文化庁の政令案パブコメ: おそらくはJEITAの立ち回り方が巧いのと、状況が彼らに有利だというのがあるのだろう
文化庁が、私的録画補償金をブルーレイディスクへかけるための意見公募手続(パブリックコメント)を始めている。
私的録音録画補償金というと、2005年からiPodへ課金する・しないで騒ぎになったアレである。ユーザーが家庭内で音楽・映像を録音したり録画したりするとその著作物の送り手に「不利益」を与えるとの(ユーザーからすれば一方的な)考えで、録音・録画機器や記録メディアへ課金して権利者への「補償」に充てられる。機器やメディアの価格に含まれるため実質の負担はユーザーがするのだが、補償金をまとめて権利者団体へ支払うのはメーカーという制度だ(そのため、この制度についてメーカーの発言力が大きくなる)。
この補償金は主としてMD・CD-R/RW・DVDなどに課金されているが、2000年に指定されたDVD(-RW・+RW・-RAM)以降は、新しい機器への対応がされてこなかった。にわかにハードディスク内蔵の録音・録画機器への課金を権利者が叫びだした理由はそんなところにもある。
そして、その課金対象にブルーレイディスクを追加しようというのが今回の文化庁の動きだ。なぜブルーレイに課金することになったのか、なぜ今回ブルーレイだけなのか――は後で説明するとして、課金対象を加えるときの手続について少し触れておきたい。
著作権法の中では、補償金の課金対象は「政令」つまり内閣が出す命令(ここでは「著作権法施行令」)で指定するよう定められている。政令へは、指定機器の仕様を条文の形で書き込む。
加えて、政令を改めるときには前もって30日間以上の意見公募手続が義務付けられている(行政手続法第39条)。ということで、今回の文化庁の政令案パブコメは2月3日から3月4日までに設定されている(これまで話題になってきた審議会報告に対する「任意の意見募集」よりも厳格な手続が決められている)。
今回のパブコメの焦点は、政令案の文言の妥当性だ。規定ぶりに過不足が無いか、副作用が存在しないか、といった具合。政令案は『e-Gav』サイトに掲載され、「概要」と「新旧対照条文」が参照できる。
私的録音録画補償金の議論ってどうなってたっけ?
ブルーレイ課金や政令案の話に入る前に、補償金見直しの話がどうなったのかをおさらいしておく。
iPod課金の議論をきっかけに、2008年度まで文化審議会著作権分科会で制度の「根本見直し」が話し合われてきた。直近2年分の報告書が(PDF)この1月にまとめられたところだ。しかし周知のとおり、HDD内蔵型のiPodのようなオーディオプレーヤーや、ハードディスクレコーダーへの課金の是非には結論が出なかった。補償金を求める権利者側と、補償金廃止を主張するメーカー側とで対立が激化したのが直接の原因。この対立で、議論の場だった私的録音録画小委員会が運営できなくなるほどだった(もっとも個人的には、文化庁の議事運営がヘタを踏みまくっていたと考えている)。
結果、補償金制度で変更される唯一の点が、いまパブコメにかけられているブルーレイへの課金となる。では、なぜブルーレイだけが例外となったのか。
議論を複雑にしたのは、2011年に地上アナログ放送から地上デジタル放送へと完全移行する予定だったこと。アナログ放送ではコピー制限がかかっていない一方、デジタル放送では「コピーワンス」「ダビング10」といったコピー枚数制限がかけられているため、その録画に補償金をかけるのは如何かという議論になったのだ。文化庁でなく総務省の審議会で。
従来から、機器メーカーの業界団体・JEITA(電子情報技術産業協会)はアナログ停波を機に私的録画補償金を廃止すべきと主張してきた。コピー制限がある以上、権利者のコントロールのもとで録画がされており、ユーザーの録画で「不利益」にはならないとの趣旨だ。一方、JASRAC(日本音楽著作権協会)を始めとする権利者側は録画される事実がある以上「補償」すべきだとする。
2007年8月(総務省・情報通信審議会第4次中間答申)でダビング10の仕様が決められたが、「コンテンツを適切に保護し、その創造に関与したクリエーターが適正な対価を得られる環境を実現すること」とするダビング10開始の前提条件の解釈をめぐって権利者側とメーカー側とで対立、いったんは開始の見込みが立てられた2008年6月2日までに合意できず開始期日を延期するにまで至った。
事態の打開のため、権利者団体を所管する文化庁と、メーカー団体を所管する経済産業省との間で「ダビング10の早期実現に向けた環境整備」を目的とした二省間合意がなされた。そして6月17日、経産大臣・文科大臣のそれぞれの記者会見でブルーレイディスクへの「暫定的」な補償金課金が発表された。これを受けて、「適正な対価」イコール補償金だとする権利者側が、補償金の対象が追加される前に「ダビング10」を開始するという妥協を強いられた。
こうして、本来は文化庁の審議会で決定される筈のブルーレイの課金が、二省間合意というイレギュラーな形で決定されてしまった。しかも、この合意の後も地上デジタル放送と「補償金」の関係は曖昧なまま。しかも当の総務省の審議会でも「適正な対価」の中身に結論が出されていない。
文化庁の政令案と、JEITAのパブコメ
今回の政令改定で追加指定されるのがブルーレイだけなのは以上のような理由による。
では、実際に文化庁がパブコメにかけた政令案はどんな内容か。これまでの政令で補償金の課金対象を第1条2項で指定してきたところ、その第4号としてブルーレイを特定する技術仕様を追加している。従来のCDやDVDを規定したのと同様、記録するディスクの大きさや、ピックアップから記録面までの距離が数値で書き込まれる(ただしJEITAはここの書きぶりに注文をつけている)。以下のとおりだ。
光学的方法により、特定の標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた影像又はいずれの標本化周波数によるものであるかを問わずアナログデジタル変換が行われた影像を、直径が百二十ミリメートルの光ディスク(レーザー光が照射される面から記録層までの距離が〇・一ミリメートルのものに限る。)であつて前号ロに該当するものに連続して固定する機能を有する機器
※引用者註:「前号ロ」とは、著作権法施行令第1条2項3号の「記録層の渦巻状の溝がうねつており、かつ、連続しているもの」を指す。
今回の政令案で変更されるのはこの部分だけ。単純に新しい規格が書き加えられただけということ。いったん指定された機器は、たとえ生産されなくなっても指定解除されないのがこれまでの運用だっただけに、政令案が妥当なものかは慎重に見る必要がある。条文がきちんとブルーレイを特定できているのか、今回の追加指定の根拠となる二省間合意の内容を正確に反映されているのか——の2点に注目。
ところがブルーレイの技術仕様や、二省間合意の詳しい内容など、判断するための情報をエンドユーザーが一人ひとり持つのは難しいところではある(技術仕様については、こんなページがあったりもするが)。そこを考えたのか、JEITAがその両方の情報を含んだパブコメを公開した。提出期限を大幅に先行する2月13日のことだ。
おそらく、私も含めてだが、JEITAのパブコメを参照したユーザーの意見が文化庁へ提出されることになるだろう。JEITAの立ち回り方の巧さを感じてしまう。
政令案を見る上で問題となる二省間合意の内容だが、JEITAのパブコメによれば、経済産業省と文部科学省の両方から情報公開を受けた結果は次のようなものらしい(下は私が要約している。全文はJEITAのパブコメを参照されたい)。
(1)両省は無料デジタル放送に関する補償金問題について短期間で関係者が合意できる状況でないと認識
(2)文科省はDRMの有無が支払い義務の発生要件になるか明らかでないと認識
(3)経産省はメーカーが地上デジタル放送の録画について補償金の対象とすべきでないと考えていると認識
(4)両省はブルーレイがアナログ放送も録画できることを踏まえて「暫定的な措置として」補償金を課金、政令施行後3年を目途に施行状況等を検討して適切に対応
(5)無料デジタル放送の録画については早期に合意が形成されるよう引き続き努力
昨年6月の二省間合意以降、上記の状況に変化はない。となれば、この二省間合意の範囲内で課金対象を決めないと、文化庁の筋は通るまい。すなわち、アナログ放送のブルーレイ録画には課金をするものの、無料デジタル放送については合意待ちということ。特に「政令施行後3年」(当時の合意の前提からすれば2011年6月、政令指定に要するパブコメ期間を見ても2011年7月と見るべきではないか?)の見直しが必要となる。
もっともJEITAのパブコメには、政令指定されたブルーレイでも無料デジタル放送の録画には課金すべきでない(それが合意事項だ)としているが、さすがにそこまでは支持できない。二省間合意の中では、経産省もブルーレイに課金した結果デジタル放送も対象になってしまうことは「政令施行後3年」の間は容認しているように読めるからだ。まぁいわゆる官僚的な曖昧な作文なのだろうが。
文化庁の著作権分科会では話がまとまらず、今回のブルーレイへの課金の根拠が二省間合意にしか無い以上、課金の範囲に合意内容を反映させろとのJEITAのパブコメの趣旨には肯けるところだ。
JEITAは、上のような限定的な課金の明言を求めるとともに、ブルーレイの指定の仕方にも注文をつけている――「BDを特定する要素として、光ディスクの保護層の厚さ0.1ミリメートルに加え、レーザー波長405ナノメートル及びレンズ開口数0.85の要素を追加して規定することは必須要件である」。今の政令案に該当しながら、レーザー波長やレンズ開口数が異なる新規格が登場する可能性があるため、とJEITAはパブコメに書いている。
課金対象となる規格をひとつひとつ文章で指定していくという制度運用を考えれば、ブルーレイの指定の文言をJEITAの言うとおりに規定しても不都合はないだろう。
そしてエンドユーザーはどうする?
今も募集中のパブコメだが、我々エンドユーザーとしてはどう向き合うべきだろうか。
まず、ブルーレイへの補償金課金の最終ステップに来ていることを意識すべきだろう。「ブルーレイへの課金反対」と断固たる意見を送るのもひとつの姿勢ではあると思うけれども、文科大臣と経産大臣まで担ぎ上げて「合意」した内容にもとづく課金だ、官僚の立場で今さら覆せるかという問題がある。だから意見する現実的な方向は、二省間合意を正確に反映した内容かどうかで押すことだろう。
その意味では、JEITAが公表したパブコメの方向も妥当なものと感じる。主張自体はどうかなと思う部分もあるが、まぁ大臣の合意というのはそんなに軽い話なのか?」‥‥、いや、そんな筈はないのである。
一応、権利者の側の主張も
リンクだけ示しておく。
これまでの展開で同情すべき点があるにしても、やはりこの主張には乗れないのである。
Posted by 谷分 章優 映画・映像, 著作権行政 | Permalink
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