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2009年3月 1日 (日)

JASRACへの、公取の排除措置命令は落ち着いて聞きたいね。

 日本音楽著作権協会、略称がJASRAC。著作権に詳しいわけでない人でも、その名前だけなら知っているのではないか。CDや本などに、JASRACから「使用許諾」を受けた旨が書かれていることが多い。著作権侵害をしたとされる人物を提訴してニュースにも出る。何かと名前が目に付く団体である。
 JASRACの仕事はというと、作詞家や作曲家の音楽著作権を預かり、演奏会・カラオケ・CDやDVDの製作などで音楽(JASRACが権利を預かった曲)が使われるたびに、「使用許諾」を出して対価を徴収することだ。使用料は1曲いくらで計算するのが基本だが、膨大な数の曲を商売で扱う事業者にとっては「これだけ払えば使い放題」の仕組みの方が便利なこともあり、JASRACは「包括許諾」の選択肢も用意している。
 この「包括許諾」の“お得意様”の代表が放送局。テレビやラジオの番組では、ひっきりなしに音楽が使われている。当然JASRACとの契約が必要だ。現状としては、1曲いくらの個別の許諾よりも、放送事業収入の1.5%を支払って使い放題にしてもらう包括許諾が選ばれている。

 その、テレビ局とJASRACとの契約にクレームがついた。市場競争を阻害するものが無いか監視する公正取引委員会が、2月27日にJASRACへ契約の改善を求める「排除処置命令」を出したのだ。その理由は、JASRACが前述の条件で包括許諾をテレビ局に与えていることが、他の著作権管理事業者がテレビ局と使用許諾を結ぶのを妨げているから——だという。現に公取委の発表(PDF)では、後発の競合事業者であるイーライセンスが2006年10月から参入を試みたが、テレビ局にしてみればイーライセンスが管理する楽曲(例として大塚愛「恋愛写真」など、エイベックスが権利を持つ曲が示されている)の使用料はJASRACへの支払いと別に発生する「追加負担」となるため、殆ど使われなかったとのこと。エイベックスとイーライセンスは期間限定で使用料無料とするなどの試みを行なったが、以後の使用料を得られる見込みが立たなかったため、イーライセンスは管理委託契約を解約されてしまった。
 公取委は今回、JASRACがテレビ局相手の著作権管理事業で「私的独占」を行なったと判断した。実はこれまでにも公取委はJASRACに対し目を光らせており、2006年9月8日から音楽著作権管理事業が「独占的状態」にある分野だとして監視対象に加えていた。監視対象となる基準は

国内総供給価額が950億円超(法律上の基準は1,000億円超)である事業分野であって,上位1事業者の事業分野占拠率が45%超(同50%超)又は上位2事業者の事業分野占拠率の合計が70%超(同75%超)のものである

——とされ、JASRACがこれに当たると考えてきたわけだ。その「独占的状態」に加え、2005年に民放連からイーライセンスが参入した分 使用料を減額するかと問われ「減額する意向は無い」と協議の場でJASRACは回答、現実にイーライセンスが参入に失敗してしまった。今回の命令に先がけて昨年4月にはJASRACへの立入検査を公取委は実施している。その際に報道で明らかにされた内容から、今回の命令まで公取委の見解で特に変更された部分は無いようだ。
 では、今回の「排除措置命令」はJASRACの存在そのものを「私的独占」と判断したものと言えるのか。そして「包括許諾」が否定されたものなのか。

 そのいずれでもない。今回の公取委の「排除措置命令」が求めていることは、あくまでも(1)放送を相手にした包括許諾契約で(2)放送に使用される楽曲のうちJASRAC管理楽曲のしめる割合が使用料算出に反映されず(3)放送局から見てJASRAC以外の事業者への使用料が「追加負担」となってしまう——現状の改善である。JASRACのシェアを下げるために団体を分割しろとか、放送分野以外でも包括許諾をやめろとか、そうした広い命令ではない。排除措置命令書を見たかぎりでは(2)さえクリアできれば済む話にも思える。テレビ局からの全曲報告をこのところ進めてきたJASRACにとっては、時間はかかるにしても不可能ではあるまい。
 それ以上のことが求められるとしたら。JASRACの規模を小さくする何らかの手段をとるか? JASRACはもともと国内で唯一の音楽著作権管理団体だった。70年の歴史の大部分を独占事業者として築いてきた。その実績と組織規模に手がつけられないまま、2001年から「著作権等管理事業法」によって他の事業者の新規参入が可能になった(この経緯は朝日新聞のコラムが解りやすくまとめている)。JASRACが「独占的状態」にとどまるのは当然の結果だが、それにもかかわらず今回の公取委の命令は対象範囲がかなり限定されている。穿った見方をすれば、JASRACには(現時点では)放送局相手の包括許諾でしか突っ込み所が見つけられなかったようにも映る。
 包括許諾そのものを禁止するか? 包括許諾は放送以外の分野でも使われている。最近話題になったところでは、YouTubeやニコニコ動画といった動画共有サービスと結んだのも包括許諾契約だ。しかしこの分野では放送と対照的に、イーライセンスやJRC(ジャパン・ライツ・クリアランス)といった後発事業者との契約も進んでいる。インターネットユーザーの反応を見ると今回の命令がこちらへも影響するのか心配する声があるようだが、命令書の書きぶりでは特に影響は無いように思われる(JASRACも、記者会見でそうした見解を示している)。
 もしJASRACを分割したり包括許諾を禁止するなどという話になれば、テレビ局だけでなく、ほかの利用者にとってもかなりキツイことになるだろう。1曲ごとに権利が委託される業者を探し(こちらはシステムを用意すれば解決できるが)、1曲の使用ごとに対価が積み重なり、利用が進むたびに使用料が青天井となってのしかかる。
 そこまでの大変革を強いるような「排除措置命令」なら、今回の命令とは全く違う書きぶりになっていたはず。JASRACの「独占的状態」をどうにかしてほしいと思う向きにとっては、やや拍子抜けなところもあるかも知れない。興味深いことだが、今回のJASRACへの命令についてイーライセンスもコメントを出している(PDF)。「放送権とともに、業務用通信カラオケ、貸レコードなど他の利用形態においても同様の『包括利用許諾契約』が締結され、競争阻害要因となっているおそれがあります」として、他の分野についても公取委の監視を求めているのだ。

 今後、この問題はどうなっていくだろうか。公取委の「排除措置命令」は即日効力が発するというが、JASRACは命令が出された当日にプレスリリースを発表、また記者会見も開いて、「審判」を請求し全面的に争う姿勢をみせている。
 確かに、放送でどんな曲を使うかは放送局自身が決めることで、今回の命令ではJASRACの方が結果責任を負わされているような形になっている。とは言え、独占事業だった頃と同様の契約を維持し、新規参入が現実に失敗してしまっていることにJASRACの責任は無いのか、との点が気になるところでもある。審判から訴訟へと発展する可能性もある中で、そうした論点に答えが出てくることを期待したい。
 その行方次第では、放送分野以外でもJASRACへ競争上の規制がかけられ得るのか、見えてくることもあるかも知れない。落ち着いて動向を見ていこう。





関連リンク

【プレスリリース】

http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.february/090227.pdf
「社団法人日本音楽著作権協会に対する排除措置命令について」
(公正取引委員会・PDF) 2009.2.27

http://www.jasrac.or.jp/release/09/02_6.html
「公正取引委員会に対する審判請求について」
(JASRAC) 2009.2.27

http://tinyurl.com/c5d87f
「(報道発表)日本音楽著作権協会に対する公正取引委員会の『排除措置命令』
 に関する民放連会長コメントについて」
(日本民間放送連盟) 2009.2.27

http://www.elicense.co.jp/u/20090227.pdf
「公正取引委員会『独占禁止法(私的独占)違反による排除措置命令』について」
(イーライセンス) 2009.2.27


【報道】

●公取の排除命令

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20090227/325677/
「公正取引委員会がJASRACに排除措置命令,
 テレビ局との包括的利用許諾契約の見直し迫る」
(日経 ITpro) 2009.2.27

http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20389026,00.htm
「公正取引委員会、JASRACに独禁法の排除措置命令」
(CNET Japan) 2009.2.27

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2009/02/27/22612.html
「『JASRACの包括契約は独禁法違反』公取委が排除措置命令」
(INTERNET Watch) 2009.2.27

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0902/27/news071.html
「JASRACに排除命令 公取委、『包括利用許諾』改善求める」
(ITmedia) 2009.2.27

●JASRAC記者会見

http://mainichi.jp/enta/music/news/20090228k0000m040095000c.html
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090228ddm041040062000c.html
「JASRAC:排除命令に争う姿勢 作曲家は競争歓迎」
(毎日jp) 2009.2.27
▲ 小林亜星氏、文化庁のコメントあり。

http://www.phileweb.com/news/d-av/200902/27/23136.html
「JASRAC、公取委からの排除措置命令を受け緊急会見を実施」
(Phile-web) 2009.2.27
▲ 質疑応答の模様を詳しく記載。

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2009/02/27/22618.html
「JASRAC、公取委の排除命令に『承服できない』~審判請求へ」
(INTERNET Watch) 2009.2.27

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0902/27/news120.html
「『徹底的に争う』とJASRAC加藤理事長
 排除命令、YouTubeやニコ動に影響は」
(ITmedia) 2009.2.27

http://journal.mycom.co.jp/news/2009/02/27/070/
「JASRACが緊急会見、『楽曲使用料』巡る公取委の排除措置命令に怒りあらわ」
(マイコミジャーナル) 2009.2.27

http://pc.nikkeibp.co.jp/article/news/20090227/1012744/
「公取委、テレビ局への包括許諾でJASRACに排除命令――JASRACは拒否」
(日経PC online) 2009.2.27

http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20389076,00.htm
「JASRAC、公取委排除命令に徹底抗戦の構え--『事実認識が誤っている』」
(CNET Japan) 2009.2.27


●総合

http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/090227/fnc0902271959011-n1.htm
「放送局にも影響 JASRAC排除措置命令 見直し迫られる楽曲使用」
(MSN産経ニュース) 2009.2.27

http://www.asahi.com/showbiz/music/TKY200902270316.html
「公取委、JASRACに排除措置命令 放送使用契約問題」
(asahi.com) 2009.2.27

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090227-OYT1T00750.htm
「公取委、JASRACに排除命令…著作権管理『独占』認定」
(YOMIURI ONLINE) 2009.2.28

http://www.asahi.com/showbiz/music/TKY200902280076.html
「JASRAC、市場独占の歴史 使い勝手考えた市場開放を」
(asahi.com) 2008.2.28
▲ プラーゲ旋風からJASRAC設立への流れが解りやすく書かれている。JASRACはもともと国公認の独占事業だったことが、今回の問題をややこしくしている。

Posted by 谷分 章優 音楽と著作権 |

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