YouTube事業説明会に潜り込んできました。
12月1日発売のマガジンハウスの『Brutus』誌(12月15日号)で、「世界初」と銘打ったYouTubeの特集が組まれています。関連トピックを集めた前半と、オススメ動画を集めた後半、それに茂木健一郎・山形浩生・津田大介・ドミニク チェンの四氏のインタビューを織り込んだ内容です。
その特集号の発売に先立つタイミングで、11月25日には大手町の経団連ホールにおいて「YouTube日本版 08-09年事業説明会」が開かれました。ネットでもかなりの数の報道が上がっていましたね。主として、ユーザーの投稿が著作権を侵害していないかチェックする「コンテンツIDシステム」と、提携企業の現時点での成果、そしてYouTubeの今後の収益に関する課題をとりあげたものでした。
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMITbe002025112008
「『YouTubeは攻めの段階に』 グーグルのコンテンツ担当副社長、広告事業を強化」
(IT-PLUS) 2008.11.25
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20081125/319888/ 「『著作権問題が解決し、YouTubeは守りから攻めにシフト』
――米グーグルのユン副社長」
(ITpro / 日経WinPC)
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/11/25/21640.html
「『YouTubeは著作権対策から収益化の段階へ』Google副社長」
(INTERNET Watch) 2008.11.25
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/25/news115.html
「『著作権は守りから攻めにシフト』──違法動画も収益化目指すYouTube」
(ITmedia News) 2008.11.25
この日の事業説明会に潜り込んできた私の目から、面白いと思ったことについてメモ代わりに書き留めておきます。
説明会では、YouTubeの用意した新しい試みが幾つか紹介されていまして、その中でおそらく1番の重要度なのが「コンテンツIDシステム」だと感じました。著作権対策としてYouTubeが開発したもので、提携した「コンテンツパートナー」からサンプル映像を提供してもらってデータベース化し、ユーザーが動画を投稿した時に比較する仕組みです。
そこでマッチすれば著作権侵害の疑いありということで、権利者である提携パートナーに連絡が行きます。その後の処置は、(1)動画が公開される前に視聴不能とする「ブロック」、(2)動画をブロックしない代わりにアクセス解析情報を詳細に取得できる「トラック」、(3)動画に広告などを表示して広告収入を受け取れる「マネタイズ」――から提携パートナーが選ぶことになります。ちなみに動画は20秒もあれば照合可能だとか。
実はこの「コンテンツIDシステム」は、既に海外ニュースや先行するイベントなどで既に発表されています(リンク1、リンク2、リンク3)。その時は“コンテンツホルダーの90%は違法動画をそのままにして広告収入を取る選択をしている”といった報じられ方をしていました。しかし私個人としては、この「90%」がどう計算されたものか、よく判らなかったのですね。
そのあたりが今回の事業説明会でようやく理解できたのですが、まず母集団が、サンプルを提供したコンテンツパートナーの映像に限られていたようです。それも、壇上に立ったGoogle コンテンツ担当副社長のデービッド・ユン氏によれば、このシステムを使っているパートナーの数は「300」とのこと。ちなみにYouTubeが世界中で提携している「コンテンツパートナー」は3000以上という話でして、かなり狭い範囲でしかこのIDシステムが使われていないように思われます。そしてその中で「90%のマッチングについて、パートナーはマネタイズを選択している」との説明でしたから、YouTubeに理解のある提携社が僅かでも利益になる方策を多く選択しているという結果でしょう。
まだ現時点では参考程度に捉えるのが良さそうです。
YouTubeの他の試みはちょっと置いておきまして、説明会に参加したゲストについても書いておきます。ここでのハイライトのひとつは、JASRACの参加まで取り付けていたということです。YouTubeがコンテンツホルダーと歩み寄っていることをアピールするのに絶好のゲストでしょうし、また今年10月にようやく包括許諾契約にこぎ着けたことを考えても、JASRAC常務理事の菅原瑞夫氏が登壇したことは感慨深い光景ではありました。
菅原氏のスピーチはJASRACの考え方を述べたものでしたが、面白かったのは「『動画投稿(共有)サイト』に対して違法利用の対策を求めるだけでなく、『動画投稿(共有)サイト』を新たなメディアとして存在を肯定し許諾の途を開く」としていた点でした。「存在を肯定し」とは随分と踏み込んだ言い方です。リップサービスにしても、こうした発言を繰り返していけばJASRACのイメージが変わるかも知れないと思いました。
ただ、菅原氏は甘い言葉だけでは終わらせませんでした。「後ろにあるもやもやした部分は忘れてはいけない」。YouTubeの取組が十分なものではないと匂わせたのでしょう。
YouTubeが当然のごとく呼ぶであろう重要ゲスト――日本企業でYouTubeとの連携を活発に行なっていることで有名なのは角川グループでしょう。スピーチは角川デジックス社長の福田正氏が、パネルディスカッションでは角川グループ会長の角川歴彦氏が登壇しました。
提携後に角川グループが最初に手がけたのが「MAD動画」などの「公認」でした。自社コンテンツを勝手にアップロードしたり、他の映像や音楽と組み合わせたりした動画(こちらが「MAD動画」)を、一定の判断基準で「公認」しYouTubeに残すという試みでした。広告効果を期待したもので、福田氏のスピーチによれば、10月末の時点で「公認」動画の再生数は自社掲載の動画の62倍に上るといい、11月時点ならば「100倍を超えているかもしれない」とのことでした。
また、角川グループが開設したYouTube上の公式チャンネルが12あります。先の「公認」動画と関連するアニメ・チャンネルから、角川エンタメチャンネル、ウォーカー・チャンネルなど、グループで抱えているメディアとの連携が図られています。その例として、タカラトミーから発売された「フラワーロック2.0」のキャンペーンが紹介されました。
フラワーロックは、音楽を流した部屋に置くとその音楽に合わせて踊る花のおもちゃで、20年前に発売されたのを今年リニューアル再発売したものです。そのプロモーション活動に角川グループが自社の雑誌やYouTubeのチャンネルを活用しました。10月30日には昔の映像が9本(再生総数20,435)しかなかったのが、11月11日に新版のプロモーションを開始、11月14日にはYouTubeが用意した動画内広告「InVideo」にも掲載しました。するとこの日の関連動画の再生数が88,466回、前日から57,000回増えました。動画数の方は、スピーチ当日で101本とのことです。
福田氏のスピーチは、相当の手応えを感じているといった趣旨で話が進みました。
ゲストはこの他に、エイベックス・マーケティングの前田治昌氏、パナソニックの和田浩史氏らが登壇しました。その中でも角川グループの発表データに顕著だったのですが、 提携の成果は今のところ動画再生数を基準に測られています。そこで、大量の閲覧をいかにYouTubeの収益へ繋げ、コンテンツホルダーに還元するかが今後の課題ということになります。
そこを意識したYouTube(とGoogle)が用意したのが、パートナー関係を結んだ企業の動画のそれぞれについて誰がいつどう見ているのかを詳細に記録したアクセス解析「YouTubeインサイト」、動画の中に広告を掲載しパートナーの別サイトへ誘導を図る「InVideo」、動画ページにパートナーの関連通販サイトへリンクを用意する「Click To Buy」です。先の「コンテンツIDシステム」でパートナーに「トラック」や「マネタイズ」の選択肢を実現するのも、こうしたサービスを並行して提供したからこそということになります。
しかし今回の事業説明会は、金額ベースでの効果は発表されていないという、「マネタイズ」が途上だと判る内容でした。来年にはこの効果がどのように発表されるのか。コンテンツを合法に提供することに関しては、大きな前進を見せているYouTubeですが、それを活かすも殺すもこれからの話なのかも知れません。
YouTubeが商業的に回り出したら、これまで派手さが無いながらも続けられてきた個人ユーザーの動画投稿はどういう扱いになるのか。商業コンテンツと個人動画とが両輪になっていくのか、それとも素人が入り込む余地が少なくなってしまうのか‥‥少し不安に思うところが無いわけでもありません。
ただ、そういうことを漠然と気にしつつも、YouTubeでの私の最近のお気に入りは、公式チャンネルを開設したばかりのモンティ・パイソンだったりするんですけど。ついつい目が行ってしまうのが商業コンテンツ。おそらく、私がYouTubeを捉える角度というのは、そういう商業寄りだったりするのではないかと思われますね。
Posted by 谷分 章優 映画・映像, 音楽と著作権 | Permalink
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