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2007年7月27日 (金)

私的録音録画小委#8 ──「著作権」の名を借りた あさましい主張

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0707/26/news114.html
「『iPodやPCからも補償金を』と権利者 私的録音録画小委員会」
(ITmedia News)

 7月26日に、 文化審議会 著作権分科会 私的録音録画小委員会の第8回会合が開催されました。ここでは最初にウェブに載った ITmedia 報道をネタ元に論じていきます(その後 INTERNET Watch でも記事が出ているのですが、これについては後で)。

 というのも、今回の ITmedia の記事、久しぶりに審議会ネタを採りあげたのは良いのですけど、ちと拙劣に過ぎるのですよ。どうしてもそれに対しての苦言が以下 連なるということになります。あらかじめ御了承ください。
 私的録音録画小委員会の議論が(不当な議事運営によって)のっぴきならないところにまで来ているにもかかわらず、報じ方がノンビリしすぎているのですよ。今どういう状態に陥っているのかが伝わってこないばかりか、第8回会合において実際にどのような議論があったのか(逆にどのような論点には触れなかったのか)すら はっきり書かれていない有様。一部それらしい描写があっても、過去の経緯を伝えるつもりで書いているのか第8回会合での委員発言を伝えているのか判然としません(終盤の引用が第8回会合での委員発言だというのは判りますがね)。
 内容面から言えば、実のところ(野原委員発言以外は)今までの議論で出尽くしている論点ではあります。しかしこれは第8回会合の中身が空っぽだったせいなのか、取材した記者の眼が節穴だったのか、やはり判然としません。

 厳しいことを言い過ぎてるのかも判りません(ましてロハで読ませてもらってる一介のネットユーザーに過ぎませんからね、私は)。しかし過去の私的録音録画小委を追いかけてきた人間からすれば、事務局が一定方向への誘導を目的とした「叩き台」を提出したことで議論を更に紛糾させたという経緯、「そもそも論」を置き去りに課金ありきの議事進行をしたことへの委員の抗議、汎用機器への課金について当然に出るであろう反論、補償金の支払い義務者を変更することで生じる「補償金」から「税」への変質など、きちんと過去の議論を踏まえて記事を書こうと思えば あれほど薄い内容にはならないのですよ。どう考えてもね。
 とりわけ汎用機器への課金がどういった問題を引き起こすのかや、返還制度が機能していないという問題などについては、2年前の法制問題小委員会で既に指摘されているのですよ。そこまでを書き手が(あるいは内容に責任を持つ立場の人間が)踏まえておかないと、過去に論じられたことを(あえて)繰り返さざるを得なかったのか、それとも新しい角度からの視点も交えて指摘があったのか、そういった機微というものを伝えられないのではないですか?
「ユーザーやメーカーは反対の声をあげている」? それは今回の小委員会の中で反対意見が出たということですか? 出たのならなぜ発言自体を引用しないのか? それとも過去の経緯を説明しただけに過ぎないのか? いや 「iPod や PC からも補償金を」などという委員意見が出ているのに反論が出ない筈がないでしょう(現に亀井委員から反論があったようですね、 INTERNET Watch によると──ただここの記事でも反論の全貌を知ることはできませんが)。
 例の記事で判るのは、課金対象として iPod やパソコンを指定すべきとの意見が出たことと、支払い義務者をメーカーへ変更することについて津田委員が反対意見を出したということ(あと野原委員が時事ネタを入れたこと)ぐらい。本当にそれしか伝えるべきことが無かったのやら。

 今期の私的録音録画小委は、ただでさえ議事録等の情報公開が遅れています(私は事務局が意図的に遅らせていると考えていますがね)。 ITmedia のような Web 媒体での報道が我々にとって数少ない情報源と言ってもいいのです。
 報道関係者という恵まれたポジションで取材をしておきながら こういった薄い報道をやられたのでは、物理的理由で傍聴に行けない人間は議事録公開までの時間を無駄に過ごさねばなりません。
 メディアとして果たすべき役割といったものを再度 認識し直していただけたらと切に願います。特に 「iPod 税」の時に他メディアをリードしていった ITmedia には気張ってやっていただきたい。ホントですよ。




■第8回会合での議論はどこに?

 ──本題に入らせてもらいます。
 記事の中で最も重要な部分はここです。

 録音・録画が主な用途ではない汎用的な機器まで対象にすれば、その機器を録音や録画以外の用途に使っているユーザーからも補償金を徴収することになってしまう。権利者側は PC や HDD も課金対象とするよう主張を繰り返してきたが、ユーザーやメーカーは反対の声を上げている。

 汎用機器へ課金することが問題ありとする意見の本質はここにあります。そして第8回会合でもこの反論が為されていない筈がありません。
 この問題を“無視”できるようにすべく、事務局が持ち出してきてるのは補償金の支払い義務者をメーカーに変更するという提案(これも権利者側から要望があったものではあるのですがね)でした。無論これにも問題があるわけで、それは津田委員の意見として記事で引用されている通りです。

 現行の私的録音録画補償金は、他人の著作物を私的録音・録画することによる当該権利者の「経済的不利益」を補償するという設計になっています。そのため「不利益」を与えている(とされる)エンドユーザーに補償金支払いの義務を負わせ、代わりに私的録音・録画しない場合の機器・記録媒体については補償金返還を求められることとし、私的録音・録画する蓋然性が高い(とされる)専用機器・記録媒体を課金対象としているのです。
 これに対して権利者側が主張しているのは、補償金支払いの義務をメーカーに負わせること、それによって私的録音・録画しない機器・記録媒体に課金された分についてもユーザーへ返還しないこと、そして iPod やパソコン・携帯電話にも課金しろということでした。
 しかしこれは「補償金制度」の変質を意味します。もはや「補償金」ではない。

 そもそもですね、上記「経済的不利益」の存在自体が曖昧なものでしかなく(私などはその存在に懐疑的ですらあります)、しかも“社会はどこまで権利者の利益を保護すべきか”という観点に欠けた、複製機器がまだ社会に浸透していなかった時代の考え方を無批判に踏襲するだけの考え方でもって導入された制度なのですよ、この「補償金」というやつは(さらにぶっちゃけたことを言うと、権利者側とメーカー側とで“この辺くらいなら御の字だろう”という線で妥協したものでしかありません──だから今でも権利者側とメーカー側とで言ってることが違うのですよ)。
 しかもそうした現行制度の前提に対してメーカー側委員・ユーザー側委員から繰り返し疑問が呈されていたにもかかわらず議事進行上は完全無視、権利者の主張だけを受け入れる形で「叩き台」をまとめるという、おおよそ当事者の合意を目指しているとは言えない形で小委員会は進められてきました。
 このような状況下で「今年中に結論を出す」ことにどんな意味があるというのか。無理に結論を出したところで誰がそれを守りますか。全く容認し得ない状況下で無理にひり出された制度をエンドユーザーに強いる、それも「著作権制度」の名で。
 本来は社会的合意の中で運用されていくべき「著作権制度」が私的録音・録画問題から崩壊していくのを私は危惧しますよ、本気で。




■そしてこれから──

 ITmedia の記事では記者に危機感が無いため、ここから読者が想像力を働かせるのは難しいかも判りません。しかし現状はかなり切迫したところにあると言えます。
 権利者の要求自体は確かに以前からの 「iPod や PC からも補償金を」というものと変わりないのですが、それが小委員会事務局の後押し(「叩き台」と称し一方的に議事進行の方向性を決定したのもその一環)によって実現への方向性が強まっていることを重く見るべきです。さらに言えば、この事態へと至るまでに、メーカー側委員やユーザー側委員の意見は(議事進行上)全く無視されてきたということも。
 権利者側の言い分だけを聞いて実現させれば、 「iPod 税」「パソコン税」の創設という形へと私的録音録画補償金は変質していきます。つまり私的録音・録画できる機器を所有するものから自動的に金銭を徴収し、私的録音・録画の実態とは全く関係なしに JASRAC ・レコード協会・芸団協らの権利者団体で山分けする(そのおこぼれに与る「権利者」もまた私的録音・録画の実態とは全く関係ない)構図が出来上がるという。
 こうした、おおよそ「著作権」の理念とはかけ離れた制度を社会が許容するのか否かという観点からの批判が必要なのです。

 補償金制度はとりあえず現状維持とし、さらに(まともな)議論を続けていくことを求めます。今年中に結論を出すなどという無理なスケジュールでやってるから おかしな審議内容になっているのであって。
 私的録音・録画問題というものは、そうそう簡単に結論の出るものではないのですよ。そもそも現行制度が作られる前にだって十余年かけられていますが、我々の疑問に答えられるような論理など全く積み上げられていない! ましてここ3年ほどの議論についてなど言うまでもありません。
 もちろん「現状維持」とは、補償金制度の要の部分を変えないということです。これはどうあっても(権利者がいくら要求しても)変えてはならない。支払い義務者をユーザーとする制度設計の維持、他人の著作物を私的録音・録画しない場合には補償金を返還してもらえる制度の実効化(廃止など もってのほか)、2年前の法制問題小委員会で指摘された問題点が解消されるまで課金対象を拡大しない──という3点は決して譲れません。

 私的録音録画小委員会の今までの流れから言えば、メーカー側・ユーザー側委員の意見を無視したまま報告書のとりまとめをして「意見募集」へと突入する蓋然性が極めて高いと言えます。そうなれば“補償金”拡大を目論む団体の組織票が集まることでしょう。
 それに対してユーザーは何ができるか。ぜひ考えていただきたいと思います。
 パブリックコメントを送るもよし、ネットで仲間を集めるもよし。社会が、変質する補償金制度を素直に受け入れられるのか否か、行動で示さねばならない時が近づいているのです。

 ──再度強調しておきます。
 このままでは「補償金」制度は「税」制度に変質します。
 私的録音・録画できる機器を所有する者から自動的に金銭を徴収し、私的録音・録画の実態とは全く関係なしに JASRAC ・レコード協会・芸団協らの権利者団体で山分けする制度へと。

「権利者」に名を借りた連中が要求しているのは そういう制度なのです。




■追報

 本文中でも触れましたが、私がこの記事を準備している間に INTERNET Watch でも記事が上がりました。

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/07/27/16469.html
補償金の支払い義務者はメーカーとすべき、権利者団体が主張
(INTERNET Watch)

 ITmedia の宮本真希記者はこの記事を読んで勉強していただきたいと思います。
 第8回会合の委員意見を拾うだけでも、同じような内容の記事は作れるのですよ。この会合を報じるという目的においては、 INTERNET Watch の記事の方が的確であると言えるでしょう。

 私自身がまともな“記事”を書いているとは言いませんがね。

Posted by 暇人#9 踊る文化庁, 音楽と著作権 |

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