青少年向けフィルタリングの現状は ――内閣府の検討会でプレゼンテーション
今年6月に議員立法で成立した「青少年ネット規制法」。未成年者がインターネットで「違法」または「有害」な情報に触れないよう、携帯電話キャリアやPCメーカーなどにフィルタリングソフトの利用環境を整えるよう義務付けた法律だ。正式名称は「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」で、官庁では「環境整備法」という略称で呼ばれている。しかしネットユーザーには「青少年ネット規制法」の方が通りが良いだろう。
法案の内容が漏れ伝わって来た当初は、国が「有害」情報の定義を決めたりフィルタリングソフト導入を義務付けたり、「親の代わりに国が決める」ような規制色の濃いものだった。しかし最終的には、「民間の取組を後押しする」という国の関与が若干後退したもので落ち着いた。もっとも法律の第8条では「インターネット青少年有害情報対策・環境整備推進会議」を内閣府に設置すること、第12条ではその推進会議で「基本計画」をまとめるよう定めている。ネット利用に関する教育・啓発活動の推進や、その種の民間団体の取組へ支援する国の方針をまとめ、間接的にでも手綱を締めていくということだ。
12月8日に、内閣府が主催する「青少年インターネット環境の整備等に関する検討会」第2回の会合が開かれた。「推進会議」で「基本計画」をまとめる前段階として、計画の素案を作るのを目的とした検討会だ。検討会は、通信関係の団体やメーカー団体・PTAの代表ら、関係事業者と有識者から構成されており、また内閣府が省庁全体をまとめて施策を話し合うということで、警察庁・法務省・総務省・文部科学省・経済産業省からも課長級の担当者がオブザーバーとして参加している。
ここまで横断的で大がかりに見える検討会だが、これまで話し合ってきた内容はというと、10月20日に開かれた第1回と今回とで委員からのプレゼンテーションを中心に議事が進められてきた。まずは現状の把握からという趣旨だろう。「教育及び啓発活動」「フィルタリングの性能向上、利用の普及、民間団体等の支援」といった具合に回でテーマを分けてプレゼンを実施したが、実際には教育・啓発とフィルタリングの普及とでは重なるところが大きいため、内容もかなりリンクしていたようだ。
検討会の第2回会合でプレゼンテーションを行なったのは、電気通信事業者協会、電子情報技術産業協会(JEITA)、フィルタリング協議会、インターネット協会、モバイル審査・運用監視機構(EMA)、インターネットコンテンツ審査監視機構(I-ROI)の6団体だ。ちなみに、これらの団体は扱っている活動の範囲が重なるというだけでなく、実際に提携して行なう活動も少なくない。
プレゼンの中から私の興味を惹いた部分をピックアップすると、まず電気通信事業者協会からは携帯電話・PHS会社が提供するフィルタリングの普及状況が報告された。今年9月末時点でフィルタリングサービスの利用者が約455万人、同年3月から約112万人増で、昨年9月からの1年間で見ると約2.2倍の増加だという。環境整備法がきっかけになって事業者側の取組が強化されたためだろう。ただし、規制法の成立の前後での「急増」を成果であるかのように述べるのもどうかと思われる点も(個人的には)あり、むしろこれからの数字がどう推移していくかの方が重要だと思われる。
携帯電話向けの「健全サイト」を審査・認定しているEMA(モバイル審査・運用監視機構)からは、その審査・認定制度の説明がされた。これまでのところ審査・認定の申請が36件、そのうち認定済みなのが8件、審査中のものも27件あるという。ただしこのEMA認定制度は携帯電話向けのコミュニティサイトに限定しているので、今後は他の携帯電話向けサイトでも「サイト表現運用管理体制認定制度」を用意して、運営者自身がレイティングを行なったり、ゾーンニングを運用できるような仕組づくりに取り組んでいく姿勢を示した。この「セルフレイティング」と、EMAを含む第三者機関による「第三者レイティング」を併用することで、フィルタリングソフトが内容を判断できる基準を増やし、フィルタリングの実効性を高めていくということだ。
I-ROI(インターネットコンテンツ審査監視機構)も、ネットで流れるコンテンツの審査・認定をするということではEMA似た趣旨の第三者機関だ。しかし携帯電話向けのコミュニティサイトを中心に扱っているEMAとは対照的に、I-ROIの方は「インターネット全般のコンテンツを対象」としており、また最初のうちは「表現型コンテンツ」の方を取り扱うことにしているという。「参加型コンテンツ」(EMAで言うコミュニティサイト)については、後で審査・認定対象を広げる際に入れるとのことだ。
I-ROIは、発足自体は今年5月末だという。そう聞くと新しい団体に見えるが、もともとはデジタルメディア協会(AMD)の「コンテンツアドバイスマーク(仮称)推進協議会」が前身になっている。その意味では、この種の問題に取り組んできたキャリアは長い。とは言え、7月にシンポジウムを開催して、以後 12月10日に「倫理規程」「表現型コンテンツの健全性認定基準」が公開される運びだという。私個人としては、当初言われていたよりも進捗が遅いような気がする。
ところで、I-ROIが準備しているレイティングの中身だが、4段階で全年齢・12歳以上・15歳以上・18歳以上だという。閲覧制限の基準となるカテゴリーも「麻薬等」「成人向け情報」「差別表現」など9つ用意されている。これらをI-ROIの「健全性評価基準」として定めておき、これに基づいた「健全」性認定を受けたい人は、まずI-ROIのセルフレイティング研修(第1回は来年2月下旬に予定)に参加して自身でレイティングを行なう。その後 I-ROIは文書審査と目視での審査を行なって、レイティングの表示をさせた上での運用の監視も行なう。レイティングを付ける時、運用を見て認定を決める時、認定後の運用を見る時、と段階を踏んでいって「健全」性を担保するようだ。
I-ROIのプレゼンで目についたのは、こうした取組の先にあるものとして、「Webコンプライアンス」というキーワードを掲げたことだ。「コンテンツの提供者は、規則遵守に限らず、社会通念、倫理、道徳などの概念を含めたWebコンプライアンスを重視し、情報発信に際してそうした意識を持つことが大切」としている。単純にレイティングのルールを決めて守るだけでなく、社会的な規範として広げていくとの志を感じるところではある。個人的には、まだまだ先は長く、異なる考えを持つ他者とのたくさんの衝突を経なければならないのだろうとは思うが。
プレゼンテーションではその他、総務省調査でフィルタリングの認知率が85.8%、フィルタリングの必要性を認める回答が94.3%だったにもかかわらず、小学生でのフィルタリング使用率が31.2%だった点を上げ、JEITAが「(親の)危機意識が不足している」と指摘する場面もあった。しかしこれなどは、ずいぶんと踏み込んだ表現だと私自身は思った(その一方で、小学生に携帯電話を持たせることの是非という問題もあるのか、とは思うところだが)。
JEITAは、この親の意識というものを示した後で、「機器、サービス提供者の対応だけでなく、保護者を含めた社会全体での対応が必要」だとしている。JEITAは「フィルタリング普及啓発キャンペーン」を実施する一方、今後は録画機器やセットトップボックスなどの、近年ネット接続が可能になってくる家電についてもフィルタリングに対応させていく見通しを語っていた。
プレゼンテーションによって現状を踏まえた上で、検討会では次回からいよいよ「基本計画」素案の策定に入る。事務局によれば、10月17日から11月16日までパブリックコメントにかけられていた規制法施行令が、12月5日に原案通り閣議決定されたという(ちなみに同日付で、パブリックコメントの結果も内閣府・総務省らのサイトで公表されている)。来年4月1日の規制法施行まで着々と準備が進められているわけだ。
国の姿勢としては、基本的には民間の取組を後押しするにとどめ、あまり出過ぎないように気を遣っている感はある。しかし、「民間の取組」自体に行き過ぎが無いか、たとえばフィルタリングで弾く情報が必要な範囲を超えて広がりすぎていないか、未成年者のために用意したフィルタリングが大人にも強要される場面が生じないかなど、国はそうした行き過ぎも含めて「後押し」してしまうのではないかとの心配も若干ある。フィルタリングやレイティングの試みが始まったばかりということもあり、今後の動向を注視する必要があるだろう。
Posted by 谷分 章優 ネット規制 | Permalink
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