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2006年11月22日 (水)

読売社説:著作権延長問題を全く理解できずにトンチンカンな高説をタれる大企業の痛い論理

 著作権保護期間延長を求める権利者側の意見を読んでいると、あまりの非論理性に頭が痛くなってきます。しかもそれに無批判に乗っかるようなブログ記事があったりして(これについては別稿にて)、眩暈がしてきます。
 しかも今度は新聞社説ときた──

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20061120ig91.htm
「11月21日付・読売社説(2)
 [著作権延長]『作品の流通を損なわない工夫も』」
(社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞))

 吐き気までしてきましたよ。

[著作権延長]「作品の流通を損なわない工夫も」

 はぁ、「工夫」ですか。
 ‥‥。
 ──「工夫」じゃ足りんわいボケ!

 著作権が禁止権として構成されているが故、数々の弊害が引き起こされているのは もはや言うまでもないかと思いますが、このあたりを読売社説は全く考えていません。許諾を求められれば済むという問題ではないのですよ。
 まず許諾を取らねば利用できない、許諾を求めてもOKが貰えるとは限らない、そもそも許諾を得るのに金と手間暇がかかる──そういう理由で使われない著作物がなんと多いことか。

最大の理由は、格差の解消だ。

 はぁ、「格差」ですか。
 で、どんな「格差」かというと──

 現状では、日本の小説や絵画は国内と同様、海外でも、日本の法律に合わせて死後50年までしか保護されない。これを過ぎるとタダで利用されてしまう。

 国際的にも、肩身が狭い。死後70年まで保護された国の著作物が、日本では20年早く、許可を得ずにタダで使えるようになるためだ。

 新訳による出版が相次いだサンテグジュペリの「星の王子さま」は、その好例だ。本国のフランスでは著作権が生きているが、日本では保護が切れたことが、出版を後押しした。

 得をしているように見えるが、海外から、日本は他国の知的財産にタダ乗りしている、と批判されかねない。

 保護延長は、日本が文化と、それを支える著作物、著作者を、どう育てる方針か、という問題でもある。著作権法を所管する文化庁は、延長が可能かどうか早急に検討を始める必要がある。

 この現状評価に読売の貧困なる精神が見え隠れしますね。
 死後50年の保護でなぜ足りないのか。その理由は論理的に説明されていません。著作権満了作品の利用を「許可を得ずにタダで使える」と称するという、きわめて主観的かつ非論理的な理由付けが為されているのみ。
 そもそも保護期間満了作品が文化遺産として共有のものとなるという発想に乏しく、著作権制度を語る資格を読売が持っているのか疑わざるを得ないほどの酷い内容です。「日本は他国の知的財産にタダ乗りしている」などという表現も同様ですね。

 著作権の保護期間を満了した作品は、自由利用できて当たり前なのです。「タダ乗り」などというものとは明らかに異なる利用態様です。ベルヌ条約という国際ルールに則って保護を外れたものであって(例として挙げられた『星の王子さま』などは戦時加算まで受けています)、パブリックドメイン化について他国から非難される筋合いなどありません。
 いや、この基本ルール自体は(保護期間を延長した)欧米においても同じであって、パブリックドメインを利用することをさも恥ずかしいことであるかのように表現するのは おそらく日本の権利者と読売新聞くらいなものでしょう。ここに常識の欠如というものが見えます。
 私はむしろ、こんな日本の現状の方が恥ずかしく思えます。

 仮に欧米から文句があるとしたら、その時は彼らが死後50年の保護に戻せば良いのですよ。そうすれば、パブリックドメイン化の恩恵を日本と同程度に受けることができます。国際条約上は、死後50年の保護さえしておけば後は各国の判断次第なのですから、好きにすればいいのです。

 繰り返しのようになってしまいますが、有期限の権利付与(流通コントロール)の後で自由利用可とするのが著作権制度の根幹と言えます。こうしたあたり、読売新聞はどのように理解しているのか(あるいは理解していないのか)。金儲けの権益か何かと勘違いしているのではないでしょうか。あるいは売国とか(笑)。
 また、文化が模倣・発展・継承というステップを踏んでいることも読売は留意すべきでしょう。著作物がいつまでも自由利用できないとしたら、後の世に残っていく文化はどんなものかということ。たまたま売れ続けた僅かな商品か、読売のような金の余った大企業が選んだ“文化事業”だけでしょうよ。
 それとも何ですか、読売は文化継承への影響力を維持するために死蔵作品を完全に葬りたいということなんですかね? (それとも やっぱ売国ですか。笑。)

 日本は文化の輸入額が輸出額より多いから延長は損という声もある。だが、そう言われては、マンガのように国際的に評価の高い著作物は立つ瀬がない。

 ──So what?
 輸入に比して輸出が低いのは事実でしょう。漫画が売れたところで、著作権保護期間延長によって文化に大きな弊害が発生すれば意味はありません。
 また、死後50年で何が不足なのか。著作者が死後50年経過した漫画で何か海外で売れているものがあったりするんですかね? ほとんどが存命中の作家の作品ばかりだと思うのですけど。

 著作物の円滑な流通が文化の発展に欠かせないことは、誰しも異論がないだろう。延長に際しては、流通を阻害しないよう、管理の仕組みを整備することが欠かせない。著作権管理の体制が整っている音楽業界は、参考になる。

 まぁ、独占的事業として公正取引委員会から目を付けられている JASRAC を暗に示しているかと思われますが、この団体が音楽流通にどれほど暗い影を落としていることか。規定の不備でもって許諾を出さない(出せないのではなく、怠惰で出さないだけ)利用態様を生じさせたり、一方的な請求でもって流通潰しを図ったり。
 禁止権を付与していることで流通にどれだけ害が発生しているのか。あるいは利用の萎縮がどれだけ発生しているのか。こうした点で考えても、 JASRAC は格好の素材と言えます。ポッドキャストでは音楽がなかなか流れません。 iTunes Music Store (現 iTunes Store) が日本上陸に遅れたのも記憶に新しいところ。日本のウェブサイトでは英語楽曲の歌詞が合法的に掲載できませんし(しかも歌詞を引用するだけで JASRAC から請求が来る!──曰く「引用は利用者の権利ではありません」だってさ)。

 死後70年となると、著作物を利用しようにも著作者の遺族と連絡が取れず、結果的に作品が死蔵される、という懸念も出ている。著作権管理の仕組みがあればこうした損失は防げるはずだ。

 誰がデータベースを保守するのでしょうか、死後70年に渡って。権利が移転したり、権利者の住所が変わったり、そういった変更を誰が追跡するんでしょうか。さらに個人情報保護法との絡みもあります。簡単に個人情報を集められない時代になってきてるんですよ!
 禁止権構成が持っている本質的な問題は、 JASRAC のような権利管理だけでは決して解決しません。世の中にどれだけの著作物が存在していると思ってるんですか。たとえばこの文章だって著作権法上は著作物ですよ。

 ともあれ、読売の見解に乗ったとしても、権利管理システムの整備は議論の大前提と言えます。この論理でいくかぎり、著作権保護延長などは時期尚早であると言わざるを得ません。

著作権の保護・活用で世界に遅れないよう、論議を急ぎたい。

 いや、日本は「活用」で既に遅れてるンですけど。フェアユースの不備、権利者自身の既得権へのしがみつきが原因だと個人的には思います。とても保護期間を延長できる現状にはなくて、むしろ権利を弱める方向で法改正していく必要があります。

 ──ここからは愚痴です。
 読売め。どこまで著作権制度の光と影(その意義と副作用)を真剣に考えているのか。せいぜい著作物をパクると侵害罪になるとか その程度にしか理解してないのでは?
 こういっては何ですがね、あの社説自体、文藝著作権通信の主張の引き写しですよ。あれの複製権を侵害してるんじゃないかってほど。

※著作権法上 侵害にあたると指摘しているわけではありませんよ。当該社説の中に創作性なんて無いよねという皮肉です。

 この記事を準備している間に、こんなものまで読売サイトに掲載されていましてね、もう‥‥

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/dr/20061121md01.htm
「著作権の保護期間 : 大手町博士のゼミナール」
(トレンド : マネー・経済 : YOMIURI ONLINE(読売新聞))

 これ読んで、さらに頭痛が悪化しましたよ。

 一見、賛否両論で書いてあるかのようではあります。しかし、実は構成上 賛否の扱いに差をつけてあるんですよ。「延長すべきとの意見がでているのはなぜですか」の答えの部分には賛成派の意見しか載せていません。逆に「反対の声もあるようですが」の段になると、延長反対意見の後でそれを打ち消すように賛成意見(反対の反対)を掲載しています。これでは賛成意見が印象づきますね。嫌らしいレトリックを駆使しています。
 さらに悪質なのは、これらの段の間に『ローマの休日』の件を挿入して中立性を装っている点。明らかに読者を騙そうとしているということです。全体を通して読めば、延長に賛成する立場が刷り込まれるという仕組み。

 なお読売新聞は社説ではさも“金の問題ではない”的な建前で書かれていたのですが、同じネタを扱ってるこの記事は「マネー・経済」のページに掲載されています。
 ──語るに落ちるとはこのことですね。

Posted by 谷分 章優 図書館・読書, 著作権保護期間延長問題, 著作権行政, 音楽と著作権 |

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