並行輸入をさせたい立場からでも、いろいろ論が立てられそうで、それだけでひとつ記事が書ける感じですね。

投稿: 暇人#9 | 2006/02/13 11:24:02

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