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2008年12月30日 (火)

1月1日はアレが解禁される

 2008年が終わろうとしている。来年の1月1日になると、横山大観をはじめとする1958年没のクリエイターの作品が著作権の保護期間を満了する。著作権の保護が切れた彼らの作品は、複製や配布をしたり、新たな創作の下敷きにしたりと、誰でも自由に利用できるようになる。どんなクリエイターでも文化に育まれ、作品を生み出すに至り、その作品が作者の死後50年の後に文化へ還される――こうした「文化のサイクル」が来年もまた一回りする。保護期間延長の議論の行方次第では、このサイクルが途切れてしまうところだった。

 実は同じ日に、著作権法の縛りから「自由」になるものがもう一つある。アジアからの「還流盤」CDの輸入だ。大多数の旧譜について、輸入が解禁されるのである。「文化のサイクル」のダイナミズムと比べれば、みみっちい話ではあるが。

 「還流盤」とは、アジア各国で売られている邦楽CDを日本国内へ「逆輸入」したものを指す。国内レコード会社がアジアで邦楽を売り込む際、現地の物価に合わせてCDを安く売るため、これを日本へ持ち込み差額で利益を得る輸入業者が現れた。国内盤がおおむね3000円前後のところ、還流盤は2000円前後で売られた。かつては、スーパーやディスカウントストアでもよく見かけたのである。著作権を侵害している海賊盤と異なり、還流盤はレコード会社自身がアジアで売った正規盤のため、この商売をやめさせる手段が無かった。

 還流盤を放置しては国内盤が売れなくなる、と危機感を持ったレコード業界は還流盤の輸入を禁止できるよう文化庁に要求した。この輸入禁止が実現すれば、アジアへの進出も積極的にすすめ、そこで得た利益は国内盤の価格を下げるなどして還元するとレコード業界は宣言した。その結果、2004年の著作権法改定で「商業用レコードの還流防止措置」が盛り込まれることとなる。その内容は、国内で初めて発売されてから4年間だけ、国内盤と価格差が大きく「日本国内販売禁止」と表示のあるCDならば、レコード会社が税関で輸入を差止められるといったものだ。著作権法での条文の内容はもう少し違ったものだが、文化庁のガイドラインによって以上のように運用されている。

 この運用のうち、「発売から4年間」の部分で特例が設けられた。還流防止措置が始まる前に発売されたCDについても、運用後4年は制度の対象となることとされたのである。たとえば、1998年にデビューした宇多田ヒカルのCDであっても、2005年から4年間は「還流盤」を税関で差止められることとなっていた。この特例が切れるのが2009年1月1日、つまり2004年以前に発売されたCDならば「還流盤」の輸入が解禁となるわけだ。

 還流防止措置で輸入が止められているCDは、税関のサイトでの検索の結果で知ることができる(日本レコード協会のサイトにもリストが掲載されているが、こちらは差止申立てが受理されたものだけではなく、申し立てる「予定」のものも含まれている)。12月29日の時点の税関サイトによれば、差止申立が受理されているのが424タイトルで、そのうち56タイトルが2004年までに発売されたものだ(シングル盤も含む)。アジアの市場に、これらのCDのうち何枚が残っているのかは判らない。しかし、4年前までに発売されたものかに気をつければ、かつてのような「還流盤」ビジネスがまた可能になるのは確かである。

 これまでは還流盤ビジネス空白の4年ということになるが、還流防止措置が運用されてきた中で何か変わっただろうか。レコード業界は、オーディオレコードの生産を数量金額とも前年比95%前後で“順調に”落としており、アジア進出についても、2005年に641タイトル、2006年に551タイトル、2007年に668タイトルと低調である(この数字は内閣府の『知的財産推進計画』から)。毎年1万タイトル強のCDが国内で発売されるとのことで、これに比較するとお寒いかぎりだ。実はこれまでの間に、税関での差止めの実績は2007年0件、2006年と2005年も1件ずつだったりもする。

 還流防止措置は無意味だったのではないか。むしろ、音楽ファンとレコード業界との溝を決定的なものにしてしまっただけだった。「レコード輸入権」という言葉に聞き覚えのある方もいるだろう‥‥著作権法に書き込まれた還流防止措置の規定は、邦楽CDをアジアから「還流」させるのを止めるだけでなく、洋楽CDの欧米からの輸入も止められる内容だった。そのため、輸入盤を止めることで消費者の選択肢が狭められるとして、音楽関係者や音楽ファンが当時の法改定に反対した。還流防止措置はそれを押し切って導入されたのである。

 あれ以来、私は、国内レコード会社が生産したCDを買わないよう努めるようになった。もともと「コピーコントロールCD」を忌避して買わなくなっていたところに、さらに感情的に避ける気持ちが強くなったのだ。内容を吟味して手を出した国内盤もあるにはあったが、選ぶ目はかつてよりも厳しくなっている。幸い、輸入盤の方は目に見えて洋盤の輸入が止まることは無かったようだが、それでも国内盤と比較して不自然な値段が付くことが目立つようになった。その場合には、発売直後で買うことにこだわらず、納得できる価格に落ち着くまで待つ。

 音楽離れしたという訳ではない。むしろ、自分の持っているCDを聴く機会はiPodなどで増えている。国内のレコード会社から心が離れていっただけの話だ。その一方で、私はある方面に大きく興味を惹かれるようになってしまった。「レコード輸入権」の前後で起こった大きな変化は、むしろこちらの方だったのかも知れない。

 おかげさまで、「レコード輸入権」で「著作権」を強く意識させられるようになり、その後も「iPod税」「ダウンロード違法化」「フェアユース」など、ことごとくレコード協会の意向とは反対の立場で発言をさせてもらっているのである。ありがたい話ですな。




■おまけ:これまで差止められていたが解禁される還流盤リスト

※カッコ内は発売日
 なお、リスト内に無い旧譜ももちろん還流防止措置の対象から外れる。

●GLAY 『White Road』 (2005.1.19)
●w-inds. 『w-inds. - 1st message -』 (2001.12.19)
●w-inds. 『w-inds. - THE SYSTEM OF ALIVE -』 (2002.12.18)
●w-inds. 『w-inds. - PRIME OF LIFE -』 (2003.12.17)
●w-inds. 『w-inds. - bestracks -』 (2004.7.14)
●中島美嘉 『火の鳥』 (2004.6.2)
●SOUL'd OUT 『To All Tha Dreamers』 (2005.2.2)
●The Gospellers 『G10』 (2004.11.17)
●CAGNET 『Love Generation (Original Soundtrack)』 (1997.11.7)
●押尾コータロー 『Be HAPPY』 (2004.6.23)
●小野リサ 『ESSENCIA』 (1997.11.19)
●ORIGINAL LOVE 『EARLY COMPLETE』 (2003.6.25)
●菅野よう子 『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX O.S.T.2』 (2004.5.26)
●五輪真弓 『MAYUMI CLASSICS』 (2002.2.20)
●上戸彩 『Re.』 (2004.12.8)
●V.A. 『FURTURE SHOCK MUSEUM』 (2004.3.17)
●L'Arc~en~Ciel 『The Best of L'Arc~en~Ciel 1994-1998』 (2003.3.19)
●L'Arc~en~Ciel 『The Best of L'Arc~en~Ciel 1998-2000』 (2003.3.19)
●L'Arc~en~Ciel 『The Best of L'Arc~en~Ciel c/w』 (2003.3.19)
●ASIAN KUNG-FU GENERATION 『ソルファ』 (2004.10.20)
●ROUND TABLE featuring Nino 『APRIL』 (2003.4.23)
●THE BACK HORN 『イキルサイノウ』 (2003.10.22)
●溝口肇 『tokyo tower o.s.t.』 (2004.12.22)
●タテタカコ 『大空(そら)』 (2004.7.22)
●鳥山雄司 with ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ 『「世界遺産」組曲』 (2003.12.3)
●織田裕二 with Butch Walker 『Last Christmas / Wake Me Up GO! GO!』 (2004.11.3)
●KREVA 『新人クレバ』 (2004.11.3)
●藤木直人 『COLORMAN』 (2004.12.8)
●松任谷由実 『VIVA!6x7』 (2004.11.10)
●鷺巣詩郎 『CASSHERN ORIGINAL SOUNDTRACK [Complete Edition]』 (2004.10.20)
●SINSKE 『INFINITY』 (2003.8.20)
●小沼ようすけ 『Summer Madness』 (2002.11.20)
●THE GREAT JAZZ TRIO 『'S WONDERFUL』 (2004.12.1)
●川井郁子 『オーロラ』 (2004.2.21)
●藤田恵美 『camomile』 (2001.11.20)
●藤田恵美 『camomile blend』 (2003.10.1)
●宇多田ヒカル 『Automatic』 (1998.12.9)
●宇多田ヒカル 『Movin'on without you』 (1999.2.17)
●宇多田ヒカル 『First Love』 (1999.4.28)
●宇多田ヒカル 『Addicted to you』 (1999.11.10)
●宇多田ヒカル 『Wait & See ~リスク~』 (2000.4.19)
●宇多田ヒカル 『For You』 (2000.6.30)
●宇多田ヒカル 『Can You Keep A Secret?』 (2001.2.16)
●宇多田ヒカル 『FINAL DISTANCE』 (2001.7.25)
●宇多田ヒカル 『traveling』 (2001.11.28)
●宇多田ヒカル 『光』 (2002.3.20)
●宇多田ヒカル 『SAKURAドロップス』 (2002.5.9)
●宇多田ヒカル 『COLORS』 (2003.1.29)
●nobodyknows+ 『Do You Know?』 (2004.6.30)
●orange pekoe 『Poetic Ore; Invisible Beautiful Realism』 (2004.7.7)
●w-inds. 『夢の場所へ』 (2005.1.1)
●L'Arc~en~Ciel 『REAL』 (2000.8.30)
●SMAP 『世界に一つだけの花』 (2003.3.5)
●嵐 『Single Collection 1999-2001』 (2002.5.16)
●嵐 『5x5 THE BEST SELECTION OF 2002←2004』 (2004.11.10)
●The Don Friendman VIP Trio 『Timeless』 (2004.5.19)

Posted by 谷分 章優 音楽と著作権 |

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