ICPFセミナー「アメリカにおけるフェアユースの実情と日本への導入」に行ってきた
情報通信政策フォーラム(ICPF)のセミナー「アメリカにおけるフェアユースの実情と日本への導入」に行ってきた。講師が城所岩生先生(成蹊大学教授、米国弁護士)で、最初にセミナー開催がアナウンスされた時の仮タイトルは「フェアユース規定の導入を急げ!」だった。こちらの方が話の方向性を伝えているかもしれない。
今年の3月から、内閣に置かれた「知的財産戦略本部」で「日本版フェアユース」を著作権法に入れようと検討が進められてきた。知財戦略本部は、各省庁を統括する形で知財に関する大きな方向性を決める組織で、フェアユースについてこの17日まで意見募集が行なわれていた。
セミナーは、そもそも「フェアユース」とは何かというところから話が始まったのだけど、どうにも説明しにくい概念だ。著作権のある著作物を勝手に使っても、その著作権を侵害したとはみなされない「公正な」利用行為の範囲――と考えればいいのか。アメリカの著作権法では106条で著作権を定めて、それと並ぶ形で107条にフェアユースが決められている。先に定めた権利にかかわらず「フェアユース」なら侵害ではない、という書き方だ。たとえばテレビ番組を録画して、見て、すぐ消す場合が「フェアユース」の一例になる。
これに比べて、日本の著作権法ではフェアユースの規定は無い。それで「入れよう」という話になっているのだが、これまでは、著作権が働かないようにした方がいい利用行為を個別に列挙していく方式が取られていた。私的複製や引用といった事例を個別に並べて著作権を制限していくことから「個別権利制限規定」と言われている。
さて、アメリカ著作権法では「フェアユース」の範囲をどう決めるのかというと、条文の中に判断基準が4つ書かれていて、「使用の目的および性質」「著作物の性質」「使用された部分の量および実質性」「潜在的市場または価値に対する影響」を総合的に裁判所で判断するという。訴訟の中で著作権侵害かどうかを争い、訴えられた方が「フェアユース」だと裁判所に認めさせられれば勝てるというわけだ。
この4つの要件は、ただ読んだだけでは判りにくい。そこで城所先生は実際の裁判例を紹介しながら説明をした。
まず有名なのが、ソニー・ベータマックス判決だ。家庭用ビデオ機器でユーザーがテレビ番組を録画するのは違法だとユニバーサル・スタジオがソニーを訴えて、1984年のアメリカ連邦最高裁でこの判決が出された。実は上で書いた「テレビ番組を録画して、見て、すぐ消す場合」というのがこれで、ビデオ機器のユーザーがこういう使い方をするのは視聴の時間をずらす(タイムシフティング)だけなのでフェアユースだと判断された。ソニーに対しても、ビデオ録画機で違法でない録画ができる以上は責任を問えないとされた。
検索エンジンに関する裁判でもフェアユースが認められている。たとえば画像の検索をかけた時に検索結果として表示されるサムネイル画像について争われた Kelly対Arriba 第9高裁判決で、「使用の目的および性質」については営利目的だが「変容的使用」(もともとの画像をそのまま使っているのではない)にあたるとされた。「著作物の性質」は、複製されたものが著作物にあたるがネットで公開されているということでフェアユースの判断に「若干不利」。「使用された部分の量および実質性」では、確かに著作物の全体が複製されているけれども、一部を複製するだけでは検索エンジンの有用性が損なわれるの合理的とも言え、フェアユースかどうかの判断は「中立」(不利でも有利でもない)。「潜在的市場または価値に対する影響」は少ないとしてフェアユースに有利。これらの判断を総合した上で、画像検索とサムネイル表示がフェアユースと認められた。
こうした4要件の判断は、裁判の中で意外と丁寧に行なわれていると城所先生は言う。会員制で提供されていた写真が第三者にサイトに転載され検索エンジンに集められたという Perfect 10対Googleの第9高裁判決でも、「変容的使用」と「市場に悪影響を与える可能性が少ない」ことを理由にフェアユースが認められた。他の2要件では先のKelly対Arribaと同様の判断を下している。なお、これらの判決はサムネイル画像に限定していて、そこをクリックして表示されるフルサイズの画像については判断していない。
文書検索サービスに関する訴訟では、 Field対Google 裁判でキャッシュページについて争われた。キャッシュページは、Googleがウェブページを取り込んでサーバに溜め込んだものを表示させているから、ウェブページの複製をしているのは間違いない。これがフェアユースかどうかで争われ、複製元の原作にアクセスできない場合でも参照できること、権利者の要求によって後からGoogle内でデータを消せること(オプトアウトの手続きが存在すること)を主な理由として、フェアユースだと判断された。他の2要件は画像検索の時と同様。
フェアユースかどうかの判決が出る前に和解した例もある。Googleのブック検索は、全米作家協会と全米出版社協会からそれぞれ2005年に提訴され、2008年の10月に和解した。Googleが1億2500万ドルを支払うこと、著作権者へ収益を分配するための非営利団体を作ることなどを条件としている。城所先生は和解に至った理由について、「自分の感触」と前置きしながらも、書籍を取り込んで検索することについては権利者からの事後要求と削除(オプトアウト)の方式が業界で確立しておらず、フェアユースだとのGoogleの主張が認められない可能性があったからではないかと話していた。
以上のように、検索エンジンについての裁判所の判断はアメリカで積み上がってきている一方、日本では国内で検索エンジンのサーバを設置すること自体が著作権の侵害に当たると解釈されている。アメリカの著作権法と日本の著作権法、フェアユース規定があるのと無いのとでこんなに変わる。その結果、日本での検索エンジンはオプトイン(あらかじめ権利者の許諾を得てからサーバに蓄積する)が主流、アメリカでの検索エンジンはオプトアウト(まずサーバに蓄積して、権利者の要求があったら消す)が主流という違いをも生んだ。
検索エンジンの誕生は日本もアメリカも1994年だ。それが、今や日本でもアメリカ発の検索エンジンに席巻されることになっている。これは「失われた10年」ではないかと城所先生は話す。実は、著作権に関する行政を担当している文化庁は、検索エンジンのサーバを国内で運用しても違法にならないよう条文を追加しようという結論を審議会で出しているのだが、まだ実現していない。
日本では、放送関連でベンチャーが登場していながら、番組の権利を持っている放送局からの訴訟で潰されてしまっている例がある。例えばテレビパソコンを自社の事務所へ置いて、海外にいる顧客にテレビ番組を転送するサービスをしていた「録画ネット」の事件。マンションの共用部分にHDDレコーダーを置いて、各戸からテレビ番組の録画・再生の操作を可能にした「選撮見録」の事件。前者と同様のサービスとして、「ロクラク2」や「まねきTV」も訴訟に遭っている。
日本では放送局にも著作隣接権という権利が与えられていて、裁判でも「まねきTV」事件以外はその権利が侵害されたとの主張が認められている。ユーザーから見れば、自分でレコーダーを用意して録画すれば「私的複製」という個別の規定で認められているので自由にできる。そのレコーダーを事業者が用意して管理してくれるという違いでしかないのに、裁判になるとこれが「私的複製」とは違うという判断になってしまうわけだ。実際、「まねきTV」だけが生き残れているのは、ユーザーに市販の録画・ネット転送の機器を買ってもらって、事務所で預かるという手続きを徹底したためだった。
日本で著作権に関する訴訟があるとしばしば「カラオケ法理」というのが登場する。もともとはカラオケスナックで客に唄わせることが音楽の著作権を侵害するかとの争いで、最高裁判所が「その場を店側で管理している」「その場を提供することで利益を得ている」という基準を出して、店が著作権侵害をしたとみなした1988年の判断から来ている。実際に唄っているのはお客だったり従業員だったりで、これだけを見れば著作権法では侵害行為ではないとも言える(無償・非営利で唄うことは著作権の侵害ではないと定められている)。しかし、この「カラオケ法理」で実質的に店が唄ってるものと解釈して、JASRACが使用料を徴収できるようにした。
この「カラオケ法理」は「録画ネット」「選撮見録」「ロクラク2」の裁判でも当てはめられている。録画の操作をしているのはユーザーなのに、事業者が録画をしたとみなされているわけだ。そうした判断を回避しようとすれば、「まねきTV」のように厳格で面倒な手続きを経るしかない。
アメリカにもこういうサービスはある。「スリングボックス」というサービスは「録画ネット」のようにテレビ番組の録画とネット転送を可能にしている。また、ケーブルテレビ会社が自社にレコーダーを設置して、ユーザーの家庭から遠隔操作して録画・再生ができるサービス(「リモートストレージDVR」と呼ばれる)を行なっている。後者については映画会社やテレビ局から訴えられてたが、著作権侵害ではないと判断された。日本とは対照的な動きだ。
必ずしもフェアユースだけが日本とアメリカの違いというわけではないのだが、実際に新しいサービスが試みられて、訴訟の末に生き残っていけるかはフェアユース規定の有無に大きく左右されている。日本では、著作権の侵害を否定する根拠が個別列挙にしか無いからだ。しかもその列挙された利用方法に、サービス事業者が主張できる項目が極端に少ない。そうしたハンデに加え、「カラオケ法理」がネット上のサービスにどんどん当てはめられてしまい、ユーザーがしてる行為だからという抗弁が封じられる。これでは、サービスを考える側も萎縮的にならざるを得ない。
日本でこれから作られる予定の「フェアユース」の実際の中身はまだ判っていない。現時点では、アメリカ著作権法のフェアユースを参考にしながら内容と効果を想像することしかできない。知的財産戦略本部でイメージされているのは、フェアユースを著作権法に入れるという方向性と、今の著作権法で個別に決められた自由利用の範囲をそのまま残し、それ以外で認める必要のある自由利用を「フェアユース」で可能にするという効果だ。それによって、自分でリスクをとって挑戦していくベンチャーが日本でも登場してほしいと。
Posted by 谷分 章優 著作権 | Permalink
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