法制小委#2(議事概要メモ)
議事概要(メモ)
【高塩次長】
著作権法改正案は原案通り可決。ご尽力に御礼申し上げる。
著作権法としては2年半ぶりの改正、分量的にも多い。著作権課長は「平成の大改正」と呼んでいるが、新法(昭和45年)ができてから最大規模。
改正の柱が3つ。1つ目、インターネットを活用した著作物利用の円滑化。検索エンジン、放送番組二次利用など。残念ながら、国会ではこれらの議論は展開されなかったが。国会図書館の所蔵資料の電子化が中心、長尾館長も招かれ(デジタル化資料の)ネット利用の可能性の議論があったところ。またGoogle(ブックサーチ)問題が話題になっていたこともあり、これに関する質問もあった。
2つ目はコンテンツ違法流通の抑止。「違法ダウンロード」では当然のように議論があり、ユーザーの利用をさまたげる(萎縮させる)のではないかとの質問。そうした懸念が無くなるよう、(各方面と)相談して運用に務めると答弁したところ。
3つ目が、障碍者の利用機会の確保。これについては、今まで障碍者向けに行なってきたボランティア団体の活動が阻害されないようにとの質問があった。
国会質問は基本的に与党からは無く、野党だけ。そして衆参、全会一致で可決された。残された課題として、権利制限の一般規定についても質問をもらった。今年度から分科会で審議を始めるとの答弁をしたところ。大臣からも「さまざまな意見があるので議論をしたい」との答弁。
著作権については、(必要な法改正は)これで終わりではない。さまざまな課題があるので、引き続きご尽力をお願いしたい。
【土肥主査】
権利制限の一般規定について、前回会合で「比較法的な議論」と「現状についての把握」の要望があった。そこで今回は、(上野委員が座長を務め、前回の会合で報告書を提出した)調査研究会の委員からヒアリングする。米英仏独の4カ国に加え、(前回の報告書には含まれなかった)韓国・台湾・イスラエルについて。説明があった後で質疑応答も。
まずは配付資料の確認と(ヒアリング)出席者の紹介を。
【事務局】
(配付資料一覧に沿って説明)
資料1は今日のヒアリングで使用。調査研究会報告書の冊子。前回配布したものと同じだが、その後のチェックで誤植が見つかり訂正してある。ただし内容面での修正は全くない。
資料2。村井先生が作成した補足資料。
資料3。資料1で報告された以外の諸外国の権利制限について。全回は簡単に紹介しただけだったが、報告書では触れていないものを別冊という位置づけで作成した。
資料4は、今後のヒアリングについての質問事項。
(この後、配布されたヒアリング出席者一覧に沿って紹介。)
配付資料一覧
資料1 「著作権制度における権利制限規定に関する調査研究 報告書」
(平成21年3月 著作権制度における権利制限規定に関する調査研究会、
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)【訂正版】
※参照PDF
資料2 村井氏提出資料
資料3 「その他の諸外国地域における権利制限規定に関する調査研究 ―レポート―」
(平成21年3月 著作権制度における権利制限規定に関する調査研究会、
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)
資料4 利害関係者からのヒアリング事項(案)
参考資料 ヒアリング出席者一覧
【土肥主査】
今日の議事の進め方だが、英国法についての説明と質疑応答、次が英連邦諸国法、大陸法、その他の国。質疑応答はそれぞれに行なう。
【参考資料】
ヒアリング出席者一覧(敬称略)
1.米国法(17:05~17:35(質疑応答を含む))
(学説)
村井 麻衣子(むらい まいこ)
筑波大学大学院図書館情報メディア研究科 講師
(判例)
奥邨 弘司(おくむら こうじ)
神奈川大学経営学部国際経営学科 准教授
(訴訟制度・法文化)
山本 隆司(やまもと たかし)
弁護士
2.英連邦諸国法(17:35~17:55(質疑応答を含む))
山本 隆司(やまもと たかし)
弁護士
3.大陸法(17:55~18:15(質疑応答を含む))
駒田 泰土(こまだ やすと)
上智大学法学部 准教授
4.その他の国(韓国、台湾、イスラエル等)(18:15~18:35(質疑応答を含む))
渡辺 真砂世(わたなべ まさよ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 公共経営・地域政策部 研究員
【村井麻衣子(筑波大学大学院講師)】
米国法の学説について。資料2に報告書の内容を簡単にまとめてある。補足しながら説明する。
フェアユースに関する学説として、アメリカの判例に影響を与えてきたものを紹介。4つの考慮要素の分析、市場の失敗理論に関する議論、理論的構造に関する議論、実証的研究など。なおフェアユースについて否定的見解が無いのかとの点で、問題点として曖昧さや予測可能性が低いこと、実効性に疑問を呈する意見もある。しかし著作権のバランスとの調整機能を果たすとしてフェアユースが不可欠だと認識されている。廃止論などは一般的に見受けられない。
Levalの「フェアユースの判断基準」についての論文。「文化の促進と学問の発展のため‥‥インセンティヴを付与」する著作権法の目的から、「tranformative use (変形的利用/報告書では変容的利用)」を重視。第1の要素(使用の目的と性質)と第4の要素(市場への影響)の重要性を強調する。追加的要素(誠実さ、芸術的完全性、プライバシー)は(フェアユースの成立の是非においては)考慮すべきでないとする。のちにパロディで問題になったキャンベル事件(プリティ・ウーマン事件)に影響している。
Gordon。経済的分析により、フェアユースの基本的原則の解明を試みる。「市場の失敗を治癒するための理論」として捉えて、フェアユース適用のための三段階テストを提唱した。(1)市場の失敗が存在すること(2)被告の利用を許すことが社会的に望ましい(3)フェアユースを認めても著作権者のインセンティヴが実質的に害されない——との内容。ソニー事件(ベータマックス事件)で、取引費用の高さからフェアユースを肯定すべきとの意見に影響した。しかしGordonは、実質的損害のテスト(3)については後に訂正している。(3)では、フェアユースを過度に制限しかねないと意見を変えた。
市場の失敗理論に関連して、Lorenによる再定義もある。教育・研究目的での著作物利用は「市場に委ねられると、望ましいより少なくしか利用が行なわれない」。著作権の範囲や存続期間などが拡大する傾向の中で、知識・学問の発展を抑圧しないようフェアユースが役割を果たす。
Gordonによる「市場の失敗理論」の修正。先の理論と三段階テストがフェアユース否定の理論と取られてしまったことに対する。市場の失敗を分類し、市場の基準が妥当しない言論の自由の問題などが関わる「本来的な市場の制限」ではフェアユースを認めるもの。
Barton Beebeの実証的研究。1978年から2005年までの判例を統計的に考察。フェアユースに関する判決は以外に少なく、年間平均が約10.9件。そのうちフェアユースが認められたのが約4.5件。裁判所がフェアユースかどうかを結論してから四要素の結論を導く「誘導」は行なわれておらず、第1要素(使用の目的と性質)と第4要素(市場への影響)が結果に大きく影響している。また原告作品が事実に基づくもの(第2考慮要素:利用された著作物の性質)や、非商業目的(第1考慮要素)のときはフェアユースが認められやすい。
制度論・政策学的視点からの学説もある。法判断を、ロビイングの攻撃に耐性のある司法にゆだねることで、立法過程において反映されにくい層の利益を汲み取るとの考え。
【奥邨弘司(神奈川大学准教授)】
フェアユースの判例については、ソニー事件などのリーディングケースを紹介するのが普通なのだが、これらはすでに多くの先行研究もある。一方で、網羅的研究を背景にすると、個々の事件に興味深いものもある。
ここではキャンベル事件(プリティ・ウーマン事件)以降、フェアユースに関係する判例を対象とした。資料1の46ページから。時間的限界から、判決例の多い第12巡回区と第9巡回区が中心。個々の裁判例が、先例としてどこの判決のどこを引用しているか、特に頻繁に引用される最高裁判決を分析して、フェアユース判例の傾向を知ることを目的とする。
48ページ、裁判例で頻繁に引用される最高裁判決の部分を「ベースライン」と仮に読んでいる。個々の裁判例の方は報告書の「参考資料編」に掲載している。キャンベル事件最高裁判決の影響の強さがある一方、個々に見ると、ややぶれも少なからず見受けられるところ。フェアユースは積極的抗弁で、著作権侵害が疑われる行為がされているのが前提。一瞬かつ不鮮明な写り込みのような場面は「de minimis」法理(法は些事に関せず)で、フェアユースの判断に入ってこない。
考慮要素はすべてが検討される。どれかだけを重要視してフェアユースを判断することはできない。また、創作性をまもるためのものという(著作権法の)存在意義に言及するものが多い。商業性とフェアユースの関係で、ソニー事件は「商業的な利用はフェアユースでないと推定される」としたが、その後キャンベル事件の判断をなぞって、被告の利用に変容力(transformative)があるかが考慮されるようになった。しかし商業的で変容力のない場合は、ソニー最高裁判決の推定が生き残っていて、不公正と判断される傾向もある。
第1要素(使用の目的と性質)の中心は、この変容力があるかどうか(50ページ)。transformativeは、transformする力があるという意味。サイズや解像度のみでなく、何かしらの形で表現に変更が加えられているものがフェアユースと認められている。
第2要素(使用された著作物の性質)。使用された作品が事実的か創作的か。キャンベル事件判決は、パロディではここの重要度は低いとしている。ハーパー&ロー事件(フォード大統領自伝事件)では未発行だったことを重視した(フェアユースを否定)が、のちに著作権法を改正して、未発行かどうかが決定的な影響を持たないとされている。ただこの第2要素が「発行済みのものなら」と反対解釈され、むしろフェアユースに有利に判断されることもある。
第3要素は使用された量と実質。第4要素は潜在的市場への影響。キャンベル事件ではすべての要素を考慮するとしている。ただハーパー&ロー事件判決を引用するものもあり、注意がいる。ソニー事件は、商業的だと市場への害が推定されるとし、これはキャンベル事件で部分的に否定された。しかし変容力が無い場合には、かえって強固にフェアユースが否定されてしまっているようにも見える。
利用形態ごとに注目すべき点もある。ケースバイケース判断ではあるが。パロディの場合は認められやすい。引用は米国著作権法に規定がなく、フェアユースが認められるには変容力が鍵になる。写り込みはde minimisで(フェアユース判断まで行かない)、もし裁判にまで行けば変容力でということになる。
【山本隆司(弁護士)】
法文化。イギリスについて見ていくと、英米の法文化が違うということが言われている。米法の法文化を思いつくままに採りあげたのが67ページ以下。
第一点として、アメリカの裁判所の性質。日本では法解釈の役割。アメリカでは法解釈だけでなく法を作るところとの位置づけである。一般規定をどう利用して法を作っていくのか、裁判所への期待が大きい。フェアユースの前提が、アメリカの場合は特殊だと思われる。
二番目は、訴訟にかかる費用。アメリカはディスカバリー制度をとっており、両当事者が自分たちの証拠を全部出さないといけない。要求があればさらに出さないと行けない。証拠が膨大になる上、すべて弁護士がチェックしなければならず、費用も膨大なものになる。損害賠償額が1000万円でも弁護士費用が1億円を超えるということはよくある。日本では弁護士費用は基本的に訴額に対して何パーセントといった形で、請求額を上回ることはまずあり得ない。アメリカでは弁護士費用が上回る場合もあるし、巨額になる裁判費用でも裁判をよしとする文化がある。
三番目は、法曹人口。先のような考え方の違いは法曹人口の差にも出ている。人口10万人あたりの法曹の数が、米国356人、日本19人。ちなみに英216人、独178人、仏73人。
第四点。フェアユース導入に注意すべきこと。米国のフェアユース法理は1841年の判決以来なのだが、重要な機能を果たすようになるのはソニー事件(1986年)、キャンベル事件(1994年)から。フェアユースの法理が成立してから140年は、問題に対処する機能は果たしていなかった。それまでは英国のフェアディーリングの範囲とほぼ同じ。
非営利目的使用、変容力のある使用などに注目されてフェアユースの重要性が高まった。日本でフェアユース規定を入れるとしても、フェアユースを規定する米著作権法の4要素を単純に並べるアプローチだけでなく、ソニー事件・キャンベル事件の判例法理を組み込まなければ無駄になるのではないか。
【土肥主査】
質問等があったら。
【村上委員】
村井先生・山本先生に。フェアユースを争った裁判例が件数としては年平均10.9件、フェアユースが認められたのは4.5件。法律実務を考えると、訴訟が起こり(争っても)フェアユースが認められないかも知れないリスクがあって、和解に終わるケースもあるはず。それがどのくらいの件数ないし比重であるのか? フェアユース規定(の予測不可能性)は両者に和解を促進する機能もあるように思う。
奥邨先生に。参考資料では、面白い事件がフェアユースの名前で争われている印象がある。アメリカでフェアユースが認められたのと同じ事件が日本の著作権法で争われたとして、日本では使用が認められないケースがあるのか?
【村井講師】
フェアユースの訴訟件数に関連して、和解の割合との質問。実際どのくらい件数があるのか、私はわかりかねる。ただ確かに、和解でかなり解決されるのではと思う。
フェアユースに関しても、権利者側が積極的に警告書を活用するケース、訴訟費用が高額で(利用者側)抗弁の主張を断念するケースがある。(判決だけでなく)何らかの形で解決されるケースが多いのではないかと推測できる。
【山本弁護士】
具体的なデータは持っていない。一般的に、訴訟ではディスカバリーの結果、持っている証拠がすべて出る。その段階で和解に終わるケースが多い。しかしフェアユースは法律論が中心。ディスカバリーで和解になるケースはかえって少ないのではないだろうか。
【奥邨准教授】
控訴審で多かったのはパロディ・引用関係。アメリカではフェアユースが比較的認められる。日本では負けるのではないか。
また、冒頭(著作権法改正の話として)紹介のあった検索エンジン関係も。(これまでの)日本法では難しかったのではないか。
逆に、日本では引用のものは権利制限規定がある。米国では規定がないので、フェアユースかどうかを判断することになり若干複雑になる。
【村上委員】
山本先生に。Google Book Searchの事件も、フェアユースで争い、あれも一応和解でケリをつけた。しかしあれがフェアユースだったのかどうかは決めなかった。結果的には対価を払い有償でということにして、そのかわり利用を認めるもの。こういう和解は多くあるのか?
【山本弁護士】
そういう形での和解も多いと思う。自分で関与した事件も、裁判所が強引に和解のテーブルにつけさせようとするので。比率についてはデータはない。
【道垣内委員】
条約との関係について。著作権法に107条を導入したときには、アメリカは万国著作権条約のみに加盟していた。その後WTO、ベルヌ条約ヘ入るわけだが。万国著作権条約は曖昧な規定で、107条の運用上 条約を考えなくてもよかった。しかし(ベルヌ条約に加盟した)今ではスリーステップテストでしか例外(権利制限規定)が認められない。フェアユースが条約で拘束されるという、それを意識した議論はあるのだろうか?
【山本弁護士】
アメリカがベルヌ条約に加盟する段階では、107条が議論になったというより、著作者人格権の方に焦点が当たった。逆に、今になって議論になっているという状況ではないか。
【奥邨准教授】
アメリカにも(議論は)あるし、ヨーロッパにも「107条はスリーステップにてらしてどうなのか」と一応議論の対象にはなっている。107条容認はやや多数では。
前回上野先生が紹介されたマックス・プランク研究所の解釈宣言でも、フェアユースのようなオープンエンデッドな権利制限規定でもスリーステップテストに整合するとしている。ヨーロッパでも一応は(フェアユースが)整合的だと考える人がやや多いように思う。
【多賀谷委員】
フェアユースを認めるのは、「公共の利益」が背景にある。
変容力のある利用について、フェアユースで利用した側が何らかの権利を認められることになるのか。もともとの著作権者と、フェアユース利用者の(権利の)関係がどうなるのか。アメリカで何らかの見解があるのか?
【山本弁護士】
「利用権」として認められることはないと思う。ただ変容力がある場合、二次的著作物ということになるので、保護が別途与えられることはある。
【駒田泰土(上智大学准教授)】
むしろ、ヨーロッパの方で(この種の議論は)やられているのかも。著作物の利用者も基本的人権を持っている。「著作物を利用させてもらう権利だ」ということで。たとえば著作物がコピーガードされているときに、基本的人権に基づいてガードを外し利用する「権利」を求める。フランスやドイツではそういう議論がある。
【小泉委員】
60ページ、「フェア・ユースというと、我が国の著作権法の権利制限規定には定められていないような利用形態に適用されるものというイメージを持つ部分もあるが、実際には、引用という極めて伝統的な利用形態——しかも我が国であれば個別制限規定で対応されるような利用形態——に関して頻繁に適用されていることは注目に値しよう」とある。
ただフェアユース規定の方も、限定列挙でないにしろ「批評、論評、ニュース報道、教育、学術、研究」といった目的が列挙されている。この点、日本の引用の規定「公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない」とよく似ている。
【奥邨准教授】
107条の例示に関しては、争っている利用が例示に当てはまりそうな場合は、判決はそこに触れる。当てはまらないと、例示はスルーして4要素に入る傾向。
【小泉委員】
例示をスルーしたときに条約との整合性が問題になるのではないか。
【大渕委員】
フェアユースと個別規定の関係で問題となるものは。その辺が我が国の検討では重要なポイントではないか。示唆になりうる点があれば伺いたい。
【奥邨准教授】
控訴裁のレベルで、(報告書にある調査では)フェアユースだけを議論に絞っている。他の事例はほとんど無かったかと。地裁レベルだとまだ未整理なので、あるのかもしれない。
【土肥主査】
この後も報告の時間があるので、そちらを先にうかがってから。残った時間があれば質疑応答を。
【山本弁護士】
イギリスについて。あらかじめお断りするが、私、英国法については存じ上げない。米国法のみ。米国法で3名いたので、私が英国を担当した次第。
フェアディーリング規定について、資料1の74ページ以下。イギリスは日本と同じようにこと細かな権利制限規定を置いている。その中で「フェア」を要件にした規定もいくつかある。日本と同じ制限規定に「フェア」という概念を入れた規定と考えれば理解しやすい。
現在7項目。研究・私的学習、批判・評論、時事報道、授業の4タイプについて。伝統的にフェアディーリングとされてきたもの。この他には一般的な権利制限規定はない。
米国のような一般規定を採用してはどうかとの議論もイギリスにはある。しかし今のところ、入れようという結論には至っていない。
1977年にWitford Committee Reportがフェアユースの導入を勧告したが、議会はこれを採用していない。著作権者の権利の保護から言って、保護の範囲が曖昧になること、著作権に対するさらなる浸食を生じるおそれがあるというのが理由。
フェアユースの採用については賛否両論。 Burrell & Colemanの著書に否定論として3点を挙げる論文がある。まず1点目、アメリカのフェアユース規定の元になったのは1841年のイギリスでのフォルサム判決。イギリスではこれがフェアディーリングへ発展し、1911年に法文化された。それ以降、判例法として広がっていくことが止まってしまっている。イギリスでは裁判官の対応に問題があるのであって、フェアユースを入れても裁判官が替わらないと何も変わらないだろう。2点目、イギリスとアメリカでは法文化が違う。3点目、一般的権利制限規定を入れても将来的にどこへ向かうのか見通しが立たない。導入するかの議論で、ガワーズレポートが「デジタル化・ネットワーク化に対応した著作権制度をどうすればいいのか」を包括的に調査、権利制限規定についても報告をしている。そこではフェアユース規定に積極的な評価をしていたが、だからと言って入れろという提案はしていない。メディアシフティング・パロディの個別規定を提言し、フェアユースに対する評価はしながらも、フェアユースを入れることはためらいがちとの印象を受けた。
資料78ページからカナダ。現在の規定は、イギリス法を継承したフェアディーリング規定。研究・私的学習、批判・評論、時事報道について。教授については入っていない。カナダでは、商業的研究を否定し非商業のみとするイギリスのような硬直的な運用でなしに、商業的研究でもフェアと解釈する。パロディも、現行法の解釈を柔軟にやって権利制限を認められるとの議論。法改正の提案がされた際にも、フェアユース規定の導入の提案はなかった。メディアシフト・タイムシフトなどの権利制限の提案。その理由は79ページ、アメリカのようなフェアユース規定を入れるとグレーゾーンが広がり裁判で決着つけないといけない。利用者にかえって萎縮効果を与えてしまうのでは?とのこと。
オーストラリアについて80ページ。個別的フェアディーリングの規定。法改正も、タイムシフト・メディアシフト・パロディに権利制限を設ける形。その他、ベルヌ条約9条2項をベースにした一般的権利制限規定も。ただしこれも、図書館等での利用、教育機関、障碍者に限定する。オーストラリアではフェアユース規定が議論されていたが、最終的には支持を全く得られず、個別権利制限がいいとの結論になった。フェアユース規定の導入について意見をまとめて公表(81ページ)、賛成意見が公衆から出なかった。
【村上委員】
一点だけ確認。アメリカ法・イギリス法は英米法としてくくられることが多いが、イギリス法に関して、アメリカ特有のディスカバリー・陪審制度・懲罰的損倍・クラスアクションといったものが無いこと、裁判所による法創造を肯定する文化、裁判のコストを厭わない文化——アメリカにはあるけどイギリスには無いとの感覚で受け取っても差し支えはないか。
【山本弁護士】
きわめて難しい質問。イギリスの裁判制度、民事訴訟法など、一般の理解がないと答えられない。私にはむり。
ディスカバリーの点では、アメリカで独自に発展してきた制度と言える。アメリカとイギリスでは違うのでは。
法創造の点では、英米法ではもともと法は自然界に存在するものとしてきた。それを単純に発見するものとの観念は英米法で共通してるのだろう。アメリカでは法創造する機関だと割り切っている、これは特有なのではと想像する。
【大渕委員】
今のに関連して。フェアユースは、アメリカで判例法が強いからある。イギリスだと若干、受容のハードルは低いのではないか。しかしイギリスでさえも法創造の点で違うから、アメリカ型フェアユース導入にはためらいがある。そこを念のために確認したい。
ペーパーで、学説の「第3に」がさらっと書いてある——「フェア・ユースの抗弁の提唱者は、一般的権利制限が将来において働いていく方向を形成していきそうな各種の力を考慮に入れていない」。一般的にこういう印象が強いという理解でよろしいのか?
【山本弁護士】
最初の点について。フェアユース規定に関しては、1841年の判決で生まれ1911年法制定まで、判例法で形成していくという意欲があったようだ。それが1911年の法律が制定されて、1916年以降だと言われているが、裁判官が硬直化し厳格解釈するようになったと言われる。法創造の文化というより、法制定によって縛られる傾向が裁判所に出てしまった。
第2点。この「第三点の指摘」は著者の意見だと思う。一般的にはわからない。
【土肥主査】
次は、大陸法について駒田准教授から説明を。
【駒田准教授】
大陸法における権利制限。EC情報社会指令は、5条1項で一時的蓄積の権利制限を求める。すべての加盟国が実施を義務付けられる規定。2項は複製権の制限だが加盟国の任意。3項では複製権と公衆伝達権、4項では頒布権をそれぞれ制限するものだが、これらも任意の規定。情報社会指令はさまざまな場合に著作権を制限することをオーサライズするもので、加盟国が過剰な権利制限をしないようスリーステップテストを5条5項に規定している。一定のとくべつな場合、通常の利用をさまたげず、不当に利益を害しない。(このテストは)ベルヌ条約9条2項では複製権の制限について定めたが、現在ではどの条約にも複製権に限らず用いられている。
加盟国は権利制限規定を作るのにスリーステップテストへ抵触しないようにしなければならない他、既に規定されているものでも整合を求められる。フランス法では著作権が122-5条、隣接権が211-3条で制限される。ドイツ法では第1章第6節に権利制限、隣接権にも準用される。フランス・ドイツにおける制限規定のリストは個別具体的で、一般条項を含んではいない。一見、限定列挙と見える。フランス法はスリーステップテストを明示的に規定している。ただし第1ステップ(特別な場合)を省略して2ステップ。
フランス法・ドイツ法は厳格解釈がオーソドックスで、現在も一応そうであると言える。解釈態度はヨーロッパの著作権中心の著作権法観に由来し、著作者の人格を重視するアプローチ。権利制限規定に種々の拘束を与える。
以上が主流派の解釈だが、もう少し柔軟な解釈論を展開しようとの流れもある。こちらが主流になったかも知れない。制限規定を例外と見ることは間違っているとの立場、利用者にも基本的人権・憲法的価値で保護されていることを正面から認めるもの。
ドイツの判例の影響が大きいのではないか。裁判実務をがんじがらめにしていない。両国の裁判所は厳格解釈を尊重しているが、墨守していない。フランスには写り込みに対応した権利制限がないが、明言規定の根拠なく非侵害の解釈をとる。ドイツでも、立法の間隙を埋めて大胆な類推解釈を行なった例がある。
情報社会指令5条5項は、スリーステップテストを遵守しつつ、権利制限しろとの規定。共同体指令は立法府のみを拘束する。しかしこの規定だけは裁判所も拘束するとの見解が通説だ。国内法にスリーステップテストが書かれていなくても、この趣旨を汲んだ解釈をしないといけないという。しかし我が国では誤解されているが、このテストは権利制限の原則ではなく保護の原則で、保護の限界を示すもの。
フランスのマルホランド・ドライブ事件では、DVDの家庭内複製が「通常の利用をさまたげる」のかどうか争われた。フランスの学説は、私が見るかぎり、権利制限の縮小解釈に好意的ではない。第2ステップ(通常の利用を妨げない)が曖昧なので、これで権利制限が縮小され、恣意的に侵害が成立しかねないとの考え。結局、フランスは国内法にスリーステップテストを導入した。
以上が、権利を広げていく方向へのスリーステップテストの議論。しかしスリーステップテストは、権利制限をするための、英国法のようなフェアディーリングの機能を果たしているのではないか。私的複製や引用といった目的が定まった範囲でフェアディーリングとして。
目的を定めない一般的な規定を入れてはどうかとの議論がドイツでもある。ヘルスターのドイツ版フェアユース提案。ただし報酬の支払いが原則だと言っている。ドイツ基本法の「比例原則」から導かれるとのこと。情報社会指令との整合性に議論がある。
【末吉委員】
99ページ、フェアユース規定が欧州法上許されないだろうというのが一般的か?
【駒田准教授】
議論の量は大きくはないが、無理だろうとの見解が多数かと思う。
【道垣内委員】
84ページ、フランスではスリーステップテストを規定しているとの紹介。資料の122-5条の中には書いてないみたいだが‥‥。
【駒田准教授】
報告書の中では見出しだけを抽出している。
【道垣内委員】
個別に書いた上で、一般条項を入れているのだろうか。
【駒田准教授】
指令を実施して中間に入るように。
【村上委員】
スリーステップテストというのは、いわゆる著作物を無償で使える権利制限だけのルール? 最後に説明されたように、公正な対価というか、合理的なロイヤリティを支払う場合にどうかという観点とからめて議論がされることはあるのか。それは別の議論なのか。
【駒田准教授】
スリーステップテストの構造上、第1・第2をクリアしても第3をクリアできないことがあるだろうと一般には言われる。たとえばデジタル私的複製など。そこへ補償金の支払いで3をクリアするとの議論はある。
【村上委員】
それがどれくらいの重みをもって議論されるのか。
【駒田准教授】
権利制限を設ける場合はスリーステップテストに抵触しないようにする必要がある。アメリカ法のフェアユースが、そもそも第1ステップに抵触するのかとの議論も、ヨーロッパでは新聞に挙げられていた。国際条約は加盟国の解釈に左右されるので、アメリカでは特に議論されてこなかったが。TRIPSではアメリカがリードしたが、そこでも特に問題視されなかった。国際法の議論としては、今さら問題にするのは厳しいのではないか
権利制限といった場合には、無償の利用を前提にする先生と、(補償金と引き替えでも)排他権が無くなる時点で制限だという先生がいる。ヨーロッパでは後者の場合が多い。
補償金で条約との整合性を保つとの議論はある。
【大渕委員】
個別規定で拾えないものとして何が念頭におかれているか。技術発展で新技術が念頭に置かれているのか。フェアユース的な導入の主たる狙いがどう展開されているのか。
それと、今まで個別規定がカバーしているところも、フェアユースで拾うとなると(両規定の)関係が問題になるのだが。
何を念頭に置いているのか、その観点から追加があれば。
【駒田准教授】
ヘルスターの提案は、アメリカ法をモデルにしたフェアユース。論拠では、特にこれが重要だとはっきりは指摘していなかった。挙げられていたのは、ドイツでは追加的権利制限の立法に時間がかかること。しかし新しい利用形態が表れても、利用の関心事は実は旧来の利用方法と同じである。既存の制限規定を弾力的に解釈して拾い上げていける。こういうものを拾わないといけない、と。立法できないのならあらかじめ一般規定との主張。
商標権では非侵害とされていながら著作権で侵害となるケースがままある。実務上問題になっているようで、そうした指摘はあるようだ。私は別制度なので問題ないと思うが。
【土肥主査】
100ページ最後の3行。「わが国においても、著作権は憲法上の財産権(29条)であるということができようから、権利制限の一般規定を導入しようとするさいには、憲法上の比例原則等に照らした一応の検討がなされてしかるべきではないだろうか」。著作権が憲法上の財産権ということで、比例性・均衡性の原則で制限をうけるという風に、細かな規定をしていくと一般規定は不可能だと読めそうなのだが。
【駒田准教授】
結論はどう書こうか悩んでいたところ。深い意図があってこう書いたわけではないのだが。我が国の憲法の比例原則から不可能かという点については、そうではないのではないか。
アメリカでは侵害責任を負うか・追わないかでは均衡性を欠くという議論はひょっとしたらあるのかも知れない。補償金請求権の規定が日本にあるが、そうしたところがないところでフェアユースとなる場合。そこでお金を払わないとなると均衡性を欠く場合もあるかも。
【渡辺真砂世(三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究員)】
(資料3の報告書に沿って説明。)
一般規定を分類した。米国型フェアユース(一般規定+考慮要素)のイスラエル・台湾・フィリピン、これをA類型。米国型とスリーステップテストを組み合わせた、韓国で審議中のものをB類型。英国型フェアディーリングの利用と、その他の利用を米国型フェアユースで規定したシンガポールをC類型。英国型に、米国型の考慮要素を加えた香港・ニュージーランドをD類型。その他、英国型にスリーステップテストを組み合わせたE類型、英国型のF類型(カナダ)。報告書では文言・規定の構造に加えて、立法過程の議論、立法後の議論などをまとめた。
イスラエル。米国型フェアユース導入の前は、英国型フェアディーリングの規定だった。この時期から、すでに裁判例では米国型の4つ考慮要素が参照されていた。利用目的は厳格解釈、いったん利用目的に合致すると解釈すると4つの考慮要素で広く解釈する傾向。改正した意義は、利用目的について裁判所が柔軟に解釈できるとされる。
台湾。第65条の規定で、アメリカの第107条と似ている。この特徴はイスラエルと共通する。ただ、イスラエルと違うのは、第44条から第63条の権利制限規定の解釈の考慮要素を明確化する目的だということ。3項・4項には著作権者団体・利用者団体との協議を規定する文言があるが、(報告書の作成にも協力した)章先生によると「3項・4項の試みは失敗に終わっている」と評価されているそう。権利者は刑事訴訟を盾に警告すればいいので協議を進めるメリットが薄いし、利用者も公正な利用が協議を経て狭められるおそれがある。それで協議がまとまらない。
フィリピンについては省略。
韓国。P2Pダウンロードが私的複製に当たらないとの判例がある。22ページ、韓米FTAを契機に、権利制限にスリーステップテストを設けた。ただしFTAの要請で米国型フェアユースを設ける話になったわけではない。FTAが呼び水となって権利保護強化の改正がなされたこととバランスを取ったもの。
シンガポール(25ページ)。英国型と、受け皿の米国型で規定。また考慮要素が1つ多い。「合理的な入手可能性」が加えられている。シンガポールの他、ニュージーランド・オーストラリアでも対米FTAの締結を受けて、権利者・利用者のバランスをとるためにフェアユースを導入した。公聴会資料でそう説明されている。
香港。英国型に加え、考慮要素として米国のような規定を。4つの考慮要素(32ページ)。シンガポールではいったんこれを規定したあとで、教育目的と行政事務について権利制限規定が追加される法改正があった。
【土肥主査】
実はもう1件相談することがある。今後利害関係者のヒアリングに関して、前回あらかじめヒアリングをどうすべきか、あらかじめ整理した方がいいのではと意見をもらった。ヒアリング事項の案を事務局が作成したのでその説明を。
【事務局】
有識者団体・利害関係者からヒアリングを行なう。特に利害関係者からのヒアリングに、質問事項を整理した上で実施した方が良いのではとのことでまとめたペーパー。
一般規定の導入の基本的スタンスを聞き、その是非に応じた質問項目を用意した。
【資料4】
利害関係者からのヒアリング事項(案)
1.「権利制限の一般規定」導入の是非
[1.で是の場合]
2.具体的にどのような内容の「権利制限の一般規定」の導入を想定しているのか(「権利制限の一般規定」により、具体的にどのような著作物の利用行為が権利制限の対象となることを想定しているのか)
3.2.で想定している「権利制限の一般規定」が現行著作権法に存在しないことにより、これまで生じた不都合があれば、その具体的な内容
4.3.に関し、権利者からの権利行使の有無その他権利者との紛争等の有無・内容
5.「権利制限の一般規定」の検討に関して特に留意を希望する事項
[1.で非の場合]
2’.導入を非とする具体的根拠(どのような内容の「権利制限の一般規定」を想定した上で、どのような懸念から、導入を非と考えるのか)
3’.2’.で想定している「権利制限の一般規定」が存在しない現行著作権法の下で生じた具体的な問題の有無・内容(個別規定に該当しない利用態様に関連した紛争の有無等)
4’.「権利制限の一般規定」の検討に関して特に留意を希望する事項
【土肥主査】
まだ検討の出だし。通常のヒアリング項目からすれば広めの質問だろう。これでよろしいか。(異議なし。)
当面ヒアリングし、また考えがまとまったところでピンポイントで(ヒアリング)ということもありえる。
【事務局】
次回日程調整中。導入の提言を公表している関係団体を呼んで意見を聴く。
Posted by 谷分 章優 著作権行政 | Permalink | コメント (0) | トラックバック (0)


