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2009年3月30日 (月)

著作権分科会 #28 ――フェアユース戦線はいつもの風景

 3月25日に、文化審議会著作権分科会の第28回会合が開かれた。この分科会では1月に前期・2008年度までの報告書が出され、それを受けて3月10日に今国会へ著作権法の改定案が提出されたところだ。法案の方は衆議院で先に審議される予定らしいが、30日現在でまだ審議は始まっていない。ともあれ、法案提出を前期の区切りとして、25日は今期・2009年度の分科会運営について話し合われる最初の会合となる。

文化審議会著作権分科会(第28回)
  日時:平成21年3月25日(水)
     10:00~12:00 ※実際には30分ほど早く終了
  場所:三田共用会議所 3F大会議室

【議事】
1 開会
2 委員及び文化庁関係者紹介
3 議事
(1)文化審議会著作権分科会長の選出について
(2)小委員会の設置について
(3)その他
4 閉会

【配付資料】
資料1 文化審議会著作権分科会委員名簿
資料2 「著作権法に関する今後の検討課題」
    (平成17年1月24日・著作権分科会決定)
    の概要とそれ以降のこれまでの審議状況
資料3 小委員会の設置について(案)

参考資料1 文化審議会関係法令等
参考資料2 文化審議会著作権分科会(第27回)議事録
参考資料3 著作権法の一部を改正する法律案の概要
      ※配付資料には法律案そのものも含まれていた。
参考資料4 デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について(報告)
      (平成20年11月27日 知的財産戦略本部デジタル・ネット
      時代における知財制度専門調査会)
参考資料5 広崎委員意見書
      (第9期文化審議会著作権分科会の運営に対する意見)

 分科会の運営の話——と言っても、実際に議論をする場は、分科会の下に設けられる「小委員会」の方である。だからこの小委員会をどう設置するのかが話の中心になる。
 昨年まで設けられていた、iPod全盛の今の時代に適合した私的録音録画補償金制度を話し合う「私的録音録画小委員会」と、保護期間の延長の是非を議論する「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」は、前期最終回にあった予定のとおり解散となった。今期設置されるのは3つ、「基本問題小委員会」「法制問題小委員会」「国際小委員会」だ。

 基本問題小委員会は、「著作権関連施策に係る基本的問題に関すること」を議論するとされる。この表現自体は配付資料にあった文言を引いているだけだが、あまりにも漠然としすぎてはいる。事務局が説明する中で例示した議題は、私的録音録画補償金と保護期間延長の問題だ。つまり解散された2つの小委員会を吸収したような形のようだ。それぞれの小委員会でも持て余してしまった議題なだけに、他の「基本的問題」を扱いつつこれら二つの議論も進められるのかは疑問。議題設定に文化庁の恣意が反映しやすいだけに、注視したい。
 「基本問題」と銘打っているだけに、事務局は方針として「文化政策的な見地から大所高所の議論をしていただける場として設置してはどうか」と提示している。この文化庁の言う「文化政策的な見地」が果たして好ましいものになるのか、私見だが微妙に思えてならない。「保護」だけが文化政策ではなく、しかもコンテンツ産業だけが「文化」ではない——そこからこぼれるものを無視したり、あるいは一緒くたにしすぎた結果が、〈時代の流れに対応できていない著作権法〉という今の状況なのではないか。
 長いこと著作権分科会の動きを見てきたためか、かなりうがった見方をする私ではあるが、心配の種が尽きないというのが正直なところである。

 法制問題小委員会は「著作権法制度のあり方に関すること」を話し合うということで、著作権法学者中心の構成で例年通りの設置。ここでは、前期まで議論しながら課題として残されているものに加え、「放送・通信の一元化への対応」「権利制限の一般規定」などが新たに挙げられている(事務局説明より)。議題てんこ盛りになるいつもの展開なのは間違いないが、その中でも最も注目が集まるのは「日本版フェアユース」だろう。

 国際小委員会も前期に引き続いて設置される。国際条約などで国内法制に対応すべき点が出てきた場合、その議論をここで行うのが主な役割なのだが、近年はこの種の動きが少なく会合が開かれるのも年に数回程度だった。もっとも前期最後の会合で「国際的な議論に先行して検討課題を設定しよう」との方針が出ており、また「模倣品・海賊版拡散防止条約」ACTAの展開も注目されるところなだけに、今期に大きな議題が持ち上がることが予想されないわけでもない(ただしACTAの中身が明らかにならないことには、今後の影響をはかることができないが‥‥)。

 今年度の小委員会はおそらく4月に入ってから本格始動する。まだ委員構成などは明らかにされていないが(たぶん事務局から本人への打診は始まってるだろう)、大ネタの未消化が目立つ著作権分科会である。バタバタと“審議したつもり”“結論が出たつもり”で片付けられることがないよう、注視していきたい。

委員発言から――

 以上が、分科会で本来話し合われるべき議題だった。しかし結果としては、いくつかの論点で委員発言が相次いだ会合となった。その論点とは、「日本版フェアユース」「美術品等のオークションでの商品画像」「不明権利者に関する裁定」の3つだ。このうちフェアユースは今後の議論に対する委員からの牽制という位置づけになるが、オークションと不明権利者については既に出された法案への質問という形。
 それぞれ、私の傍聴メモから書き起こした発言内容を引いておく。なるべく発言趣旨は変えないようにしているが、なにしろ私のやることなので必ずしも正確ではないかと思われる。正確なところは後日 公式の議事録に当たっていただくことを推奨する。各論点ごとにまとめてもいるので、発言順も前後していることにご注意を。

石坂委員(日本レコード協会会長)
 「日本版フェアユース規定」導入の今後の検討について。
 権利を制限しなければ不都合が生じるという具体的事例について、権利保護と利用のバランスを十分に吟味ないまま拙速に検討が進められるのを懸念している。公正な利用といっても、そこで想定される要件は様々だ。「日本版フェアユース規定」の検討は著作権法の根幹にかかわる内容なので、法制問題小委員会だけでなく基本問題小委員会でも検討し、多面的な議論をお願いしたい。

三田委員(作家・日本文藝家協会副理事長)
 新聞などで報道されているが、アメリカのGoogleが、いくつかの図書館の蔵書をすべてデジタル画像でデータベースを作った。これは日本の著作権法で言えば明らかに複製権の侵害。これについてアメリカの作家たちが裁判を起こし、一定の和解案が出て、補償金を払うという結論が出た。それが日本の作家や出版社にも関係してくるということで、日本でも大変な混乱が起きている。何がどうなっているのかを調べるのに、出版社や文藝家協会などで人を雇って調査をしなければならない実害が出ている。
 Googleは告知広告で、こういった和解があったとは知らせているが、謝罪の言葉が無い。明らかに法律に抵触することをしながら‥‥。アメリカの法律に「フェアユース」という概念があって、和解が成立して補償金を払う結果になっても、これは和解であって自分たちは「フェア」だと考えている。
 同じようなデータベースの作成が日本では国会図書館で行われている(註:現在国会で提出された法案に、より簡便にデジタル化できる条項が盛り込まれている)。これについては関係者を集めて、慎重な協議がなされている。複製を作ることはOKだが、それを国会図書館以外に提供するのは今後も慎重に検討するということ。日本ではそういう制度。
 ところがアメリカでは勝手に複製を作り、図書館間でも流通させてしまっている。こういったことが可能なのは「フェアユース」という概念があるから。
 「フェアユース」という概念を導入してしまうと、こうした明らかな実害がさまざまな分野で起こる可能性がある。慎重な議論をしてほしい。

(発言者不明)
 フェアユース導入の議論を拙速にバタバタとやるのは何故なのか。納得できないままに議論を進んで行くようだ。砂の上に高層ビルを建てようとするのではなくて、「砂」の基礎工事をどうやるのか、まずその土台作りの議論をちゃんとやって、先へ進む展開を考えて皆で知恵を出してやっていければいいのでは。



松田委員(弁護士・中央大学法科大学院客員教授)
 資料に「インターネットを利用した事業が諸外国に比較して遅れている」とある。一般的権利制限規定を導入すべきとの考えを持っている人々は、こういう考え方を表明している。著作権法がその障害になっているという前提。個別的制限規定であるから、著作権が障害になるかもしれないビジネスに投資をできない、新規事業への萎縮効果があるのだと。
 しかし三田委員の指摘は、一般制限規定が導入されれば極めて危険な状態が想定されるという一例。Googleは、日本の作家に対しても、オプトアウトしないと全部和解の中に含まれるから、との前提でGoogleのアナウンスに従って対処しなさいと言っているわけ。向こうの法制だからやむを得ない、圧倒的な力の差がある。そこも前提としては「フェアユース」だと言っている。そのような事業を拡大していくのが良いのか――多分ここにおられるごく普通の、著作権法の知識を持たれた方々は、いくらなんでもそれが「フェアユース」とは行き過ぎだと思われるだろう。
 日本がアメリカから遅れているとの前提で「著作権法を改正しなければならない」という発想が間違いだと私は思うが、少なくとも関係文書を作るときにはその点に注意してほしい。審議した後の記載ならやむを得ない。総意がそうであるなら仕方ないと思うが、私は今のところ総意がそうだとは考えていない。まず「遅れている」とやって、フェアユースを導入してもいいかのような、環境整備が必要だという印象を与える表現には慎重になるべき。
 事務局が作ったものでも、文化庁が作った資料、文化庁も同じことを考えている――と必ず引用される。ぜひよろしくお願いしたい。

 権利者側主催のシンポジウムなどに限らず、著作権分科会でも何かと風当たりの強い「日本版フェアユース」だが、実は分科会でこの種の発言をする委員はいつも同じである。確かに、これまで“自由に著作物を使える範囲”を個別具体的な規定で定めてきたのを、抽象的な規定を導入して後は裁判で決めようという制度へ転換させようという話だから、それに対する権利者側の反発が大きいことは当然予想される。とは言え、旧来の著作権のあり方が社会の支持を受けているのかが大きな問題。
 いつもと変わらぬ風景の中で、今回初めて出てきたネタはGoogleブック検索の件だ。もともとはGoogleが図書館と組んで、蔵書のデジタル化を始めたのに対し米国の著作者団体と出版社団体が訴えたのが最初。これが代表訴訟という形を取られて和解に至ったため、米国内での和解内容に(米国でも著作権が認められる)米国外の著作権者が拘束されるという興味深い事態になった。日本文藝家協会でも、和解に応じる協会員に対して代理手続をする方針だと報道されているところで、それについて三田委員がどうコメントするのかが見ものだったわけだが‥‥かなりグチってますな。
 しかしこれを「フェアユース」のせいにするのはどうかと。日本の権利者が巻き込まれたのは、米国の代表訴訟(クラスアクション)の問題なのではないか。海外で訴訟が起きて、その影響を受ける。そして何が起こってるのかを調査する必要に迫られる——ということを「実害」と呼ぶのも如何なものか。海外で権利行使しようとしたら、むしろ積極的に情報を収集すべきかと思われる。

 次の、法案に盛り込まれた「ネットオークション等」での商品画像掲示の件。美術品や写真などを売るのに、これまでは商品写真の撮影が著作権に触れかねなかったのが、権利制限して一定の範囲内で撮影OKということにしようとの話。

福王子委員(日本画家・日本美術家連盟常任理事)
 インターネット販売業者の美術品等の画像掲載について、権利制限を受けることになるとのこと。報告書では「ネットオークション等における画像利用」とあるのだが、この中にオークション会社が作るオークションカタログも入るというのを後で聞かされた。(持参したオークションカタログを示す)こんな立派な本が出来ていて、オークション会社が販売するもの。こういうのも権利制限の対象となるのは如何なものかと、(連盟の)美術作家らからも要件等を慎重に審議して欲しいと言われている。
 よく分からないまま審議が進行して、あるいは決定されているという感じを受ける。美術作家・絵描きは言葉や文章で語るのがよくないという風潮もあるが、そうするとどうしても事業者側に(結果が)片寄ってしまう。
 オークション会社から実際に立派な図録を発行しているわけで、そこをよく見ていただいて、あるいは調査するのも大事。慎重に審議していただきたい。

事務局
 今年1月の報告書では「ネットオークション等における画像利用の円滑化」ということで審議。報告書ではまとめとして、売り主が取引を行なう際の情報提供の必要性を根拠にしている。画像を見せなければ売買が出来ない、との点についてはインターネットに限らず、オークションカタログを除外する議論ではなかったと理解している。
 なおオークションカタログを販売する場合、それが美術品売買のためか、単に図録として販売するか、それによって違いが出る。図録が目的なら、今回の権利制限の要件の対象外。どのような基準で判断するか、運用上の工夫はしていきたい。

福王子委員
 オークションカタログの中にも、許諾を取っている作家と、全く取っていない作家がある。実際うるさいところには許諾を取るということだと思うが、こういう状況が続いてきて、係争に至る案件もある。実態の調査をよくやってほしい。オークション会社や作家の代表が集まって話し合う場も考えてやっていこうと思う。その辺でできることがあると思うので。



河村委員(主婦連合会常任委員)
 審議の過程でも「ネットオークション等」となっていて、オークションで画像がなければ円滑にいかないという説明だった。私もそうなのかと。法案では、ネットだけでなく、審議したつもりじゃなかった印刷物にまでかかる書き方。ちょっとこれは、私が聞いてても福王子委員の憤りが理解できる。審議の過程と、報告書から法案にいたる透明性が気になる。

福王子委員
 前回の審議会のあとで、文化庁からオークション会社のカタログも入ると聞いた。
 美術家連盟には5300人の会員がいて、毎月理事会があってそこで著作権の問題について――70年延長問題や、いろいろなところで勝手に使われる問題、そしてオークションカタログについても毎回出ている。それと「インターネットオークション等」とは別物だと僕は思っていたもので、後から気がついて驚いたのが本音。
 ついでに言うと、報告書の53ページに参考で「諸外国における立法例」があるが、ドイツでは許されると書いてあるのは「追求権」あるからではないか。公開オークションで作品が売買されると約2.5%から4%の間で作家に還元する。そうしたものがあって、(オークションでの商品写真に)著作権者の許諾をとらなくていいということになっていると思う。追求権はこの審議会で話題になっていても審議の対象になっていない。これは美術家連盟や関係団体で、立法化に向けて勉強しているところ。

事務局
 法制問題小委員会で議論したときは、議論のきっかけはインターネット上の公売だったが、権利制限する必要性の根拠は対面で美術品を見せられないことが言われていた。譲渡することには権利が及ばないのに、画像が見せられないとそもそも売買ができないという矛盾を解消しようというのが議論の主眼。ネットに限ったものではなかったかと思う。

福王子委員
 私はこの委員会だけに出席していたので、そうした内容がわからなかったということはあると思う。しかし美術の世界はたいへん狭いから、そんなに多数の人から許諾を取らなければならないわけではない。オークションカタログに載るのも少数の人、そう大変なことではないと思うので、印刷物については作家の許諾をとっていただきたいのが大前提。



福王子委員
 作品を(オークションカタログなどに)載せる以上、色や作品が切れてないとか、どういう状態で載るのかが心配。そういうことを気にしない作家もいるかとは思う。ただ、気にする作家がいる以上、(美術家連盟の)会議で必ず問題になる。突然自分の作品が載っててびっくりすることがよくある。海外の作家については以前、係争になってカタログとしても著作権に触れるという判例があったかと。
 (オークション側で選んで)許諾を取る作家と、全く取らない作家がある。作家や遺族に許諾を取るのが大前提だと思う。それぞれの立場で意見は違うと思うが、作家にとってはそういうことも大事。

松田委員
 今度の新法の規定は、複製物をさらに複製できないよう措置を講じた「政令が定める」ものが権利制限の対象になる。印刷物が入るとの話だが、これが政令で定められないと私は思うが。従来からの47条(で権利制限される)、展覧会のカタログには有料で販売するものは入らないはず。それとパラレルに考えれば、有料販売されて独自鑑賞性のある冊子が売られて、この47条の2にある措置が講じられる「政令で定める」ものに入るはずがない。

事務局
 有料化どうかは特に要件にしていない。有料ならば全てダメということではない。オークション参加費を取るようなものもあるだろう。カタログそのものを販売する目的なら、美術品を販売する目的というのとは変わってくるかと。有料でカタログを販売する行為自体はここで(権利制限から)外れる。
 「政令で定めるもの」は、「独立して鑑賞に堪えるようなものとはならないように」という付帯条件をするつもり。何を定めるかは、意見をいただきながら検討したい。

 福王子委員からの指摘は、なかなか興味深い。一方で事務局の返答にどう感じるか人によるかと思うが、私などはどうしても事務局へ批判的な目を向けてしまう。ネットオークションにとどまらず、現実に開催されているオークションでも権利制限の対象になるというのが事務局の説明である。しかし対外的に説明をする時は「ネットオークション等」とされていた。この「等」にリアルオークションも含まれるというわけか。
 既に提出された法案の話だけに、委員が違和感を表明するにとどまらざるを得ない。この指摘自体は、法案をチェックしていた私でも「あっ」と思ったのだが。
 
 こうした行き違いが起こってしまう背景には、分科会での議論の仕方がある。実際の審議は小委員会で行なわれ、その結果だけが報告として分科会に上げられる手法だ。オークション関連の権利制限規定は法制問題小委員会で議論されたものだが、分科会で報告された際には他の議論とひとまとめで「概要」資料によって分科会委員へ伝えられた。もちろん報告本文や議事録を分科会委員が参照するのは可能だろうが、分科会そのもので使われた資料や事務局からの説明は強い印象を委員に残す筈である。「ネットオークション等」と言われて、現実のオークションカタログが含まれるとはなかなか思い至らないのではないか。
 起こるべくして起こった事態。というか、事務局(文化庁)のふるまい自体、決定プロセスが不透明ということは確かに多いと私も思う。私が著作権界隈へ首を突っ込む契機となった「商業用レコードの還流防止措置」(いわゆる「レコード輸入権」)の時も、著作権分科会での漠然とした「何らかの措置が必要」との報告を受けて、文化庁が法案を作成した経緯があった。どういう方向で措置をとるかの実際の議論をせず、文化庁で勝手にまとめた例。また私的録音録画小委員会の迷走も、事務局側で作った資料が原因となっている。
 3月提出の法案にしても、私が気付いてないだけで、何か問題が含まれているのではないかとの見方は今でも捨て切れていない。

 さて、ピックアップしておきたい委員発言の3つ目。論点は、不明権利者に関する裁定制度だ。著作物を二次利用したいが権利者の居所が不明(あるいは権利者が誰か自体が不明)の場合、権利者の許諾の代わりに文化庁が「裁定」を出すことで、供託金を支払って利用できる制度である。裁定の申請をした時点から供託金を払えば利用可能になるなど、この制度をより使いやすくしようというのが法案の趣旨。

(発言者不明)
 権利者不明の利用の円滑化のところ、連絡できない場合で「政令で定める場合」とある。政令の内容については書かれていない。資料(パワーポイント)では実演家の権利、過去のテレビ放送に重点が置かれた説明だが。そういったあたりを伺いたい。

事務局
 権利者が不明の場合、「相当な努力があっても」連絡が取れない「政令で定める場合」ということ。どうすればいいのかが政令で定められるが、考えているのは、通常の著作権者の許諾を得る場合の努力は最低限必要だろうと。また現行制度でも文化庁の運用として、「手引き」などでどういう努力が必要かある程度明らかになっている。
 政令を定めるにあたっては、運用と関係者の意見を踏まえていこうと考えている。現時点では明確に「こういう案」というのがあるわけではない。
 実演家を中心にという質問だったが、権利者と連絡をとるために必要な努力は、分野によってさまざまあるかも知れないので、そうした実態を踏まえながら考えたい。

三田委員
 権利者不明のものを利用できるようにするとの法律改正、これは裁定制度で利用できるようにするだけでは利用は難しいだろう。裁定手続にかかる費用がかなり高いと、円滑には利用できないと思う。だから裁定の費用をできるだけ軽減し、手続も簡素化する具体的なものが必要になる。
 地方の図書館や文学館がさまざまな文書の復刻版を出したり、ネット上にアーカーブするという場合、権利者不明のものを使いたいという要望がある。こうした利用は営利目的ではないので、利用して幾らお金を得られるというものではない。だからそういう場合の裁定で、事前に納める供託金の算出も大変難しい。得られる金額がゼロだと供託金もゼロか、ということにもなる。
 どういうシステムを作っていくのか、利用状況を詳細に検討した上で、できるだけ利用を促進できるシステムを作っていただきたい。

 正直な話、著作隣接権と裁定制度の関係が私にはまだ理解できていない。法案を読んでも今ひとつピンとこないのだ(誰か解説してくれると嬉しい)。

 さて、上記のやりとり気になるのが「政令」(著作権法施行令)についてである。これは3月に出された法案全般に言えるのだが、政令で定めるべきとされる要件がかなり盛り込まれている。著作権法上「違法」とされる範囲を決める重要なラインを「政令」に委ねるような使われ方をしているので、国会での審議でもその「政令」内容がどうなのかを含めて法案の妥当性を判断することになる筈だ。しかし事務局の受け答えによると、政令の内容はまだ決まっていないようなのである(公表しないだけで、さすがに案は用意してあるのだろうが)。
 国会ではきっちり詰めて、それこそ法案の修正も辞さないような態度で審議してもらいたいものではあるが‥‥。

 この話題での三田委員の発言は良かった。特に、保護期間延長と絡めたいと思っていたに違いないのに、あえて触れなかったところを評価する。もっとも後からメモを読み返してみたら、決定的な発言ってのはしてないようだなぁ。

 ――以上が、この日の委員発言の主なところである。
 年度初めの分科会というのはいつもこんな感じだ。実質的な議論というのは小委員会で行われるから、権利者側委員としても従来からの主張を繰り返す場にしかならないことが多い。ただ今回は法案というネタがあったので、少し面白い話が聞けたという感じか。

 本番は以後の小委員会である。繰り返しになるが、大ネタが目白押しだ。議論の行方をしっかり見届ける必要がある。

Posted by 谷分 章優 映画・映像, 知財戦略, 著作権, 著作権保護期間延長問題, 著作権行政, 音楽と著作権 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年3月26日 (木)

著作権法改定案2009:待望された条項と抱き合わせで盛り込まれたもの

 「著作権法の一部を改正する法律案」が3月10日に閣議決定され、その日のうちに国会へ提出された。文化審議会の著作権分科会が1月に出した報告書(PDF)で法改定すべき課題が挙げられたのを受け、文化庁が法案の原案を作り、内閣での調整を経て、「内閣提出法案」として国会の審議を受ける運びである(内閣から出される法案が法律になる過程はここの説明がわかりやすい)。
 衆参両議院のサイトにはそれぞれ議案審議情報が掲載されている。ただし今のところは法案提出の事実のみが書かれる。なお法案本文は衆議院サイトに、また衆議院で先に審議される旨が参議院のサイトに載っていた。
 合わせて、法案審議で使われる関連資料も文部科学省のサイトで公表された。国会議員でなくても、「概要」「新旧対照表」などで法案の中身を確認できる。

http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/171/1251917.htm
「著作権法の一部を改正する法律案」
(文部科学省)

http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g17105054.htm
「閣法 第171回国会 54 著作権法の一部を改正する法律案」
(衆議院)

http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DA5E0A.htm
「議案審議経過情報 閣法 第171回国会 54 著作権法の一部を改正する法律案」
(衆議院)

http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/gian/17103171054.htm
「議案審議情報 著作権法の一部を改正する法律案」
(参議院)

 衆議院の解散時期をにらみつつ与野党が対立する「ねじれ国会」の中で、この法案がどう審議されていくのかは不透明だ。もっとも、この18日には民主党・川内博史議員が質問趣意書を提出したという。現時点ではまだ内容が明らかになっていないものの、じきに公表されるだろう。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/171221.htm
「著作権法の一部を改正する法律案に関する質問主意書」
(衆議院)

 と、これまでの法案提出の状況に触れてきたところで、気になるのは法案の中身である。
 先に書いたとおり、衆議院サイトにも法案が掲載されているが、これは現行の著作権法から改定・追加すべき箇所を指定し、改定後の文を添える形で書いてある。読んだだけでとても理解できる代物ではない(まるで設計図を読めというようなもの)。むしろ、文部科学省サイトの方の「概要」「要綱」「新旧対照表」(リンク先参照)を読んだ方が、比較的理解しやすい。あくまで比較だが‥‥。

 法案の中身を1枚ものにまとめた「概要」での説明によれば、本法案の趣旨は「電子化された著作物等(デジタルコンテンツ)の流通促進のため、インターネット等を活用して著作物等を利用する際の著作権法上の課題の解決を図る」ことにあるという。
 また、法案の三本柱として「インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置」「違法な著作物の流通抑止」「障害者の情報利用の機会の確保」が挙げられている。具体的には、以下のような項目が主なものだ。

・検索エンジンサービス(適法化)
・所在不明権利者を対象とした裁定制度の改善(適法化)
・国会図書館での所蔵資料のデジタル化(適法化)
・ネット販売での美術品等の画像掲載(適法化)
・情報解析研究のための複製(適法化)
・通信障害の防止、データ消失の防止、
 送信の効率化等のための複製(適法化)
・電子機器利用時に必要な複製(適法化)
・海賊版と承知の上での販売の申出(違法化)
・違法配信から、違法と知りながらの複製(違法化)
・視覚障碍者向け録音図書の作成を公共図書館でも(適法化)
・聴覚障碍者向け映画・放送番組に字幕・手話を付与(適法化)
・発達障碍等で利用困難な者に応じた複製(適法化)

 ※カッコ内「適法化」は、これまで違法だったが権利制限に加わるもの。
  「違法化」は、新法で著作権等が及ぶものとするもの。

 著作権法の改定は、「~権」のような新しい権利の付与や罰則強化など「権利者」側に有利な面だけを考えているように見えがちだが、もう一方で権利の限界――つまり利用する側から見て、無断での著作物利用が「違法」になるか「適法」になるかの境界を変更する働きもある(文化庁が「権利者」側に立っているか否か、論者によって様々な見解もあるだろうが)。今回の法案は、まさしくこの「境界」を決める話である。
 上記の改定項目をざっと眺めるだけでも、検索エンジンサービスの実施、ネットオークションなどでの商品画像の掲載、通信過程での一時的キャッシュ、障碍者福祉の拡大など、何年も前から待望されてきた法的対応が多く盛り込まれており、“めでたい法改正”という雰囲気を演出したいのだなと見えるところではある。現に著作権法改定(法案の閣議決定)を伝える各種報道はそういう方向で出されている。
 しかし「概要」だけでなく実際の法案を読んだときに、本当にその“趣旨”どおりの中身なのかという疑問が出てくる。

 「適法化」される項目がどう法案に書かれているか。
 たとえば検索エンジン(47条の6)の場合、確かにウェブサイトなどの収集や蓄積・インデックス化などはできるようになる一方で、実は「情報の収集、整理及び提供を政令で定める基準に従って行う者に限る」との限定がつけられている。またオークションなどでの商品画像について(47条の2)も、「複製を防止し、又は抑止するための措置」が必要だとされ、そこで要求される「措置」の内容は政令で決められるという。
 この「政令」というのは、国会を通さなくても政府が出せる命令(ここでは「著作権法施行令」を指す)のことだ。つまり、これらの規定で適法となる範囲が行政府の一存で決められるようになるのである。自由利用の範囲を決めるのに何らかの条件が必要だとしたら、国会で審議して決めるのが筋で、それこそ著作権法に書き込めばいい話だ。今回の法案がやろうとしているのは、「適法」の範囲の決定権を国会から政府へ委任させることに等しい。
 想定される政令の内容については、国会で質問が出たり言質を取ったりすることも考えられる。しかし今後は「日本版フェアユース」のように国会で作るルールを抽象化して、司法での違法・適法の判断を重ねることで柔軟なルール作りを模索しようとの機運がある時に、いたずらに政令へ委任する項目のを増やすのは如何か。司法へシフトしようとするルール作りの主導権を政府が横取りするようなものだ。ここは慎重に審議すべき。

 現行法では権利が及ばなかった範囲だったのを、及ぶように変える項目もある。違法に配信された著作物を「その事実を知りながら」録音・録画する行為を、私的利用目的であっても違法だとする条文がそれだ(30条1項3号)。また、この基準に合わせるためか、先の検索エンジンを実現するための複製(47条の6)や、通信や機器利用時のキャッシュ(47条の5第1項1号)でも、違法に配信されたものは複製できない(新設される権利制限から除外)という限定が設けられている。しかも海外で配信されたものでも、日本で同じことをしたとして「違法」ならばアウトだとわざわざただし書きを付けている。
 違法配信にまつわるこのような「違法」複製の判断は、一応は受信側が「違法と知っている」かどうかが基準となっている。しかし「知っている」のかという主観的な要件なのに他人(司法)に判断されるということで、一介のユーザーである我々には不安の残るところである。実際問題として、我々が本当に「知って」いたのかよりも、判断する者がどう考えるかが重要になってしまう。

 受信した情報が「違法配信」だと「知って」いた――そう誤解されないようインターネットで振る舞おうとするなら、ユーザーはかなり萎縮的に行動せざるを得ない。国内外のあらゆる場所から情報が発信されている時代である、そのうちのどれだけが「適法」に配信されたものだとユーザー側で確信できるだろうか。“怪しいものには近づかない”としただけでも、とりわけ海外で発信された情報にはアクセスできなくなる。
 まして海外(現地)では適法に配信されていながら、日本法で違法とされるような場合も出てくるのなら尚更だ。それとも、ネットワークの利便性を享受したい人は、あえてそうしたルールを踏み越えていくことを立法者は想定するというのだろうか。守りようもない縛りばかりのルールなら、そうなってしまう可能性も(萎縮効果とは裏腹だが)ある。
 「適法」と「違法」の線引きを明確にし、ユーザーや事業者が萎縮的にふるまわくても済むようにするのでなければ、「日本版フェアユース」に先行して法律を変える意味がない。法案を今のままで成立させては、混乱かルール軽視につながるだけだ。

 違法配信の扱いについてもっと詰めていくべきだし、最悪でも、海外で配信された場合の「国内で行われたとしたならば~」とのただし書きを削除すべきだと思う。

主な改定箇所(メモ)

【30条1項3号】
●いわゆる「ダウンロード違法化」条項の追加。
●「デジタル方式」の録音・録画に限定されてはいるが、ネットワーク内での受信に伴う行為が対象となるため、殆どの場合は「デジタル方式」に当てはまるだろう。わざわざアナログ機器で録音・録画をする人もそうはいまい。意味不明な限定。
●一応は録音・録画の行為だけを今回は30条除外の対象としているが、ソフトウェアの違法ネット流通についても30条除外が求められている経緯からしても(特に著作権分科会では委員から「ソフトウェアも法案に盛り込むべき」との意見が出ている)、今後 音楽や映像以外の著作物も30条除外が叫ばれることになろう。
●「国外で行なわれる自動公衆送信であって、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む」とわざわざ書かれている点に問題。国内外の著作権法の違いによって生まれる「海外では適法に配信されているが、日本法では違法とされてしまう著作物の録音・録画」の扱いが難しくなる(参照:benli)。
●いわゆる「ダウンロード違法化」の問題点は、ユーザーから見て、配信されている著作物の適法性が保証されない点にある。特に日本レコード協会が策定した「エルマーク」は、日本国内での適法配信の一部を知る目印にすぎない。海外での配信は同種のマークが用意されているわけでなく、かつCCLに代表される権利者自らの意思で無償流通させる著作物も多く存在する(それですら必ずマークが付けられているわけではない)。区別が困難な場合、ユーザーの選択肢は「法を犯すリスクを負って利用する」か「萎縮して利用をあきらめる」かに限られるが、後者の場合「エルマーク」を使う一部の事業者へ利益誘導されてしまうといういびつな構造を生んでしまうことすら考えられる(現にレコード協会のキャンペーンは、エルマークのあるサイトから購入するよう勧めている)。
●実効性の観点からすれば、コピーガード回避規制と同程度にも思われる。コピーガード回避で民事訴訟になった例がどれだけあるのか。
●余談だが、違法配信からの複製と並行して著作権分科会で扱われていた「違法複製物からの複製」については今回の法案に盛り込まれていない。これも盛り込まれていたら相当に影響が大きかったところだろうが。かといって、「ダウンロード違法化だけで良かったね」とはならない。

【31条2項】
●国立国会図書館で所蔵資料のデジタル化が行なえるようになる条項の追加。資料の保存に関しては、これまでは資料保存のために「必要な場合」に限定して図書館での複製が許されていた(その他、利用者への複写サービスと、絶版本を他館の求めで複製することは可能だった)。今後は、国会図書館に限るが、納本を受けた時点で資料のデジタル化が可能になる。
●「当該原本に代えて公衆の利用に供するため」複製できる一方、「必要と認められる限度において」との限定は付けられている。どういった範囲で認められるようになるだろうか。
●「公衆の利用に供するため」とはどの範囲を想定しているのか。インターネット等を通じて閲覧させたり、複写サービスとしてデジタル化資料をデータのまま提供できるようになり得るのか、等の期待はある。従来のような、国会図書館内での閲覧や、デジタル化資料の複写を紙で提供することは可能にしてもらいたいが‥‥著作権分科会での説明では、利用のさせかたについて関係者間で協議中だという。まずはデジタル化だけを先行してできるようにしたというニュアンスのようだ。

【37条3項】
●視覚障碍者を対象としていた権利制限で、その対象が「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者」に拡張された。知的障碍や発達障碍の者も、録音図書などの作成や公衆送信の恩恵に浴することができるようになる。
●この権利制限で作成される録音図書などは「専ら」上記対象者に提供されるものとされ、「必要と認められる限度において」との限定も付けられている。つまり健常者が利用できるような形で提供されることは許されない。なお、録音図書などの作成主体も政令で指定される(この種の政令指定は現行法でも同じ。「法案概要」では公共図書館もこの主体に含むようにするとあるが、おそらく政令指定で対処することになるのではないか)。
●権利者によって既に障碍者向けの内容で提供されている著作物は、ただし書きでこの条項から除外されている。たとえば朗読テープが出ている著作物だと、勝手には録音図書が作れない。

【37条の2】
●聴覚障碍者を対象としていた権利制限で、その対象が「聴覚障害者その他聴覚による表現の認識に障害のある者」へと広げられた。既存の映画や映像に字幕・手話等の挿入が可能になり、また公衆送信もできるようになる。貸し出しのために複製することも可。
●「専ら」上記対象に提供されるもので、「必要と認められる限度において」の限定つき。提供主体も政令で指定される。
●権利者によって既に障碍者向けの内容で提供されている著作物は、この条項により字幕・手話等の挿入はできない。日本語字幕入りのDVDが発売されていたりすると無理ということになるのではないか。

【38条5項】
●映画フィルムや映像ソフトを無償貸与できる主体に、これまで政令で指定されてきた「視聴覚教育施設その他の施設」に加え、「聴覚障害者等の福祉に関する事業を行う」者も追加された。「~事業を行う」者もやはり政令で指定される。補償金の支払いも必要である。

【47条の2】
●美術・写真著作物の原本や複製物を譲渡・貸与しようとする際、ネット上で画像を表示することが可能となる条項の追加。ネットオークションに美術品・写真などの商品を画像で掲載するのは著作権に触れるのではと話題になった件に対処したもの。
●ただし、画像の表示には「複製を防止し、又は抑止するための」措置が必要だとしている。その措置の具体的な内容は政令で書き込まれるのだろう、国会提出の段階では明らかになっているとは言い難い。——著作権分科会の事務局の説明でも「未定」とのことだった。ただし鑑賞に耐えうる品質で画像化しないように、との限定は考えている模様。
●文化庁の見解では、この規定の対象になるのはネットオークションに限らず、リアルのオークションでカタログの作成も含まれるという。ただし、政令での「複製を防止し、又は抑止する」措置をどう想定するのか。印刷物ではこの種の措置は難しい筈だが‥‥さて。
●将来的にフェアユース規定が導入されるとしたら、この商品写真の件は、フェアユースかどうかを争って司法判断を問うべき典型的事例ではないだろうか。しかし「日本版フェアユース」として想定されている、個別規定を判断基準として残してそこから外れる場面で「フェアユース」を判断する方向では、今回追加される個別規定によって問題が生じるのではないか。本来は司法が判断すべきところ、政令が指定する方式でしかネットオークションに商品写真を掲載できないとする条項があることで、実質的にネットオークションの運営のあり方を行政がコントロールし続けることにもなりかねない(政令で指定された方式以外の場合は、改めてフェアユースかどうか司法判断を求めることが保障されるのなら別だが‥‥)。規範を作るべきは立法・司法・行政のいずれか、という話にも映る。

【47条の5】
●書きぶりが複雑で、理解するのが(他の条項にも増して)困難。私自身、いまだに理解できているかがわからない。
●アクセス集中や送信遅滞・機器故障などによる通信障害を防止するためのサーバ内複製(1項1号)や、サーバにある著作物(複製)が消失した場合に備えサーバ外にバックアップを取る行為が可能となる(1項2号)条項を追加。それぞれ「必要と認められる限度において」との限定が付けられ、またサーバ内複製では特に「著作権を侵害するもの‥‥を知ったとき」は従来通り著作権が及ぶとされる(海外で配信されたものでも、日本法の基準で著作権を侵害すると判断されればアウト)。
●プロバイダが通信を中継する際に「送信を効率的に行うために」する著作物の複製(キャッシュ)明示的に適法とする規定を追加(2項)。ただし「必要と認められる限度において」の限定がある。
●47条の5では、送信側と中継側の複製(キャッシュやバックアップ)について規定。受信側の複製(キャッシュ)については別の項目で扱っている。

【47条の6】
●検索エンジンに必要な、著作物の収集と蓄積・インデックス化・検索結果表示などを適法化する条項の追加。
●検索エンジンでの複製と自動公衆送信が可能となる著作物は、送信可能化されている著作物に限定されており、会員制サイトのように受信者の制限が施されていたり、クローラーによる情報の収集を拒否したりするサイトは、従来どおり権利者の許諾が必要。また、検索エンジン側も「情報の収集、整理及び提供を政令で定める基準に従って行う者に限る」とされる。
●「著作権を侵害するものであること‥‥を知ったときは、その後は」当該著作物を検索結果に表示することができなくなる。今回の法案にある同種の条件と同様に、またしても海外で配信されているものでも国内法の基準で「違法」ならば「著作権を侵害するもの」とみなされてしまう。
●検索エンジン関係の規定は、Googleなどのような米国の検索エンジンの発達と、国内での状況を見比べながら「権利制限を設けるべき」と待望されていたものではあった。しかし実際の条文を読んでみると、この条項の恩恵が受けられる事業者は政令の基準に合致する必要があり(その内容は現時点で不明)、しかも将来的な「フェアユース」規定の適用から外されかねない(司法判断ではなく行政の判断で適用範囲が決定されかねない)ものではないかと危惧される。

【47条の7】
●多数の著作物(ネットで配信されているものに限らない)から情報解析をするような研究が目的の複製を可能とする条項の追加。
●ただし「情報解析を行う者の用に供するために作成されたデータベースの著作物」は従来通り権利者からの許諾を必要とする。

【47条の8】
●コンピュータ上で、ネットワーク受信の際に「情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で」著作物の複製がおこなえる条項を追加。いわゆる「キャッシュ」の問題。通信側(配信・中継)は47条の5で扱っているが、こちらは受信側。
●ただし「著作権を侵害しない場合にかぎる」とのこと。ユーザーが家庭内でする場合は私的複製との関係が出てくるので、ここで著作権を侵害するかどうかは30条(本法案で追加される1項3号も含む)を加味して判断されると思われる。
●いわゆる「ダウンロード違法化」との絡みで想定されるのが、YouTubeやニコニコ動画で「著作権を侵害」して掲載されている動画を閲覧した場合。侵害との事実を知りながら閲覧したとしたら、PC内にキャッシュが作られることはどう解釈されるか‥‥。結局はキャッシュを複製と解釈するかの論点に戻り、私的録音録画小委員会で「YouTubeやニコニコ動画での閲覧まで禁止するものではない」とする文化庁の説明とは食い違うのではないか。
●これ、ユーザーが私的領域でする場合以外だとどうなるのか? たとえば企業内で「キャッシュ」が発生する場合とか(企業内では私的複製とされず、キャッシュが複製だとしたら著作権侵害と判断されかねないか?)。「著作権を侵害しない場合にかぎる」との書きぶりはこういう場面にも脅威なのではないか。

【67条】
●不明権利者のために利用許諾が得られない場合、その許諾に代えて文化庁長官が「裁定」し利用可能にする制度があるが、その際の手続が著作権法に記載されることとなった。ただし詳細は政令で定められるとされ、法案の附則によれば改定著作権法の施行後2年のうちに整備されるという。

【67条の2】
●ここも裁定に関する条項の追加。本法案の中で、裁定制度改善のミソはここにある。裁定の申請ができれば、正式な文化庁長官の裁定を待たなくても「担保金」を供託して著作物利用が可能となる。ただし、最終的に裁定されなかった場合は、ただちに利用をやめないとならない。
●なお、裁定を受けようとしている著作物を権利者が「廃絶」したいのが明らかなら、裁定を受けることはできない。
●供託金や、裁定後に補償金が権利者へ支払われる仕組みも著作権法に書き込まれる。

【78条】
●著作権の登録制度で、原簿を電子化できる旨が書き込まれる。
●登録によって「第三者に対抗」できる場面に、「信託による変更」が追加された。

【113条】
●著作権侵害とみなす行為に、海賊版を「情を知って」「頒布する旨の申し出」をすることも追加された。いわゆる海賊版の広告規制で、ネットオークションで海賊版を売る旨が掲載された場合もここに含まれると考えられる。
●書きぶりからすると、特にネット上での広告行為に限るのではなく、実社会でも適用され得るのではないか(チラシとか雑誌誌面とか)。
●個人的には、ブートレグの広告を掲載しているサイトや雑誌とかはどうなるのかと思ったり。規制されるのは「頒布する旨の申し出」ということで、ブートレグの話題を採りあげる多くの個人サイトは問題ないだろうが。

Posted by 谷分 章優 映画・映像, 著作権, 著作権行政, 音楽と著作権 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2009年3月 1日 (日)

JASRACへの、公取の排除措置命令は落ち着いて聞きたいね。

 日本音楽著作権協会、略称がJASRAC。著作権に詳しいわけでない人でも、その名前だけなら知っているのではないか。CDや本などに、JASRACから「使用許諾」を受けた旨が書かれていることが多い。著作権侵害をしたとされる人物を提訴してニュースにも出る。何かと名前が目に付く団体である。
 JASRACの仕事はというと、作詞家や作曲家の音楽著作権を預かり、演奏会・カラオケ・CDやDVDの製作などで音楽(JASRACが権利を預かった曲)が使われるたびに、「使用許諾」を出して対価を徴収することだ。使用料は1曲いくらで計算するのが基本だが、膨大な数の曲を商売で扱う事業者にとっては「これだけ払えば使い放題」の仕組みの方が便利なこともあり、JASRACは「包括許諾」の選択肢も用意している。
 この「包括許諾」の“お得意様”の代表が放送局。テレビやラジオの番組では、ひっきりなしに音楽が使われている。当然JASRACとの契約が必要だ。現状としては、1曲いくらの個別の許諾よりも、放送事業収入の1.5%を支払って使い放題にしてもらう包括許諾が選ばれている。

 その、テレビ局とJASRACとの契約にクレームがついた。市場競争を阻害するものが無いか監視する公正取引委員会が、2月27日にJASRACへ契約の改善を求める「排除処置命令」を出したのだ。その理由は、JASRACが前述の条件で包括許諾をテレビ局に与えていることが、他の著作権管理事業者がテレビ局と使用許諾を結ぶのを妨げているから——だという。現に公取委の発表(PDF)では、後発の競合事業者であるイーライセンスが2006年10月から参入を試みたが、テレビ局にしてみればイーライセンスが管理する楽曲(例として大塚愛「恋愛写真」など、エイベックスが権利を持つ曲が示されている)の使用料はJASRACへの支払いと別に発生する「追加負担」となるため、殆ど使われなかったとのこと。エイベックスとイーライセンスは期間限定で使用料無料とするなどの試みを行なったが、以後の使用料を得られる見込みが立たなかったため、イーライセンスは管理委託契約を解約されてしまった。
 公取委は今回、JASRACがテレビ局相手の著作権管理事業で「私的独占」を行なったと判断した。実はこれまでにも公取委はJASRACに対し目を光らせており、2006年9月8日から音楽著作権管理事業が「独占的状態」にある分野だとして監視対象に加えていた。監視対象となる基準は

国内総供給価額が950億円超(法律上の基準は1,000億円超)である事業分野であって,上位1事業者の事業分野占拠率が45%超(同50%超)又は上位2事業者の事業分野占拠率の合計が70%超(同75%超)のものである

——とされ、JASRACがこれに当たると考えてきたわけだ。その「独占的状態」に加え、2005年に民放連からイーライセンスが参入した分 使用料を減額するかと問われ「減額する意向は無い」と協議の場でJASRACは回答、現実にイーライセンスが参入に失敗してしまった。今回の命令に先がけて昨年4月にはJASRACへの立入検査を公取委は実施している。その際に報道で明らかにされた内容から、今回の命令まで公取委の見解で特に変更された部分は無いようだ。
 では、今回の「排除措置命令」はJASRACの存在そのものを「私的独占」と判断したものと言えるのか。そして「包括許諾」が否定されたものなのか。

 そのいずれでもない。今回の公取委の「排除措置命令」が求めていることは、あくまでも(1)放送を相手にした包括許諾契約で(2)放送に使用される楽曲のうちJASRAC管理楽曲のしめる割合が使用料算出に反映されず(3)放送局から見てJASRAC以外の事業者への使用料が「追加負担」となってしまう——現状の改善である。JASRACのシェアを下げるために団体を分割しろとか、放送分野以外でも包括許諾をやめろとか、そうした広い命令ではない。排除措置命令書を見たかぎりでは(2)さえクリアできれば済む話にも思える。テレビ局からの全曲報告をこのところ進めてきたJASRACにとっては、時間はかかるにしても不可能ではあるまい。
 それ以上のことが求められるとしたら。JASRACの規模を小さくする何らかの手段をとるか? JASRACはもともと国内で唯一の音楽著作権管理団体だった。70年の歴史の大部分を独占事業者として築いてきた。その実績と組織規模に手がつけられないまま、2001年から「著作権等管理事業法」によって他の事業者の新規参入が可能になった(この経緯は朝日新聞のコラムが解りやすくまとめている)。JASRACが「独占的状態」にとどまるのは当然の結果だが、それにもかかわらず今回の公取委の命令は対象範囲がかなり限定されている。穿った見方をすれば、JASRACには(現時点では)放送局相手の包括許諾でしか突っ込み所が見つけられなかったようにも映る。
 包括許諾そのものを禁止するか? 包括許諾は放送以外の分野でも使われている。最近話題になったところでは、YouTubeやニコニコ動画といった動画共有サービスと結んだのも包括許諾契約だ。しかしこの分野では放送と対照的に、イーライセンスやJRC(ジャパン・ライツ・クリアランス)といった後発事業者との契約も進んでいる。インターネットユーザーの反応を見ると今回の命令がこちらへも影響するのか心配する声があるようだが、命令書の書きぶりでは特に影響は無いように思われる(JASRACも、記者会見でそうした見解を示している)。
 もしJASRACを分割したり包括許諾を禁止するなどという話になれば、テレビ局だけでなく、ほかの利用者にとってもかなりキツイことになるだろう。1曲ごとに権利が委託される業者を探し(こちらはシステムを用意すれば解決できるが)、1曲の使用ごとに対価が積み重なり、利用が進むたびに使用料が青天井となってのしかかる。
 そこまでの大変革を強いるような「排除措置命令」なら、今回の命令とは全く違う書きぶりになっていたはず。JASRACの「独占的状態」をどうにかしてほしいと思う向きにとっては、やや拍子抜けなところもあるかも知れない。興味深いことだが、今回のJASRACへの命令についてイーライセンスもコメントを出している(PDF)。「放送権とともに、業務用通信カラオケ、貸レコードなど他の利用形態においても同様の『包括利用許諾契約』が締結され、競争阻害要因となっているおそれがあります」として、他の分野についても公取委の監視を求めているのだ。

 今後、この問題はどうなっていくだろうか。公取委の「排除措置命令」は即日効力が発するというが、JASRACは命令が出された当日にプレスリリースを発表、また記者会見も開いて、「審判」を請求し全面的に争う姿勢をみせている。
 確かに、放送でどんな曲を使うかは放送局自身が決めることで、今回の命令ではJASRACの方が結果責任を負わされているような形になっている。とは言え、独占事業だった頃と同様の契約を維持し、新規参入が現実に失敗してしまっていることにJASRACの責任は無いのか、との点が気になるところでもある。審判から訴訟へと発展する可能性もある中で、そうした論点に答えが出てくることを期待したい。
 その行方次第では、放送分野以外でもJASRACへ競争上の規制がかけられ得るのか、見えてくることもあるかも知れない。落ち着いて動向を見ていこう。





関連リンク

【プレスリリース】

http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.february/090227.pdf
「社団法人日本音楽著作権協会に対する排除措置命令について」
(公正取引委員会・PDF) 2009.2.27

http://www.jasrac.or.jp/release/09/02_6.html
「公正取引委員会に対する審判請求について」
(JASRAC) 2009.2.27

http://tinyurl.com/c5d87f
「(報道発表)日本音楽著作権協会に対する公正取引委員会の『排除措置命令』
 に関する民放連会長コメントについて」
(日本民間放送連盟) 2009.2.27

http://www.elicense.co.jp/u/20090227.pdf
「公正取引委員会『独占禁止法(私的独占)違反による排除措置命令』について」
(イーライセンス) 2009.2.27


【報道】

●公取の排除命令

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20090227/325677/
「公正取引委員会がJASRACに排除措置命令,
 テレビ局との包括的利用許諾契約の見直し迫る」
(日経 ITpro) 2009.2.27

http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20389026,00.htm
「公正取引委員会、JASRACに独禁法の排除措置命令」
(CNET Japan) 2009.2.27

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2009/02/27/22612.html
「『JASRACの包括契約は独禁法違反』公取委が排除措置命令」
(INTERNET Watch) 2009.2.27

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0902/27/news071.html
「JASRACに排除命令 公取委、『包括利用許諾』改善求める」
(ITmedia) 2009.2.27

●JASRAC記者会見

http://mainichi.jp/enta/music/news/20090228k0000m040095000c.html
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090228ddm041040062000c.html
「JASRAC:排除命令に争う姿勢 作曲家は競争歓迎」
(毎日jp) 2009.2.27
▲ 小林亜星氏、文化庁のコメントあり。

http://www.phileweb.com/news/d-av/200902/27/23136.html
「JASRAC、公取委からの排除措置命令を受け緊急会見を実施」
(Phile-web) 2009.2.27
▲ 質疑応答の模様を詳しく記載。

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2009/02/27/22618.html
「JASRAC、公取委の排除命令に『承服できない』~審判請求へ」
(INTERNET Watch) 2009.2.27

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0902/27/news120.html
「『徹底的に争う』とJASRAC加藤理事長
 排除命令、YouTubeやニコ動に影響は」
(ITmedia) 2009.2.27

http://journal.mycom.co.jp/news/2009/02/27/070/
「JASRACが緊急会見、『楽曲使用料』巡る公取委の排除措置命令に怒りあらわ」
(マイコミジャーナル) 2009.2.27

http://pc.nikkeibp.co.jp/article/news/20090227/1012744/
「公取委、テレビ局への包括許諾でJASRACに排除命令――JASRACは拒否」
(日経PC online) 2009.2.27

http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20389076,00.htm
「JASRAC、公取委排除命令に徹底抗戦の構え--『事実認識が誤っている』」
(CNET Japan) 2009.2.27


●総合

http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/090227/fnc0902271959011-n1.htm
「放送局にも影響 JASRAC排除措置命令 見直し迫られる楽曲使用」
(MSN産経ニュース) 2009.2.27

http://www.asahi.com/showbiz/music/TKY200902270316.html
「公取委、JASRACに排除措置命令 放送使用契約問題」
(asahi.com) 2009.2.27

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090227-OYT1T00750.htm
「公取委、JASRACに排除命令…著作権管理『独占』認定」
(YOMIURI ONLINE) 2009.2.28

http://www.asahi.com/showbiz/music/TKY200902280076.html
「JASRAC、市場独占の歴史 使い勝手考えた市場開放を」
(asahi.com) 2008.2.28
▲ プラーゲ旋風からJASRAC設立への流れが解りやすく書かれている。JASRACはもともと国公認の独占事業だったことが、今回の問題をややこしくしている。

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