遅々として議論が進まぬ国際会議、悠然としている国際小委員会、でも油断はできない
12月19日に開かれた、文化審議会著作権分科会の国際小委員会(第2回会合)で「今後の検討課題」がまとめられた。このうち最優先して検討すべきと多くの委員が要望したのが、海賊版対策だった。とくにインターネット上での「個人の海賊行為」に言及する意見が相次いだ——。
国際小委員会は、世界知的所有権機関(WIPO)などの国際会議や、他国との二国間協議、締結を目指している条約などの動向を見ながら、著作権に関して対外的な日本の方針を検討する会だ。私的録音録画補償金の見直しを任せられていた私的録音録画小委員会や、著作権法の法改正そのものを議論する法制問題小委員会と並び、文部科学省の諮問機関である文化審議会著作権分科会の下に設置されている。今年度の第1回が5月12日に開かれたきりで、12月の第2回までしばし間が取られていた。
半年以上の間、国際小委員会で何もしていなかったわけではない。同小委員会に「国際検討ルール形成検討ワーキングチーム」が設けられ、「著作権をめぐる国際動向と今後の検討課題について」の検討が行なわれてきたのだ。今回の国際小委員会は、その検討結果が報告される場でもあった。
ワーキングチームも同小委員会も動向を見ている国際会議というのは、年に1回開かれるWIPOの加盟国総会と、この総会のもとに設置された「著作権等常設委員会(SCCR)」「開発と知的財産に関する委員会」「遺伝資源、伝統的知識及びフォークロアに関する政府間委員会」などのことを指す。その中でも、議論の中心になるのはSCCR(今年は11月3〜7日に開催)の動向についてだ。
SCCRでは、デジタル・ネットワーク化に対応した放送機関の保護水準を定める「放送新条約」が1998年から、映像に録画された実演(視聴覚実演)の保護水準を定める「AV条約」が2000年から議論されてきており、その動向についてはこれまでの国際小委員会の報告書にも記載されてきた。しかしいずれの条約構想も、欧米間で意見対立が起こり進捗していない。また比較的新しい議論として、発展途上国から「権利の制限と例外」について国際水準を決めるよう求めているが、先進国がそれに反対し、まず各国の権利制限について実態調査と研究をすべきだという話になっている。
要するに、国際会議を舞台にした話し合いは全くまとまらない状態だ。そこで日本として今後どう対応していくか、何を働きかけていくかを考えるのに、国際小委員会で先のワーキングチームを作り「今後の検討課題」をまとめたわけだ。
同ワーキングチームでまとめた検討課題は、「1.著作権保護に向けた国際的な取組」「2.エンフォースメント(法律遵守の強制力)の実効性確保に向けた取組」「3.開発と知財問題への対応」といった項目が立てられている。
1では、「放送新条約」「AV条約」の議論の動向をふまえながら今後の対応を検討するとしている。2については、国をまたいだ著作権侵害でどこの国の法律・裁判所を用い法的判断を得るのかという準拠法・国際裁判管轄の研究を進めるという。また、各国が持つ海賊版対策の制度を情報収集し分析するのも必要だと指摘している。3は、発展途上国が主張する「パブリックドメインの確保や国際規範に関する柔軟性の確保」「フォークロア(ある共同体で代々作られてきた文化遺産としての創造物)の保護」について、前者は現在の保護水準(条約で許容される保護の制限)でも十分対応できると途上国に伝えていくこと、後者は(条約の形でなくても)各国で対応可能なガイドライン・モデル規定を作るよう提案している。
このワーキングの報告ですでに「検討課題」がまとめられていたが、国際小委員会名義で決定する「今後の検討課題(案)」という資料も会合当日には用意されていた。ただし内容はワーキングチーム報告とほぼ同内容だ。ワーキングの報告は小委員会に対するもので、小委員会の親会である著作権分科会へは「今後の検討課題」を報告する形になる。
国際小委員会では、検討課題の中身自体は原案どおり了承された。ただ、これらは課題として大きなものばかりなので、どれを優先させるか順位を決めてはどうかとの委員意見が相次いだ。具体的には、2の「エンフォースメントの実効性確保に向けた対応」を優先するよう求める声が多かった。
口火を切ったのは、久保田裕委員(コンピュータソフトウェア著作権協会)だった。海外で権利侵害があった場合に、その権利の所在を政府が認証して権利行使をしやすくする必要性(そして制度の提案)を述べた。加えて、海外でのファイル交換ソフトの使用や中国での海賊版を挙げていた資料を指し、ファイル交換ソフトの使用が日本国内でも多いことや海賊版がヨーロッパでも多いことなど、現状を正しく把握する必要性も強調した。
石井亮平委員(日本放送協会ライツ・アーカイブスセンター)は、放送機関保護(放送新条約)についての政府の働きかけを求め、海外での動画共有サイトで放送番組が違法にアップロードされている実態を強調しながら、「簡便な手続きで違法な動画が削除される」仕組みが望まれるとした。池田朋之委員(日本民間放送連盟)も同様に、「放送事業者の立場で言うと、放送条約の成立がないと海外での権利行使は難しい」として、違法な動画をどう削除させるかの調査を求めた。
こうした権利者側委員からの要望が相次いだことを受けて、先に口火を切った久保田委員が「委員会でお願いするだけではなく、権利者がまず現場に踏み込んで実態調査をする、そして実費程度を国から貰ってというつもりでないと。(お願いするだけでは)変わらないんじゃないか」と、権利者側の受け身の姿勢を正すべきだと釘を刺す場面もあった。
委員意見が重なった「エンフォースメント」の優先順位が高めに設定されることはおそらく間違いないだろう。優先度についての議論は次回にと道垣内主査の発言があったが、「エンフォースメント」だけを検討課題にすることはないにしても、委員の意向はある程度反映されるものと思われる。優先順位にまで触れるかはともかく、「今後の検討課題」を含めた国際小委員会の方針は、1月26日に予定されている著作権分科会で報告される。
こうして今期の法制問題小委員会・私的録音録画小委員会・国際小委員会と、著作権分科会へ向けての報告が出揃った(なお「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」第7回会合は年明けの1月6日に開催予定)。いずれも著作権侵害対策の検討結果が盛り込まれるということになる。違法複製や違法配信からのコピーを違法化するという構想を盛り込んだ法制問題小委員会・私的録音録画小委員会と比較して、国際小委員会については、報告書の上ではまだこれから調査を始めるところという違いはある。たとえば、ファイル交換ソフトを利用した著作物のやりとりは国境を越えるものが多い。調査研究や、準拠法・国際裁判管轄の検討、そして関係国同士の情報共有の仕組みづくりなど、まだまだ取組みが始まったばかりだ。
しかし気になるのは、国際小委員会での検討がこうゆっくりしているように見える裏で、日本・米国・EUなどの一部の国でWIPOより小規模の会議が持たれ、ルールづくりを進めている例もあるところだ。「模倣品・海賊版拡散防止条約」(ACTA)に関する話し合いがそれで、今年6月・7月・10月・12月(概要)と相次いで関係国会合が開かれているとの発表が経産省や外務省からされている。国際小委員会で事務局(文化庁)から報告されたACTAの内容は今ひとつはっきりしないものだったのだが(ただし前期第1回には説明資料PDFが出されている)、日本の現行法より高い保護水準で海賊版対策が盛り込まれる可能性※があるだけに、国際小委員会に話が来る前に規制強化の方向性が決まっているなどということもあり得る。
そう考えると国際小委員会の悠然さはそのまま真に受けられないかも知れない。
※2006年9月15日に模倣品・海賊版対策関係省庁連絡会議がまとめた「基本方針」(PDF)の中に、「条約内容の検討に際しては、新規の制度整備の可能性を排除せず、条約の実効性の確保、国内制度との調和、制度の合理性など、総合的な観点から行う」との一文がある。
Posted by 谷分 章優 著作権, 著作権行政 | Permalink
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