http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/news/20070402i516.htm
「黒沢作品DVD、著作権侵害と東宝が販売差し止め提訴」
(YOMIURI ONLINE(読売新聞))
http://www.asahi.com/national/update/0402/TKY200704020249.html
「黒澤8作品の格安DVD販売 東宝が差し止め求め提訴」
(asahi.com)
映画著作物のパブリックドメイン(著作権切れ作品)については、 「1953年問題」 にまつわる裁判でにわかに注目を集めるようになりました。その前段階として、パブリックドメインを収録した廉価 DVD の登場があったからなんですが──この廉価 DVD はもう一つの“火種”をも生み出すこととなっています。
現行の著作権法においては、映画著作物の保護期間が「公表後70年」までとなっております。また、 1953年 以前に公表されたものについては「公表後50年」までとされています (1953年 作品の扱いについてはまだ係争中ですが、まぁ確定間近と考えて差し支えないでしょう)。ところが「公表後50年」までと定める前の旧著作権法の規定によって例外的に保護期限が決まる場合もあります。
それが、個人名義で発表した映画著作物です。これは(数々の延長措置を経て)最終的に、著作者の「死後38年」までとされていました。ところが現行著作権法では公表後起算ですから、旧法で定められた死後起算の期限の方が後になることも多く考えられます。そこで旧法から現行法への経過措置として、旧法での保護期間の方が長い場合にはそちらを採用するとされたのでした。
で、件の新聞記事に戻ります。公表後50年までの保護期間だとすると 1953年 以前に公表された黒澤作品はパブリックドメインとなっているように思われますが、仮にこの作品が黒澤明監督個人名義での公表だとすると「死後38年」までの保護となって今もなお著作権が存続していることとなります。
この種の問題は、黒澤作品の他にもチャップリンの作品をめぐって裁判になっています。やはりパブリックドメインだとの判断で発売された廉価 DVD が槍玉に挙がりました(また、今回検索していて知ったのですが、映画上映でもクレームが付いた例があったそうです)。
http://www.asahi.com/national/update/0721/TKY200607210557.html
「チャプリンの娘、格安DVDに『待った』 業者を提訴」
(asahi.com)
http://ecolin.blog.drecom.jp/archive/881
「パラマウント社に続いて、今度はチャップリンが訴えて来たよ。」
(ふっかつ!れしのお探しモノげっき)
http://www.osaki-midori.gr.jp/2003/puragu.htm
「プログラム変更」
(尾崎翠フォーラム実行委員会)
おそらくは、これらの事件の争点は同じものになろうかと思います。いずれも製作会社・監督両方の名を付して公開されたもの。そのうち法律上「著作者」として認定されるのは誰なのか、という。
なおチャップリンと黒澤明とでは若干違いがありまして、前者の場合は自ら起こした会社で製作しており、後者の場合は映画会社の社員として監督に就いていました。この差が司法判断を分ける可能性があるかもしれません(あくまでも私のような法律素人の考えですけどね)。
ところで廉価 DVD を巡る訴訟は、いわゆる 1953年問題、 実名著作物(旧法)問題と第2ステージまで進んできました。しかし、最終ステージには至ってません。これこそが“廉価 DVD 最後の戦い”だと思われますが、まだ表沙汰にはなっていません。
それは何かと言えば‥‥ JASRAC です。映画に使用されている音楽は作曲家の死後50年まで保護されるものですから、だいたいの映画で、パブリックドメイン入りしても音楽については許諾を要するのです(仮に最も新しいパブリックドメインである 1953年 作品について考えても、この作品が公開された直後に作曲家が亡くなっていないかぎり──1956年 までに亡くなっていないかぎり音楽の著作権が存続しています)。
さて、廉価 DVD はきちんと JASRAC に使用料を支払っていますでしょうか?
うちにあるやつをざっと調べて見ましたが、使用許諾を得た旨の表示はありませんね。コスミック出版のやつとキープ株式会社のやつです。もう少し権利関係を精査しないと判りませんけど(音楽の著作権も切れている可能性はありますから)。
仮に JASRAC へ使用料を支払っていないとすると、廉価 DVD 製造者には今度こそ勝ち目がありません(それとも映画と一緒に権利が切れたと争うかな?)。
このあたり、当事者(双方)はどう考えているんでしょうね。
■今の段階で判ること
こういった「個人」による著作物の問題は、なにせ旧法の規定も絡む複雑なものですから、昨日今日勉強を始めたばかりのような私には裁判の行方を推測することなどできません。だから、事実関係として、私でも判ることをまず列挙していきたいと思います。
何か他に判断材料をお持ちの方がいらっしゃいましたら、コメントやトラックバックで御教授いただけれると嬉しいです。
まず、 1953年 以前に作られた黒澤作品は次の通りです。
●『姿三四郎』 1943年・東宝
●『一番美しく』 1944年・東宝
●『続・姿三四郎』 1945年・東宝
●『虎の尾を踏む男たち』 1952年・東宝
●『わが青春に悔なし』 1946年・東宝
●『素晴らしき日曜日』 1947年・東宝
●『酔いどれ天使』 1948年・東宝
●『静かなる決闘』 1949年・大映
●『野良犬』 1949年・東宝
●『醜聞(スキャンダル)』 1950年・松竹
●『羅生門』 1950年・大映
●『白痴』 1951年・松竹
●『生きる』 1951年・東宝
上記のうち、今回訴訟を起こした東宝が製作したものは9作品。記事で書かれている、廉価版として売られたものは「8作品」とのことですから、どれが割愛されてるのか はっきりとは判りません。内容・知名度からすれば『一番美しく』あたりが割愛されそうですし、時間からすれば短編『虎の尾を踏む男たち』あたりかも。なお各紙報道で挙げられていたのは『姿三四郎』『わが青春に悔なし』『酔いどれ天使』『生きる』くらいでした。
個人的には、この時期の作品にも好きなものがあったりしますので(かと言って正規盤をバカ正直に買うほどでもなかったり‥‥)、入手機会があれば欲しかったりするんですが。『羅生門』『生きる』は正規盤を持ってるんで ともかくとして、『酔いどれ天使』『野良犬』『白痴』あたりがあれば魅力ですね。
ついでですから、ちょっと検索もしてみました。
Google ではこんな検索結果が出ました。
http://www.666-666.co.jp/Template/Goods/go_GoodsTemp.cfm?GM_ID=EQ2559
黒澤明監督作品DVD10枚セット
日本映画の巨匠、黒澤明のルーツをたどるDVD集がついに登場!初監督作品の『姿 三四郎』から、“世界のクロサワ”への第一歩と ... ●DVD10枚組●モノクロ●モノラル●ドルビーデジタル●発売元/コスモコンテンツ株式会社 ※原盤からの収録作品ですので、 ...
ただしリンク先は既に削除されており、キャッシュも閲覧できません。だから、これだけで全容はつかめないのですが‥‥。
テクノラティではこんなブログ記事が見つかりました。
http://blogs.yahoo.co.jp/sasuraino777/45928095.html
「黒澤明監督作品 DVDの販売差し止め提訴」
(逢えるじゃないか また明日)
ここの人はタッチの差で買えたらしいです(笑)。
いや「セット」だったのなら、私は手を出しませんでしたがね。
ともあれ、この方が掲載されている画像から判断するに、 10作品 の内訳が次のようです。
●『姿三四郎』
●『虎の尾を踏む男たち』
●『続姿三四郎』
●『酔いどれ天使』
●『静かなる決闘』
●『野良犬』
●『醜聞』
●『羅生門』
●『白痴』
●『生きる』
──最強です。初期作品からこのラインナップ、なかなかの“選球眼”。
なおこれらのうち東宝以外の製作が4作。数が合いませんね。
報道ではあった『わが青春に悔なし』が入ってませんから、このセット以外でも売ってたということなんでしょうか。
次に、参考資料として著作権法での規定を引いてみます。
まずは現行著作権法(旧法からの経過措置)から。
附則
(適用範囲についての経過措置)
第二条 改正後の著作権法(以下「新法」という。)中著作権に関する規定は、この法律の施行の際限に改正前の著作権法(以下「旧法」という。)による著作権の全部が消滅している著作物については、適用しない。
2 この法律の施行の際限に旧法による著作権の一部が消滅している著作物については、新法中これに相当する著作権に関する規定は、適用しない。
3 この法律の施行前に行われた実演(新法第七条各号のいずれかに該当するものを除く。)又はこの法律の施行前にその音が最初に固定されたレコード(新法第八条各号のいずれかに該当するものを除く。)でこの法律の施行の際限に旧法による著作権が存するものについては、新法第七条及び第八条の規定にかかわらず、新法中著作隣接権に関する規定(第九十五条、第九十五条の三第三項から第四項、第九十七条並びに第九十七条の三第三項から第五項までの規定を含む。附則第十五条第一項において同じ。)を適用する。
(法人名義の著作物等の著作者についての経過措置)
第四条 新法第十五条及び第十六条の規定は、この法律の施行前に創作された著作物については、適用しない。
(映画の著作物等の著作権の帰属についての経過措置)
第五条 この法律の施行前に創作された新法第二十九条に規定する映画の著作物の著作権の帰属については、なお従前の例による。
2 新法の規定は、この法律の施行前に著作物中に挿入された写真の著作物又はこの法律の施行前に嘱託によって創作された肖像写真の著作物の著作権の帰属について旧法第二十四条又は第二十五条の規定により生じた効力を妨げない。
(著作物の保護期間についての経過措置)
第七条 この法律の施行前に公表された著作物の著作権の存続期間については、当該著作物の旧法による著作権の存続期間が新法第二章第四節の規定による期間より長いときは、なお従前の例による。
そして旧著作権法からも。関連しそうな規定を抜き出してみます。
第三条 〔保護期間−生前公表著作物〕 発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ生存間及其ノ死後三十年間継続ス
数人ノ合著作ニ係ル著作物ノ著作権ハ最終ニ死亡シタル者ノ死後三十年間継続ス
第六条 〔同前−団体著作物〕 官公衙学校社寺協会会社其ノ他団体ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス
第二十二条ノ三 〔映画の著作権〕 活動写真術又ハ之ト類似ノ方法ニ依リ製作シタル著作物ノ著作者ハ文芸、学術又ハ美術ノ範囲ニ属スル著作物ノ著作者トシテ本法ノ保護ヲ享有ス
其ノ保護ノ期間ニ付テハ独創性ヲ有スルモノニ在リテハ第三条乃至第六条及第九条ノ規定ヲ適用シ之ヲ欠クモノニ在リテハ第二十三条ノ規定ヲ適用ス
第三十五条 〔著作者・発行者の推定〕 偽作ニ対シ民事ノ訴訟ヲ提起スル場合ニ於テハ既ニ発行シタル著作物ニ於テ其ノ著作者トシテ氏名ヲ掲ケタル者ヲ以テ其ノ著作者ト推定ス(以下略)
第五二条 〔著作権の保護期間の特例〕 第三条乃至第五条中三十年トアルハ演奏歌唱ノ著作権及第二十二条ノ七ニ規定スル著作権ヲ除ク外当分ノ間三十八年トス
以上のような規定を見ると、現段階の私には訴訟の行方を云々できないと言わざるを得ません。
旧法には映画著作物の「著作者」が誰かを具体的に定めた条項が無いようです。素人目には製作者とも監督とも読めます(なお日本映画監督協会では、旧法において監督こそが「著作者」であるとの主張をしています。しかし製作者を「著作者」とする説もあるようで、私にはなんとも判断できません)。条文ではかような有様ですから、判例なり法学としての“流儀”なりを踏まえていないと解釈できないような感があります。
あくまでも現行法から勉強を始めた人間の感覚からすれば、黒澤明といえどもその作品を自由にできる立場にあったわけではなく、特にここで話題になっている初期作品は東宝社員として監督についたものばかりです(現行法でいう「職務著作」)。本訴訟とは直接関係ありませんが、松竹で製作された『白痴』の場合は、黒澤監督の意向に反して大規模なカットが実行されたりしています。要は黒澤監督ではなく映画会社の方に映画著作物の最終的な内容を決定する権限があったということ。海外映画の製作ではたびたび話題になる「編集権」の実際を考えると、本当に監督が「著作者」の立場にあると言える慣行だったのか疑問に思います。
もっともこれは法律素人の考えていることであって、法律として解釈されるものはまた別なんでしょうけど。
※仮に黒澤明が「著作者」だとしたら、映画会社がやってきた数々のカットは著作者人格権の侵害ってことになりますよね。それとも著作者人格権を行使しない旨の契約でもあったんでしょうか?
■で、これから──
ともあれ、これから色々と調査してみないと何とも言えませんね。
何を足がかりに調査していけばいいのか、私も見当が付きませんが‥‥。
(1)著作権表記との関係
黒澤作品(東宝製作)は基本的に東宝という会社名でクレジットされています。たとえば私の持ってる『生きる』 DVD ですと「(C) 1952 TOHO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.」とあります。『七人の侍』 DVD では「(C) 1954 TOHO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.」。
もっとも著作権の帰属が変わるたびにクレジットも変わるため、黒澤明が「著作者」でないとの証明には必ずしもなりません。『羅生門』の現行クレジットのように 「(C) 1950 角川映画」という例もあったりしますから(前記のとおり、製作は当時の大映)。
(2)1953年 問題の時には監督の死後起算が使われていたか?
『ローマの休日』仮処分申請判断や『シェーン』裁判(地裁・高裁)判決を読み直してみましょう。
(3)現行法が定められるにあたり、映画著作物の著作権者にかかわる議論
これは比較的調べやすいかも知れませんね。必ず旧法での解釈論も踏まえられているだろうから、さらなる調査の足がかりになると思います。
(4)判例や解説本ではどうなってる?
現行法についてはともかく、旧法についての解説本を探すのは大変かしら?
──調査の足がかりの少なさよりも、私自身 これに時間が割けるかという方が問題だったりしますがね。
(続くかもしれません。)