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2007年7月19日 (木)

「コピーワンス」問題と補償金 ──iPod 税・パソコン税への道に実は通じている話

http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0707/17/news065.html
「『コピー10回だからこそ、補償金制度が不可欠』——権利者団体が主張」
(ITmedia +D LifeStyle)

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/07/17/16361.html
「JEITAの主張する『補償金は不要』に遺憾、権利者会議が緊急声明」
(INTERNET Watch)

http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070717/fca.htm
「権利者86団体がコピーワンス見直し問題でJEITAを批判」
(AV Watch)

※引用は INTERNET Watch 記事から



 映像制作事業者など私的録画補償金関係権利者団体で組織される「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」は13日、「コピーワンス問題と補償金制度に関する緊急声明」を発表した。

 今回の声明は、2007年6月の私的録音録画小委員会で、電子情報技術産業協会(JEITA)が「デジタル放送には私的録画補償金は不要」と主張したことを受けて発表されたもの。デジタル私的録画問題に関する権利者会議は、声明文で「デジタル放送のコピーワンスの制度緩和を支えているのは『私的録画補償金制度』」と主張。補償金制度の必要性をユーザーにも訴えていくとした。

「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」が 13日 (けっこう前ですね)に会見を開いたんだそうです。これは先日話題になった、情報通信審議会「デジタルコンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」での「コピーワンス」改訂案の合意を受けたもの。

http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070712/soumu.htm
「『コピーワンス』見直しは、コピー9回+1回へ」
(AV Watch)

 まぁ平たく言ってしまうと、この「コピーワンス」“緩和”をダシに私的録音録画小委員会での議論を牽制したという話ですね。




■「コピーワンス」“緩和”と補償金

 「権利者会議」の言い分にも、いちおう一理はあるんですよ。
 現行の補償金制度が作られた時点で放送番組からの録画というのも想定されていたわけで(当時はまだデジタル録画機器が発売されていなかったのですが)、私的録画から「利益還元」すべきとの現行制度の前提では〈私的録画の自由を保証する代わりに、当該録画行為について補償金を支払わせる〉という運用が求められているわけですから。
 しかし。それはあくまでも、前提の内容と現実とで齟齬がない場合に妥当とされるものでありまして。

 上記会見での「権利者会議」の言い分をちょっと検討すれば、幾らでも反論すべき点が出てきます。
 そもそも彼らは「コピーワンス」が存在していた中で補償金を受け取っていました。しかも今回「緩和」すると言い出したのも彼らではない。総務省の肝いりで「コピーワンス」見直しの論議が出てきたから嫌々応じたに過ぎないわけです(彼らが不満たらたらなのは例の会見からも窺えますよね)。
 加えて、現に合意したという「コピーワンス」の“緩和”策が“ユーザーの私的録画の自由を確保する”のに充分なものなのかという問題があります。

●まず新しい運用指針に対応する機器へ買い換えないとならないばかりか、その新しい仕様がいつまで保つのか判らない(売る方も買う方もかなりリスキー)。
●HDD や DVD という壊れやすいメディアでの保存を(現状では)余儀なくされてしまい、別メディアへバックアップしようにも邪魔されてしまう(対応機種はどれだけ広がるのでしょうか?)。
●最初に録画した HDD でオリジナルをずっと保存しなければならない。
●iPod や Apple TV で動画を楽しみたいと思ったらPCへのコピーや変換が必要になるが、これが例の仕様下で実現できる可能性は極めて低い(何せアップルだから)。
●次世代メディアがこれに対応するのかも不透明、現在所有する録画物を次世代メディアへ変換するのもままならない(同じ番組が何度も放送されるとは限らないし)。

 私個人の感触を言わせてもらえば、この「コピーワンス」“緩和”後の仕様は買うに値する(つまり許容範囲の)内容とは言えません。私自身はコピー自由のものに最大限の価値を見出し、あとは価格・仕様との妥協で判断しますから。もし回数が増えるくらいでユーザー(の大半)が満足するのなら それはそれで社会的に成立するでしょうが、私はたぶん買いませんね。そもそも地上デジタル放送に移行しようという気が全くありませんし(新しい機器を買わにゃならないは、コピー制限はあるは、画質は悪いは、テレビ番組の質がもともと落ちてるはで良いトコなし)。
 もっとも、ユーザーに受け入れられなかった DRM の末路がどうなるかは「レーベルゲートCD2」が教えてくれます(今後は、パソコンへのコピーが出来なくなるってことですよねぇ。買った人は踏んだり蹴ったり)。
 新仕様の DRM が同じ末路を辿り、地上デジタル放送への移行が頓挫し、テレビも いわゆるコンテンツ業界も一緒に縮小していくことを私は大いに期待する次第です。

 コンテンツの価値はユーザーひとりひとりが決めます。
 その価格、その仕様も含めて。
 そして当該コンテンツが「尊敬」に値するのかどうかも、ね。

 そういった現実を冷徹に受け入れられない人は、最初から創作者・実演家などにはなれないのと違いますか。所詮、表現とは送り手と受け手とのエゴのぶつかり合いなのですよ。そうでなきゃ表現というものの存在価値などない。
 私らは、尊敬すべき“華麗なるエゴ”に対価を払ってるんですから。

「コピーワンス」や「私的録音録画補償金」からは少し離れてしまいましたが、これこそ我々が市場を通し文化に接する際の立脚点であろうかと思います。だから権利者団体からの「尊敬」の押しつけに反発するのであって。




■権利者の主張には裏がある

 ──今さら強調することでもないのですけど。
 今回のアピールは決して「コピーワンス」にとどまるものでも、現行補償金制度にとどまるものでもありません。上記までの範囲に限定する限りは、一定の(すべてとは言いません)妥当性を認めても良かったんですがね。

 現行の私的録音録画補償金制度は、「そもそも論」をすっ飛ばして創設したことと その運用に問題が発生している(分配の不透明さ、返還制度の機能不全など)のをとりあえず置いておけば、〈他人の著作物を私的録音・録画することで生じる「経済的不利益」の補償を当該権利者へ渡す〉というその“高邁な思想”の実現にかかる制度設計としては あながち悪いものでもありません。
 たとえば補償金の「支払い義務者」はユーザーであると規定されています(もっともメーカーが協力義務を負わされていることで、実際には発売前に補償金を立て替えている形になっています)。これは私的録音・録画をする者自身が本来負担すべきだと考えていられるからです。受益者負担は著作権処理のみならず一般に合理的とされる考え方ですね。
 また、ユーザーを「支払い義務者」としたことで当然に想定される〈他人の著作物を私的録音・録画しなかった人〉に対しては、補償金を課す理由がありませんから「返還」を補償金管理協会 (sarah や SARVH) に求めることができるとされています。これが無いと、私的録音・録画しない人の財産権を侵害しかねない(つまり憲法に反しかねない)のです。
 実は、現行の補償金が私的録音・録画の「専用機器・記録媒体」に限られ、携帯電話や留守番電話・パソコンなどの「汎用機器・記録媒体」に課金されていないのも上記の理由によります。私的録音・録画をしない人の割合が大きいから財産権侵害の発生が(無視できないほど)想定されてしまうということですね。そもそも課金したところで、返還のためのコストが本来の補償金を食いつぶしてしまうという事情もありますけど(それだけに返還制度が機能不全なままでパソコン等に補償金を課するのは言語道断です)。

 ここまでが現行の補償金制度の話。しかし問題なのは、この補償金の性質がいま変えられようとしていることです。しかも権利者側の人間はそうした変化の尻馬へ乗ろうとしている──「ユーザーの利便性と権利者の権利保護を両立させるためには、私的録音録画補償金制度の維持が不可欠」などという“綺麗事”を言ってる裏で、です。
 現行制度が〈他人の著作物を私的録音・録画することで生じる「経済的不利益」の補償を当該権利者へ渡す〉という建前である(不利益の発生という前提自体が事実なのかや、当該権利者へ補償金が分配されているのかは別論です──私はこういう前提には否定的ですから)のは先にも書きました。これが、今の私的録音録画小委員会を進行する文化庁によって〈国民が私的録音・録画できる機器を所有するという行為自体に課金し権利者団体(これ重要)に渡す〉というものへと変質させられようとしているのです。そこには〈ユーザーが他人の著作物を私的録音・録画するのか否か〉とか〈誰の著作物が私的録音・録画されているのか〉という繊細な視点など始めから棄てられています。
 たとえば文化庁の用意された「叩き台」で想定されているのは、「支払い義務者」をユーザーからメーカーへと変更すること、返還制度を実質廃止すること、そして iPod はおろかパソコンにまで補償金の対象を広げることです。私が上で説明した、現行補償金制度の合理的設計をことごとく破壊する案であると言わざるを得ません。
 これが実現してしまうとどうなるかをもう一度書くと、2年前に 「iPod 税」と言われ反対されていたものが よりその呼び方に近い形で実現することとなります。 iPod を買う人は、その人が他人の著作物を私的録音しようがしまいが「補償金」なるものを自動的に徴収されます。しかもそれは、他人の著作物を私的録音・録画しない(あるいは複製自由の曲やポッドキャストを聴くだけに利用するなど)という理由では返還してもらえない。そうして集められた補償金は、ユーザーの複製実態とは全く関係なく(そりゃ私的録音・録画されないんですから)権利者団体が恣意的に分配する。
 支払い義務者をメーカーに変更する理由を、文化庁は汎用機器・記録媒体への課金を可能にするからと明言しているわけですから、その課金対象拡大の先にパソコンがあるののは間違いありません。上記 「iPod 税」はパソコンにも及び、同様な「パソコン税」として私的録音・録画の実態と関係ない権利者団体へ集められるということになります。

 確かに、放送番組の私的録画にかかる補償金の是非と、今後変質していきかねない補償金制度の行方とは分けて考えるべきかも知れません。
 しかし、「コピーワンス」問題では「ユーザーの利便性と権利者の権利保護を両立させるためには、私的録音録画補償金制度の維持が不可欠」としたのと同じ口で、当の現行補償金制度の前提を崩し 「iPod 税」や「パソコン税」を実現しろなどと声高に叫ぶ人間のことをユーザーはどれだけ信用できるでしょうか(どれだけ「尊敬」できるでしょうか)。要するに、彼らは JEITA を批判できるような立場などでは全くない。
 JEITA と同じく、〈主張できる場面で最大限の主張をする〉という戦術を採っているのに過ぎないのです。それどころか、 JEITA の場合はかなり一貫した方針で主張を展開していますが、権利者側の主張は一貫していません。
 つまり“綺麗事”を額面通りに受け取ることなど全くできない。

 そう、「権利者会議」はメーカー側 (JEITA) の主張が槍玉に挙げていたりするんですが、 JEITA の方は「商売人」というかなり判りやすい立場から主張していることに注意が必要です。つまり〈ユーザーに支持される仕様〉を実現するインセンティブが働いていて、ユーザーの要望が強く反映されやすいということです(その方が金儲けになりますからね)。一度は「コピーワンス」を採ったものの、それが受け入れられないと見るや緩和させようとするのも彼ら自身が痛い目に遭っているからに他なりません。
 今までの「コピーワンス」からコピー回数を増やしたくらいでユーザーから支持されるのか否か。これについてはまぁ市場が審判を下すことですから、今後の成り行きを興味深く眺めていましょうか。しかしメーカーにとっては、今回のやつも支持されない可能性があるわけで(現に不満の声は既に挙がってきていますから)かなりのリスクを負うこととなります。仕様の実現、機器の発売し直し、ユーザーへの告知などなどコストも負担しなければならないですし。
 その意味では、コピー規制の“緩和”を繰り返すようなアホな事態はメーカー側として避けたいでしょうし、 EPN を用いた世代制限による DRM を提案するのも(ユーザー要求との兼ね合いとして)〈次でキメる!〉必要性からすれば実に合理的であると考えられます。

 どちらの主張が一貫しているでしょうかね?




■私的録音録画小委に望む

 じゃ、どうすれば良いのか。
 やはり「そもそも論」に立ち返って議論すべきなのです。
 ユーザーが私的録音・録画することで権利者にどのような「経済的不利益」が発生するのか。
 さらに根元的なことを言えば、権利者へ利益還元すべき著作物利用とは如何なるものなのか、私的複製はそうした利用の中に(本当に)含まれるのか、と。
 未来の著作権制度を見据えた上で新たな議論を積み上げていかねば、補償金制度創設後の“失われた10年”をまた繰り返すことになります。

 あの私的録音録画小委員会の場で、どれだけの委員が未来へ向いた発言をしているのか。資料に目を通し、議事録を読み、その流れを負っている私にとっては──楽観視できる要素は殆どありません。
 中山先生による議事進行ですら‥‥。

Posted by 暇人#9 踊る文化庁, 音楽と著作権 |

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