2009年10月18日 (日)

「コルシカ」――歴史に残るかわからないけど、記憶には残りましたね!

 日本国内では今ひとつ「決定打」に欠ける電子書籍界隈なのであるが、この10月に入って急に登場したサービスが大きなセンセーションを巻き起こしてるよって話。

http://www.corseka.jp/
「Corseka」

http://www.enigmo.co.jp/press/news/index.php?detail=9
「オンライン雑誌販売/閲覧プラットフォーム『コルシカ(Corseka)』
 10 月7 日(水)よりサービスを開始致しました。」
(株式会社エニグモ)

http://japan.cnet.com/venture/news/story/0,3800100086,20401284,00.htm
『雑誌販売サイト『コルシカ』開始--出版社からは『著作権の侵害』の声も」
(CNET Japan) 2009.10.7

 その名はエニグモ社の「コルシカ」。サービス内容は後で詳述するけれども、ネット経由で雑誌の注文を受けて、そのスキャン画像を配信するというのが主なところ。
 10月7日、「低迷する雑誌市場を盛り上げることに貢献したい」との甘い囁きとともに“電子雑誌”を売り出したのは良いが、その裏で出版業界が大騒ぎになっていたという。事前に話を聞いとらんがなという社が多く、すぐさま日本雑誌協会が動いた。雑誌のスキャン画像を配信するのは著作権の侵害だからきっちり出版社と話つけろやゴルァ、まず配信ヤメロ!ってな抗議である。これがサービス開始の2日後、10月9日。

http://www.shinbunka.co.jp/news2009/10/091008-04.htm
「雑協、エニグモ社に対しコルシカサービスの中止を要請」
(新文化) 2009.10.8

http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20091008AT1D0805E08102009.html
「日本雑誌協会、エニグモにネット雑誌閲覧サービスの中止要請」
(日経ネット) 2009.10.8

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20091009k0000m040092000c.html
「日本雑誌協会:ネットの雑誌有料閲覧、サービス中止を要請」
(毎日jp) 2009.10.8

http://www.47news.jp/CN/200910/CN2009100801001107.html
「ネット閲覧の中止を要請 新サービスに雑誌協会」
(47 NEWS) 2009.10.9

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0910/09/news050.html
「『コルシカ』に雑誌協会が抗議 雑誌スキャン・ネット販売は『著作権侵害』」
(ITmedia) 2009.10.9

http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20401440,00.htm
「日本雑誌協会が雑誌閲覧ネットサービス『コルシカ』にサービス中止を要請」
(CNET Japan) 2009.10.10

 で、雑協の抗議を受けたコルシカはあっさり引き下がる。雑協の会員が出している雑誌は売らない、そして今後のことは協議しよう、という話らしい。

http://www.enigmo.co.jp/press/news/index.php?detail=10
「日本雑誌協会からの『コルシカサービスについての要請と見解』への対応について」
(株式会社エニグモ)

http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20091009_320745.html
「オンライン雑誌閲覧サイト『コルシカ』、一時サービス縮小へ
 日本雑誌協会から中止要請『無許諾スキャンは違法』」
(INTERNET Watch) 2009.10.9

http://www.shinbunka.co.jp/news2009/10/091009-04.htm
「エニグモの雑誌オンラインサービス、一部雑誌を販売中止」
(INTERNET Watch) 2009.10.9

そして体育の日を含めた連休明け。いつのまにかコルシカは“終わって”いた。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0910/13/news126.html
「『コルシカ』全雑誌データの販売を停止」
(ITmedia) 2009.10.13

http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20091014_321635.html
「オンライン雑誌閲覧サイト『コルシカ』がサービス休止」
(INTERNET Watch) 2009.10.14

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0910/14/news099.html
「『許諾を得た出版社もある』 『コルシカ』運営会社に聞く」
(ITmedia) 2009.10.14

 どないせいっちゅうねん。(俺どこの人間だ)




■コルシカの中身

 もう“終わって”しまったサービスの中身を分析する必要があるのか、という気もしないではないのだが‥‥とりあえずやりかけていたまとめなので、あえて続けてみる。

 コルシカは、基本的には雑誌のネット通販サイト、とは言える。雑誌の注文を利用者より受け、コルシカは現物を購入し、利用規約により利用者の依頼を受けたものとみなして雑誌のスキャンデータを用意する。それを利用者に送るわけだ。なお、これらの作業の前後関係はおそらく上記の順番通りではない。あえて、コルシカが主張する形で説明を試みた。コルシカの意図に寄せた解釈をしてもなお、おかしい点が存在するのを私は指摘したい。
 一連のスキャンデータ入手までに利用者が支払うのは、雑誌現物の定価。この現物は「配送料」を支払うことで、メール便(ヤマトメール便か郵便局のエクスパック)で送ってくれる。「配送料」は国内280~700円と実費程度のようだ。配送はデータの購入から1ヶ月の間に申し込む必要がある。
 スキャンデータの方は暗号化されており、ウェブブラウザ上の専用ビューワでないと閲覧できない。雑誌データの保存期間は12ヶ月。雑誌の一部はクリップでき、それは36ヶ月保存できる。いずれにせよ期間に限りがある。
 退会した(あるいは規約に反し除名された)場合、それ以後雑誌データは読めなくなる。

http://www.corseka.jp/guide/qa.html
「Q&A」
(Corseka)

http://www.corseka.jp/guide/act_display.html
「特定商取引法に関する表記」
(Corseka)

http://www.corseka.jp/company/tos.html
「利用規約」
(Corseka)

 コルシカの概要は以上のような感じだ。

 このサービスについて真っ先に思うのは、雑誌をスキャンして販売する以上、無許諾でやってたらアウトだろうということ。案の定、出版社から著作権に関して抗議を受け、サービスを「休止」せざるを得なかった。
 それに加えてコルシカには、私は当初から違和感があった。たとえば、エニグモのプレスリリースやコルシカの利用者ガイドにあるような売り文句と、コルシカの仕様とがかけ離れている点。従来読み捨てられてきた雑誌の「保存」に電子雑誌のメリットを謳う割には、スキャンデータ閲覧できる期間が限定されている。雑誌は置き場所という物理的問題で長期間の保存が難しかったというのに、置き場所を取らない筈のデジタルデータ化で期間限定って何よ? しかもPCブラウザ上の専用ビューワでないと読めず、携帯デバイスでの閲覧に対応していない。雑誌現物なら持ち運べるのに、PCに“鎖”でつながれた電子書籍にどれだけの価値が?
 その他にも、以下のような疑問点が私にはある。

  1. ビジネスモデルの組み立てについて
    料金を見たところ、雑誌の価格・送料ともに実費のみを利用者から受け取る仕組みのよう。取次からの入荷と、ユーザーへの販売の差額のみを利益とするのか。それともサイト上に広告を載せるなどして収入を得る予定だったのか。いまひとつ分からない。
  2. 利用者が購入した雑誌について
    利用者が雑誌データを購入した雑誌は、コルシカがその分の実物をすべて購入するという話は間違いないか。また、それらの現物のうち、配送が求められなかったものについてはどのように管理するのか。
  3. 売り切れへの対処について
    雑誌データを販売する冊数は、実物が確保できた数だけということになるのか。利用者から注文を受ける時点で、実物が売り切れてしまうことが無いような何らかの措置は取られるのか。
  4. 雑誌スキャンの要領
    雑誌のスキャンは、たとえば背表紙を断裁した上、1ページずつスキャンするのか。あるいは、手作業で広げながらスキャンするのか。
    スキャンデータは、閲覧の都度サーバへアクセスさせるものと考えて良いのか。
    また、スキャンデータは1つの雑誌につき1つのファイルで用意するのか。あるいは注文毎にスキャニングを行なうのか。
  5. 雑誌データを配信するタイミング
    雑誌データの配信は、その分の実物がコルシカに届いてから実施されるのか。あるいは注文後ただちに配信できるよう準備しているのか(取次にあることを確認するのみで配信するなど)。
  6. 配送される雑誌
    スキャニングされた雑誌の他に、配送用の雑誌を確保して利用者の申込みに対応するのか。スキャニングに要した雑誌は処分するだけか(とすれば、その1冊分の費用はどこから捻出するのか)。
  7. 利用者が購入したが配送されない雑誌について
    利用者がスキャンデータを購入したが、配送の申込みが無かった場合には、その現物の雑誌はどう保管されるのか。一定期間(たとえば配送を受付ける期間)が過ぎたら廃棄されてしまうのか。廃棄のタイミング、廃棄の方法などは決められていたのか。また、廃棄までの当該雑誌の所有権はどう理解されるのか。
  8. 雑誌をスキャンして利用者に提供することを許諾していた出版社は
    雑誌のスキャニングを許諾していた出版社はどれだけあるのか。それらの雑誌も含めてサービス中止にしてしまったのは何故か。また、許諾を得なかった雑誌について、あらかじめ許諾を求めなかった根拠はどういったものか。

 ――こんなところだ。報道によればコルシカは、利用者が買った雑誌をスキャンするだけの“私的複製代行業”だと主張しているらしい。まぁこの代行業自体、現行の著作権法で許され得るのかという問題はある(おそらく許されないだろう)。それを置くとしても、スキャンするのが「私的複製」だという主張と実態がどれだけ近いのかを知るための疑問点もあり、上記には入れてある。
 で、一応コルシカに質問を投げてはみているのだが、投げた場所がよろしくないのか、まだ何の反応も無いです。無名ライターはつらいですね、ハハハ。まぁ、後で改めて問い合わせてみますよ。それでダメなら、もはやコルシカを擁護することは不可能ってことで。

 別の観点から、“私的複製代行業”がフェアユース導入によって可能になるのではないかという形でコルシカを評価する考えもあり得る。しかし、そうしようにも利用者のメリットが少ないかなぁと私自身は思う。スキャナーを貸してくれる業者とかの方がよほどメリットあるというか。
 法律論をぶつにも(もっとも素人の私に正確な法律論がぶてるはずもないが)、それだけの価値がコルシカにあるのか。すでにサービスを中止された今、疑問ではある。

 ともあれ、事実関係はきっちり押さえたい気持ちはあるので、もしお話聞かせてもらえるとしたら、よろしくお願いします。 →コルシカの中の方

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2009年5月14日 (木)

法制問題小委員会#1配付資料

 驚いたことに、12日の法制問題小委員会で配布された資料が、もう文化庁のサイトにアップされておりました。

http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h21_shiho_01/gijiyoshi.html
「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第1回)議事録」
(文化庁)

 とりあえずご報告まで。

(後日、追記するかもしれない。)

Posted by 谷分 章優 知財戦略, 著作権, 著作権行政 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年5月12日 (火)

衆議院・文部科学委員会で著作権法改定案が可決

 「違法配信からの録音・録画を禁止する」との名目で私的複製(著作権法第30条)の範囲を縮小する、いわゆる「ダウンロード違法化」の条項を含んだ著作権法の改訂案が8日、衆議院の文部科学委員会を通過した(審議経過参照のこと)。4月24日に法案の説明が行なわれ、今月8日が初めての審議だったわけだが、その日のうちに採決された。後日、おそらく無風で衆議院本会議を通過し、参議院での審議へと移ることになるだろう。
 この日の委員会で質問をした議員は、民主党から高井美穂・松野頼久・川内博史・和田隆志の4委員、共産党が石井郁子委員、社民党が日盛文尋委員。この日の委員会の流れが、事務局作成の「衆議院文部科学委員会ニュース」で速報として公表されている。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_rchome.nsf/html/rchome/News/monka17120090508009_f.htm
「文部科学委員会ニュース(5月9日)」
(衆議院)



1 著作権法の一部を改正する法律案(内閣提出第 54 号)
・塩谷文部科学大臣、宮﨑内閣法制局長官、竹島公正取引委員会委員長、政府参考人及び長尾国立国会図書館長に対し質疑を行い、質疑を終局しました。
・採決を行った結果、全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。
(賛成-自民、民主、公明、共産、社民)
・馳浩君外4名(自民、民主、公明、共産、社民)から提出された附帯決議案について、和田隆志君(民主)から趣旨説明を聴取しました。
・採決を行った結果、全会一致をもってこれを付することに決しました。
(賛成-自民、民主、公明、共産、社民)

 このニュース(本体はPDF)では、上記の審議概要のほか、各議員の質問内容の要旨が書かれている。それに対する参考人らの発言は、今のところ『衆議院TV』のビデオライブラリーで参照可能。議事録が公表されるまでしばらくかかりそうだが、『無名の一知財政策ウォッチャーの独言』さんが書き起こしをされているのでご参考まで(書き起こしおつかれさまです)。

http://www.shugiintv.go.jp/jp/video_lib2.php?u_day=20090508
「開会日:2009年5月8日」
(衆議院TV)
※ここから「文部科学委員会」をクリック

http://fr-toen.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-11c0.html
「第171回:衆議院文部科学委員会での著作権法改正法案の馴れ合い出来レース審議」
(無名の一知財政策ウォッチャーの独言)

 いわゆる「ダウンロード違法化」は、配信されているコンテンツが違法に提供されたものだとの「事実を知りながら」ダウンロードする行為を禁じるものとは言え、ユーザーがダウンロードしたものを事後的に「適法」か「違法」か判断することが困難という問題があった。いざ訴訟になったとして、権利者側が「事実を知りながら」のダウンロードだと証明しづらい一方、疑いをかけられたユーザーの側でも潔白を証明できない(コピー元のCDを持っていたり、支払いなどの記録が残っていないかぎりは)。この規定を根拠にどれだけの訴訟が起こされるか——によってはユーザーの脅威となる(見せしめの訴訟が数件起こるにとどまる可能性もあるが)。
 「ダウンロード違法化」条項にはもう一つ問題となる部分がある。海外で配信されているものでも、日本の著作権法で判断して「違法」なものならダウンロードが「違法」とされてしまう点だ。たとえば米国のフェアユースのような権利制限など、日本法とは異なる事情で適法に配信されているものが、日本でダウンロードすると「違法」呼ばわりされるようになる。そうしたダウンロードでもする人はするのだろうが、気持ちのいいものではない。
 海外での適法配信と日本法との関係をどう考えるのか、本来は慎重に審議すべきところだった。しかし衆議院の文部科学委員会ではこの観点からの質問は無かった。インターネットの世界でも日本人には日本法だけ当てはめておけばOK——と考える議員ばかりだということか。

 委員会での法案可決のあと、付帯決議も提案されて可決されている。これは、可決された法律が運用される際に“国会の意向も汲んでくれ”と要望する程度のものでしかない。過去の例を見ても、政府へ速効性のプレッシャーを与えるようなものではない(法改定の根拠に使われることはままあるが)。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/monka7C67B3E98A3FA93B492575B00030142E.htm
「著作権法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」
(衆議院)



著作権法の一部を改正する法律案に対する附帯決議

政府及び関係者は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。

一 違法なインターネット配信等による音楽・映像を違法と知りながら録音又は録画することを私的使用目的でも権利侵害とする第三十条第一項第三号の運用に当たっては、違法なインターネット配信等による音楽・映像と知らずに録音又は録画した著作物の利用者に不利益が生じないよう留意すること。
  また、本改正に便乗した不正な料金請求等による被害を防止するため、改正内容の趣旨の周知徹底に努めるとともに、レコード会社等との契約により配信される場合に表示される「識別マーク」の普及を促進すること。

二 インターネット配信等による音楽・映像については、今後見込まれる違法配信からの私的録音録画の減少の状況を踏まえ、適正な価格形成に反映させるよう努めること。

三 障害者のための著作物利用の円滑化に当たっては、教科用拡大図書や授業で使われる副教材の拡大写本等の作成を行うボランティア活動がこれまでに果たしてきた役割にかんがみ、その活動が支障なく一層促進されるよう努めること。

四 著作権者不明等の場合の裁定制度及び著作権等の登録制度については、著作物等の適切な保護と円滑な流通を促進する観点から、手続の簡素化等制度の改善について検討すること。

五 近年のデジタル化・ネットワーク化の進展に伴う著作物等の利用形態の多様化及び著作権制度に係る動向等にかんがみ、著作権の保護を適切に行うため、著作権法の適切な見直しを進めること。
特に、私的録音録画補償金制度及び著作権保護期間の見直しなど、著作権に係る重要課題については、国際的動向や関係団体等の意見も十分に考慮し、早期に適切な結論を得ること。

六 国立国会図書館において電子化された資料については、図書館の果たす役割にかんがみ、その有効な活用を図ること。

七 文化の発展に寄与する著作権保護の重要性にかんがみ、学校等における著作権教育の充実や国民に対する普及啓発活動に努めること。

 国会議員が結局はどういった方向を向いているのかを知る参考になるかもしれない。この附帯決議案、民主党だけでなく自民党を含む全会派で出されていることに注意が必要だが。

Posted by 谷分 章優 著作権, 著作権行政, 音楽と著作権 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年3月30日 (月)

著作権分科会 #28 ――フェアユース戦線はいつもの風景

 3月25日に、文化審議会著作権分科会の第28回会合が開かれた。この分科会では1月に前期・2008年度までの報告書が出され、それを受けて3月10日に今国会へ著作権法の改定案が提出されたところだ。法案の方は衆議院で先に審議される予定らしいが、30日現在でまだ審議は始まっていない。ともあれ、法案提出を前期の区切りとして、25日は今期・2009年度の分科会運営について話し合われる最初の会合となる。

文化審議会著作権分科会(第28回)
  日時:平成21年3月25日(水)
     10:00~12:00 ※実際には30分ほど早く終了
  場所:三田共用会議所 3F大会議室

【議事】
1 開会
2 委員及び文化庁関係者紹介
3 議事
(1)文化審議会著作権分科会長の選出について
(2)小委員会の設置について
(3)その他
4 閉会

【配付資料】
資料1 文化審議会著作権分科会委員名簿
資料2 「著作権法に関する今後の検討課題」
    (平成17年1月24日・著作権分科会決定)
    の概要とそれ以降のこれまでの審議状況
資料3 小委員会の設置について(案)

参考資料1 文化審議会関係法令等
参考資料2 文化審議会著作権分科会(第27回)議事録
参考資料3 著作権法の一部を改正する法律案の概要
      ※配付資料には法律案そのものも含まれていた。
参考資料4 デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について(報告)
      (平成20年11月27日 知的財産戦略本部デジタル・ネット
      時代における知財制度専門調査会)
参考資料5 広崎委員意見書
      (第9期文化審議会著作権分科会の運営に対する意見)

 分科会の運営の話——と言っても、実際に議論をする場は、分科会の下に設けられる「小委員会」の方である。だからこの小委員会をどう設置するのかが話の中心になる。
 昨年まで設けられていた、iPod全盛の今の時代に適合した私的録音録画補償金制度を話し合う「私的録音録画小委員会」と、保護期間の延長の是非を議論する「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」は、前期最終回にあった予定のとおり解散となった。今期設置されるのは3つ、「基本問題小委員会」「法制問題小委員会」「国際小委員会」だ。

 基本問題小委員会は、「著作権関連施策に係る基本的問題に関すること」を議論するとされる。この表現自体は配付資料にあった文言を引いているだけだが、あまりにも漠然としすぎてはいる。事務局が説明する中で例示した議題は、私的録音録画補償金と保護期間延長の問題だ。つまり解散された2つの小委員会を吸収したような形のようだ。それぞれの小委員会でも持て余してしまった議題なだけに、他の「基本的問題」を扱いつつこれら二つの議論も進められるのかは疑問。議題設定に文化庁の恣意が反映しやすいだけに、注視したい。
 「基本問題」と銘打っているだけに、事務局は方針として「文化政策的な見地から大所高所の議論をしていただける場として設置してはどうか」と提示している。この文化庁の言う「文化政策的な見地」が果たして好ましいものになるのか、私見だが微妙に思えてならない。「保護」だけが文化政策ではなく、しかもコンテンツ産業だけが「文化」ではない——そこからこぼれるものを無視したり、あるいは一緒くたにしすぎた結果が、〈時代の流れに対応できていない著作権法〉という今の状況なのではないか。
 長いこと著作権分科会の動きを見てきたためか、かなりうがった見方をする私ではあるが、心配の種が尽きないというのが正直なところである。

 法制問題小委員会は「著作権法制度のあり方に関すること」を話し合うということで、著作権法学者中心の構成で例年通りの設置。ここでは、前期まで議論しながら課題として残されているものに加え、「放送・通信の一元化への対応」「権利制限の一般規定」などが新たに挙げられている(事務局説明より)。議題てんこ盛りになるいつもの展開なのは間違いないが、その中でも最も注目が集まるのは「日本版フェアユース」だろう。

 国際小委員会も前期に引き続いて設置される。国際条約などで国内法制に対応すべき点が出てきた場合、その議論をここで行うのが主な役割なのだが、近年はこの種の動きが少なく会合が開かれるのも年に数回程度だった。もっとも前期最後の会合で「国際的な議論に先行して検討課題を設定しよう」との方針が出ており、また「模倣品・海賊版拡散防止条約」ACTAの展開も注目されるところなだけに、今期に大きな議題が持ち上がることが予想されないわけでもない(ただしACTAの中身が明らかにならないことには、今後の影響をはかることができないが‥‥)。

 今年度の小委員会はおそらく4月に入ってから本格始動する。まだ委員構成などは明らかにされていないが(たぶん事務局から本人への打診は始まってるだろう)、大ネタの未消化が目立つ著作権分科会である。バタバタと“審議したつもり”“結論が出たつもり”で片付けられることがないよう、注視していきたい。

委員発言から――

 以上が、分科会で本来話し合われるべき議題だった。しかし結果としては、いくつかの論点で委員発言が相次いだ会合となった。その論点とは、「日本版フェアユース」「美術品等のオークションでの商品画像」「不明権利者に関する裁定」の3つだ。このうちフェアユースは今後の議論に対する委員からの牽制という位置づけになるが、オークションと不明権利者については既に出された法案への質問という形。
 それぞれ、私の傍聴メモから書き起こした発言内容を引いておく。なるべく発言趣旨は変えないようにしているが、なにしろ私のやることなので必ずしも正確ではないかと思われる。正確なところは後日 公式の議事録に当たっていただくことを推奨する。各論点ごとにまとめてもいるので、発言順も前後していることにご注意を。

石坂委員(日本レコード協会会長)
 「日本版フェアユース規定」導入の今後の検討について。
 権利を制限しなければ不都合が生じるという具体的事例について、権利保護と利用のバランスを十分に吟味ないまま拙速に検討が進められるのを懸念している。公正な利用といっても、そこで想定される要件は様々だ。「日本版フェアユース規定」の検討は著作権法の根幹にかかわる内容なので、法制問題小委員会だけでなく基本問題小委員会でも検討し、多面的な議論をお願いしたい。

三田委員(作家・日本文藝家協会副理事長)
 新聞などで報道されているが、アメリカのGoogleが、いくつかの図書館の蔵書をすべてデジタル画像でデータベースを作った。これは日本の著作権法で言えば明らかに複製権の侵害。これについてアメリカの作家たちが裁判を起こし、一定の和解案が出て、補償金を払うという結論が出た。それが日本の作家や出版社にも関係してくるということで、日本でも大変な混乱が起きている。何がどうなっているのかを調べるのに、出版社や文藝家協会などで人を雇って調査をしなければならない実害が出ている。
 Googleは告知広告で、こういった和解があったとは知らせているが、謝罪の言葉が無い。明らかに法律に抵触することをしながら‥‥。アメリカの法律に「フェアユース」という概念があって、和解が成立して補償金を払う結果になっても、これは和解であって自分たちは「フェア」だと考えている。
 同じようなデータベースの作成が日本では国会図書館で行われている(註:現在国会で提出された法案に、より簡便にデジタル化できる条項が盛り込まれている)。これについては関係者を集めて、慎重な協議がなされている。複製を作ることはOKだが、それを国会図書館以外に提供するのは今後も慎重に検討するということ。日本ではそういう制度。
 ところがアメリカでは勝手に複製を作り、図書館間でも流通させてしまっている。こういったことが可能なのは「フェアユース」という概念があるから。
 「フェアユース」という概念を導入してしまうと、こうした明らかな実害がさまざまな分野で起こる可能性がある。慎重な議論をしてほしい。

(発言者不明)
 フェアユース導入の議論を拙速にバタバタとやるのは何故なのか。納得できないままに議論を進んで行くようだ。砂の上に高層ビルを建てようとするのではなくて、「砂」の基礎工事をどうやるのか、まずその土台作りの議論をちゃんとやって、先へ進む展開を考えて皆で知恵を出してやっていければいいのでは。



松田委員(弁護士・中央大学法科大学院客員教授)
 資料に「インターネットを利用した事業が諸外国に比較して遅れている」とある。一般的権利制限規定を導入すべきとの考えを持っている人々は、こういう考え方を表明している。著作権法がその障害になっているという前提。個別的制限規定であるから、著作権が障害になるかもしれないビジネスに投資をできない、新規事業への萎縮効果があるのだと。
 しかし三田委員の指摘は、一般制限規定が導入されれば極めて危険な状態が想定されるという一例。Googleは、日本の作家に対しても、オプトアウトしないと全部和解の中に含まれるから、との前提でGoogleのアナウンスに従って対処しなさいと言っているわけ。向こうの法制だからやむを得ない、圧倒的な力の差がある。そこも前提としては「フェアユース」だと言っている。そのような事業を拡大していくのが良いのか――多分ここにおられるごく普通の、著作権法の知識を持たれた方々は、いくらなんでもそれが「フェアユース」とは行き過ぎだと思われるだろう。
 日本がアメリカから遅れているとの前提で「著作権法を改正しなければならない」という発想が間違いだと私は思うが、少なくとも関係文書を作るときにはその点に注意してほしい。審議した後の記載ならやむを得ない。総意がそうであるなら仕方ないと思うが、私は今のところ総意がそうだとは考えていない。まず「遅れている」とやって、フェアユースを導入してもいいかのような、環境整備が必要だという印象を与える表現には慎重になるべき。
 事務局が作ったものでも、文化庁が作った資料、文化庁も同じことを考えている――と必ず引用される。ぜひよろしくお願いしたい。

 権利者側主催のシンポジウムなどに限らず、著作権分科会でも何かと風当たりの強い「日本版フェアユース」だが、実は分科会でこの種の発言をする委員はいつも同じである。確かに、これまで“自由に著作物を使える範囲”を個別具体的な規定で定めてきたのを、抽象的な規定を導入して後は裁判で決めようという制度へ転換させようという話だから、それに対する権利者側の反発が大きいことは当然予想される。とは言え、旧来の著作権のあり方が社会の支持を受けているのかが大きな問題。
 いつもと変わらぬ風景の中で、今回初めて出てきたネタはGoogleブック検索の件だ。もともとはGoogleが図書館と組んで、蔵書のデジタル化を始めたのに対し米国の著作者団体と出版社団体が訴えたのが最初。これが代表訴訟という形を取られて和解に至ったため、米国内での和解内容に(米国でも著作権が認められる)米国外の著作権者が拘束されるという興味深い事態になった。日本文藝家協会でも、和解に応じる協会員に対して代理手続をする方針だと報道されているところで、それについて三田委員がどうコメントするのかが見ものだったわけだが‥‥かなりグチってますな。
 しかしこれを「フェアユース」のせいにするのはどうかと。日本の権利者が巻き込まれたのは、米国の代表訴訟(クラスアクション)の問題なのではないか。海外で訴訟が起きて、その影響を受ける。そして何が起こってるのかを調査する必要に迫られる——ということを「実害」と呼ぶのも如何なものか。海外で権利行使しようとしたら、むしろ積極的に情報を収集すべきかと思われる。

 次の、法案に盛り込まれた「ネットオークション等」での商品画像掲示の件。美術品や写真などを売るのに、これまでは商品写真の撮影が著作権に触れかねなかったのが、権利制限して一定の範囲内で撮影OKということにしようとの話。

福王子委員(日本画家・日本美術家連盟常任理事)
 インターネット販売業者の美術品等の画像掲載について、権利制限を受けることになるとのこと。報告書では「ネットオークション等における画像利用」とあるのだが、この中にオークション会社が作るオークションカタログも入るというのを後で聞かされた。(持参したオークションカタログを示す)こんな立派な本が出来ていて、オークション会社が販売するもの。こういうのも権利制限の対象となるのは如何なものかと、(連盟の)美術作家らからも要件等を慎重に審議して欲しいと言われている。
 よく分からないまま審議が進行して、あるいは決定されているという感じを受ける。美術作家・絵描きは言葉や文章で語るのがよくないという風潮もあるが、そうするとどうしても事業者側に(結果が)片寄ってしまう。
 オークション会社から実際に立派な図録を発行しているわけで、そこをよく見ていただいて、あるいは調査するのも大事。慎重に審議していただきたい。

事務局
 今年1月の報告書では「ネットオークション等における画像利用の円滑化」ということで審議。報告書ではまとめとして、売り主が取引を行なう際の情報提供の必要性を根拠にしている。画像を見せなければ売買が出来ない、との点についてはインターネットに限らず、オークションカタログを除外する議論ではなかったと理解している。
 なおオークションカタログを販売する場合、それが美術品売買のためか、単に図録として販売するか、それによって違いが出る。図録が目的なら、今回の権利制限の要件の対象外。どのような基準で判断するか、運用上の工夫はしていきたい。

福王子委員
 オークションカタログの中にも、許諾を取っている作家と、全く取っていない作家がある。実際うるさいところには許諾を取るということだと思うが、こういう状況が続いてきて、係争に至る案件もある。実態の調査をよくやってほしい。オークション会社や作家の代表が集まって話し合う場も考えてやっていこうと思う。その辺でできることがあると思うので。



河村委員(主婦連合会常任委員)
 審議の過程でも「ネットオークション等」となっていて、オークションで画像がなければ円滑にいかないという説明だった。私もそうなのかと。法案では、ネットだけでなく、審議したつもりじゃなかった印刷物にまでかかる書き方。ちょっとこれは、私が聞いてても福王子委員の憤りが理解できる。審議の過程と、報告書から法案にいたる透明性が気になる。

福王子委員
 前回の審議会のあとで、文化庁からオークション会社のカタログも入ると聞いた。
 美術家連盟には5300人の会員がいて、毎月理事会があってそこで著作権の問題について――70年延長問題や、いろいろなところで勝手に使われる問題、そしてオークションカタログについても毎回出ている。それと「インターネットオークション等」とは別物だと僕は思っていたもので、後から気がついて驚いたのが本音。
 ついでに言うと、報告書の53ページに参考で「諸外国における立法例」があるが、ドイツでは許されると書いてあるのは「追求権」あるからではないか。公開オークションで作品が売買されると約2.5%から4%の間で作家に還元する。そうしたものがあって、(オークションでの商品写真に)著作権者の許諾をとらなくていいということになっていると思う。追求権はこの審議会で話題になっていても審議の対象になっていない。これは美術家連盟や関係団体で、立法化に向けて勉強しているところ。

事務局
 法制問題小委員会で議論したときは、議論のきっかけはインターネット上の公売だったが、権利制限する必要性の根拠は対面で美術品を見せられないことが言われていた。譲渡することには権利が及ばないのに、画像が見せられないとそもそも売買ができないという矛盾を解消しようというのが議論の主眼。ネットに限ったものではなかったかと思う。

福王子委員
 私はこの委員会だけに出席していたので、そうした内容がわからなかったということはあると思う。しかし美術の世界はたいへん狭いから、そんなに多数の人から許諾を取らなければならないわけではない。オークションカタログに載るのも少数の人、そう大変なことではないと思うので、印刷物については作家の許諾をとっていただきたいのが大前提。



福王子委員
 作品を(オークションカタログなどに)載せる以上、色や作品が切れてないとか、どういう状態で載るのかが心配。そういうことを気にしない作家もいるかとは思う。ただ、気にする作家がいる以上、(美術家連盟の)会議で必ず問題になる。突然自分の作品が載っててびっくりすることがよくある。海外の作家については以前、係争になってカタログとしても著作権に触れるという判例があったかと。
 (オークション側で選んで)許諾を取る作家と、全く取らない作家がある。作家や遺族に許諾を取るのが大前提だと思う。それぞれの立場で意見は違うと思うが、作家にとってはそういうことも大事。

松田委員
 今度の新法の規定は、複製物をさらに複製できないよう措置を講じた「政令が定める」ものが権利制限の対象になる。印刷物が入るとの話だが、これが政令で定められないと私は思うが。従来からの47条(で権利制限される)、展覧会のカタログには有料で販売するものは入らないはず。それとパラレルに考えれば、有料販売されて独自鑑賞性のある冊子が売られて、この47条の2にある措置が講じられる「政令で定める」ものに入るはずがない。

事務局
 有料化どうかは特に要件にしていない。有料ならば全てダメということではない。オークション参加費を取るようなものもあるだろう。カタログそのものを販売する目的なら、美術品を販売する目的というのとは変わってくるかと。有料でカタログを販売する行為自体はここで(権利制限から)外れる。
 「政令で定めるもの」は、「独立して鑑賞に堪えるようなものとはならないように」という付帯条件をするつもり。何を定めるかは、意見をいただきながら検討したい。

 福王子委員からの指摘は、なかなか興味深い。一方で事務局の返答にどう感じるか人によるかと思うが、私などはどうしても事務局へ批判的な目を向けてしまう。ネットオークションにとどまらず、現実に開催されているオークションでも権利制限の対象になるというのが事務局の説明である。しかし対外的に説明をする時は「ネットオークション等」とされていた。この「等」にリアルオークションも含まれるというわけか。
 既に提出された法案の話だけに、委員が違和感を表明するにとどまらざるを得ない。この指摘自体は、法案をチェックしていた私でも「あっ」と思ったのだが。
 
 こうした行き違いが起こってしまう背景には、分科会での議論の仕方がある。実際の審議は小委員会で行なわれ、その結果だけが報告として分科会に上げられる手法だ。オークション関連の権利制限規定は法制問題小委員会で議論されたものだが、分科会で報告された際には他の議論とひとまとめで「概要」資料によって分科会委員へ伝えられた。もちろん報告本文や議事録を分科会委員が参照するのは可能だろうが、分科会そのもので使われた資料や事務局からの説明は強い印象を委員に残す筈である。「ネットオークション等」と言われて、現実のオークションカタログが含まれるとはなかなか思い至らないのではないか。
 起こるべくして起こった事態。というか、事務局(文化庁)のふるまい自体、決定プロセスが不透明ということは確かに多いと私も思う。私が著作権界隈へ首を突っ込む契機となった「商業用レコードの還流防止措置」(いわゆる「レコード輸入権」)の時も、著作権分科会での漠然とした「何らかの措置が必要」との報告を受けて、文化庁が法案を作成した経緯があった。どういう方向で措置をとるかの実際の議論をせず、文化庁で勝手にまとめた例。また私的録音録画小委員会の迷走も、事務局側で作った資料が原因となっている。
 3月提出の法案にしても、私が気付いてないだけで、何か問題が含まれているのではないかとの見方は今でも捨て切れていない。

 さて、ピックアップしておきたい委員発言の3つ目。論点は、不明権利者に関する裁定制度だ。著作物を二次利用したいが権利者の居所が不明(あるいは権利者が誰か自体が不明)の場合、権利者の許諾の代わりに文化庁が「裁定」を出すことで、供託金を支払って利用できる制度である。裁定の申請をした時点から供託金を払えば利用可能になるなど、この制度をより使いやすくしようというのが法案の趣旨。

(発言者不明)
 権利者不明の利用の円滑化のところ、連絡できない場合で「政令で定める場合」とある。政令の内容については書かれていない。資料(パワーポイント)では実演家の権利、過去のテレビ放送に重点が置かれた説明だが。そういったあたりを伺いたい。

事務局
 権利者が不明の場合、「相当な努力があっても」連絡が取れない「政令で定める場合」ということ。どうすればいいのかが政令で定められるが、考えているのは、通常の著作権者の許諾を得る場合の努力は最低限必要だろうと。また現行制度でも文化庁の運用として、「手引き」などでどういう努力が必要かある程度明らかになっている。
 政令を定めるにあたっては、運用と関係者の意見を踏まえていこうと考えている。現時点では明確に「こういう案」というのがあるわけではない。
 実演家を中心にという質問だったが、権利者と連絡をとるために必要な努力は、分野によってさまざまあるかも知れないので、そうした実態を踏まえながら考えたい。

三田委員
 権利者不明のものを利用できるようにするとの法律改正、これは裁定制度で利用できるようにするだけでは利用は難しいだろう。裁定手続にかかる費用がかなり高いと、円滑には利用できないと思う。だから裁定の費用をできるだけ軽減し、手続も簡素化する具体的なものが必要になる。
 地方の図書館や文学館がさまざまな文書の復刻版を出したり、ネット上にアーカーブするという場合、権利者不明のものを使いたいという要望がある。こうした利用は営利目的ではないので、利用して幾らお金を得られるというものではない。だからそういう場合の裁定で、事前に納める供託金の算出も大変難しい。得られる金額がゼロだと供託金もゼロか、ということにもなる。
 どういうシステムを作っていくのか、利用状況を詳細に検討した上で、できるだけ利用を促進できるシステムを作っていただきたい。

 正直な話、著作隣接権と裁定制度の関係が私にはまだ理解できていない。法案を読んでも今ひとつピンとこないのだ(誰か解説してくれると嬉しい)。

 さて、上記のやりとり気になるのが「政令」(著作権法施行令)についてである。これは3月に出された法案全般に言えるのだが、政令で定めるべきとされる要件がかなり盛り込まれている。著作権法上「違法」とされる範囲を決める重要なラインを「政令」に委ねるような使われ方をしているので、国会での審議でもその「政令」内容がどうなのかを含めて法案の妥当性を判断することになる筈だ。しかし事務局の受け答えによると、政令の内容はまだ決まっていないようなのである(公表しないだけで、さすがに案は用意してあるのだろうが)。
 国会ではきっちり詰めて、それこそ法案の修正も辞さないような態度で審議してもらいたいものではあるが‥‥。

 この話題での三田委員の発言は良かった。特に、保護期間延長と絡めたいと思っていたに違いないのに、あえて触れなかったところを評価する。もっとも後からメモを読み返してみたら、決定的な発言ってのはしてないようだなぁ。

 ――以上が、この日の委員発言の主なところである。
 年度初めの分科会というのはいつもこんな感じだ。実質的な議論というのは小委員会で行われるから、権利者側委員としても従来からの主張を繰り返す場にしかならないことが多い。ただ今回は法案というネタがあったので、少し面白い話が聞けたという感じか。

 本番は以後の小委員会である。繰り返しになるが、大ネタが目白押しだ。議論の行方をしっかり見届ける必要がある。

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2009年3月26日 (木)

著作権法改定案2009:待望された条項と抱き合わせで盛り込まれたもの

 「著作権法の一部を改正する法律案」が3月10日に閣議決定され、その日のうちに国会へ提出された。文化審議会の著作権分科会が1月に出した報告書(PDF)で法改定すべき課題が挙げられたのを受け、文化庁が法案の原案を作り、内閣での調整を経て、「内閣提出法案」として国会の審議を受ける運びである(内閣から出される法案が法律になる過程はここの説明がわかりやすい)。
 衆参両議院のサイトにはそれぞれ議案審議情報が掲載されている。ただし今のところは法案提出の事実のみが書かれる。なお法案本文は衆議院サイトに、また衆議院で先に審議される旨が参議院のサイトに載っていた。
 合わせて、法案審議で使われる関連資料も文部科学省のサイトで公表された。国会議員でなくても、「概要」「新旧対照表」などで法案の中身を確認できる。

http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/171/1251917.htm
「著作権法の一部を改正する法律案」
(文部科学省)

http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g17105054.htm
「閣法 第171回国会 54 著作権法の一部を改正する法律案」
(衆議院)

http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DA5E0A.htm
「議案審議経過情報 閣法 第171回国会 54 著作権法の一部を改正する法律案」
(衆議院)

http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/gian/17103171054.htm
「議案審議情報 著作権法の一部を改正する法律案」
(参議院)

 衆議院の解散時期をにらみつつ与野党が対立する「ねじれ国会」の中で、この法案がどう審議されていくのかは不透明だ。もっとも、この18日には民主党・川内博史議員が質問趣意書を提出したという。現時点ではまだ内容が明らかになっていないものの、じきに公表されるだろう。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/171221.htm
「著作権法の一部を改正する法律案に関する質問主意書」
(衆議院)

 と、これまでの法案提出の状況に触れてきたところで、気になるのは法案の中身である。
 先に書いたとおり、衆議院サイトにも法案が掲載されているが、これは現行の著作権法から改定・追加すべき箇所を指定し、改定後の文を添える形で書いてある。読んだだけでとても理解できる代物ではない(まるで設計図を読めというようなもの)。むしろ、文部科学省サイトの方の「概要」「要綱」「新旧対照表」(リンク先参照)を読んだ方が、比較的理解しやすい。あくまで比較だが‥‥。

 法案の中身を1枚ものにまとめた「概要」での説明によれば、本法案の趣旨は「電子化された著作物等(デジタルコンテンツ)の流通促進のため、インターネット等を活用して著作物等を利用する際の著作権法上の課題の解決を図る」ことにあるという。
 また、法案の三本柱として「インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置」「違法な著作物の流通抑止」「障害者の情報利用の機会の確保」が挙げられている。具体的には、以下のような項目が主なものだ。

・検索エンジンサービス(適法化)
・所在不明権利者を対象とした裁定制度の改善(適法化)
・国会図書館での所蔵資料のデジタル化(適法化)
・ネット販売での美術品等の画像掲載(適法化)
・情報解析研究のための複製(適法化)
・通信障害の防止、データ消失の防止、
 送信の効率化等のための複製(適法化)
・電子機器利用時に必要な複製(適法化)
・海賊版と承知の上での販売の申出(違法化)
・違法配信から、違法と知りながらの複製(違法化)
・視覚障碍者向け録音図書の作成を公共図書館でも(適法化)
・聴覚障碍者向け映画・放送番組に字幕・手話を付与(適法化)
・発達障碍等で利用困難な者に応じた複製(適法化)

 ※カッコ内「適法化」は、これまで違法だったが権利制限に加わるもの。
  「違法化」は、新法で著作権等が及ぶものとするもの。

 著作権法の改定は、「~権」のような新しい権利の付与や罰則強化など「権利者」側に有利な面だけを考えているように見えがちだが、もう一方で権利の限界――つまり利用する側から見て、無断での著作物利用が「違法」になるか「適法」になるかの境界を変更する働きもある(文化庁が「権利者」側に立っているか否か、論者によって様々な見解もあるだろうが)。今回の法案は、まさしくこの「境界」を決める話である。
 上記の改定項目をざっと眺めるだけでも、検索エンジンサービスの実施、ネットオークションなどでの商品画像の掲載、通信過程での一時的キャッシュ、障碍者福祉の拡大など、何年も前から待望されてきた法的対応が多く盛り込まれており、“めでたい法改正”という雰囲気を演出したいのだなと見えるところではある。現に著作権法改定(法案の閣議決定)を伝える各種報道はそういう方向で出されている。
 しかし「概要」だけでなく実際の法案を読んだときに、本当にその“趣旨”どおりの中身なのかという疑問が出てくる。

 「適法化」される項目がどう法案に書かれているか。
 たとえば検索エンジン(47条の6)の場合、確かにウェブサイトなどの収集や蓄積・インデックス化などはできるようになる一方で、実は「情報の収集、整理及び提供を政令で定める基準に従って行う者に限る」との限定がつけられている。またオークションなどでの商品画像について(47条の2)も、「複製を防止し、又は抑止するための措置」が必要だとされ、そこで要求される「措置」の内容は政令で決められるという。
 この「政令」というのは、国会を通さなくても政府が出せる命令(ここでは「著作権法施行令」を指す)のことだ。つまり、これらの規定で適法となる範囲が行政府の一存で決められるようになるのである。自由利用の範囲を決めるのに何らかの条件が必要だとしたら、国会で審議して決めるのが筋で、それこそ著作権法に書き込めばいい話だ。今回の法案がやろうとしているのは、「適法」の範囲の決定権を国会から政府へ委任させることに等しい。
 想定される政令の内容については、国会で質問が出たり言質を取ったりすることも考えられる。しかし今後は「日本版フェアユース」のように国会で作るルールを抽象化して、司法での違法・適法の判断を重ねることで柔軟なルール作りを模索しようとの機運がある時に、いたずらに政令へ委任する項目のを増やすのは如何か。司法へシフトしようとするルール作りの主導権を政府が横取りするようなものだ。ここは慎重に審議すべき。

 現行法では権利が及ばなかった範囲だったのを、及ぶように変える項目もある。違法に配信された著作物を「その事実を知りながら」録音・録画する行為を、私的利用目的であっても違法だとする条文がそれだ(30条1項3号)。また、この基準に合わせるためか、先の検索エンジンを実現するための複製(47条の6)や、通信や機器利用時のキャッシュ(47条の5第1項1号)でも、違法に配信されたものは複製できない(新設される権利制限から除外)という限定が設けられている。しかも海外で配信されたものでも、日本で同じことをしたとして「違法」ならばアウトだとわざわざただし書きを付けている。
 違法配信にまつわるこのような「違法」複製の判断は、一応は受信側が「違法と知っている」かどうかが基準となっている。しかし「知っている」のかという主観的な要件なのに他人(司法)に判断されるということで、一介のユーザーである我々には不安の残るところである。実際問題として、我々が本当に「知って」いたのかよりも、判断する者がどう考えるかが重要になってしまう。

 受信した情報が「違法配信」だと「知って」いた――そう誤解されないようインターネットで振る舞おうとするなら、ユーザーはかなり萎縮的に行動せざるを得ない。国内外のあらゆる場所から情報が発信されている時代である、そのうちのどれだけが「適法」に配信されたものだとユーザー側で確信できるだろうか。“怪しいものには近づかない”としただけでも、とりわけ海外で発信された情報にはアクセスできなくなる。
 まして海外(現地)では適法に配信されていながら、日本法で違法とされるような場合も出てくるのなら尚更だ。それとも、ネットワークの利便性を享受したい人は、あえてそうしたルールを踏み越えていくことを立法者は想定するというのだろうか。守りようもない縛りばかりのルールなら、そうなってしまう可能性も(萎縮効果とは裏腹だが)ある。
 「適法」と「違法」の線引きを明確にし、ユーザーや事業者が萎縮的にふるまわくても済むようにするのでなければ、「日本版フェアユース」に先行して法律を変える意味がない。法案を今のままで成立させては、混乱かルール軽視につながるだけだ。

 違法配信の扱いについてもっと詰めていくべきだし、最悪でも、海外で配信された場合の「国内で行われたとしたならば~」とのただし書きを削除すべきだと思う。

主な改定箇所(メモ)

【30条1項3号】
●いわゆる「ダウンロード違法化」条項の追加。
●「デジタル方式」の録音・録画に限定されてはいるが、ネットワーク内での受信に伴う行為が対象となるため、殆どの場合は「デジタル方式」に当てはまるだろう。わざわざアナログ機器で録音・録画をする人もそうはいまい。意味不明な限定。
●一応は録音・録画の行為だけを今回は30条除外の対象としているが、ソフトウェアの違法ネット流通についても30条除外が求められている経緯からしても(特に著作権分科会では委員から「ソフトウェアも法案に盛り込むべき」との意見が出ている)、今後 音楽や映像以外の著作物も30条除外が叫ばれることになろう。
●「国外で行なわれる自動公衆送信であって、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む」とわざわざ書かれている点に問題。国内外の著作権法の違いによって生まれる「海外では適法に配信されているが、日本法では違法とされてしまう著作物の録音・録画」の扱いが難しくなる(参照:benli)。
●いわゆる「ダウンロード違法化」の問題点は、ユーザーから見て、配信されている著作物の適法性が保証されない点にある。特に日本レコード協会が策定した「エルマーク」は、日本国内での適法配信の一部を知る目印にすぎない。海外での配信は同種のマークが用意されているわけでなく、かつCCLに代表される権利者自らの意思で無償流通させる著作物も多く存在する(それですら必ずマークが付けられているわけではない)。区別が困難な場合、ユーザーの選択肢は「法を犯すリスクを負って利用する」か「萎縮して利用をあきらめる」かに限られるが、後者の場合「エルマーク」を使う一部の事業者へ利益誘導されてしまうといういびつな構造を生んでしまうことすら考えられる(現にレコード協会のキャンペーンは、エルマークのあるサイトから購入するよう勧めている)。
●実効性の観点からすれば、コピーガード回避規制と同程度にも思われる。コピーガード回避で民事訴訟になった例がどれだけあるのか。
●余談だが、違法配信からの複製と並行して著作権分科会で扱われていた「違法複製物からの複製」については今回の法案に盛り込まれていない。これも盛り込まれていたら相当に影響が大きかったところだろうが。かといって、「ダウンロード違法化だけで良かったね」とはならない。

【31条2項】
●国立国会図書館で所蔵資料のデジタル化が行なえるようになる条項の追加。資料の保存に関しては、これまでは資料保存のために「必要な場合」に限定して図書館での複製が許されていた(その他、利用者への複写サービスと、絶版本を他館の求めで複製することは可能だった)。今後は、国会図書館に限るが、納本を受けた時点で資料のデジタル化が可能になる。
●「当該原本に代えて公衆の利用に供するため」複製できる一方、「必要と認められる限度において」との限定は付けられている。どういった範囲で認められるようになるだろうか。
●「公衆の利用に供するため」とはどの範囲を想定しているのか。インターネット等を通じて閲覧させたり、複写サービスとしてデジタル化資料をデータのまま提供できるようになり得るのか、等の期待はある。従来のような、国会図書館内での閲覧や、デジタル化資料の複写を紙で提供することは可能にしてもらいたいが‥‥著作権分科会での説明では、利用のさせかたについて関係者間で協議中だという。まずはデジタル化だけを先行してできるようにしたというニュアンスのようだ。

【37条3項】
●視覚障碍者を対象としていた権利制限で、その対象が「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者」に拡張された。知的障碍や発達障碍の者も、録音図書などの作成や公衆送信の恩恵に浴することができるようになる。
●この権利制限で作成される録音図書などは「専ら」上記対象者に提供されるものとされ、「必要と認められる限度において」との限定も付けられている。つまり健常者が利用できるような形で提供されることは許されない。なお、録音図書などの作成主体も政令で指定される(この種の政令指定は現行法でも同じ。「法案概要」では公共図書館もこの主体に含むようにするとあるが、おそらく政令指定で対処することになるのではないか)。
●権利者によって既に障碍者向けの内容で提供されている著作物は、ただし書きでこの条項から除外されている。たとえば朗読テープが出ている著作物だと、勝手には録音図書が作れない。

【37条の2】
●聴覚障碍者を対象としていた権利制限で、その対象が「聴覚障害者その他聴覚による表現の認識に障害のある者」へと広げられた。既存の映画や映像に字幕・手話等の挿入が可能になり、また公衆送信もできるようになる。貸し出しのために複製することも可。
●「専ら」上記対象に提供されるもので、「必要と認められる限度において」の限定つき。提供主体も政令で指定される。
●権利者によって既に障碍者向けの内容で提供されている著作物は、この条項により字幕・手話等の挿入はできない。日本語字幕入りのDVDが発売されていたりすると無理ということになるのではないか。

【38条5項】
●映画フィルムや映像ソフトを無償貸与できる主体に、これまで政令で指定されてきた「視聴覚教育施設その他の施設」に加え、「聴覚障害者等の福祉に関する事業を行う」者も追加された。「~事業を行う」者もやはり政令で指定される。補償金の支払いも必要である。

【47条の2】
●美術・写真著作物の原本や複製物を譲渡・貸与しようとする際、ネット上で画像を表示することが可能となる条項の追加。ネットオークションに美術品・写真などの商品を画像で掲載するのは著作権に触れるのではと話題になった件に対処したもの。
●ただし、画像の表示には「複製を防止し、又は抑止するための」措置が必要だとしている。その措置の具体的な内容は政令で書き込まれるのだろう、国会提出の段階では明らかになっているとは言い難い。——著作権分科会の事務局の説明でも「未定」とのことだった。ただし鑑賞に耐えうる品質で画像化しないように、との限定は考えている模様。
●文化庁の見解では、この規定の対象になるのはネットオークションに限らず、リアルのオークションでカタログの作成も含まれるという。ただし、政令での「複製を防止し、又は抑止する」措置をどう想定するのか。印刷物ではこの種の措置は難しい筈だが‥‥さて。
●将来的にフェアユース規定が導入されるとしたら、この商品写真の件は、フェアユースかどうかを争って司法判断を問うべき典型的事例ではないだろうか。しかし「日本版フェアユース」として想定されている、個別規定を判断基準として残してそこから外れる場面で「フェアユース」を判断する方向では、今回追加される個別規定によって問題が生じるのではないか。本来は司法が判断すべきところ、政令が指定する方式でしかネットオークションに商品写真を掲載できないとする条項があることで、実質的にネットオークションの運営のあり方を行政がコントロールし続けることにもなりかねない(政令で指定された方式以外の場合は、改めてフェアユースかどうか司法判断を求めることが保障されるのなら別だが‥‥)。規範を作るべきは立法・司法・行政のいずれか、という話にも映る。

【47条の5】
●書きぶりが複雑で、理解するのが(他の条項にも増して)困難。私自身、いまだに理解できているかがわからない。
●アクセス集中や送信遅滞・機器故障などによる通信障害を防止するためのサーバ内複製(1項1号)や、サーバにある著作物(複製)が消失した場合に備えサーバ外にバックアップを取る行為が可能となる(1項2号)条項を追加。それぞれ「必要と認められる限度において」との限定が付けられ、またサーバ内複製では特に「著作権を侵害するもの‥‥を知ったとき」は従来通り著作権が及ぶとされる(海外で配信されたものでも、日本法の基準で著作権を侵害すると判断されればアウト)。
●プロバイダが通信を中継する際に「送信を効率的に行うために」する著作物の複製(キャッシュ)明示的に適法とする規定を追加(2項)。ただし「必要と認められる限度において」の限定がある。
●47条の5では、送信側と中継側の複製(キャッシュやバックアップ)について規定。受信側の複製(キャッシュ)については別の項目で扱っている。

【47条の6】
●検索エンジンに必要な、著作物の収集と蓄積・インデックス化・検索結果表示などを適法化する条項の追加。
●検索エンジンでの複製と自動公衆送信が可能となる著作物は、送信可能化されている著作物に限定されており、会員制サイトのように受信者の制限が施されていたり、クローラーによる情報の収集を拒否したりするサイトは、従来どおり権利者の許諾が必要。また、検索エンジン側も「情報の収集、整理及び提供を政令で定める基準に従って行う者に限る」とされる。
●「著作権を侵害するものであること‥‥を知ったときは、その後は」当該著作物を検索結果に表示することができなくなる。今回の法案にある同種の条件と同様に、またしても海外で配信されているものでも国内法の基準で「違法」ならば「著作権を侵害するもの」とみなされてしまう。
●検索エンジン関係の規定は、Googleなどのような米国の検索エンジンの発達と、国内での状況を見比べながら「権利制限を設けるべき」と待望されていたものではあった。しかし実際の条文を読んでみると、この条項の恩恵が受けられる事業者は政令の基準に合致する必要があり(その内容は現時点で不明)、しかも将来的な「フェアユース」規定の適用から外されかねない(司法判断ではなく行政の判断で適用範囲が決定されかねない)ものではないかと危惧される。

【47条の7】
●多数の著作物(ネットで配信されているものに限らない)から情報解析をするような研究が目的の複製を可能とする条項の追加。
●ただし「情報解析を行う者の用に供するために作成されたデータベースの著作物」は従来通り権利者からの許諾を必要とする。

【47条の8】
●コンピュータ上で、ネットワーク受信の際に「情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で」著作物の複製がおこなえる条項を追加。いわゆる「キャッシュ」の問題。通信側(配信・中継)は47条の5で扱っているが、こちらは受信側。
●ただし「著作権を侵害しない場合にかぎる」とのこと。ユーザーが家庭内でする場合は私的複製との関係が出てくるので、ここで著作権を侵害するかどうかは30条(本法案で追加される1項3号も含む)を加味して判断されると思われる。
●いわゆる「ダウンロード違法化」との絡みで想定されるのが、YouTubeやニコニコ動画で「著作権を侵害」して掲載されている動画を閲覧した場合。侵害との事実を知りながら閲覧したとしたら、PC内にキャッシュが作られることはどう解釈されるか‥‥。結局はキャッシュを複製と解釈するかの論点に戻り、私的録音録画小委員会で「YouTubeやニコニコ動画での閲覧まで禁止するものではない」とする文化庁の説明とは食い違うのではないか。
●これ、ユーザーが私的領域でする場合以外だとどうなるのか? たとえば企業内で「キャッシュ」が発生する場合とか(企業内では私的複製とされず、キャッシュが複製だとしたら著作権侵害と判断されかねないか?)。「著作権を侵害しない場合にかぎる」との書きぶりはこういう場面にも脅威なのではないか。

【67条】
●不明権利者のために利用許諾が得られない場合、その許諾に代えて文化庁長官が「裁定」し利用可能にする制度があるが、その際の手続が著作権法に記載されることとなった。ただし詳細は政令で定められるとされ、法案の附則によれば改定著作権法の施行後2年のうちに整備されるという。

【67条の2】
●ここも裁定に関する条項の追加。本法案の中で、裁定制度改善のミソはここにある。裁定の申請ができれば、正式な文化庁長官の裁定を待たなくても「担保金」を供託して著作物利用が可能となる。ただし、最終的に裁定されなかった場合は、ただちに利用をやめないとならない。
●なお、裁定を受けようとしている著作物を権利者が「廃絶」したいのが明らかなら、裁定を受けることはできない。
●供託金や、裁定後に補償金が権利者へ支払われる仕組みも著作権法に書き込まれる。

【78条】
●著作権の登録制度で、原簿を電子化できる旨が書き込まれる。
●登録によって「第三者に対抗」できる場面に、「信託による変更」が追加された。

【113条】
●著作権侵害とみなす行為に、海賊版を「情を知って」「頒布する旨の申し出」をすることも追加された。いわゆる海賊版の広告規制で、ネットオークションで海賊版を売る旨が掲載された場合もここに含まれると考えられる。
●書きぶりからすると、特にネット上での広告行為に限るのではなく、実社会でも適用され得るのではないか(チラシとか雑誌誌面とか)。
●個人的には、ブートレグの広告を掲載しているサイトや雑誌とかはどうなるのかと思ったり。規制されるのは「頒布する旨の申し出」ということで、ブートレグの話題を採りあげる多くの個人サイトは問題ないだろうが。

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2009年2月21日 (土)

「デジタル・コンテンツ利用促進協議会」のシンポジウムに存在価値はあるか?

 コンテンツのネット配信を促進できる法制度をまとめる「デジタル・コンテンツ利用促進協議会」(会長・中山信弘東京大学名誉教授)が、 3月12日の16時から如水会館でシンポジウムを開催する。同協議会の公式サイトで情報が掲載され、参加申込みの受付も始まっている。

 同協議会では、今年1月9日に制度案として「会長・副会長試案」を公表、1か月ほどパブリックコメントを募集していた。この結果を踏まえる形で、おそらくはシンポジウムの中で結果が示されながら、意見交換をおこなう趣旨なのだろう。

 「コンテンツ配信の促進を法制度で」という手法が議論される背景には、海外と比べ日本でネット配信が進まなかった原因として、コンテンツに複雑に絡む著作権・著作隣接権が挙げられがちだったことがある。現行の著作権法では、音楽や映像の著作者はもちろん出演者・レコード製作者・放送事業者など多数の権利者から許諾を得ないとネット配信ができない。同協議会の「会長・副会長試案」の主旨は、この多数の権利者と配信事業者との交渉コスト(そこには許諾を拒否されるリスクも含む)を下げる目的で、あるコンテンツにつき1名に権利を集約し許諾処理をさせるというところにある。
 しかしこの発想は、関係権利者の許諾権を制限するのと裏腹で、権利者団体から批判されている。実は「会長・副会長案」では、コンテンツの関係権利者の多数(割合はまだ決まっていない)が権利集約に反対すれば従来のままとされているが、かつて強制的な権利集約を主張していた「ネット法」構想(デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム——協議会副会長のひとり角川歴彦氏や、事務局長の岩倉正和弁護士もメンバー)に案の出自があるため、権利者側の警戒感が強いままだ。

 デジタル・コンテンツ利用促進協議会だけでなく他の団体でも、コンテンツ流通を促進するのに何らかの方策をとる案が考えられている。たとえばコンテンツ学会の「ネット利用調整制度に関する民間審議会」では、今後制作される番組でネット配信が決まっていないものに配信事業者を決めるオークションを義務付ける制度(ただし時限的な制度を想定)が模索されている。また、「ネットワーク流通と著作権制度協議会」では契約モデルと使用料分配モデルを放送番組のジャンルごとに設定することで、ネット配信の際の話し合いの手間を減らす方向性が議論されているらしい(今のところ協議会としてのまとまった案が公表されていないが、会長職務代行の松田政行弁護士によるいわゆる「松田私見」の形で発表された資料は存在する)。

 こうさまざまな組織で議論される“デジタル・コンテンツ流通促進策”が出始めた頃には、確かに日本国内のネット配信状況は海外に見劣りしていた。ところが、最近になってNHKTBSフジテレビなどで「見逃し視聴サービス」などが少しずつ開始される環境になってきた。ゆっくりした歩みではあるが、こうしてネット配信の試行錯誤が始まったことで、はたして法制度などに頼った「促進策」が必要なのか、との観点からの議論が今後出てくるのは間違いない。
 状況の変化を横目に、以前は強く「ネット配信を促進しろ!」と考えていた私にも実は変化が起きてきている。と言っても、コンテンツホルダーに任せておけば十分と考えているのではない。むしろ逆で、動画配信サイトを使って日本製コンテンツを知らしめる試みが始まっていても、日本のユーザーからは見えないようにしていることが多いのに呆れているのだ。米国でDRMフリーの配信が広がっていても、日本のユーザーは相変わらず不便を強いられ続ける実態もある(iTunes Storeが代表例ですな)。そうまでして日本人の視聴機会を制限したいのなら、日本のコンテンツ産業がジリ貧になっていくのを黙って見ててやろうかって気にすらなってしまう。
 かなり後ろ向きな態度だと自分でも思うが。

 いやいや。たとえば日本で作られているコンテンツが、より利便性の高い形でいつまでも享受できるようになっていてほしい——そこまでの強い愛着がある視聴者なら、おそらく現在の試行の延長だけでは満足できない筈だ。何らかの強制力を働かせるか、あるいはコンテンツの送り手側が目覚めてユーザーへ不便を強いるのを放棄しないかぎり、状況は改善しないだろう。“廃盤”“絶版”だったり、ユーザーが「欲しい」時・場所では入手困難な作品が存在して、海賊版のニーズを高め続ける。
 触れたい作品が海賊版でしか入手できないなんてことほど悲しい状況はない。しかしそんな事例はいくらでもあるわけで、そういう思いがある以上はこの「流通促進」の問題で黙っているわけにはいかないだろう。私も。

 心の持ち方ひとつではあるが、今の「流通」に不満があるのなら、やはり3月12日のシンポジウムに期待できるものはある。

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2009年1月26日 (月)

著作権分科会の前夜(メモ)

 著作権制度に関する2008年度の議論の締めくくりとして、26日の10時から著作権分科会が開かれる。「法制問題小委員会」「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」「私的録音録画小委員会」「国際小委員会」それぞれで検討されてきた結果の報告が出される予定だ。

http://www.bunka.go.jp/oshirase_kaigi/2009/chosaku_bunkakai_090126.html
「文化審議会著作権分科会(第27回)の開催について」
(文化庁)

 各小委員会の報告書案は、既に文化庁のサイトに掲載されている。実際の報告書で大筋に変更があることは考えられないが、いくつか細かな修正は入っているだろう。
 ともあれ、現時点で判っていることを軽くまとめておく。



http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h20_11/gijiroku.html

http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h20_11/pdf/shiryo_1.pdf

 法制問題小委員会では、「平成19年・20年度」ということで、2年分の検討結果が1冊の報告書にまとめられた。平成19年の「中間まとめ」と平成20年の「中間まとめ」がベースになっている。
 2年間で検討された課題は次のとおり。

・デジタルコンテンツ流通促進法制
・海賊版の拡大防止のための措置
・権利制限の見直し
・その他の課題

 「デジタルコンテンツ流通促進法制」について、「コンテンツの二次利用に関する課題として、権利者不明の場合の利用の円滑化」「インターネット等を活用した創作・利用に関する課題として、関連の権利制限規定の見直し」「権利者が安心してインターネットにコンテンツを提供するための環境整備としての海賊版の拡大防止策」を盛り込むよう提言しているが、流通促進法制を実施するということにまでは踏み込んでいない。

 海賊版については、ネットオークションなどで海賊版を売るとの告知を行う行為(譲渡告知行為)を禁止する方針と、海賊版被害について権利者の告発なく公訴できる「非親告罪化」を見送る方針が書かれている(平成19年度時点の結論から変更なし)。

 権利制限は、この2年間のメインの議題でもあった。しかし項目によって、ただちに権利制限に加えるべきとされるものと、慎重な検討を要す(つまり今後も議論を継続する)べきもので分かれた。
 障碍者に向けた、手話・字幕付きの映像や録音図書について、権利制限が認められる対象を緩める。たとえば視覚障碍者や聴覚障碍者に限っていた項目で「障害等により著作物の利用が困難な者」も含めたり、複製する人物や方式も従来より広げるなど。また、ネットオークションでの商品画像の掲載や、検索エンジンのサーバでの著作物の蓄積についても法改正することが妥当との結論を出している。なおこれらは2007年度に既に結論が出され、これまでの間、文化庁に放置されてきたとも言える。
 また、機器利用時の(機器内での著作物の)蓄積について「著作物等の視聴等に係る技術的過程において生じる」「付随的又は不可避的で」「視聴等に合目的的な蓄積物であって、‥‥合理的な範囲内の視聴等行為に供されるもの」といった条件を付けての立法措置を提案。通信過程での蓄積も「権利が及ばないこととする立法措置を講ずることが望ましい」とする。
 これらの法改正妥当とした項目の他、リバースエンジニアリング、研究開発上の著作物利用については議論を継続する旨でまとめられた。なお、薬事関係や図書館・学校教育などでも継続して議論する予定とされていた項目があったが、これらは実質的に議題に取り上げられず、今後の議論ということにされている。
 権利制限の課題については、報告書案が法制問題小委員会で了承されるさい、法改正すべきと結論された項目をより判りやすくすべきではないかとの委員意見が出されている。著作権分科会で提出される報告書では、そのあたりが修正されているものと考えられる(項目の入れ替えなどがあるか?)。

 違法複製物や違法配信物からの私的複製の30条除外(いわゆる「ダウンロード違法化」)については「その他の課題」の中で触れられるのみ。法制問題小委員会では、私的録音録画小委員会で(映像と音楽については)法改定妥当と結論付けたのをそのまま受け、プログラムの著作物についても30条除外するかが検討された。結果は法改定をただちに提言するものではないが、映像・音楽以外の著作物について検討を続ける旨でまとめられる。
 加えて、「ライセンシーの保護」「間接侵害」「法定損害賠償制度」も今後も検討を続けるとのこと。

 なお、知的財産戦略本部「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」での報告で注目される「日本版フェア・ユース規定の導入」については、法制問題小委員会の報告書において「その他の課題」として「順次検討を行うことが必要」と軽く触れられるのみ。

http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/hogo/07/haihu.html
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/hogo/07/pdf/shiryo_02.pdf

 保護利用小委は、「過去の著作物等の利用の円滑化方策」と「保護期間の在り方」の二本柱でまとめられる。保護期間の方については、各報道のとおり、延長要望派と慎重派との両論併記で「検討を続けることが適当である」とまとめざるを得なかった。
 利用円滑化については、権利者が不明の場合の著作物利用と、国立国会図書館が行うアーカイヴについては法的措置が妥当と結論。その一方で、多数権利者が関わる場合(少数の反対者による許諾拒否)、権利者の意思表示システム(自由利用マーク・クリエイティブコモンズなど)の法的バックアップ、二次利用・パロディ、非営利無償のアーカイブなどについては今後の検討とされた。
 


http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/rokuon/h20_5/gijiroku.html

http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/rokuon/h20_5/pdf/shiryo_01.pdf

 私的録音録画小委は、いわゆる「ダウンロード違法化」を実施するよう結論するのみで、私的録音録画補償金に関する合意は一切無かった。文化庁は、補償金にまつわる課題の整理が終わったかのように演出しているが、補償金廃止と補償金存続を同居させた「文化庁案」を掲げているかぎり、補償金問題が解決することはないだろう(私見)。

http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/kokusai/h20_02/gijishidai.html
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/kokusai/h20_02/pdf/shiryo_03.pdf

 国際小委員会では、世界知的所有権機関(WIPO)などの国際会議の動向をみつつ、日本が先行して何を検討・提案していけるかという「検討課題」がまとめられた。小委員会では「エンフォースメントの実効性確保に向けた取組」に強い関心のある委員が多い。模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の交渉が進んでいることもあり、検討結果よりも、むしろ今後の状況が大きく動きそうで要注目の小委員会ではある。

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2009年1月23日 (金)

権利者の「努力」をどう評価するかで、「流通促進法制」の評価も変わる

 21日に、総務省の情報通信審議会 情報通信政策部会「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」(通称・デジコン委員会)第48回会合が開かれた。

 デジコン委員会では、地上デジタル放送の著作権保護ルールをどう強制するかの検討を「技術検討ワーキング」で行っている。また、インターネットでのコンテンツ流通の効果と課題を実際の番組制作からさぐる試みを「市場取引ワーキング」で行っている。本委員会の下に2つのワーキンググループを設け、専門的で小回りのきいた議論をするという趣旨だ。本委員会では、そのワーキングでの検討経過を受けて議論を深める。ちなみに前の2回は、「技術検討ワーキング」の報告をもとに、B-CAS関連で議題が設定されていた。

 今回の議題は、もう一方の「市場取引ワーキング」に関するものだ。デジタル・コンテンツ利用促進協議会が1月9日に公表した、コンテンツの権利関係を整理する特別法を設けて流通促進をはかる「会長・副会長試案」(PDF)について、ヒアリングが行なわれた。また、同協議会とは対照的な立場をとる「ネットワーク流通と著作権制度協議会」で検討中の「流通促進方策」についてもヒアリングがあり、いわゆる「流通促進」の考え方に対する権利者側委員の疑義が相次いだ。

 特に、利用促進協議会の「会長・副会長試案」は、デジタル・コンテンツ法有識者フォーラムが提案した「ネット法」構想が叩き台になっているため、反発する声が目立った。

デジタル・コンテンツ利用促進協議会「会長・副会長試案」

 デジタル・コンテンツ利用促進協議会の「会長・副会長試案」に関するヒアリングは、同協議会事務局から弁護士の櫻井由章氏が出席して行なわれた。

 この協議会は、「コンテンツ大国」のスローガンを掲げる政府方針の一助にと、デジタル・コンテンツの利用促進策を議論する場として昨年9月に設立された。東京大学名誉教授で弁護士の中山信弘氏が会長、株式会社角川グループホールディングス代表取締役会長の角川歴彦氏と、参議院議員の世耕弘成氏、株式会社スクウェア・エニックス代表取締役社長の和田洋一氏ら3氏が副会長に就いている。デジコン委員会でヒアリングされる「会長・副会長案」というのは、この4氏が連名で発表したものだ。

 試案は、

●対象コンテンツの利用に関する権利の法定事業者への集中化
●権利情報の明確化(対象コンテンツの登録)
●適正な利用を過重な困難なく行い、原権利者に適正な還元がなされる仕組み
●デジタル・コンテンツの特性に対応したフェア・ユース規定の導入

――の4つが骨子となる。

 この試案の目的は、映画・音楽・放送番組をインターネットで配信するときに必要な権利処理を容易にすることにある(ただし音楽を対象から外すこともあり得るそうだ)。従来ならば、この配信にあたって、作詞家・作曲家・映画会社・レコード会社・放送局・出演者などの関係権利者(著作権者と著作隣接権者)すべてから許諾をもらう必要がある。そこで、新しい特別法を作り、1つのコンテンツにつき一人が“代表”して許諾をできるようにする。コンテンツを配信した事業者はその一人と交渉すれば良くなる仕組みだ。

 試案の中で、関係権利者を代表する「一人」を「法定事業者」と呼んでいる。「権利情報の収集等を行い原権利者に適切な還元を行う当事者としての協力を有すると認められる者」としている。「原権利者」というのはそのコンテンツに関係する著作権者・著作隣接権者のことで、彼らが「法定事業者」に権限を集めたくない場合には「別段の意思表示」をする。一人への権限の集約が原則で、ある程度の権利者が「意思表示」をしたときに集約をまぬがれる趣旨のようだ。

 「法定事業者」が配信の許諾を出せるコンテンツは、「コンテンツID登録事業者」へ権利情報を登録する。情報は公開され、登録から一定期間、原権利者からの異議を受け付けることで権利情報の正確さを保つ。「法定事業者」にはコンテンツ配信で得た利益を原権利者へ分配する義務が課されており、ここでの権利情報にもとづいて実行する。

 試案では、「公正」と言える利用行為が著作権・著作隣接権の侵害とならないとする「フェア・ユース」の規定を特別法に盛り込むことも提案している。この特別法がインターネット上でのコンテンツ利用を対象にしていることから、特にインターネット関連のサービスなどで導入が望まれている「フェア・ユース」を改めて定めるということらしい(著作権法にフェア・ユースを入れる場合、映画・音楽・放送番組以外のコンテンツや、インターネット以外の利用行為にも影響されるためだろう)。

 なお現在、試案に関してパブリックコメントが募集されている。2月10日締切りだ。


ネットワーク流通と著作権制度協議会 松田氏私見

 昨年11月21日に設立された「ネットワーク流通と著作権制度協議会」からは、会長職務代行で弁護士の松田政行氏がヒアリングに臨んだ。この協議会は法学者・弁護士ら118名が参加、新潟大学名誉教授で弁護士の斉藤博氏が会長に就いている。「コンテンツの流通促進方策」と「権利制限の一般規定」を検討するための分科会を設け、議論を続ける。ただし設立に関する報道を見たかぎり、「権利制限の一般規定」つまりフェア・ユースの導入には慎重な姿勢が目立つようだ。

 利用促進協議会のような「案」が、まだ制度協議会としてまとまっている段階ではないとのことで、今回のヒアリングにあたっては松田政行氏の「私見」として「コンテンツの流通促進方策」が語られた。

 この松田氏の「私見」においても、コンテンツのネット流通を「促進」させる方向性は利用促進協議会の「会長・副会長試案」と共通する。また、「デジタル・コンテンツネット流通を促進する要素」として(1)諸権利者間の配分ルールの合意(2)諸権利の一元化(3)メタデータ化(4)ビジネスモデル――といったキーワードを挙げた。ここも基本的には「会長・副会長試案」に近い方向性を持っている。

 しかし決定的に違うのは、「会長・副会長試案」が特別法を作ることを前提にしている点に対し、松田氏「私見」では「ガイドライン」と「契約モデル」を用意して流通促進を図る点だ。つまり現行法の枠内で「契約」をさせるということで、新たな立法を考えていない。対象とするコンテンツについても、音楽は実際にネット配信されていること、映画はすでに権利が映画製作者へ集約されていることから、放送番組に限定して提案されているという。

 松田氏「私見」によれば、放送番組をニュース・クイズ・バラエティーなどジャンルを分けて、関係する権利者の典型例を整理した「権利関係モデル」を作る。ジャンル分けはなるべく細かく設定する。そして、この権利関係モデルから必要な配分先を整理することで、各ジャンルごとの「契約モデル」を作成する。配信契約の際には、「権利契約モデル」の中から利用予定の番組に近いジャンルを探し出して、それと関連付けされた契約書の雛形(契約モデル)を使うことになる。この一連の手続きは「ガイドライン」として示されるわけだ。

 「権利関係モデル」から配分先、「契約モデル」を作るのは放送局や関係権利者の団体だ。基本的には当事者間の協議によって「契約モデル」まで持っていく。配信のための契約モデルが一度出来上がれば、あとは配信までスムーズに行く(ビジネスモデルは現場で考えられる)という趣旨だ。利用促進協議会の「会長・副会長案」では、契約に委ねていては時間がかかりすぎるとの前提で立法を提案していたが、その手法でもやはり当事者間の協議がなければ分配ルールは決まらない――と松田氏は指摘している。

 なお権利情報については、各権利者団体のデータベースと連動する形で、各テレビ局あるいは「権利処理機関」にデータベースが用意される。そしてガイドラインに基づいて利用があると、「権利処理データベース」へ登録される。このデータには権利者や関係者がアクセスできるようにして、透明性を確保する。利用から使用料の配分までに一定期間を設け、配分ルールに異議のある権利者が登場した場合はADR(裁判外紛争解決機関)の裁定に委ねるという(ただしADRで決着しない場合に裁判になることも想定)。


「流通促進」に疑義を出す権利者側委員

 櫻井氏・松田氏からのヒアリングを受け、「相変わらず、安価に効率よくコンテンツを配信したいという虫の良い話だ」と椎名和夫委員が批判した。また、利用促進協議会の「会長・副会長試案」の中で、「権利情報の収集等を行い原権利者に適切な還元を行う当事者としての協力を有すると認められる者」を「法定事業者」としていることを指し、「いったい誰がどのような基準で判断するのか」と疑義を出した。

 同協議会の「会長・副会長試案」については、コンテンツに関係する権利を映画会社・放送局・レコード会社らに集約するという「ネット法」構想から出発しており、これに対する権利者側の反発が強かった。そういった事情もあって「最大のネックはインターネットの収益性の悪さで、そこを改善することなく、なぜ法律で解決できるのか。前に(デジコン委員会で「ネット法」をプレゼンした)岩倉弁護士にも質問したが、答えが聞けていない」と椎名委員が指摘。他人の財産で商売をする以上は権利者との話し合いで時間と費用が必要なのはあたりまえで、ネット関連のような「特定の事業者や産業を優位に立たせるために立法をすることは許されない」(椎名委員)と反対した。

 これまでのコンテンツ流通は交渉と契約で決めてきた――と堀義貴委員も、日本音楽事業者協会と実演家著作隣接権センター(CPRA)が権利情報の集約で合意したこと、NHKオンデマンド開始前に短期間で許諾に至ったこと、5カ国に向けたドラマの配信が始まっていることなど、権利者側で努力を続けていることを強調した。

 佐藤信彦委員(フジテレビ)からも「なぜ性急にことを運ぶことを目指すのか。コンテンツ大国、コンテンツ立国という言葉の裏に、本当はコンテンツは何かの肥やしにすぎない。国が目指すべきは『コンテンツはいつでも安価で利用できることを前提とした』産業政策ということなのではないか」との、「流通促進」の前提に対する疑問が出された。


私見

 一言だけ。

 この「流通促進」策の必要性、そして新たな立法をすべきかという点について、以下の問いをどう考えるかで結論が変わるのではないかと思う。

●現状として、インターネットでのコンテンツの流通は不充分ではないか。
●一度世の中に発表されたコンテンツは、常に流通させるべきか。
●「権利者」と配信事業者との契約を待てるか。

 「流通促進」を望む側からすれば、権利者側からの反論に対しては、かなり身も蓋もない再反論をせざるを得ないような気がする。

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2009年1月11日 (日)

著作権で守られるのは「表現」か「廃墟」か

 時の流れの中で朽ち果てて人の記憶からも消えた「廃墟」を探し出し、フィルムへおさめる。その先がけとして活動してきた写真家が、同じように廃墟をテーマに撮り続ける写真家を訴えた。1月9日のことだ。

 原告は丸田祥三氏。群馬県の旧丸山変電所を写した作品で、1994年に日本写真協会新人賞を受賞した。以来テレビや雑誌、写真集『棄景』シリーズなどで廃墟写真を発表し続けている。訴えられた小林伸一郎氏の方も、『廃墟遊戯』『廃墟漂流』『NO MAN'S LAND 軍艦島』『亡骸劇場』などの写真集を発表、2007年には第38回講談社出版文化賞(写真賞)を受賞した。

 同じジャンルで活動する写真家同士が裁判で争うことになった理由は、丸田氏が先がけて発表した写真で知られるようになった廃墟を、小林氏も似たような構図で撮影して発表したからだ。丸田氏の側は、自身の作品のモチーフや「表現」を小林氏が不当に真似たもので、「著作権侵害」だと主張している。小林氏の側は「事実無根」としている。

 この裁判よりも前から、小林氏の作品のいくつかが丸田氏の先行作品に似ているとの指摘が、丸田氏のファンの間であったようだ。インターネットでは「検証サイト」が作られ、実際に画像で見比べられるようにして疑惑を伝えていた。また、雑誌『創』の2008年5月号では、フリーライターの七瀬恭一郎氏が「スター写真家をめぐり勃発した著作権騒動」という記事でこの問題を取り上げた。「検証サイト」でも雑誌記事でも、丸田氏だけではなく、他の写真家とも似たものがあるとの指摘がされている。

 では今回の裁判の中で、廃墟写真を多数発表している小林氏の作品のうち、どういった写真が「著作権侵害」ではないかと争われるのだろうか。丸田氏側が挙げたのは以下の5点のようだ(下記の5点は報道を合わせて判断した。カッコ内の撮影年・発表年などは、産経新聞の記事とTBSのニュースにあったものを合わせた)。同じく報道によれば、丸田氏は提訴の前に質問状を送ったとのことだが、小林氏からの回答はなかったという。

●群馬県・旧丸山変電所の建物跡
 (丸田氏:1987年撮影・1992年発表・1993年『棄景』収録、
  小林氏:1995年撮影・1998年『廃墟遊戯』収録)
●栃木県・足尾銅山付近の建物
 (丸田氏:1987年撮影・1992年発表、
  小林氏:1996年撮影・2003年『廃墟をゆく』収録)
●秋田県・奥羽本線旧線の橋梁跡
 (丸田氏:1990年撮影・1992年発表、
  小林氏:2001年『廃墟漂流』収録)
●静岡県伊豆市・大仁金山付近の建物
 (丸田氏:1990年撮影・1992年発表、
  小林氏:1995年撮影・1998年『廃墟遊戯』収録)
●奥多摩ロープウェイ機械室の歯車
 (丸田氏:1992年発表・2005『棄景V』収録※、
  小林氏:2000年撮影・2001年『廃墟漂流』収録)
 ※前記検証サイトによれば2000年『棄景IV』にも収録されているとのこと。

 いずれも、同じ建物を似た角度で撮影したものだ。「検証サイト」などで指摘された写真の中でも、特に似ているものを選んだように思われる。先行した丸田氏は、自力で探し出した廃墟を撮影したという。5点のうちには、丸田氏が新人賞をもらった作品も含まれる。自身が写真におさめるまでは世の中に知られていたものではなく、それを見た小林氏が真似たというのが丸田氏側の主張だ。ただし、丸田氏が一貫してモノトーンで撮影するのに比べ、小林氏はカラーで撮影するという違いはある。そして撮影した地点が近いものの、全く同じというわけでもない。

 これらの問題になっている写真は産経新聞のサイトで4点が、TBSニュースの動画配信でもこの5点に加えて他の「似ている」作品(奥多摩湖ロープウェイ、越川橋梁)が参照できる。なお今回の訴訟で触れられていない写真には、被写体が共通しているものの撮影の角度がまったく異なるものもある。

 今回の裁判のように、ふたつの作品の間で「著作権侵害」があったかどうかを判断するためには、次のような判断基準が使われる。まず、真似たとされる方の作品がもう片方の表現を参考にしたのかという「依拠性」だ。そして、先行作品を強く連想させるほど似ているのかという「類似性」だ。この二点を丹念に検討して判断されることになる。

 この二点だけを見れば、確かに小林氏の作品は丸田氏の発表よりも遅くに撮影され、しかも写真の表現そのもので似た印象を受ける。しかし私がこのニュースを見てすぐに考えたのは、両者の「違い」の方だった。色づかいや、被写体をどの角度で撮っているか、写真の枠をどこで切るかという「フレーミング」などに違いを見たのである。写真が「著作物」として扱われる理由も、こうした撮影手法の選択に著作者としての個性が反映され、「表現」としての写真が完成するからだ。問題になっている写真でも「類似性」を否定するだけの違いがあるのか‥‥ここに難しさがあるように私には思えてならない。

 何をもって「似ている」と判断するのか。線1本にも個性が発揮されるイラストや絵画とは違って、同じ被写体を使えば表現として似てしまう写真で同じ判断はできない。特に、撮影の際には足場などの制約で、どういった構図にするのか選択肢も限られてくる。同じ被写体を撮るのに、角度などの違いが考慮されず「著作権侵害」とされるのでは、一度ある写真家に撮影された建物は他の写真家が撮れなくなってしまう。

 たとえば、丸田氏がモノトーンで撮影したのと同じ建物を、カラーで記録しておきたいというニーズは発生しないだろうか。また、写真の世界には、ある地域を長い年月かけて記録していくというジャンルもある。定点観測のように、あの建物が年月を経る様子を撮影することは丸田氏以外にできなくなるのだろうか。

 私が今回の裁判で心配しているのは、そういった表現に対する影響だ。確かに問題とされている写真はどれも「似ている」ものが選ばれている。しかし、同じ被写体を撮影した写真家が今後も「著作権侵害」となってしまうような判断が出てしまっては、問題の5枚だけにとどまらない影響が写真の世界に出てしまいかねない。

 時事通信の記事で伝えるところでは、「原告側は、被写体と構図の選定には、文献を調査し、現地に何度も足を運ぶなど多大な労力を要し、高い創作性があると主張」しているのだという。ただ、著作権で保護されるのは「表現」の方だったはずが、ここで保護を求めているのは「廃墟」の方のように聞こえなくもない。

 指摘された5つの建物を撮影するときに、とり得る選択肢から「表現」を真似たのか、そもそも真似ようとしなくてもああなってしまうものなのか、慎重な判断が要求される。仮にこの裁判で「著作権侵害」と判断されても、複数の写真家が同じ被写体を撮影したときの、著作権侵害を避けられるラインを判決の中で示唆してくれるよう願っている。

 最後にひとつだけ私の個人的な感想を書いておこう。忘れられた廃墟を再発見し、誰よりも早く写真におさめて発表した丸田氏には敬意を持っている。そうした実績を持ち、社会からもそのように知られ、しかも優れた写真を残している。本当に私個人の感覚でしかないが、問題になった写真だけで比較するなら、丸田氏の作品の方が心に迫るものがあるように思う。




 ここからはオマケみたいなものです。

 ネットで参照できる報道は、主として以下のようなものがある。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090109/trl0901091929005-n1.htm
「廃虚写真『模倣された』 プロ写真家が同業者を提訴」
(MSN産経ニュース) 2009.1.9

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090109-OYT1T00663.htm
「廃虚写真家『場所や構図まねされた』とライバル提訴」
(YOMIURI ONLINE) 2009.1.9

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20090110k0000m040086000c.html
「提訴:『廃虚写真まねされた』プロ写真家が賠償求め」
(毎日jp) 2009.1.9

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2009010900722
「『廃虚写真、まねされた』=プロ写真家が同業者提訴-東京地裁」
(時事ドットコム) 2009.1.9

http://news.tbs.co.jp/20090109/newseye/tbs_newseye4034842.html
「『写真は盗作』、著作権侵害で提訴」
(News i) 2009.1.9

http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00147285.html
「『廃虚』写真めぐり著作権を侵害されたとして写真家が別の写真家を提訴」
(FNNニュース) 2009.1.9

 今回の訴訟が難しいのは、目の前に存在する物体を、機械によって画像に定着させるという写真表現の特殊性があるためだ。かつて写真は他の「著作物」よりも低い保護しか与えられなかった(たとえば保護期間が短かった)のは、こうした機械的に作られる側面があるからだという。しかし写真表現というものが社会に根付いた現在では、素人の撮った写真とプロの撮った写真が全く同じだという人はいないだろうし、法律の上でも写真は「著作物」のひとつとして扱われている。
 写真が「著作物」である理由として、著作権の概説書では次のように示している。中山信弘先生の『著作権法』から引いてきたものだが、被写体の選択、シャッターチャンス、シャッタースピードや絞りの選択、アングル、ライティング、構図やトリミング、レンズとカメラの選択、フィルムの選択、現像や焼付‥‥と、これだけある技法によって思想・感情が表現されるという。
 しかし、同じ被写体を撮った場合はどうなるのかという問題は、今回の訴訟にかぎらず出てきてしまうことだ。写真の著作物がどれだけ著作権法で保護されるのかという点について、同じく中山・著作権法(93ページ)から——

写真著作物の保護範囲は、通常は絵画より狭く解釈されている。写真そのものを利用した場合、具体的には当該写真を複写したり、写真を基に絵を描いたりした場合に侵害になると考えられることが多い。写真著作物の保護範囲については、被写体との関連で二つに大別できよう。一つは、被写体が所与の存在でその制作に撮影者が関与していない場合であり、他の一つは撮影者が被写体を自ら制作した場合である。
 前者の例としては、富士山のような風景写真がある。富士山を撮影する場合でも、季節、場所、時間、方向等で様相が異なるが、それは既に存在する被写体の諸様相の中から一つを選んだということであり、その選択自体は著作権法上保護されない。その選んだ様相の一つを、カメラワーク等の創意工夫によってフィルム上に創作的に表現して始めて著作物となる。その著作物性は被写体ではなく、撮影者のカメラワークを中心に判断される。そうなると、理論的には他人の写真自体を複写せずに、同じ被写体を同じ場所で自ら撮影しても非侵害となろう。その意味で、そのような写真の著作権の保護範囲は、事実上その写真自体を用いた複製や翻案に限られよう。

 写真がその特性上、著作権による保護の範囲を狭く考えざるを得ないという点をもって、今回の裁判で「著作権侵害」と判断されるべきではないと私は主張するわけでもないのだけれど。あくまでも、難しい問題だよなぁと嘆くしかなくて、どちらの判断もあるように思う。

 厳密には同じとは言えない写真について裁判で争われ、被写体のアイディアを真似したということで著作権侵害と判断された事件が過去にはある。「スイカ写真事件」あるいは「みずみずしい西瓜事件」と呼ばれるものだ。原告の丸田氏側は、今回の訴訟で著作権侵害だと判断され得る根拠にこの判例を挙げている。

 問題になった写真はこちらを見ていただきたい(PDF。上が原告、下が被告)。扇型に切ったスイカ6切れを、スイカの器に斜めに並べた写真で、奥につるのついたスイカが配置されている。被告の側は6切れのスイカが倒れている方向が逆だったり、器になっているのが冬瓜だったりと、若干の違いがある。しかし高裁判決で、この程度の差異では「類似性」を否定するものではないとされた(もちろん、侵害を判断するもう一つの要素「依拠性」も別に立証されている)。

 ただし、この事件特有の事情というのもあるのだ。たとえば、被告の側で原告の本を入手していることが判っていたりする(原告も被告も同じ写真カタログを扱う業者にネガの管理を委託していて、原告がその業者にあらかじめ自身の写真集を送っていた)。また、被写体となったスイカを、原告自らがセッティングしたという点がある。そこに写真家としての創作性がより入り込む余地があって、被告が改めて撮影した写真が原告のものとここまで似るのは意図して著作権を侵害したためだと判断された。

 つまり、被写体がある場所にもともとあるものだと、スイカ写真事件と同じ結論が出るのかという疑問がある。スイカ事件の判決(最高裁判所サイトに判例が掲載されている)を読んでも、こうした疑問点をの存在を示唆した箇所がある。

 写真著作物において,例えば,景色,人物等,現在する物が被写体となっている場合の多くにおけるように,被写体自体に格別の独自性が認められないときは,創作的表現は,撮影や現像等における独自の工夫によってしか生じ得ないことになるから,写真著作物が類似するかどうかを検討するに当たっては,被写体に関する要素が共通するか否かはほとんどあるいは全く問題にならず,事実上,撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分が共通するか否かのみを考慮して判断することになろう。
 しかしながら,被写体の決定自体について,すなわち,撮影の対象物の選択,組合せ,配置等において創作的な表現がなされ,それに著作権法上の保護に値する独自性が与えられることは,十分あり得ることであり,その場合には,被写体の決定自体における,創作的な表現部分に共通するところがあるか否かをも考慮しなければならないことは,当然である。写真著作物における創作性は,最終的に当該写真として示されているものが何を有するかによって判断されるべきものであり,これを決めるのは,被写体とこれを撮影するに当たっての撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等における工夫の双方であり,その一方ではないことは,論ずるまでもないことだからである。

 ここでの判断は、「撮影の対象物の選択,組合せ,配置等において創作的な表現がなされ,それに著作権法上の保護に値する独自性が与えられる」スイカ事件の特徴に限定されるのではないか。しかも、今回の訴訟で小林氏側が主張しているような点についても、スイカ事件の判決は(被告がこの主張をしていたために)次のように触れている。

 しかしながら,当裁判所は,先行著作物と被写体が同一ないし類似のものである写真一般について,そのような写真を撮影するのが著作権法に違反するといっているのではない。特に,先行著作物の被写体を参考として利用しつつ,被写体を決定し,自らの創作力を発揮して新しい写真を撮影することが,著作権法に違反するといっているのではない。当裁判所がいっているのは,先行著作物において,その保護の範囲をどのようにとらえるべきかはともかく,被写体の決定自体に著作権法上の保護に値する独自性が与えられているとき,上記のような形でこれを再製又は改変することは許されないということだけである。したがって,上記のように解したからといって,写真による表現行為が著しく制約されるということに,決してなるものではない。

 同じ論理で今回の裁判が判断されるとしたら、それは「廃墟」を丸田氏のものとして保護してしまうことにならないのかなと少し思ってしまう‥‥。

 本当に最後。今回の原告・丸田氏の側に代理人としてついているのは小倉弁護士だったんですね。後でニュース映像を見直したら、しっかり顔が写っていました。最初に見た時は丸田氏の顔ばかり見ていたので、気付きませんでしたよ。

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2009年1月 2日 (金)

B-CASをめぐる議論に望んでいたもの

前のデジコン(総務省「デジタル・コンテンツの流通の流通の促進等に関する検討委員会」)で、地上デジタル放送のスクランブル解除の「新方式」が提案された。今後「小型カード」「事前装着カード」「チップ」「ソフトウェア」のいずれかを導入して、ユーザーにストレスを与えず地上デジタル放送へ移行してもらおうという話だ。

しかし注目すべき点が、「新方式」と並存する形で、現行のB-CAS方式も残すとの前提が立てられたところだ。デジコンの議論の中で、B-CASの限界が指摘され、新しい方式を導入するなどの今後のあり方が検討されてきた。そしてB-CAS廃止に世間の注目が集まり、委員の意見でも「B-CASにはこだわらない」旨が繰り返されてきたのである。それが、今回一転して「存続」という話になった。これには私も少なからず失望させられた。

「失望」した以上は、おそらく私の中にも何か望むものがあったのだろう。これまでは漠然とした思いでしかなかったのだが、ここで少し整理して考えてみる。

B-CAS方式は、地上デジタル放送にスクランブル(暗号)をかけ、その解除の「鍵」としてB-CASカードを用いる。受信機に同梱されたB-CASカードを、ユーザー自らが受信機へ差し込まねばならない上、そのカードはあくまでもB-CAS社から貸与される形となる。暗号技術の内容や、B-CASカードの管理を一民間企業であるB-CAS社が行なっているのが大きな特徴だ。ユーザーから見ればかなり煩わしい。

デジコンでは、このB-CAS方式を支持する委員意見は出なかった。逆に、委員からさまざまな課題を突きつけられていた。「基幹放送」として無料で流されている放送にスクランブルをかける正当性への疑問や、受信機メーカーへB-CASカードの使用を強制するため商品の多様性が損なわれている弊害、すでにB-CAS方式の裏をかく海外製の機器が登場している事実などの指摘だ。今後B-CAS方式を続けるとしても、これらをクリアする必要がある。

順番に見ていこう。まず、日本全国にあまねく届けられなければならない「基幹放送」という地上デジタル放送の性格が、B-CAS方式によるスクランブル化になじむのか。B-CASカードを「鍵」としてスクランブルを解除する仕組みなので、そのカードを持っている人に、対応機器でのみ視聴させるということになる。災害時の情報提供など、誰にでも受信できる状態にしておく必要のある「基幹放送」とは正反対の性格である。使用前のB-CASカードのセッティングやその管理、場合によってはカードの入れ替えなどをユーザーに強いることとなるが、そこまでする意味がどうにも見出せない。

また、B-CASカードという物理的な制約と、B-CAS方式の仕様に従わねばならないという強制力のために、メーカーが作る商品の選択肢が限られてしまうとのデメリットがある。小型化が図りにくかったり、コストの問題からか価格面でもアナログテレビの水準までこなれているとは言い難い。先日のデジコンで提案されたのは、受信機の「選択肢」を増やす方策だった筈だが、B-CAS方式が残ることで、その効果も思うように出ないのではないかと私は危惧する(これは後述する)。

こうまでして地上放送のスクランブル化をおこなうのは、著作権保護ルール「ダビング10」をメーカーに厳格に守らせるためである。ルールに従わない機器にはB-CASカードを発行しないという運用でもって、B-CAS方式に準拠した受信機だけが地上デジタル放送を視聴できるという仕組みだ。しかし、この目的すら現行のB-CAS方式は果たせていない。

B-CASカードは、対応機器の間でなら使い回しがきく。だから、フリーオのように海外で作られ、著作権保護ルールを無視した番組コピーし放題の機器にも使えてしまう。別機器用として入手したカードを差し込めば、地上デジタル放送が視聴可能になる。こうしたB-CASカードの使い回しは、B-CAS社とユーザーとの間で結ばれる貸与契約の中で禁じられてはいるが、契約違反のユーザーをB-CAS社が知ることは難しい。それに加えて、今ではB-CASカードを差さなくても視聴できるようフリーオが“改良”されている。

以上のことは、別に私だけが考えているものではない。デジコンでも直接指摘されてきたことだ。意図通りに運用できていないB-CAS方式を残してしまうのでは、デメリットが先に立つのではないかとすら思える。

B-CASの実効性を求めるなら、フリーオへの対処が必要だ。しかし、B-CAS方式は、 Dpa(デジタル放送推進協会)とARIB(電波産業会)が決定した技術資料にメーカーが従うという「民民の決めごと」でしかない。「ダビング10」ルールがこのデジコンで決められたという経緯はあるが、これは単に当事者間の相談の場が総務省の審議会に置かれただけで、法律によるルールの強制があるわけではない。だからこそ現時点で、フリーオに対してルール無視をやめさせる方策が見つかっていないわけだ。

デジコンの検討の大元にあるのは、著作権保護ルールをどう強制させるかという手法だ。「技術・契約」と「制度」の2通りが想定され、現行のB-CASや「新方式」で考えているのは「技術・契約」の強制力だ。一方、「制度」の強制力とは、要するに著作権保護ルールを破る行為を法律で禁止するなどの対応を指す。これまでのデジコンでは「制度」での対応に消極的だった。しかし、「技術・契約」だけで対応するには不充分と言わざるを得ないB-CASをもし存続させるなら、制度的対応を取るとの方向転換を迫られることになる。

「制度」的対応で対処できるのなら、素直に導入すれば良いではないかとお思いの方もいるだろう。ところが、B-CASの場合はそう簡単な話ではない。B-CAS方式やダビング10のような「民民の決めごと」を法律で強制することが問題をもたらさないかを気にしなければいけないのである。この決めごとが受信機メーカーに強い拘束力を持ち、決めごとの枠外にあるメーカーの参入を難しくしたり、枠内のメーカーすら機器の使用を決める上での選択肢を失って、市場競争が損なわれているとの指摘が、今の時点でもある。たとえばB-CAS方式の「鍵」の管理をし、ユーザー情報を握っているのが民間会社のB-CAS社たった1社という歪んだ状況だ。国がこれをさらに固定化することになりかねない。

心配なのは「制度」的な強制の話だけではない。B-CAS方式と並存するとの前提では、いま議論されている「新方式」の選択にも影響するのではないかと考えられる。言うまでもなく、どんな方式を選んでもコストというのはかかるものだ。B-CASが存続すれば、単純に移行させるよりも、B-CASと「新方式」双方のコストで多くかかることになる。となれば、現行方式に近いもの――B-CAS社が関与する、カードの小型化や事前実装などに落ち着く可能性が高くならないだろうか。

B-CAS廃止の選択肢をデジコンが排除したことで、私が危惧しているのはここである。B-CAS存続のために「制度」的な強制力を導入し、あるものを“有効に”使うとしてB-CASに近い「新方式」が選択され、結局B-CAS社の“独占”状態が継続していくという事態だ。

何とも閉塞感に満ちた話ではないか。デジタル移行(アナログ停波)へ向けて、さまざまな対処をしようとするのは判る。しかしB-CASといいダビング10といい、すでに破綻しているものを、現行の仕組みをこねくり回して維持しようとしている。

確かに、デジコンではこれまで長い時間をかけて議論が行なわれてきた。しかしそこで出された結論というのが、地上デジタル放送にスクランブルが必須であることと、著作権保護ルールが「ダビング10」で、ユーザーの録画については権利者への「適切な対価の還元」を考える、といった内容だった。その結果、多大なコストをかけてスクランブルを施し、その技術が及ばないところでコピーされる番組に「制度」的に対応を試み、「適切な対価の還元」の議論が延々と続くことになる。

この議論で幸せになった人はいるのか。いっそのことスクランブルに固執するのをやめた方が、議論がすっきりするようにも思う。B-CAS方式から新方式へ移行した場合、すでにB-CAS方式の受信機を買ったユーザーが視聴できなくなることを心配してB-CASを残すとのことだが、スクランブルを無くせば問題は起こらない。

おそらく早い段階からボタンの掛け違えがあって、ここまでこじれてしまった。地上デジタル放送の著作権保護ルールについて議論するのなら、私的録画補償金の問題も含めてトータルに考えるべきだった。地上デジタル放送は総務省、補償金は文化庁の管轄ではある。しかし、互いの領域を避けたがためにこの現状がある。総務省は「適切な対価の還元」と曖昧な文言を使い、文化庁では補償金問題が暗礁に乗り上げた。ユーザーの私的録画の自由が保障されるとの趣旨が貫徹されるのなら、まだしも私的録画補償金に存在価値があるようにも思えるのだが‥‥。

そういう横断的な議論のできる場が、今までも、これからも、霞が関に用意されない。残念なかぎりである。

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2008年12月30日 (火)

ACTAの中身が気になるが、肝心の条文はいまだ明らかにならず‥‥

 タイトルでいきなり「ACTA」と書いてしまっているので、何のことかと思われた方がいるかもしれない。「模倣品・海賊版拡散防止条約」という新しい条約の構想のことで、「Anti-Counterfeiting Trade Agreement」の略である。2005年のG8グレンイーグルズ・サミットで当時の小泉首相が提唱し、今では日本・米国・EU・スイス・カナダ・韓国などが集まって「関係国会合」が開催されている。
 日本国内では、内閣府にある知的財産戦略本部が毎年発表する「知的財産推進計画」で、2005年版からこの構想が盛り込まれてきた。それを受けて、文化庁の文化審議会や、経産省の産業構造審議会などで経過が報告されるようにもなっている。
 ただ、そうした資料から条約構想の概要をしることはできても、肝心の条文の内容などが明らかになっていない。今年後半に入ってから関係国会合が頻繁に開かれており、経産省の発表によれば、条文案をもとに議論するところまで来ているということだ。
 ここでは、私が自分用のメモも兼ねて、これまで明らかになっている資料について書き留めてみる。

 まず最近に公開された情報としては、12月18日付で経産省が「12月関係国会合の概要」を発表している。それによれば、12月15日から17日にパリで会合が開かれ、日本・米国・EU(欧州委員会とメンバー国)・スイス・カナダ・韓国・メキシコ・シンガポール・豪州・ニュージーランド・モロッコが参加したという。
 この関係国会議では、今年6月に開かれた会合から条文案をもとに交渉を開始し、7月29日~31日(ワシントン)、10月8日~9日(東京)、そして今回のパリで4回目だという。ただしそれ以前にも、2007年10月に日米欧などから条約締結に向けた動きを加速する旨が発表されてから「非公式な協議を継続的に行なってきた」らしい。
 次回会合は2009年3月にモロッコで開催される予定。「可能な限り早期の妥結を目指す」としている。

http://www.mofa.go.jp/Mofaj/press/release/h20/8/1182255_914.html
「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)構想 (7月関係国会合の概要)」
(外務省) 2008.8.1

http://www.meti.go.jp/press/20081009002/20081009002.html
「模倣品・海賊版拡散防止条約
 (Anti-Counterfeiting Trade Agreement, ACTA)構想
 (10月関係国会合の概要)」
(METI/経済産業省) 2008.10.9

http://www.meti.go.jp/topic/data/e81218j.html
「『模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)構想』
 12月関係国会合の概要について-注目情報」
(METI/経済産業省) 2008.12.17

http://www.meti.go.jp/press/20081218001/20081218001.html
「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)構想(12月関係国会合の概要)」
(METI/経済産業省) 2008.12.18

 では、この「模倣品・海賊版拡散防止条約」構想というのはどういう内容なのか。大枠については、外務省・経産省・文化庁などから発表された資料から知ることができる。
 「模倣品」とは、特許権・商標権・意匠権などを侵害して作られたものを指す。作り手を偽って買わせるニセモノのことだ。そして、「海賊版」は著作権を侵害して作られたものを指す。最近は「物」に限らない、データとしての著作物のやりとりも問題視されてきている。
 こういった模倣品・海賊版が売買されることで発生する害悪の例として政府が挙げているのは、「企業が本来得るべき利益を損失させる」「創作者の開発と創作意欲を減退させる」「消費者の安全や健康を脅かす」「犯罪組織・テロ組織等の資金源にもなる」ということ。これらのうち、金にからむ部分は割とよく聞く理由だが、「消費者の安全や健康」というのは比較的最近聞くようになった謳い文句ではある。これはニセの薬や粗悪品が流通することによる影響を指したものらしい。
 模倣品も海賊版も一国の中で完結しているのなら、その国の法律で取り締まれば済むことだ。しかし模倣品・海賊版の場合は、ある国で製造されたものを他国へ輸出したり、数カ国の港を経由し積み替えることで製造国を判りづらくする実態がある。また、模倣品の本体と偽造ラベルとを別々の国で作り、それぞれを持ち込んだ国で最終的に組み合わせるなど、多くの国が複雑に関係する場合もある。そこで、国を超えて模倣品・海賊版対策の一定のルールを決めようというのが「模倣品・海賊版拡散防止条約」構想ということになる。
 この構想の中では、「国際協力の推進」「知的財産権の執行の強化」「法的規律の形成」が三本柱になっている。国際協力では、各国間での情報共有や途上国への制度整備協力をすることを想定する。執行強化では、知財関連法令の情報や手続きを公表するとともに、消費者の意識を「向上」させる取組みも行なう。そして法的規律では水際措置・刑事執行・民事執行についてのルールづくりをする。税関での差止・没収・破壊を確実にする方策や、模倣ラベルの刑罰強化、「非営利目的の著作権侵害への刑事罰の適用」、「権利者が十分な損害賠償を受けるための措置」が挙げられている。
 こうした大枠について述べた資料を示しておく。ネットに掲載されており、日本語でかかれた資料だ。まず文化庁でまとめたものは、2008年1月11日に開催された、文化審議会著作権分科会の国際小委員会での配付資料で読める(資料6「模倣品・海賊版拡散防止条約について」)。経産省によるまとめは、2008年4月24日付の産業構造審議会 通商政策部会(第7回)での配付資料だ。文化庁の方も経産省の方も、趣旨はほぼ同じ中身だが、文化庁の資料で「知的財産権全体としつつも、特に模倣品・海賊版問題の中心となっている商標権及び著作権侵害に焦点を置く」との一文があるのが興味深い。経産省の側も、開催情報を見るとこの12月9日に開催された第8回通商政策部会で追加報告があった模様だ。私はこの会合を傍聴できなかったので内容はまだ分からないが‥‥。
 この他、11月になって外務省がサイトにあげた国民向け広報がある。これなどは読んでいて分かりやすい。



http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/009/08011520/002.pdf

「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA:Anti-Counterfeiting Trade Agreement)

 (仮称)構想について」

(文化庁:文化審議会著作権分科会

 国際小委員会2007年度第1回・配付資料・PDF)2008.1.11



http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g80424d04j.pdf

「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)について」

(経産省:産業構造審議会第7回通商政策部会・配付資料・PDF) 2008.4.24



http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol16/index.html

「わかる!国際情勢 Vol.16 模倣品・海賊版を取り締まれ!

 ~現状と模造品・海賊版拡散防止条約(ACTA)構想」

(外務省) 2008.11.26



http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g81209a04j.pdf

「模倣品・海賊版拡散防止条約 (ACTA)(仮称)構想について」

(経済産業省・産業構造審議会第8回通商政策部会資料・PDF) 2008.12.9

 ここまで資料をかき集めてみても、結局わかるのは「大枠」だけだ。最後に挙げた、産業構造審議会の12月9日付の資料が最も新しいが、この時点で開催されていた3回の関係国会合で「水際措置」「民事執行」「刑事執行」が取り上げられた旨が追加されているにとどまる。やはり条文レベルにまで具体化した情報が欲しい。

 大枠の時点でも気になるところはある。国内の「海賊版」問題に対処するため、文化庁の審議会で、違法複製や違法配信からの録音・録画を違法とするいわゆる「ダウンロード違法化」の方針が固められているところだが、これは現行法の枠組みでは権利者側の立証の困難さを前提としてゴーサインが出された側面がある。私的録音録画小委の報告書によれば――

仮に現実に民事訴訟を提起する場合においても、利用者が違法録音録画物・違法配信であることを知りながら録音録画を行ったことに関する立証責任は権利者側にあり、権利者は実務上は利用者に警告を行うなどの段階を経た上で法的措置を行うことになると考えられるため、利用者が著しく不安定な立場に置かれて保護に欠けることにはならないと考えられる。

とされる。しかし、条約によってこの立証が簡便化されることになれば、一般ユーザーにとっての脅威が強まることになるだろう(適法に入手した複製ですら、その適法性を示すのが難しい場合も少なくない)。
 現行法の中だからこそ一応のバランスが望めるところに、条約によって現行以上の保護水準が要求されることで、ユーザーにとって害になる法改定へと結びつくおそれが無いわけではない。特に海賊版の取り締まりに伴う、税関での持ち物検査や、インターネットでの発信情報のチェック、刑事手続きでの非親告罪化、民事手続きの簡便化などが課題として挙がるものと考えられる。無論これが実際に条約に入ってくるかどうかは判らないわけだが、日本政府の方針として現行法の範囲内でとどめるつもりだったらまだしも、実は2006年9月15日の時点で「模倣品・海賊版対策関係省庁連絡会議」が条約交渉に向けた方針を決定している。

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/mohouhin/kettei/060915housin.pdf
「『模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)』構想の実現に向けた基本方針」



 効果的な制度を複数国で整備し、各国間の協力の拡充により執行活動の強化を図るという本条約構想の目的を踏まえ、条約内容の検討に際しては、新規の制度整備の可能性を排除せず、条約の実効性の確保、国内制度との調和、制度の合理性など、総合的な観点から行う。

 国内での政治情勢や審議会の空転などで、著作権法の次の改定がいつになるか見えない状況ではあるが、詳しい内容が明らかにされないままACTAの内容が固まってしまい、いつのまにか次の著作権法改定の中身も審議会・国民の頭越しに決まっていたなんてこともあり得る話ではある。
 それなのに、全然情報が出て来ない気味の悪さ。もう少し情報公開が無いものかと思わずにはいられない。

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2008年12月23日 (火)

いつのまにかB-CAS廃止の話は吹っ飛んでいて、追加する新ルールを考えるという話になっている

 22日に、総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」第47回会合が開かれた。この会は「デジコン」の通称で知られ、地上デジタル放送のコピー制限「ダビング10」の仕様を長い年月かけて議論し、6月末の「第五次中間答申」のまとめをきっかけにようやく「ダビング10」開始の運びになったことで注目された。その後は、「技術検討ワーキンググループ」と「取引市場ワーキンググループ」での検討を並行しながら、その報告を受け議論を行なうという形で会合が開かれてきた。
 今回の検討委員会は、2つのワーキンググループのうち「技術検討ワーキング〜」の報告のみを議題にした。このワーキングでは、地上デジタル放送の著作権保護を適正に運用するための強制力(エンフォースメント)をどう保つかの議論を続けている。技術的な録画制限を用いメーカーやユーザーへ「契約」で強制する手法と、法制度などでルール破りを禁止する手法の2つがある中、前者の技術・契約を使う手法を検討した結果が報告された。

 ワーキング報告には「放送コンテンツ保護に係る技術・契約によるエンフォースメントの在り方(案)」というタイトルが付けられた。「利用者にとっての選択肢の拡大」を前提を掲げつつ、現行のB-CASカードを受信機へ差し込む方式からどう改良するかという提案が4通り示された。(1)カードを小型化すること(2)カードを販売時にあらかじめ受信機へ装着しておくこと(3)コンテンツ保護の機能をチップに集約する形をとること(4)コンテンツ保護ルールに基づいたソフトウェアを用いること——といった具合だ。
 カードを使うという点では現行と変わらない(1)と(2)については、暗号を解除する「鍵」の管理者としてB-CAS社の存在を前提としている。現行ではB-CAS社がカードの所有者であってユーザーに貸与される形を取っていること、目的外使用の制限のことなど、ユーザー制度を理解してもらうのが必要なのも同様だ。ただし(2)では、ユーザーが受信機へカードを指す行為が不要になるため、カードの貸与などの情報を提供する機会を確保するのに「クリック契約」などの操作を改めて用意しなければならなくなるとの「課題」が指摘されている。
 B-CASカードとは全く異なるアプローチである(3)と(4)でも、保護ルールを管理するライセンサーと、チップやソフトウェアを作る事業者とで「それぞれの役割や、役割に応じた責任」や「目的やスキームに応じた技術方式」などを改めて検討していく必要があると指摘している。

 これらの(1)から(4)という“新方式”が提案されたことで、B-CASの廃止がいよいよかと思いそうになる。ところが、これらの方式は、実は現行のB-CASシステムと並行して導入されることを前提にして提案されている。「利用者にとっての選択肢の拡大」という前提が掲げられていたのも、B-CASのものと新しい方式のものと両方があることによる「選択肢の拡大」を示したものだという。案を説明した総務省コンテンツ振興課の小笠原課長によれば、すでにB-CASシステムでの受信機を買った人が多くいることでもあるし、新方式へ移行した途端に受信できなくなるというのでは「消費者保護の観点から」問題があると判断した結果のようだ。
 B-CAS廃止論が強まっていた中で始まった検討だったのに、ワーキングの提案が4つ出てきたところでいつのまにかB-CAS廃止が吹っ飛んでしまった感じは否めない。もしB-CASと異なる方式が追加されるとなれば、別方式のものを並行して送信しなければならない、そのコストはどうなるのかと聞いている方としては不思議になってくるのだが‥‥。
 しかも、(1)から(4)の方式を聞いて、ユーザー側委員が相次いで(4)のソフトウェア方式が良いのではないかと意見を述べたが、今回の報告はまだ「どれが良い」「どれにすべき」とは言える段階に無いと村井主査が釘を刺すものだった。主査によれば、まだそれぞれがどれだけのコストを要するかまで検討しきれてはいないという。確かに、コストに関する記述は資料に無かった。
 放送局側の委員からは「B-CAS方式にこだわらない」とする発言が出て、もっとも理解を得るべき視聴者(国民)を重視する意向が示されはした。一方で、費用対効果などの問題もあって、今後議論を深めていく必要性を指摘する意見も相次いだ。まだまだ先は長い。

 デジコンで議論の対象となっているのは、「基幹放送」と呼ばれる無料の地上デジタル放送のみである。その「基幹放送」にスクランブルをかける必要性があるのか、という根本的な疑問が一貫して河村委員から示されてはきた。しかし、今回の報告では「技術・契約によるエンフォースメント」としている通り、それは全く前提に汲み入れられていない。先の(1)から(4)のいずれもが暗号化を想定されたものだ。法制度に頼らないという前提では、保護ルールを守らせるためにスクランブルをかけて、受信機を製造するメーカーにチェックを入れていく手法をとるしかないという考え方なのだろう。
 となれば、スクランブルに違和感を持っているユーザーの場合は、「選択肢」をシビアに判断するしか無いのかも知れない。また地上デジタル放送に違和感を感じ、移行をためらう原因はスクランブルだけではない。ユーザー側委員から、景気悪化とともにデジタルテレビを用意できない家庭が増えていく懸念が表明されてもいた。せっかくワーキングで提案した「選択肢」でも、その中に適切なものが無ければ、ユーザーは地上デジタル放送を選択しない(見ない)という判断を下す可能性もある(逆に、何となく受け入れられる可能性も無いとは言わないが‥‥)。
 小笠原課長が説明するようにB-CASシステムが残され、さらに新方式を加えるとしたら、コストがどうなるのか注目したいところだ。2011年のデジタル完全移行に向けてこの「新方式」が実施できるように、デジコンの議論は検討開始から1年ほどで結論を出すことを目指している。その期限にきっちり合わせて委員会としての結論は出してくるのだろうが、どうも今のうちから「改善が見込めない」という閉塞した感じが漂ってきてしまっているように私には思える(あくまでも私見)。

 「技術検討ワーキング」でも(1)から(4)が検討の途中で、そして法制度を活用した手法はまだ未検討な段階での話ではある。しかしB-CASを存続させることを選択したことで、その運用に実効性を持たせるため、たとえば正規のB-CASカードを流用する無反応機器・フリーオにどう対処するかなどの論点で選択肢が限られてくるように思う。現に、椎名委員から「これらの案では、すでに多くの家庭に鍵が行き渡っているB-CASの問題が解決されるわけでなく、制度的エンフォースメントの導入を求める」発言があった。
 「技術検討ワーキング」が法制度に頼るのには消極的だった印象が私にはあったが、今後の議論次第では雲行きが変わってくるのではないかと思えてきた。ユーザーにとって、結局制限を受ける方向へ行きがちになりそうで、あまり嬉しい話ではない。

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2008年12月21日 (日)

遅々として議論が進まぬ国際会議、悠然としている国際小委員会、でも油断はできない

 12月19日に開かれた、文化審議会著作権分科会の国際小委員会(第2回会合)で「今後の検討課題」がまとめられた。このうち最優先して検討すべきと多くの委員が要望したのが、海賊版対策だった。とくにインターネット上での「個人の海賊行為」に言及する意見が相次いだ——。

 国際小委員会は、世界知的所有権機関(WIPO)などの国際会議や、他国との二国間協議、締結を目指している条約などの動向を見ながら、著作権に関して対外的な日本の方針を検討する会だ。私的録音録画補償金の見直しを任せられていた私的録音録画小委員会や、著作権法の法改正そのものを議論する法制問題小委員会と並び、文部科学省の諮問機関である文化審議会著作権分科会の下に設置されている。今年度の第1回が5月12日に開かれたきりで、12月の第2回までしばし間が取られていた。
 半年以上の間、国際小委員会で何もしていなかったわけではない。同小委員会に「国際検討ルール形成検討ワーキングチーム」が設けられ、「著作権をめぐる国際動向と今後の検討課題について」の検討が行なわれてきたのだ。今回の国際小委員会は、その検討結果が報告される場でもあった。

 ワーキングチームも同小委員会も動向を見ている国際会議というのは、年に1回開かれるWIPOの加盟国総会と、この総会のもとに設置された「著作権等常設委員会(SCCR)」「開発と知的財産に関する委員会」「遺伝資源、伝統的知識及びフォークロアに関する政府間委員会」などのことを指す。その中でも、議論の中心になるのはSCCR(今年は11月3〜7日に開催)の動向についてだ。
 SCCRでは、デジタル・ネットワーク化に対応した放送機関の保護水準を定める「放送新条約」が1998年から、映像に録画された実演(視聴覚実演)の保護水準を定める「AV条約」が2000年から議論されてきており、その動向についてはこれまでの国際小委員会の報告書にも記載されてきた。しかしいずれの条約構想も、欧米間で意見対立が起こり進捗していない。また比較的新しい議論として、発展途上国から「権利の制限と例外」について国際水準を決めるよう求めているが、先進国がそれに反対し、まず各国の権利制限について実態調査と研究をすべきだという話になっている。
 要するに、国際会議を舞台にした話し合いは全くまとまらない状態だ。そこで日本として今後どう対応していくか、何を働きかけていくかを考えるのに、国際小委員会で先のワーキングチームを作り「今後の検討課題」をまとめたわけだ。

 同ワーキングチームでまとめた検討課題は、「1.著作権保護に向けた国際的な取組」「2.エンフォースメント(法律遵守の強制力)の実効性確保に向けた取組」「3.開発と知財問題への対応」といった項目が立てられている。
 1では、「放送新条約」「AV条約」の議論の動向をふまえながら今後の対応を検討するとしている。2については、国をまたいだ著作権侵害でどこの国の法律・裁判所を用い法的判断を得るのかという準拠法・国際裁判管轄の研究を進めるという。また、各国が持つ海賊版対策の制度を情報収集し分析するのも必要だと指摘している。3は、発展途上国が主張する「パブリックドメインの確保や国際規範に関する柔軟性の確保」「フォークロア(ある共同体で代々作られてきた文化遺産としての創造物)の保護」について、前者は現在の保護水準(条約で許容される保護の制限)でも十分対応できると途上国に伝えていくこと、後者は(条約の形でなくても)各国で対応可能なガイドライン・モデル規定を作るよう提案している。
 このワーキングの報告ですでに「検討課題」がまとめられていたが、国際小委員会名義で決定する「今後の検討課題(案)」という資料も会合当日には用意されていた。ただし内容はワーキングチーム報告とほぼ同内容だ。ワーキングの報告は小委員会に対するもので、小委員会の親会である著作権分科会へは「今後の検討課題」を報告する形になる。

 国際小委員会では、検討課題の中身自体は原案どおり了承された。ただ、これらは課題として大きなものばかりなので、どれを優先させるか順位を決めてはどうかとの委員意見が相次いだ。具体的には、2の「エンフォースメントの実効性確保に向けた対応」を優先するよう求める声が多かった。
 口火を切ったのは、久保田裕委員(コンピュータソフトウェア著作権協会)だった。海外で権利侵害があった場合に、その権利の所在を政府が認証して権利行使をしやすくする必要性(そして制度の提案)を述べた。加えて、海外でのファイル交換ソフトの使用や中国での海賊版を挙げていた資料を指し、ファイル交換ソフトの使用が日本国内でも多いことや海賊版がヨーロッパでも多いことなど、現状を正しく把握する必要性も強調した。
 石井亮平委員(日本放送協会ライツ・アーカイブスセンター)は、放送機関保護(放送新条約)についての政府の働きかけを求め、海外での動画共有サイトで放送番組が違法にアップロードされている実態を強調しながら、「簡便な手続きで違法な動画が削除される」仕組みが望まれるとした。池田朋之委員(日本民間放送連盟)も同様に、「放送事業者の立場で言うと、放送条約の成立がないと海外での権利行使は難しい」として、違法な動画をどう削除させるかの調査を求めた。
 こうした権利者側委員からの要望が相次いだことを受けて、先に口火を切った久保田委員が「委員会でお願いするだけではなく、権利者がまず現場に踏み込んで実態調査をする、そして実費程度を国から貰ってというつもりでないと。(お願いするだけでは)変わらないんじゃないか」と、権利者側の受け身の姿勢を正すべきだと釘を刺す場面もあった。

 委員意見が重なった「エンフォースメント」の優先順位が高めに設定されることはおそらく間違いないだろう。優先度についての議論は次回にと道垣内主査の発言があったが、「エンフォースメント」だけを検討課題にすることはないにしても、委員の意向はある程度反映されるものと思われる。優先順位にまで触れるかはともかく、「今後の検討課題」を含めた国際小委員会の方針は、1月26日に予定されている著作権分科会で報告される。
 こうして今期の法制問題小委員会・私的録音録画小委員会・国際小委員会と、著作権分科会へ向けての報告が出揃った(なお「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」第7回会合は年明けの1月6日に開催予定)。いずれも著作権侵害対策の検討結果が盛り込まれるということになる。違法複製や違法配信からのコピーを違法化するという構想を盛り込んだ法制問題小委員会・私的録音録画小委員会と比較して、国際小委員会については、報告書の上ではまだこれから調査を始めるところという違いはある。たとえば、ファイル交換ソフトを利用した著作物のやりとりは国境を越えるものが多い。調査研究や、準拠法・国際裁判管轄の検討、そして関係国同士の情報共有の仕組みづくりなど、まだまだ取組みが始まったばかりだ。
 しかし気になるのは、国際小委員会での検討がこうゆっくりしているように見える裏で、日本・米国・EUなどの一部の国でWIPOより小規模の会議が持たれ、ルールづくりを進めている例もあるところだ。「模倣品・海賊版拡散防止条約」(ACTA)に関する話し合いがそれで、今年6月・7月10月12月概要)と相次いで関係国会合が開かれているとの発表が経産省や外務省からされている。国際小委員会で事務局(文化庁)から報告されたACTAの内容は今ひとつはっきりしないものだったのだが(ただし前期第1回には説明資料PDFが出されている)、日本の現行法より高い保護水準で海賊版対策が盛り込まれる可能性※があるだけに、国際小委員会に話が来る前に規制強化の方向性が決まっているなどということもあり得る。
 そう考えると国際小委員会の悠然さはそのまま真に受けられないかも知れない。


※2006年9月15日に模倣品・海賊版対策関係省庁連絡会議がまとめた「基本方針」(PDF)の中に、「条約内容の検討に際しては、新規の制度整備の可能性を排除せず、条約の実効性の確保、国内制度との調和、制度の合理性など、総合的な観点から行う」との一文がある。

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2008年12月18日 (木)

メーカーが文化庁案を拒否できたのは文化庁のおかげです

 16日の私的録音録画小委員会(第5回)での、中山信弘主査の締めの言葉が印象に残るものだった。議事を進めて報告をまとめる役割を中山主査が担っていたわけだが、いわゆる「ダウンロード違法化」を実施する方向を維持しつつも、本題の私的録音録画補償金について方向性が打ち出せなかった。これを指しての発言だ。
 発言を以下に引用する。私の傍聴メモと記憶から再構成したものなので、正確なところは1か月後くらいに公表される議事録を待っていただきたい。

 この私的録音録画補償金の問題は、知財戦略本部から、制度の廃止も含めて根本的な検討をおこなうというミッションを頂戴していたわけですが、合意できずに主査として大きな責任を感じるところです。

 私事になりますけれども、去年、著作権法の体系書を出しまして、その本の最初のタイトルが「著作権法の憂鬱」ということでして、まさにその「憂鬱」が現実のものになってしまいました。補償金の問題は、著作権法の全体からすれば僅か(一部分)というものかも知れませんが、現在 著作権法が抱えているデジタル問題を象徴するものだろうと思っています。著作権法がデジタルにどう対応していくかという非常に大きな課題を与えられているのだと。

 ‥‥というわけで、申し訳ございませんというお詫びの言葉でこの会議を締めくくりたいと思います。

 知財法研究の第一人者で、ユーザー側からの信頼も厚い人格者の中山先生が詫びて閉会するという、傍聴していたこちらが申し訳ない気持ちになる場面だった。ただその一方で、私は、中山先生が「責任」を感じる必要はないだろうとも感じていた。私的録音録画補償金をめぐる議論というのは、権利者とメーカーとの思想の対立が大元にあり、その間をとりもつ人はいつもハズレくじを引かされる運命にあるからだ。
 今ある補償金制度が1993年に開始するまでの議論の経緯をみても、そうしたハズレの連続だったことがわかる。家庭内でユーザーが録音・録画することの「補償」を権利者(音楽の著作者・レコード会社・放送局・実演家など)が求め、当時の著作権審議会に「第5小委員会」が設置されたのが1977年のことだ。その「第5小委員会」で話がまとまらず、審議会の外に設けられた「著作権問題に関する懇談会」でも結論が出ず、また著作権審議会(第10小委員会)に議論が戻された。ハズレ、ハズレ、またハズレの連続である。最終的に補償金制度を作ることでまとまった第10小委員会ですら、1987年8月の第1回から1991年12月の報告書完成まで4年以上かかっている。
 なぜそうした議論の空転ばかりが続くのかを考えると、無理もない事情もあったりする。補償金の問題とは結局、金を払いたくないメーカーと、金を貰いたい権利者との攻防なのだ。ひとことで言えば、ユーザーの録音・録画行為をダシにして権利者がメーカーから“著作権料”を取ろうという話である(その“著作権料”を実質的に負担するのがユーザーだというのが何ともタチが悪い)。

 そうしたわけでメーカーと権利者との間で見解が交わらないことは判りきっていた私的録音録画小委員会だったが、実は、議論の中で一瞬だけ共通見解が見出せそうな場面はあった。ユーザーが私的録音・録画する場面を具体的に想像しようという話になった時だ。
 たとえば、ユーザーが自身で買ったCDからiPodなどへコピーする場合、補償が不要そうだというのは権利者側も認めざるを得なかった。また、他人が買ったものを借りてきてコピーすることについては、補償不要とまでユーザー側もメーカー側も強弁できなかった。インターネットで配信されているものについては、同小委員会で議論が始まる以前から補償金は「二重取り」に当たるのではないかと指摘されてきたとおり、iPodやPCへのユーザーのコピー行為を前提にして価格を決めているのだろうということになった。
 これら3つを素直に拾い上げて補償金制度に組み込めば議論がスムーズにまとまりそうなものだが、事務局として小委員会の議事を仕切っていた文化庁はそうしなかった。その後、いわゆる文化庁案ということで、事務局が次のようなまとめを試みた(以下の文章自体は私自身が要約したものである)。

 1.20xx年、私的録音・録画を著作権法30条から外し、補償金を廃止する

 2.「権利者の要請による」DRMがコンテンツすべてに
   かけられているのが廃止の条件

 3.仮にDRMフリーのものがあっても、
   それは「権利者の要請」によるものとみなせる

 4.当面、音楽CDと無料デジタル放送があるので補償金を残す

 5.iPodやHDDレコーダー・ブルーレイディスクは補償金対象に追加指定する

 6.適法に配信されたものは著作権法30条から外す
   (契約で複製が許諾されている)

 ※ 違法複製されたり違法配信されたものからの録音・録画は30条から外す
  (これは事務局案とは別に実施される予定らしい)

 これらひとまとめで「文化庁案」である。パッと見ただけでも、補償金を廃止するのか拡大するのか何が何やらといった具合だ。文化庁案の詳細は、既に公表されている小委員会議事録の中で参照できる(加えて、小委員会の報告書にも丸ごと転載される予定)が、それに目を通しても目眩がひどくなるだけである。論理が一貫していない。
 結果、メーカー側が「補償金廃止への道筋が見えない」として受け入れを拒否し、文化庁案は小委員会もろとも吹き飛んだ。30条をいじくりまわし、今ある補償金制度へ多少手を加えるだけで済まそうという文化庁の姿勢がこの結果を生んだのだ。例の案にしても、“将来的な廃止”はちらつかせただけで実現不可能、実際の補償金制度は課金対象を拡大するという二枚舌だったのだから、メーカーが拒否するのは当然だろう。

 「著作権法がデジタルにどう対応していくか」という大きな課題を意識していた中山先生の思いと裏腹に、小委員会での議論は窮屈なものに押し込まれていった感がある。あくまでも今ある補償金制度を前提として、30条のもとでの私的録音・録画を権利者の「不利益」と考え続けた。しかしユーザー側から疑義が突きつけられていたのはそうした前提自体だったわけで、小委員会がメーカー・権利者・ユーザーという三者の合意を目指していたのなら、もっと根本のところに戻っての説得は必須だったと私は思う。
 職業クリエイターが著作物を作って売り、新しい作品を求めるユーザーがなにがしかの対価を払って鑑賞する。クリエイターが食べていくためこの対価の流れを維持する必要があること自体は、誰もが理解するところではなかったか。その著作物を売る相手が「複製機器を所有するユーザー」なのだと織り込む必要があることも同様だ。
 そうしたときに、著作権法で保障されるべきクリエイターの「利益」の範囲はどれほどのものなのか。たとえば一人のユーザーから、同じ著作物で何度も対価を取ることまで保障されなければならないのか。ユーザーが家庭内でするコピーの中で、権利者に対価を払うべき範囲がどれくらいのものなのか。——そうした論点について、議論に参加していた者たちが自身の主張をあらいざらい出した上で、共通項を積み上げていく努力が必要だったのだ。
 観念的な議論でウロウロせずに、そこまでシンプルな話に戻れば、少なくとも権利者側とユーザー側とで納得できる落としどころが見えてきたのではないだろうか。議事録の中で、ユーザー側委員が発言したことを読み返してほしい。彼らは金を払うのがイヤだと言っていたわけではない、何故それを払うのかという点にこだわっていたのだ。

 最後に、底意地の悪いことを書いておこう。
 私があの小委員会で本当に見たかったのは、権利者とユーザーとでは納得できる落としどころがまとまり、メーカーが対応に苦慮する姿だった。ユーザーの代弁者然として「iPod課金」反対を言い続けてきたメーカーが、当のユーザーが補償金支払いを認めた時に何と言うか楽しみにしていたのだ。その落としどころに素直に乗ってきていたのかどうか。
 残念ながらそれは、メーカーがまとめ案を拒否する根拠を与え続けてきた文化庁の仕切によって実現はしなかったのだけれども。

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2008年12月17日 (水)

積み上がったものって何かあったんだろうか? 今後の議論で使えるものって何かあったんだろうか?

 12月16日、私的録音録画小委員会の第5回会合が開かれた。今回了承された報告書にも書かれていたのだが、「今期で終了」する同小委員会の最終回ということになる。権利者・メーカー・ユーザーの立場から委員が意見をまくしたてていた、小委員会のこれまでの様子とは対照的に、静かに淡々と終わった。わずか30分の会合だった。
 私的録音録画補償金の「根本見直し」をするのが目的だった筈が、結局その制度には手をつけられないまま幕を閉じる。また、注目されていた「iPod課金」の行方についても結論が出なかった。事務局は論点整理ができたと強調していたが、今後の議論でそれが役立つかは、今回現に失敗しただけに疑わしい(個人的には、そのまま議論を続けたら話がこじれるだけだと思う)。2006年以降、この小委員会で議論されて生み出されたものと言えば、例外・例外で虫食いだらけになった著作権法30条だけになりそうだ。

 私的録音録画小委員会がスタートした直接のきっかけは、iPodなどの新しいデジタル機器に「補償金」をかけるべきかという議論が、2005年の文化庁で起こったことだ。文化庁がiPodへの課金を文化審議会著作権分科会(法制問題小委員会)に諮問したところ、社会的な注目をあつめ、インターネットを中心に反対運動まで起こってしまった。文化庁としてはすぐにお墨付きをもらって課金しようと考えていたようだが、意外なことに法制問題小委員会でも賛否がまっぷたつに割れてしまい、結論が出せなかった。
 その上、補償金制度の「根本見直し」もすべきだという意見も出て、その方向で報告書もまとめられた(著作権分科会報告書PDF)。これを受けて設置されたのが私的録音録画小委員会だ。

 私的録音録画小委員会では2006年から議論が始められた。
 ユーザーがデジタル機器で録音・録画すると、それが家庭内であっても権利者の「経済的不利益」を発生する。だからその不利益の金銭的補償として機器や記録メディアに「補償金」を課金して権利者に還元する——というのが補償金制度の概要だが、この「根本見直し」を目的として設置された割には、こうした制度創設時の前提を踏襲して議論が進められた。実は、ユーザーの間にはこの前提そのものに疑義を持つ人が多いにもかかわらずだ(私もそうした一人である)。
 制度の「根本見直し」というよりは、むしろ権利者・メーカー・ユーザーといった関係者が一同に介することで、再度コンセンサスを構築していくことの方が重視されていたようではある。ただ、それにしても議論の前提の設定が性急に行なわれ、その後の議論のきしみを生んでいたように思えてならない。端的に言えば、メーカーやユーザー側の委員から示されていた疑問は置いてけぼりにされた。
 小委員会での議題を大きく分けると、「そもそも私的複製の範囲はどうあるべきか」「補償金制度を今後どうすべきか」「新しい機器への課金をどう考えるか」という内容だった。文化庁としては一定の方向でまとめようと、早い段階から議論を仕切っていた。これが先のメーカー・ユーザーの置いてけぼりに繋がってもいたわけだが、2007年10月12日付で出された「中間整理」(PDF)までは、文化庁の提示したまとめへの賛否両論を書き込むことでなんとか漕ぎ着けた。

 さて、今回了承された報告書を見ていく。この報告書の内容は、「中間整理」以後の小委員会の展開をまとめたものに過ぎない。しかし報告書を形にするのに苦労する事務局のさまを象徴しているようにも見えるし、文化庁案の提示の仕方や内容を丹念に負っていくと、それが受け入れられなかった理由も透けて見える気がする。興味深い中身ではある。
 下に目次を抜き出してみた。

はじめに
第1章 私的録音録画補償金制度の見直し
 第1節 私的録音録画補償金制度の見直しに関する事務局提案
 第2節 私的録音録画補償金制度の見直しに関する事務局提案に対する意見
第2章 著作権法第30条の範囲の見直し
 第1節 違法録音録画物、違法配信からの私的録音録画
 第2節 適法配信事業者から入手した著作物等の録音録画物からの私的録音録画
第3章 今後の進め方

 冒頭の「はじめに」から、私的録音録画小委員会での議論が総括されている。「著作権保護技術と補償の必要性の関係を巡る議論を中心に、関係者間の意見の隔たりが依然として大きいことが明らかとなり、これまでの議論においては補償金制度の見直しについて一定の方向性を得ることはできなかった」という。単に議論が進まなかったことを確認するだけなら、最初の数ページだけを読んだだけで用事が済むだろう。
 総括にあるような「関係者間の意見の隔たり」が大きいのは、議論する前から判りきっていたことだ。補償金を増額したい権利者と、補償金を払いたくないメーカーと、そして補償金の存在を知らないか、知っていても納得できる根拠が示されていないと考えるユーザーが「関係者」である。それらの意見の隔たりをどう埋めるのかが議事進行の見せどころだった筈。そしてその結果は‥‥。
 第1章の「私的録音録画補償金制度の見直し」こそが、本当は報告書のメインに据えられなければならない項目だった。しかしこの報告書ではそうならなかった。話の順番からすれば、第2章の「著作権法第30条の範囲の見直し」で前提を示して、その後で補償金の検討という流れの方が自然な筈だ。“成果”の演出とは言っても、第1章と第2章とを倒置させたのは苦しい。


■第1章第1節

 第1章をもう少し細かく見てみよう。第1章第1節は、ここをまるまんま使い、事務局がまとめようとしていた方向性(いわゆる文化庁案)が掲載されている。これまでの小委員会で小出しにされてきたものを一気に転載した形だ。報告書自体が公表されるのはまだ先になりそうなので、リンクを示しつつ文化庁案の流れを以下で紹介したい。
 ただし文化庁案を読む際に注意したいのは、この案では小委員会がまとまらなかったという事実と、事務局がこの方向でまとめようと議事を進めていた際に委員から出された指摘が、文化庁案からも報告書からもかなり抜け落ちていることだ。

 文化庁は、中間整理・パブリックコメント募集をへた前期第15回会合(2007年12月18日)に、「私的録音録画と補償の必要性に関する考え方の変遷」という資料を作成した(PDF。本報告書では第1章第1節2に転載)。「20xx年」の補償金廃止を謳ったものとして当時も話題になったが、これはあくまでも「著作権保護技術の発達・普及を前提に、私的録音に関しては、30条の適用除外とする」上でのものだ。
 この文化庁のまとめに対し、著作権保護技術(なおこれは著作権法の「技術的保護手段」よりも広い概念で、いわゆるDRMをイメージしてもらえると良い)の発達・普及を前提にすることに妥当性があるのかという委員の疑義が出されている。また「娯楽目的」という、鑑賞を目的とした私的録音・録画を30条から除外すること自体にも問題がある。ユーザーの批判をかわすためか、資料の中で「購入したパッケージのプレイスシフトについて権利制限(無許諾・無償)を認めることは要検討」との文言も入っているが、こちらは全くの空手形に終わっている。

 次に事務局が提示したのは前期第16回(2008年1月17日)会合での資料「著作権保護技術と補償金制度について」だ(本報告書では第1章第1節3に転載)。著作権保護技術が「著作権者の要請」によって施された場合には、そこからコピーしても補償金は必要ないだろうという前提を出した。その一方で、当面補償金で対応する必要のある分野として音楽CDと無料デジタル放送を指定してもいる。
 この文化庁案では、そもそも権利者がコピーフリーを選択した場合はどう解釈されるかという問題がある。事務局は「権利者の要請」である場合と、「権利者の要請」とみなせる場合などを(この回以降)たびたび解説するようになる。他にDRMのかかった媒体があるにもかかわらずCDをレコード会社が選択していること、デジタル放送のDRM(ダビング10)の策定の際にも権利者が関わっていることなどを考えると、音楽CDと無料デジタル放送だけ補償金を残す必要があるとの結論にも疑問のあるところだ(事務局が説明していたところの「権利者の要請」とみなす場面との違いを説明しきれていない)。
 補償金を廃止するとの方向性と、残すとの例外の作り方にすでに齟齬をきたしていて、メーカーが反対する火種はすでにこの時点から存在していたと考えられる。

 前期の審議経過報告をまとめた第17回(1月23日)、「エルマーク」の報告と海外での補償金制度の調査報告があった今期第1回(4月3日)を経て、今期第2回(5月8日)に文化庁がいよいよ制度設計案を出してきた(本報告書では第1章第1節4)。この日には、これまでの文化庁案に解説を加えた資料も合わせて用意されている(こちらは本報告書に掲載されていない)。
 制度案を要約すると、先の会合で「補償金で対応する必要性がある」とした音楽CDと無料デジタル放送の存在を根拠とし、当面補償金を現状維持する。PCなどの汎用機などへ課金しないのはそのまま、支払い義務者もそのまま。ただし唯一、iPodなどのハードディスク内蔵型(フラッシュメモリ内蔵型も含む)機器とブルーレイには補償金をかけることにするという方向だった。
 ここまでの文化庁案は“将来的な補償金廃止”をちらつかせて話をまとめようとしてきたため、この回でようやくメーカーが文化庁案に疑問を示すこととなった。メーカーの疑問への文化庁の対応は次回に持ち越され、以後の混乱へと続いていく。ともあれ報告書の中での、文化庁案の内容紹介はここまでだ。


■第1章第2節

 第1章第2節では、第1節で転載された文化庁案に対する委員の意見がまとめられている。といっても小委員会全体としてのまとめではなく、「権利者」「メーカー」「消費者」「学識経験者」それぞれの立場ごとにまとめたものだ。こうした書き方をせざるを得ないほど、7月30日の今期第3回会合では委員の間に亀裂が走った。
 それまでに出されていた文化庁案に対し「補償金廃止への道筋が見えない」としてメーカーが疑問をぶつけ(これは前の回)、事務局が文書で説明するとしたのがこの日の配付資料「回答」だ。ところがその内容は、これまでの事務局案に書かれていたものを繰り返していたにすぎなかった。
 それを受けてメーカーはついに文化庁案の拒否をはっきりと宣言した。それまでダビング10をめぐって総務省の審議会でも確執のあった権利者側も反発し、中山主査いわく「パンドラの箱を開けたよう」な事態へと陥った。つまり小委員会自体が回らなくなってしまった。結果、第1章で報告されるべき検討結果も出ずに小委員会の最終回を迎えてしまったのだ。


■第2章第1節

 ここまでの第1章の議論の前提として本来は扱われる筈だったのが第2章だ。著作権法第30条のいわゆる「私的複製」の範囲を明らかにする目的で、ここから「除外すべき」とする内容を小委員会では検討してきた。そして、中間整理の時点ですでに「第30条の適用を除外することが適当であるとする意見が大勢であった」とまとめられてしまった「ダウンロード違法化」問題というのがこれだ。
 第2章第1節では「違法録音録画物、違法配信からの私的録音録画」について書かれている。しかし内容は中間整理とほぼ同じもので、「違法録音録画物、違法配信からの私的録音録画については、その実態から通常の流通を妨げているものと考えられ、ベルヌ条約等のスリーステップテストの趣旨、先進諸国の法改正や判例の動向等を勘案すれば、中間整理で示された条件を前提として、第30条の適用を除外する方向で対応することが必要であるとの意見が大勢であった」としている。この第30条からの除外をするにあたっては、「利用者保護」をするとのことだったが、その内容についても中間整理から進展は無い。

ア 政府、権利者による法改正内容等の周知徹底
イ 権利者による、許諾された正規コンテンツを扱うサイト等に関する情報の提供、警告・執行方法の手順に関する周知、相談窓口の設置など
ウ 権利者による「識別マーク」の推進

なお、イの措置に関連して、意見募集では利用者が法的に不安定な立場におかれるのではないかとの疑念が多く寄せられたが、仮に現実に民事訴訟を提起する場合においても、利用者が違法録音録画物・違法配信であることを知りながら録音録画を行ったことに関する立証責任は権利者側にあり、権利者は実務上は利用者に警告を行うなどの段階を経た上で法的措置を行うことになると考えられるため、利用者が著しく不安定な立場に置かれて保護に欠けることになることはないと考えられる。

 この点については、立法化の検討時にはよく留意して消費者保護を図るべきとの意見があった。

 これまでの私的録音録画補償金に関するユーザーの認知度を考えると、アやイにどれだけの期待が持てるだろうか。むしろ“違法着うた”に対するコンテンツホルダー側の行動や、「Culture First」のような補償金要求運動の方が広告効果が高かったように思うが、それはとどのつまりダウンロードユーザーを権利者側が訴えるところまで行かないと無意味ということでもある。
 ウなどは、国内のレコード会社が国内の音楽配信事業者に音源を提供した時にのみ表示されるもので、それ以外の適法配信には表示が期待できない。これが「ダウンロード違法化」の「利用者保護」に数えられてしまうところに、この法改定(現時点では予定)のおかしさがある。議論の中で、海外の配信についてはとうとうノータッチのまま議論が終了してしまった。
 「利用者が違法録音録画物・違法配信であることを知りながら録音録画を行ったことに関する立証責任は権利者側にあり、権利者は実務上は利用者に警告を行うなどの段階を経た上で法的措置を行うことになると考えられる」との説明も何の慰めにもならない。このハードルで権利者が提訴できないとすれば法改定は無意味であるし、逆に訴訟の乱発や証拠保全命令などが組み合わされればユーザーにとって脅威となる(ユーザーが適法性を証明できないコピーなどいくらでもある)。私は社会状況としてどちらにも行き得ると考えるし、どちらに行っても適正な状態ではないと考えている。誰も得をしない。

 このいわゆる「ダウンロード違法化」の問題については、ダウンロードがダメでストリーミングはOK、という奇妙な論点も存在していた。キャッシュが複製と判断されかねないのではとの指摘もあった。しかしこれに対して報告書は、「平成18年1月の著作権分科会報告書においても対処の方向性が記されており、今期の文化審議会著作権分科会においても、改めてその方向性に沿う制度的対応について検討されているところである」としている。この「制度的対応」がいつになるのかまだ判らないではあるが‥‥。
 また、私的録音録画小委員会がこうも安易に30条縮小を決めたことで心配されるのが、録音(音楽)録画(映像)分野以外の私的複製でも同様の法改定が行なわれ得ることだ。しかし、これについて報告書では、法制問題小委員会での議論に委ねる旨の書かれ方をしている。現段階での法制問題小委員会でも、録音・録画以外の分野での30条縮小には慎重ではある。


■第2章第2節

 第2章第1節が「違法」なものからのコピーについての検討だった。次の第2節では、「適法」なものからのコピーの話になる。「適法配信事業者から入手した著作物等の録音録画物からの私的録音録画」というタイトルだ。
 ここでは「第30条の適用を除外するとする中間整理の考え方を否定する意見はなかった」としながら、「補償金制度のあり方に関わる関係者の合意を前提に、補償金制度の縮小と他の方法による解決への移行、すなわち契約モデルへの移行という流れの中で捉えられるべきものであり、私的録音録画の将来像や補償金制度の見直しに関する合意がないまま本件のみを先行するのは問題があるとの意見があった」とまとめている。
 違法ソースからのコピーの話とは対象的に、こちらは慎重な書きぶりになっている。「適法配信」の方はしばらく法改定されることはないと見てよさそうだ。逆に言えば、補償金の課金対象にiPodやPCなどが視野に入ってくる時に、「二重課金」の火種が再び‥‥ということになるわけだが。


■第3章

 ここまで見てきた報告書の第1章・第2章は、その内容となる基礎がこれまで既に公表されてきたものにあった。事務局が作成してきた資料や、中間整理や、委員の発言(過去の会合の議事録も公開されている)の引き写しだ。それを受けて、初めてオリジナルの中身で書かれるのが第3章の「今後の進め方」だということになる。しかし第3章は1ページしか無い。もはや私的録音録画小委員会には「今後」が無いということを分かりやすすぎるくらいに示している格好だ。
 事務局提案に関しては、「事務局が関係者の互譲の精神を尊重しつつ提案したものであり、検討の過程で事務局提案に賛成する意見があったとしても、それは最終的に関係者が合意するということを前提とした意見であると考えられるので、関係者の合意が得られなかった以上、今後の議論については、中間整理の段階に戻って進めざるを得ないと考える」とまとめた。ただし議論の成果として「新たな解決策を模索するための論点がある程度整理された」という書き方もしている。私的録音録画補償金の議論を追い続けてきた私としては、どうも疑問に感じるところばかりではあるが。
 私的録音録画小委員会そのものについては、「小委員会としての議論は今期で終了することが適当であると考える」としている。文化審議会著作権分科会の中での検討課題から私的録音録画補償金が外れることは無いだろうし、(どの小委員会が受け持つのかは別として)今後も著作権分科会としての議論は続けられるようである。それとは並行する形で、「同分科会の枠組みを離れて、例えば権利者、メーカー、消費者などの関係者が忌憚のない意見交換ができる場を文化庁が設けるなど、関係者の合意形成を目指すことも必要と考える」との構想が報告書にある。オープンなものになるのか、非公開になるのかも含めて、事務局の説明によれば「未定」とのこと。

 以上が、最後の私的録音録画小委員会で了承された報告書だ。この報告書を小委員会にかけるにあたり、事務局は前もって各委員と文言の調整を済ませていたという(これが審議会の普通の進行なのだろうけれど)。そのためか委員からの発言はほとんどなく会合が終了した。
 ただひとり、発言を求めたのがJEITAの長谷川委員だった。その内容は、今後の議論についてだ。「新しい議論の場を設けるということだが、消費者全体にかかわりのある問題でもあるし、オープンな場で議論したいと思っているのでよろしくお願いしたい。契約と技術の組み合わせでできるのではないかという論点を含めて議論できればと思う」。
 その「新しい議論の場」が、ユーザーの目や手が届く場所に作られるのかはまだ明らかにされていない。かつて文化庁案に「権利者、製造業者、消費者、学識経験者等で構成され、文化庁の要請に基づき、透明性及び迅速性が確保された決定プロセスにより検討を行う」評価機関とやらが盛り込まれていたことを思うと、皮肉ものだとつくづく思う。今の文化庁に、その評価機関並みの「透明性」を確保した「新しい議論の場」を作るつもりがあるのかどうか‥‥。

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2008年12月14日 (日)

1本の映画の修復のために、大多数の著作権切れ映画をあきらめろと?

 黒澤明監督が1998年に亡くなって10年になる。黒澤作品で有名なのは『七人の侍』『用心棒』『影武者』など東宝で製作されたものが多いが、大映で1950年に製作された『羅生門』も、公開翌年のベネチア映画祭でグランプリ(金獅子賞)を獲得し国際的評価を得るきっかけとなった作品として代表作に数えられている。
 その『羅生門』が、角川文化振興財団と米・映画芸術アカデミーとの大プロジェクトのすえ、「デジタル復元」を施されたという。『羅生門』のオリジナルのネガは可燃性フィルムだったため破棄されたとのことで、現存していない。そこで残された映写用ポジフィルムをもとに、長い年月のため付いてしまった傷やゴミの除去から、ポジフィルムに歪んで定着した像の修正まで、オリジナルのネガをイメージして復元する作業が行なわれた。
 こうした作業は、文化遺産を後世へ伝えるという点では意義深いものだ。映画フィルムは年月を経ることで劣化し、写っている像が薄くなったりフィルムそのものが収縮・変質したりする。そうなる前にデジタル化などの保存措置をとらないと、フィルムの劣化と一緒にそこに記録された映画そのものも失われてしまうことになる。しかしその一方で、映画というのは観客に見せて興行的収入を得る側面もある。それを見込んで投資されるものだ。今回の『羅生門』の「デジタル修復」も、すでに劇場にかけられたりブルーレイディスクでの発売が決定していたりする。

 『羅生門』の「デジタル復元」にまつわる報道は以前からあったようだが、復元の完了を伝える最近の報道で気になるものがあったので、ここで取り上げてみることにした。というのも、著作権との絡みが示唆されていたからだ。
 毎日新聞の記事(2008年12月13日付・夕刊)によれば、この復元プロジェクトの旗振り役は角川グループの角川歴彦会長だという。このこと自体は、プロジェクトに「角川文化振興財団」が関わっていること、大映映画の著作権は現在角川映画が所有していることから、意外な話でもない。この記事で目を引いたのは、米国での上映会を訪れた角川氏が発言したという内容の方だ。
 いわく、「3次利用のネットで、海賊版をなくし、わずかなお金でも回収する仕組みを作りたい。国のサポートや著作権延長などの例外的な措置も必要だ」。同記事によれば、復元には約6000万円の費用がかかっているという。確かにそれを回収する仕組は必要だろうし、いくら劇場上映やブルーレイ発売といっても、回収は簡単でないだろう。角川氏がかつてから必要性を説いてきたような、ネットでの「3次利用」に望みを託すのもわかる。しかし、そのサポートで求めるのが「著作権延長」なのか?

 この文脈で「著作権延長」を求めることの妥当性を考える前に、まずは映画をめぐる「著作権」ありようを振り返ろう。これが少々ややこしいのだ。
 著作権法での基本的な設定では、著作物を作ったときに著作権を得るのは制作した本人(著作者)だ。制作のための資金を出した者が著作権を得られる仕組みではない(ただし契約で、資金を出した者へ著作権を譲渡することはできる)。しかし映画の場合は、制作した者ではなく、資金を出した映画製作者へいきなり権利が発生することになっている。この特例のような仕組みは、映画製作者が「自らの発意と責任において」映画の製作を行なっており、巨額の投資を著作権収入によって回収する必要があるからという趣旨で説明されることが多い。
 また、その著作権の保護期間についても、一般には著作者の「死後50年」までとされているところを、映画の場合は「公開後70年」と定められている。映画製作者の多くは企業で、「死後」の計算ができないからだ。ちなみに、映画製作者に著作権が発生するとした現行の著作権法が作られた(1970年)直後は「公開後50年」とされていた。そうだったのが2004年に、映画業界の強い要望を受けて20年延長された。
 『羅生門』は1950年の製作ということで、この延長の対象とは考えられていなかった。著作権が延長されたのは1954年以降の製作映画だった。ここだけで考えられれば、『羅生門」は公開後50年を経過した2001年には著作権が切れてしまっているかに思われる。しかし、著作権法には他の規定があって、『羅生門』の著作権が切れていないということになってしまったのだ。

 『羅生門』の著作権が切れたのか切れていないのか。そこを直接争った裁判がある。黒澤監督の安価なDVDをめぐっての裁判(この裁判のことをまとめた、信頼するブログにリンクしておく)がそれだ。報道で見て覚えていらっしゃる方も多いのではないだろうか。著作権切れした映画を収録した廉価DVDが書店やスーパーなどで売られるようになってかなり経つが、その中に黒澤作品(ただし1953年以前のもの)もいくつか含まれており、その黒澤作品を売った業者を相手取って東宝・松竹・角川映画がそれぞれ訴えたものだ。
 この裁判で注目されたのが、旧著作権法の規定では、映画の著作者の死後38年まで著作権が存続するという点だった。加えて、現行法にも、旧法の規定どおりに保護期間を計算した方が長い場合には、その旧法の計算に従うよう書かれている。問題になった黒澤映画は旧著作権法のもとで作られたから、1998年に亡くなった黒澤監督が「著作者」なら、「公開50年後」よりも後の2036年(死後38年)まで著作権が存続するということになるのだ。

 このように、裁判で黒澤映画の“延命”が確定してしまい、我々ユーザーにとっては安価に黒澤作品を楽しむ機会が奪われた格好になってしまった。『羅生門』を例に価格を考えると、デジタル復元される前のDVDは3990円で販売されていた。いわゆる廉価DVDは1000円程度だ。収録された映像の質に違いがあるとは言え、約60年も前の映画に今の人が払うべき対価がいくらか考えたときに、ユーザーが選択する幅をこうして失ったことは大きいように思う。ちなみに復元版はブルーレイディスクで鑑賞できるようになるが、実際の販売店でそこから値引きされるとしても、4935円というのは1本の映画としては結構な値段だ。
 もっとも『羅生門』については、高い高いとは必ずしも言えない特殊な場面もあり、『KADOKAWA 世界名作シネマ全集』という映画DVD付きの書籍シリーズが発売されていて、そのうちの1冊で当の『羅生門』(もちろん復元前の映像だが)と東宝の『生きる』をセットにした、黒澤作品特集の号があった。それぞれのDVDを購入するよりもかなり安価で黒澤作品が入手できるという、評価できる企画ではあった。
 とは言え、そうした角川グループの努力を評価した上でも、著作権の保護期間延長の要望を妥当と考えることはできない。『羅生門』のようなわずかな作品の修復や販売のために、他の作品をも巻き込んで保護期間を延長することが、ユーザーの利便を失うこととのバランスが取れたものとは考えられないからだ。

 そもそもの話、『羅生門』の修復は、著作権が存続していなければ施されなかったのだろうか。もしそうだったとしたら、そうした修復を今後も他の作品に施すために、それらの著作権も延長していくべきなのか。
 シンプルに考えたい。過去の作品に付加価値を付けるため、少なくない投資をしてリマスターや修復を施す。その結果、多少は高い商品として市場に再投入される。そこまではまだ理解できるのだ。その結果に価値をユーザーがいれば買うだろうし、価値を感じなければ買わないだろう。
 しかし問題は、そうしたリマスターや修復というのは強要されなければならないものか、だ。リマスターや修復は、単なる保存とは違う位置づけで考えられている。だからリマスター・修復を口実にして保護期間の延長が求められたりするわけだ。それらが引き替えにされてしまうことで、廉価でその作品が提供される機会を失ってしまったり、著作権切れすることで多く生まれるだろう次なる作品への利用を奪うことをどう考えるべきか。『羅生門』だったり、『ローマの休日』『東京物語』『二十四の瞳』といった修復を受けられた超有名作ならばまだしも、他の大多数の作品は映画会社の倉庫に眠り続けている。DVD化されていなかったり、もう廃盤になってしまっているものだってある。
 個人的には、『羅生門』の修復は歓迎するし、それなりの対価も払いたいとは思う。しかし、こうした試みのために私自身が必要以上の負担を強いられるのはどうかと思うし、まして著作権制度のように社会全体を巻き込んで負担を強いるのは如何かと思う。『羅生門』だって、残念ながらこの社会の全員が修復に意義を見出せるものとは言えないだろうし‥‥。

 短い新聞記事の僅かな記述に私が食いついただけだから、実際の角川氏の発言が違うものだったらそれに超したことはないのだが‥‥。ともあれ、この種の修復作業というのは、ビジネスで採算が取れる範囲内か、あるいは文化事業と割り切ってやってもらいたいと切に願う。

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2008年12月10日 (水)

“お馴染み”JASRACのシンポ、話題は「ネット法」と「日本版フェアユース」

 12月9日、JASRAC(日本音楽著作権協会)がシンポジウム『コンテンツの流通促進に本当に必要なものは何か』を開催した。このタイトルは、前のシンポジウム(3月25日)でのパネルディスカッションで動画共有サイトを取り上げた際に、放送番組がネット配信されない現状を制度で変えようという、いわゆる「デジタルコンテンツの流通促進」の議論に話が及んだことを受けたものだ。
 シンポジウムは二部構成になっていた。第1部は、12月1日からスタートした番組ネット配信サービス『NHKオンデマンド』について、日本放送協会 放送総局特別主幹の関本好則氏の講演があった。NHKオンデマンドでは、番組の放送直後に期間限定で配信し、放送時に「見逃し」た人のニーズに応える「見逃し番組サービス」と、過去のNHK番組をユーザーの好きな時間に視聴できる「特選ライブラリーサービス」が用意されている。これまでの日本の放送局では珍しい、大がかりなネット配信サービスとして、ビジネスモデルがどう確立されるか注目されているところだ。ここでの結果が、今後の「流通促進」の議論の行方を左右するかもしれない。
 第2部は中央大学法科大学院教授・弁護士の安念潤司氏がコーディネーターをつとめ、株式会社ドワンゴ 代表取締役会長の川上量生氏、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏、株式会社ホリプロ 代表取締役兼社長 CEOの堀義貴氏、立教大学社会学部 メディア社会学科准教授の砂川浩慶氏、日本音楽著作権協会常務理事の菅原瑞夫氏らがパネリストとして登壇した。実は、パネリストの顔ぶれは前回と同じだ。
 このシンポジウムは、ニコニコ動画でも配信された。パネルディスカッションでの話では堀氏がニコニコ動画での配信を提案したという。パネルディスカッションの最初の自己紹介の際、川上氏が話している時だけ背景にニコニコ生放送のコメントが映写された。「はやく本題に入れ」「あのー」などとツッコミが入る光景が繰り広げられた。シンポジウムの雰囲気とは馴染まないという判断か、ほんの僅かな間だけの映写だったが。

 スタートから1週間ちょっとしか経っていないNHKオンデマンドの報告がされた第1部は非常に興味深い内容だった。関本氏は7日までの速報値として、会員登録8,000人、番組の単品購入が72,000回、PCからのアクセスだけなら20万人にのぼったとの数字を挙げた。NHKはオンデマンドサービスを有料で提供し、そこから運営費・職員の給料まですべてまかなわないとならないという。現在、用意されている過去の番組が1,266本。これを毎月200本ずつ増やしていき、常時3,000本を見られるように権利処理を進める。
 ネットで配信するためには出演者や使用楽曲の権利者などに許諾を得なければならないわけで、この権利処理をどう進められてきたのか気になるところだ。しかし関本氏は、NHKオンデマンドではプロの出演者らは「団体交渉でほぼ合意できた」と述べた。団体に入っていない人とは個別に交渉しなければならないが、最近では新たに番組を作る時に「見逃し視聴」の分も込みで交渉するため、プロ相手の場合にはさほど障害になっていないようだ。ただし、映画会社や新聞社・雑誌社などが提供してくれた「調達映像」については一部交渉が難航しているという。自社で配信をするつもりの会社が増えているので、競合を避けて断るところがあるそうだ。ニュース映像ならばその部分だけ画像を外すなどすることができるが、ドラマなどの番組ではそういうわけもいかず、交渉し続けるか諦めるかするしかないという。
 むしろ苦労するのは、アマチュア一般の出演者だとのことだ。たとえばドキュメンタリー制作で微妙な内容を扱った場合に、「番組を見てから(配信の許諾について)返事する」と言われる場合があるという。一般の人は交渉の窓口になるような団体が無いから、すべて個々人を相手にして交渉しなければならない。過去の番組については特に、年間に日本で300万人が移動する中で、出演者を捜し出し交渉する。交渉しても、昔のことが掘り返されることを嫌がる人もいるという。
 関本氏の話で興味深かったのは、海外ではBBCの立場が強く、ネットの配信について権利処理していない映像素材は、BBCが国際交流も国際共同制作もしたがらない状況にあるという話だ。2006年にBBCとNHKが『プラネットアース』を制作した際、BBCから、ネット配信の許諾を処理していないためにNHKの素材を使うわけにいかないと言われたという。関本氏は、ネット配信に関する権利もつけておかないと「世界で売れない」と述べた。

 第2部のパネルディスカッションは、前回のシンポジウムでの「共通了解」をコーディネーター・安念氏がおさらいするところから始まった。「死蔵されているテレビ番組がネットで流せるようになればコンテンツ業界はバラ色というのは幻想である」「ユーザーが求めているのは、ネット環境に適した新たなコンテンツである(既存コンテンツを流しただけでは喜んでもらえない)」「ネットでコンテンツが流れないのをテレビ局や著作権制度のせいにするとか、悪者探しをしても全く生産的ではない」「最大の問題はビジネスモデルがまだ確立されていないことにある」。
 そこでビジネスモデルの話をしたい、という仕切でディスカッションが始まった。川上氏は、コンテンツが物に載せられて売られていたパッケージコンテンツが限界に来ていることを指摘した。コンテンツがデータとして売り買いされるようになった以上、違法に入手されたものも適法に入手されたものも変わらなくなっており、むしろDRMがかけられた分、適法に入手したユーザーがバカを見るようになってしまっている。しかしコンテンツを、サーバーでの使用権を売る形にすることで、今後のコンテンツビジネスが見えると持論を展開した。「パッケージが売れないゲームで、唯一ユーザーが払ってるのはMMORPGのようなサーバー型コンテンツだ」という。
 ただ、この「サーバー型コンテンツ」構想についてはあまり議論が深められず、パネルディスカッションの流れは「ネット法」と「日本版フェアユース」に向いてしまった。「コンテンツの流通促進というのが民間の一部や政府機関まで騒いでしまっている。冷静に考えると、流通の促進が本当に国益なのか」と岸氏が疑問を呈した。「金融危機の中で、英米はITなどで成長産業を作ろうと、経済をどう変えるか動き出している。日本はどこを伸ばそうとしているのかが判らない」(岸氏)。
 砂川氏も、「流通促進」という言葉の違和感を述べた。「本来は制作促進を言うべきではないか。制作がなければ流通もない」(砂川氏)。コーディネーターの安念氏も、この砂川氏の発言に前後して、「なぜコンテンツだけ流通促進と言われなければならないのか。流通促進を言われる産業というのはあまりないし、権利処理が大変なのは他でも同じだ。所有権や賃借権の制度が悪いという人はいない」と発言した。
 「日本版フェアユース」についても、菅原氏が「フェアユースは不明瞭。最終的にはとことん訴訟にまで、と考えているのだろうか。社会的な混乱を招くのでは」と指摘。堀氏も「日本版というのがミソ。もとは検索エンジンのサムネールから始まったと思うが、いつのまにかコンテンツでやろうという話になっている」との認識を述べた。
 岸氏も「日本版フェアユース」を「最低最悪」と切って捨てた。しかしその一方で、「一般規定は必要かもしれない」と前置きしてもいた。砂川氏も「目的別のフェアユースをお願いしたい。新聞の縮刷の放送版ができないか。番組ごとのアーカイブではなく、コマーシャルも含めて録画する」と発言した。現行法では、個人としてアーカイブするのは適法だが、大学としてアーカイブすれば違法になってしまう。もしこのアーカイブが可能なら、何十年も経ったのちに大きな資料的価値を持ちえるだろうという。

 さて。ここまでまとめてきた今回のシンポジウムの中で、いろいろと自分の考えを言いたいところがあるのだが、私が最も強い違和感を覚えたところだけここでは指摘しておく。それは、「ネット法」の構想が国の政策だとの前提で話されていたことだ。しかも「日本版フェアユース」がコンテンツ流通促進の議論の延長で批判されている。
 「ネット法」の構想は、元は民間団体から提案されたものだ。今年3月に、デジタル・コンテンツ法有識者フォーラムが打ち出して以来、大きな論議を巻き起こした。コンテンツをネットで流通させるかどうか決める権利を映画会社・レコード会社・放送局にひとまとめにして、出演者や作曲者ら個々の権利者は権利行使をできなくするという内容だ。そのため、権利者サイドから強い反発を受けたものだ。
 この構想は確かに自民党でのコンテンツ関連部会で取り上げられたり、内閣の知的財産戦略本部(デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会)でヒアリング対象にされたりしたが、現時点では、国の政策としてやると決まったものではない。専門調査会が先日まとめた報告(報告案PDF)でも、ヒアリングで発言されただけの提案としての扱いである。
 実は政府の側でも、コンテンツ流通促進の話は消極的な面すらある。堀氏もパネルディスカッションで発言していたが、議論の前提で部分で放送番組に限っているのだ。これなどは私から見ても不満のあるところだ。その不満の理由は私と堀氏では全く異なるところだろうと思うが‥‥。

 「日本版フェアユース」についても、パネルディスカッションでの批判が当たっているようには思われない。「ネット法」の構想は、確かに、上記“権利制限”的な「ネット権」と「フェアユース」の導入が二本柱になっている。しかし「フェアユース」の議論というのは、もともと権利侵害とまでは言えない範囲の利用について、現行法の規定では違法と判断されかねないために著作権を及ばないようにするという趣旨である。多少は流通に関する部分があるとしても、本質的には流通促進云々の話ではない。
 パネルディスカッションでは、「フェアユース」の導入を「ベンチャーがビジネスを続けていけるようにするため」との理由で説明されていることがことさらに批判されていたが、その一方で「一般権利制限規定」の必要性への言及もあった。検索エンジンのサムネイル(ただし実際に権利制限が必要なのはサムネイルについてだけではなく、サーバへの著作物のコピーそのものもだ)を適法化するために個別に規定を用意するようなことでは、社会の変化に対応しきれない。そうした点はパネルディスカッションでも言及されていた。となれば、もはや「日本版フェアユース」に対する批判は単に“理由が気にくわない”と言ってるように見えてしまう。
 私の目から見て、先の専門調査会報告案でまだ「日本版フェアユース」の姿が、現行の30条以下の規定を残すということ以外には見えてきていないのが気になるところではある。むしろ、権利制限できる範囲を狭められかねないのではと不安になっているくらいだ。そうした自分の感覚は置いておくにせよ、「公正な使用ならば著作権の侵害とはならない」という、範囲がしっかり決められるわけではない(しかもその特徴こそが導入の理由である)規定について「不明確」だと批判してみたり、訴訟によって適法かどうか判断するという趣旨なのに「訴訟でシロクロつけるのでは社会が混乱する」と批判することが当たってるのかは疑問だ。
 どうも、「日本版フェアユース」を批判しようにも、攻めあぐねている印象を拭えなかった。

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2008年12月 6日 (土)

放送番組をネットで流すには ——コンテンツ学会がプロジェクトチームを始動

 12月5日に、コンテンツ学会が「ネット利用調整制度に関する民間審議会」を発足させて、最初の会合を開いた。コンテンツ学会は、映画やテレビなどの特定のジャンルに限定しない「コンテンツ」全般を扱う、産・官・学を包括する議論の場を目指した学会だ。その中に設けられた「民間審議会」で話し合われるのは、テレビ放送される番組をどうすればインターネットにも流せるようになるのか、そして放送から配信へスムーズに進める業界慣行が出来上がるのを促す制度をどう用意するかということだ。早稲田大学大学院客員准教授の境真良氏が世話役となり、MIAU共同代表の小寺信良氏、KDDI総研コンテンツ・メディアグループリーダーの花岡宏明氏、ヤフーメディア事業部シニアビデオプロデューサの山根陽一氏ら8人が委員として参加している(審議会メンバーリスト)。

 テレビ番組がなかなかネットに流れない(ただし全く無いわけでもないが)ことは、これまでにも民間で多く指摘されてきたことで、行政の側でも内閣府の知的財産戦略本部や文化庁・総務省の審議会などで検討の課題に挙がった。そこでの議論の前提は、テレビ番組がたくさん製作されていながら、ネットで配信されているのは一部にすぎないとの認識で一致している。皮肉なことに、番組の製作者から正規に配信している番組コンテンツよりも、YouTubeなどの「異常な利用」がニーズを捉えてしまって、集客力を持ってしまうありさまだ。
 何故このようなことになってしまっているのか、という疑問には様々な説明がされている。ユーザーの側からは、テレビ局がコンテンツを出したがらない、あるいは権利者が著作権・著作隣接権を行使することで配信されないという指摘がある。また、権利者の側からは、ネット配信のビジネスモデルが出来上がっていなくて今出しても商売にならない、あるいはユーザーがタダで見られる状態があるのに正規に配信しても金を払って貰えない、といった意見が出ている。こうした様々な見方があるため、考えられる対処策というのも複数あり、たとえば文化庁では現在行方のわからない権利者について権利処理を簡便にする方策を提案したり、総務省ではネット配信を前提とした番組作りの実験を行なっていたりする。12月1日からNHKオンデマンドも始まっているが、ネット配信の動向にどういった影響をもたらすか判るのはまだ先の話だろう。

 ここまで見てきた議論の流れの中に、コンテンツ学会での今回の「民間審議会」も位置づけられる。しかし、直接的な発足のきっかけとしては、「ネット法」構想の存在も大きい。「ネット法」とは、デジタル・コンテンツ法有識者フォーラムが2008年3月に発表した立法案のことで、映画・音楽・テレビ番組などをネットで流しやすくするために、関係する権利者(ライター・出演者・作詞作曲家など)の権利を「ネット権」という一つの権利にまとめ、それぞれ映画会社・レコード会社・放送局に管理させるという仕組みだ(他にもフェアユースの導入も大きな柱なのだが、ここでは省略する)。この「ネット権」者が、配信することを求めるネット事業者に対して「許諾」するかどうか決定できる。この「ネット法」構想は注目を集めるとともに大きな議論を呼び、政治の世界では自民党のコンテンツ関連部会や、行政では知的財産戦略本部や総務省の審議会でも取り上げられた。
 そうした影響力を持った「ネット法」構想だが、疑問点も数多く指摘されている。権利を映画会社などに集中させるため、個別の権利を「切り下げ」られる実演家から反対があることは予想通りとしても、その権利を得られる映画会社・レコード会社・放送局からも反対されている。これまで、あるいはこれからのビジネス上のしがらみを考慮していない制度案ということは言えるかも知れない。また、ユーザーの側から見ても、「ネット権者」がネット配信を止めてしまえば、結局は今と同じではないかという疑問がある。コンテンツ学会の「民間審議会」は、その危惧にメスを入れるところから始められた。

 「民間審議会」第1回の話し合いはどういう内容だったのか。まず、議論の出発点は事務局作成の資料(リンク先参照)で提示された。まず、YouTubeやファイル共有などでコンテンツが流れてしまっている「異常」な状況は(あえて「違法」とは呼ばなかったという)、ネットでの利用機会をユーザーに与えないコンテンツ産業にも原因があるのではないかということ。そして、その問題はテレビ番組で多く発生していて、著作権などの処理が「ワンチャンス」で行なわれていないのが原因ではないかということ。そうした問題点を解消するのに、「テレビ番組コンテンツに関する諸権利を、個別の交渉無しに一本化するルールの創設」を叩き台として提示した。これだけを見ると、「ネット法」との共通点が目立つが、むしろ「ネット法」との違いを意識して案が作られている。
 「民間審議会」が提案している新ルール「ネット利用調整法」(ただし現段階では叩き台)と先の「ネット法」との大きな違いは、その制度が想定している運用期間にある。「ネット法」が今後のネット利用にずっと適用されることを考えているのに対し、「調整法」の方は、ネット利用の形が業界にできあがるまでの「暫定法」だということだ(ネット配信の業界慣行が出来上がればすみやかに廃止されるとする)。
 また、「ネット法」では権利者が利用させないという選択もできたことに対して、「調整法」では一定期間で区切ったオークションを実施することを考えている。オークションによって配信事業者をどんどん決めていく仕組みだ。配信相手を決める権利はテレビ局に持たせるが、配信相手が決まらないとオークションが繰り返させられる。これにより、半ば強制的にネット配信への流れが作られる。
 「ネット法」では明らかでなかった収益分配の仕方についても、「調整法」では経団連ルールを暫定的に使うこととされている(その後定期的に改訂するともされている)。

 会合の中で、放送番組をネット配信する許諾契約を促す「調整法」の基本的方向性そのものを変えるべきとの意見は出なかった。むしろ、この案が対象とする範囲の確認や提案など、制度の明確化に関する意見が目立った。
 花岡委員の質問にで、「調整法」があくまでもテレビ放送を対象としたもので、「ネット法」とは違い映画やレコードを含めたものではないと確認された。映画はすでに権利が集中されていること、レコードでも配信が進んでいることを理由としている(境世話役)。また、小寺委員から、放送で収益が上がっていないBSや、既存番組の再放送が多いCSについては議論から切り離し、地上波放送のみを対象にしてはどうかとの提案があった。「異常利用」で、地上波放送の番組が多くを占めているのも理由だ。
 また、オークションにかけられる番組を1本単位にするのかシリーズ単位にするのかという指摘も小寺委員からあった。事務局案では1本1本をオークションにかけるという想定だったが、「NHKに多い単発ものなら、オークションも可能だろう。しかし多くの民放番組はシリーズもので、セット売買することに意味がある」(小寺委員)という。放送番組をひとまとめに議論するのではなく、そうした細かい違いまで踏み込む必要性があるとした。
 オークションで入札できる事業者については、テレビ局自身やその子会社を参加対象とせず、「ベンチャーも想定していて、企業規模・年数・実績などで基準を設けて切ることはできない」(境世話役)としている。その一方で、談合の可能性や、大規模なネット企業だけが落札してしまう危惧も委員から指摘された。
 ネット配信でどうビジネスにしていくかという点も課題だ。ネットで配信すれば単価は安いが全体としては儲けになるという形でどう持っていくか。それにはパソコン以外のデバイスでの利用も視野に入れながら、「支払いは電話料金・携帯料金・ケーブル料金に上乗せする形になるだろう」(境世話役)、「映像についてはサブスクリプションの方が目がある」(小寺委員)といったイメージが出された。しかし現状としてネット配信ですぐに利益をあげる難しさが共通の認識としてあり、日清の『Freedom』をネット配信した際のDVD売上げへの効果を例に、「ネットに出して視聴率が上がるということを言うしかない」との見方も山根委員からあった。

 今回の会合で出た指摘を反映し、「調整案」の資料を事務局でバージョンアップし次回に提示するという。
 「民間審議会」は、次回が1月21日に予定されている。今回を含めて4回の会合が予定されていて、2月中の提言とりまとめを目指して集中的に議論を進める。第2回・第3回では、メディア関係・コンテンツ関係・キャラクター(または実演家)関係・代理店などからゲストを呼び、議論に参加してもらうことを考えているという。次回以降も、傍聴者を入れての公開の場で議論が進められる。

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2008年12月 2日 (火)

ICPFの第5回セミナーの議事要旨が公表されました。

 前にうちでもネタにさせてもらいました情報通信政策フォーラム(ICPF)のセミナーですが、第5回での城所岩生 成蹊大学教授の講演の要旨が公開されました。いつもながら詳細に記録されていますので、ぜひご一読を。あとCNETでも記事になっていましたね

 この講演は、内閣府の内閣府の知的財産戦略本部で検討されていた「日本版フェアユース」に関連して、そのモデルとなる米国のフェアユースがどう運用されているのか実例を交えて紹介した内容でした。城所先生の論旨は積極導入論に位置づけられます。
 11月17日の当日は知財本部の「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」の報告案に関するパブリックコメントが締め切られた日で、その後 11月27日に同専門調査会の第10回会合でその結果をふまえ報告がまとめられています。毎回資料掲載が早かった知財本部には珍しく、その会合の配付資料がまだネットに上がっていませんが、基本的にはフェアユース規定導入の必要性を示した方向性のままでいます。

 ところで、改めて講演要旨の公式版を読み返しますと、自分が書いたまとめがかなり端折ったものなのが明らかですね。ちょっと補足的に書いておきたいなとも思ってたので、この機会にメモ代わりに残しておくことにしました。

 フェアユースをどう捉えようかというのは、実は私自身が試行錯誤しているところがあります。米国では判例で固まっているという「間接侵害」、さらに「寄与侵害」と「代位侵害」に分類されるそうですが、これについてはまとめで触れませんでした。フェアユースを述べるのに、私には使いづらく感じたんですね。実のところ、サービス事業者が裁判でフェアユースを主張する場合、ユーザーの直接侵害をフェアユースで否定し、その結果 事業者の間接侵害が否定されるという流れを狙います。その意味ではフェアユースと深い関係のある話なのですが‥‥。
 日本では「間接侵害」の代わりに「カラオケ法理」が裁判例で強い影響力を持っており、「日本版フェアユース」導入後でもこの影響が残るのではと心配されています。録画ネットやMYUTAなどが葬られた原因が、著作権侵害をしていたのがユーザーではなく事業者の方だと解釈する「カラオケ法理」の適用だということで、営利目的との解釈のもと「フェアユース」に不利に判断され、同様のサービスが救われないことが懸念されるわけです。

 知財本部の専門調査会の報告の中で、「日本版フェアユース」の具体的な形までは決まっていません。今の第30条以下の個別規定を残して、そこに当てはまらないものについて「フェアユース」かどうか判断すること、その判断については基準を条文に書くこと――との大まかな方針のみが盛り込まれています。原理原則として権利制限の冒頭に打ち出される米国版の大きなフェアユースと比較して、“小さなフェアユース”というイメージです。
 まだ具体的規定がはっきりしないだけに、実際の運用がどうなるのか想像しづらいところではあります。しかしICPFでの城所先生の講演や質疑応答で最も気になったのは、今想定されている“小さなフェアユース”だとその対象が複製権に限られてしまいかねないとの話でした。
 「カラオケ法理」によってサービス側が侵害者と判断され、しかも公衆送信権を侵害したということで“小さなフェアユース”からもこぼれてしまう可能性が心配されます。規定の仕方次第で、MYUTAのようなサービスが「フェアユース」で救われないとしたら、そのような規定をわざわざ選択したという無意味な結末にもなりかねません。規定を巧くして救うか、立法趣旨を汲むことで解釈で救うか、そういう選択肢はあるのかも知れませんが‥‥。
 もともと裁判で白黒つける趣旨ですから、「フェアユース」でそうしたベンチャーが救われる保証は必ずしもありません。とは言え、知財本部が「日本版フェアユース」の導入を進める理由とその思いを守り続けていって欲しいと思っています。

 今後の、文化庁での具体的規定に関する議論が重要になってきます。
 どこまで米国のフェアユース規定を真似できるか、その攻防になるのかも知れません。

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先週のニュースピックアップ(11/24-30)

 先週1週間のニュースからピックアップしたリンク集です。

【パブリックコメント】

●12月17日締切り、総務省の「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終取りまとめ(案)に対する意見募集。

http://www.soumu.go.jp/s-news/2008/081127_7.html
「『インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会』
 最終取りまとめ(案)に対する意見募集」
(総務省) 2008.11.27

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=145207418&OBJCD=&GROUP=
「『インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会』
 最終取りまとめ(案)に対する意見募集」
(e-Gov.:意見募集中案件詳細) 2008.11.28




【審議会等開催予定】

●12月5日:コンテンツ学会の「ネット利用調整制度に関する民間審議会」#1
http://www.contents-gakkai.org/?p=72

※参考
http://www.sakaimasayoshi.com/net_rule/index.html




【著作権関連】

●11月17日の第5回ICPFセミナーの議事要旨が掲載。城所岩生先生の講演。

http://www.icpf.jp/archives/2008-11-19-1014.html
「第5回セミナーの議事要旨です」
(情報通信政策フォーラム(ICPF)) 2008.11.19

※参考
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20383828,00.htm
「なぜフェアユースが日本に必要か--成蹊大の城所教授が熱弁」
(CNET Japan) 2008.11.18


●11月25日に開かれたYouTubeの事業説明会の模様を報じた記事。

http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMITbe002025112008
「『YouTubeは攻めの段階に』 グーグルのコンテンツ担当副社長、広告事業を強化」
(IT-PLUS) 2008.11.25

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20081125/319888/
「『著作権問題が解決し、YouTubeは守りから攻めにシフト』
 ――米グーグルのユン副社長」
(ITpro / 日経WinPC)

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/11/25/21640.html
「『YouTubeは著作権対策から収益化の段階へ』Google副社長」
(INTERNET Watch) 2008.11.25

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/25/news115.html
「『著作権は守りから攻めにシフト』──違法動画も収益化目指すYouTube」
(ITmedia News) 2008.11.25

※その他報道
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20081125/youtube.htm
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/23987.html
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20384185,00.htm


●ビートルズの曲がiTunes Storeで配信されるようになるのはしばらく先になりそうだという報道。ポール・マッカートニーの発言を受けてのもの。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/25/news050.html
「ビートルズのiTunes Store進出は『行き詰まり』」
(ITmedia News / ロイター) 2008.11.25


●読売旅行が著作権者の許諾なしに写真をパンフレットへ掲載していた事件で、警視庁が著作権法違反容疑で家宅捜索。

http://www.asahi.com/national/update/1126/TKY200811260177.html
「読売旅行を家宅捜索 パンフレット写真無断掲載の疑い」
(asahi.com) 2008.11.26

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20081126k0000e040082000c.html
「著作権法違反容疑:写真の無断使用で『読売旅行』を捜索」
(毎日jp) 2008.11.26

※その他報道
http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/tokyo/081126/tky0811261330006-n1.htm
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008112602000238.html
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20081126AT1G2601P26112008.html
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2008112600469
http://www.47news.jp/CN/200811/CN2008112601000392.html


●劇団四季のミュージカルを録音し、ネットオークションで販売していた東京都の男が逮捕される。

http://www.asahi.com/national/update/1126/TKY200811260143.html
「劇団四季の公演録音、ネット販売 容疑の男逮捕」
(asahi.com) 2008.11.26

※その他報道
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/081126/crm0811261219012-n1.htm
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2008112600387


●ファイル交換ソフト・Share使ってテレビドラマを無断配信していた千葉県の男が逮捕される。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/081127/crm0811271206017-n1.htm
「フジやTBSの51ドラマも ネット無断配信事件」
(MSN産経ニュース) 2008.11.27

http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/tokyo/081127/tky0811271208011-n1.htm
「フジやTBSドラマ128本もネット配信 2ちゃんで予告」
(MSN産経ニュース) 2008.11.27

http://www.asahi.com/national/update/1127/TKY200811270140.html
「ネットにテレビドラマ違法流出 容疑の男を逮捕」
(asahi.com) 2008.11.27

※その他報道
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/081127/crm0811270114003-n1.htm
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20081127AT1G2700U27112008.html
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200811/2008112700423


●ビジネス・ソフトウェア・アライアンス(BSA)の会員企業の申し立てにより、東京地裁が11月20日に東京都のソフト開発・販売会社へ証拠保全手続き。著作権侵害の疑い。

http://www.bsa.or.jp/press/release/2008/1126.html
「東京地裁、東京都所在のソフトウェア開発・販売会社に証拠保全を実施」
(BSA) 2008.11.26


●小学館の『日本大百科全書』が、Yahoo!百科事典としてネットで無料提供されることに。

http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMITbd000027112008
「ヤフー、無料の百科事典サービスを開始 13万項目を収録」
(IT-PLUS) 2008.11.27

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/11/27/21673.html
「Yahoo!百科事典」公開、小学館の百科事典データを無料で閲覧
(INTERNET Watch) 2008.11.27

http://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/0811/27/news092.html
「小学館『日本大百科全書』を無料で検索――Yahoo!百科事典」
(ITmedia Biz.ID) 2008.11.27


●オンラインピアノのサービスを提供、引いた音を記録・再生も可能な『ePiano』が、JASRACとの包括契約を結ぶ。これで、ユーザーがJASRACの管理楽曲を弾いて記録しても著作権上の問題が生じなくなる。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/27/news043.html
「ロケスタ『ePiano』、JASRAC管理曲の演奏・投稿が可能に」
(ITmedia News) 2008.11.27

※参考
http://d.hatena.ne.jp/satoru_net/20080901/1220253796
「eピアノの事でJASRACに連絡した@レポ#1」
(satoru.netの自由帳) 2008.9.1

http://d.hatena.ne.jp/heatwave_p2p/20080903/1220409642
「ePiano.jpがJASRACにいくら支払うことになりそうなのかを考えてみる」
(P2Pとかその辺のお話@はてな) 2008.9.3


●11月22日に、秋葉原で海賊版ソフトを路上販売していた中国人2人が現行犯逮捕。

http://www2.accsjp.or.jp/news/news081128.html
「秋葉原の路上海賊版販売、中国人2人を現行犯逮捕」
(ACCS/著作権侵害事件) 2008.11.28

http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/081128/crm0811281328015-n1.htm
「アキバで海賊版DVD所持、中国人の男女逮捕」
(MSN産経ニュース) 2008.11.28

※その他報道
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/28/news120.html
http://news.braina.com/2008/1128/enter_20081128_004____.html
http://japan.internet.com/busnews/20081128/2.html
http://www.security-next.com/009449.html


●芸団協CPRAが、有線放送の放送同時再送信に関して報酬請求権を得たことに伴い、日本ケーブルテレビ連盟とレコードの二次使用料で合意。CRPAは有線放送事業者への説明会を11月26日に実施した。

http://www.cpra.jp/web/news/081128/index.html
「ケーブルテレビ事業者に、二次使用料のブリーフィング実施」
(CPRA) 2008.11.28

※参考
http://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime4.html#5
「地上波放送のデジタル化に伴って、放送の同時再送信にかかわる
 実演家・レコード製作者の著作隣接権が見直されたと聞きましたが、
 どのようになったのでしょうか?」
(著作権情報センター)


●大阪工業大学専任講師の関堂幸輔氏による、クリエイティブ・コモンズに関する論文。CCLでの公開。

http://www.sekidou.com/articles/CClisenceSig.shtml
「クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの意義 ―契約法の観点から―」
(関堂幸輔 (www.sekidou.com)) 2008.11.30

※参考
http://m4.sekidou.com/2008/11/29.shtml
「2008年 11月 29日」
(M4 (メディア批評日記))




【ネット規制関連】

●ファイル交換ソフトLimeWireで児童ポルノ動画を配布していた北海道の男が逮捕される。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/081125/crm0811251814041-n1.htm
ライムワイヤー使い児童ポルノ公開 初の逮捕 - MSN産経ニュース

http://www.47news.jp/CN/200811/CN2008112501000624.html
児童ポルノ公開容疑で男を逮捕 ライムワイヤーでは全国初 - 47NEWS(よんななニュース)

※その他報道
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200811/2008112500903
http://journal.mycom.co.jp/news/2008/11/26/023/
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081125-OYT1T00661.htm
http://mainichi.jp/area/nagano/news/20081126ddlk20040154000c.html
http://sankei.jp.msn.com/region/chubu/nagano/081126/ngn0811260252003-n1.htm

※参考
http://mainichi.jp/area/okayama/news/20081127ddlk33040702000c.html
「児童ポルノ法違反:サイバーパトロールモニター、情報受け初の摘発  /岡山」
(毎日jp) 2008.11.27


●総務省の「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」第9回会合が11月26日に開催。

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/11/26/21654.html
総務省の検討会、「『安心ネットづくり』促進プログラム」最終案
(INTERNET Watch) 2008.11.26

http://sankei.jp.msn.com/economy/business/081126/biz0811260124000-n1.htm
「関係者連携で自主憲章を ネット違法・有害情報対策最終案 総務省検討会」
(MSN産経ニュース) 2008.11.26

http://www.47news.jp/CN/200811/CN2008112601000545.html
「ネット有害情報、自主規制強化を 総務省研究会が報告書案」
(47NEWS) 2008.11.26


●『Internet Week 2008』で11月27日に行なわれたセッション「xSPのための青少年ネット規制法対策」の模様を報じた記事。青少年ネット規制法が主題に。

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/event/2008/11/28/21693.html
「青少年ネット規制法では『iPhone想定してなかった』と総務省の人」
(INTERNET Watch) 2008.11.28




【GSV関連】

●日弁連が11月21日に開催した、Googleストリートビューに関する集会の模様。

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/11/25/21624.html
「日弁連が『ストリートビュー』のプライバシー問題で緊急集会」
(INTERNET Watch) 2008.11.25

http://www.nichibenren.or.jp/ja/event/081121_3.html
「Google社ストリートビューに関する緊急集会」
(日弁連)




【審議会議事録等公開状況】

●8/20 法制問題小委員会#7 議事録および配付資料
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h20_07/gijiroku.html

※過去議事録
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/index.html


●9/26 違法・有害情報検討会#8 議事要旨(PDF)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/internet_illegal/pdf/080926_3.pdf

※過去議事要旨等
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/internet_illegal/


●10/16 電気通信サービス利用者懇談会#6 議事概要(PDF)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/riyoshacon/pdf/081128_2_sa1.pdf

※過去議事要旨等
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/riyoshacon/index.html


●10/20 私的録音録画小委員会#4 議事録および配付資料
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/rokuon/h20_4/gijishidai.html

※過去議事録
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/rokuon/index.html


●10/29 デジタル・ネット専門調査会#9 議事録
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/digital/dai9/9gijiroku.html

※過去議事録等
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/digital/index.html


●11/25 通信・放送の総合的法体系検討委#10 配付資料
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/houtai/081125_1.html

※過去議事録等
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/houtai.html


●11/26 違法・有害情報検討会#9 配付資料
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/internet_illegal/081126_2.html

※過去議事要旨等
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/internet_illegal/index.html


●11/28 電気通信サービス利用者懇談会#7 配付資料
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/riyoshacon/081128_2.html

※過去議事要旨等
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/riyoshacon/index.html

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2008年11月27日 (木)

デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会(第10回会合)メモ

 各省庁をまとめる形で内閣府に置かれ知財行政の方針を決める知的財産戦略本部の、「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」第10回会合が27日に開かれた。いわゆる日本版フェアユースの導入を提言したことで注目を集めた報告案を前回までまとめており、今回は、10月30日から11月17日まで募集されていたパブリックコメント(国民からの意見募集)の結果を踏まえた上で、最終的な報告をまとめる議論が行われた。
 パブリックコメントでは59人の個人からのべ118の意見が、50の企業・団体から169の意見が提出されたという。第10回会合にあたって、あらかじめ報告案にも16箇所(概算)ほどの修正が施され、検討にかけられた。修正の内容は、誤解・誤読を避けるための細かいものが主だ。
 日本版フェアユース規定の導入が「適当」であるとしたり、技術的制限手段の回避について規制を見直し「何らかの措置を講ずることが必要」としたりするなどの大まかな方向性については特に変更されていない。記述がわずかに変えられた程度である。

 本会合の中でも文面の修正が委員から幾つか求められたが、今回が専門調査会の最終回とされていたため、最終的な報告の形は中山信弘会長に一任されることとなった。次回の知的財産戦略本部会合で報告される。




(メモのメモ)
パブリックコメントにかけられた報告案から修正された部分。
事務局説明をメモしたもの。
※配布資料は今日・明日中に知財戦略本部サイトに掲載されるものと思われる。
 また、最終報告は今回の委員意見を踏まえて更に修正が加えられる。


I. コンテンツの流通促進方策
●4ページ
 「なお総務省では、放送番組制作者等の~目指している。」を追加。
●7ページ
 「検討結果」の第4段落と第5段落に若干修正を加えた。誤解・誤読を避ける趣旨によるもの。
 第4段落では冒頭に1文を追加。また、「これらの取組を通じて~望まれる。」を追加。
 第5段落では、終わりの方でいくつか修正している。出だしで「今後は」を追加。終わりでも「多角的観点から」を追加。
●8ページ
 法的対応案4つについては、ヒアリングで出されたものだと明記した。直ちにここを検討すべきと誤解されるおそれがあるため。趣旨を明確化した。
 法的対応案の内容も修正してある。意見を述べた当事者からパブリックコメントで不正確だとの指摘があったため。ヒアリングの際に提出された資料を参考に書き直した。

II. 権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入
●12ページ
 上から第3段落。「考えられない」を「考えられないものもある」と断定を避ける書き方に修正した。
 下の方、「ただし、一般規定の導入に当たっては、」の iii)に、「これまで裁判例によって違法であるとされてきた行為が当然にすべて適法になるとの誤解に基づいて」を追加した。中山会長の発言の趣旨を反映させたもの。
●13ページ
 一般規定の規定振りの中で、「ベルヌ条約等のいわゆるスリー・ステップ・テストも踏まえ、」を追加。ベルヌ条約の枠内というのを再確認する趣旨で入れた。
 また、「なお、その際には、これまでの裁判例、学説等も十分に検討することが必要である。」を追加した。

III. ネット上に流通する違法コンテンツへの対策の強化
1.コンテンツの技術的な制限手段の回避に対する規制の在り方について
●15ページ
 コンテンツの技術的制限手段の回避についての部分、「問題の所在」下から3行目「回避した利用に関連するコンテンツ産業~」と修正。前の報告案では「回避した利用によるコンテンツ産業~」だったが、因果関係がどこまであるのかとの指摘があったため。
 同趣旨の修正は以下の文章にもある。
●15ページ
 現行制度等の「著作権法」でカッコ書きに「したがって、例えば一般的なパソコンなど回避以外に実用的な意味を持つ機器については、対象とならない。」を追加。
●16ページ
 カッコ書きに「~ものの、実際の権利行使においては、権利者の負担により個人の違法行為を立証しなければならない」を追加。
●16ページ
 丸1「ゲームソフト」で、「違法ソフト」を正確に書いた。(前の報告案では「違法コピーされたソフト」と繰り返し書いていた。)
 また、「被害が急増している」と書いていたのを「違法ソフトで遊ぶユーザーが急増している」と修文した。
●17ページ
 「検討結果」の第3段落「インターネットの普及を背景に~」と書き直している。
 「被害が増大してきている」と書かれていたのを「正規ソフトの販売に影響」と修文。
●17ページ
 「このため~」の段落。文脈を整理し、端的に読みやすくした。「行うべきであるが」としていたところを「行い」と修文。「国際的な動向にも留意しつつ」を追加。ACTAを考えたもの。
 また、「規制の在り方を見直し、違法ソフトの一般ユーザーへの蔓延を防止するための何らかの措置を講ずる」と修文した。

2.インターネット・サービス・プロバイダの責任の在り方について
●20ページ
 (3)丸1で1文を付け加えた。
 「なお、経済産業省では~」から実証実験について。
●21ページ
 (5)検討結果の第2段落「確かに~」から。模倣品・海賊版対策に「違法コンテンツの削除」を追加した。これまではネットオークションしか書かれていなかったため。
 また、最後を「別途検討する必要があると考えられる」とした。前の報告案では、自主的取組で限界があると書かれていたのを修文した。
●22ページ
 上、2行目に「国際的な動向にも留意しつつ」を追加した。
 最後の行で「差止め請求などを受けないようにする明確な免責規定等を~」と「等」を入れた。免責規定だけでなく、対応の仕方は他にもあるという趣旨。
●25ページ
 間接侵害の語の前に「いわゆる」を付けた。

4.国際的な制度調和等について
●27ページ
 (ii)を明確にして読みやすくした。「確立した国際的ルールも存在しておらず」と、「確立した」を追加している。国際裁判管轄が不明確だろうとの部分。
 丸2「今後、インターネット上の海賊版対策を含めた知的財産権侵害への対処」とした。ACTAの柱として、法的規律の形成、法執行の強化、国際協力の推進を挙げているため。

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2008年11月24日 (月)

「フェアユース」導入への賛成・反対というのは、今の制度をどう評価するのかで分かれるのかな

 11月21日に「ネットワーク流通と著作権制度協議会」という団体が発足した。報道によれば、会長には法学者としても著名な新潟大学名誉教授・弁護士の斉藤博氏、会長代行に著作権の審議会の委員でもある弁護士の松田政行氏、理事には慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏ら7人が就任したとのこと。同協議会は、弁護士・クリエイター・権利者団体など約100人の個人会員がいるらしい。
 当初、日経から発足前の速報が出たときには、「デジタルコンテンツの種類や利用方法ごとの金額など利用条件を検討する」のが目的だと報じられていた。しかし設立総会を伝える記事を読むと、フェアユースのことも大きく取り上げられていたようだ(日経系の記事だからというのもあるかも知れない)。協議会の中で、「デジタルコンテンツの流通促進」と「日本版フェアユース」とそれぞれに分科会を置いて検討する。


●「フェアユース」とは

(※ここのセクションはどう説明するかの試みなので、フェアユースをご存知の方は飛ばして結構ですよ。)

 「フェアユース」というのは、「公正な利用」との大まかな枠を設けて、その範囲内で著作物を使っても著作権を侵害したとはみなさない制度のことだ。これはさすがに著作権でやめさせるのは酷だろうという事例や、当然に著作権の及ばない自由な領域にすべきだという事例など、裁判所に判断させる仕組みだ。
 そうした漠然な「公正な利用」の範囲がどうなるかが問題だが、法律の中では判断基準を挙げておくにとどめる。そしてケースバイケースで裁判所が判断したものが今後積み上がり、適法と違法の境目が浮かび上がってくる。権利者が利用者を訴え、利用者の側が「フェアユース」を主張し、それが裁判所に認められれば適法行為のお墨付きを貰える。
 これまでの日本の著作権法では「フェアユース」の規定は無かった。著作権は、複製や演奏やネット配信といった行為を権利者以外には「禁止」する形で保護されている。権利者は他人が禁止された行為を「許諾」することで対価を得る仕組みだ。しかしそれだけでは、家庭内や図書館・教育現場・報道などで、メモやコピー・論述ができなくなるから、社会的に困った事態になる。そこで、そうした個別の事例を並べる形で著作権法30条以下に「権利制限規定」が置かれている。限られた範囲で権利者の著作権を制限して、他の人がその中でなら自由に使えるようになるという意味だ。
 個別に書かれた事例に当てはまらないと禁止されてしまう。この融通の利かない制度設計のために、社会が変化していくとさまざまな問題が起こる。たとえばネットに掲載された文章をサーバー内にコピーして検索エンジンを作るとか、一般の人が本を朗読して録音図書を作るとか、図書館に頼んで資料のコピーをFAXで送ってもらうとか、そういったことは厳密には「違法」だ。
 先の例は、これくらいなら許しても良いのではないかと考える人がおそらく多いのではないか。法律を変えて、個別の事例に加えていくことも可能だ。しかしそれが実現するまでおそろしく時間がかかる。そこで「フェアユース」で大枠を定めておいて、利用者が自分の責任で適法性を考えて著作物の利用を行ない、問題が起これば裁判で白黒つけてもらうのが早いというわけだ。

 アメリカのフェアユース規定(1976年の改正で追加)は、数ある裁判での判断が積み上がった結果を法律に反映させたものだ。日本でアメリカ著作権法を参考に「フェアユース」規定を真似するとすれば、先に条文を入れてから裁判例を積み上げていく逆の流れになる。規定が無い現状では日本の裁判所は「フェアユース」の考えを認めていないから、規定を先にしないことには、「フェアユース」の範囲を示せる裁判所の判断そのものが出なかった。
 日本の知財行政の方向性を決める知的財産戦略本部(知財本部と略す)では、専門調査会による報告案は既にパブリックコメントにかけられ、11月27日にその意見をふまえて同専門調査会で検討される予定だ。たぶんそこで報告の最終的な形が見えるだろう。
 そして今後は著作権行政を担当する文化庁へ、「フェアユース」の規定ぶりを検討するよう引き継がれる。


●日本は訴訟社会ではない?

 さて、「ネットワーク流通と著作権制度協議会」の設立総会で、フェアユースの慎重な検討を求める意見が出たらしい。報道の数が少なく、確かな内容を把握しづらいところではある。ただ以下のような意見は、著作権分科会での日本文藝家協会・三田誠広委員の意見や、知財本部の専門調査会で意見聴取を受けた実演家著作隣接権センター・椎名和夫氏の意見(PDF)とも通じるところがあるので、慎重論を一般化したものとして捉えることにする。
 まず、報道にあった発言の要旨を箇条書きにする。

・最小限のものでなく、比較的オープンな一般条項を作ろうとしている
・例外という権利制限の位置づけをひっくり返す可能性がある
・フェアユース規定をめぐる裁判を日本でできるのか
・補償金のような中間的解決策を採りにくくなるのではないか
・裁判をしない限り、「フェアユース」と強弁する人を止められない
・一般条項の根本的考え方を議論しておかないと、国民が一致した考えをもっていない現状、後で困ることになる。

 事実関係と照らし合わせるにとどめ、特に上の意見に感想は述べない。
 「フェアユース」の趣旨からすれば、ある程度の範囲を持たせた「オープン」な規定にするのは当たり前。それが狭すぎれば個別事例を列挙するこれまでのやりかたと変わらない。それでは足りないと考えるからこその議論だ。
 知財本部の専門調査会で検討していた際の話では、個別列挙の規定を残した上で、その他の「公正な利用」を法律に書き込むことを想定している。一緒に判断基準も書き込んでおき、それに基づいて個別事例からこぼれたものを判断して「例外」扱いに加える。
 日本では、「フェアユース」についての司法判断はまだ積み重ねられていないが、著作権をめぐる裁判はすでに数多く起こされている。根拠となる規定さえ作られれば、「フェアユース」を争点とする訴訟は今後いくらでも登場するだろう。
 フェアユースだと認められそうなら権利者も裁判をためらうだろうし、逆に認められなさそうなら「補償金」での解決を利用者が望む結果になるかも知れない。それを受けて法改正されることだってあるだろう。むしろ裁判を受けての補償金の設定の方が、一から話し合いで作り上げていくより早く済む可能性すらある。
 「フェアユース」規定のあるなしにかかわらず、法律の解釈が正しいか間違ってるかは裁判を経ないと判らない。まったく同じ前提の裁判例があるのなら別だが、裁判所の判断すらケースバイケースである。
 社会の複雑な状況を日本語の文章で示しながらルール付けする法律について、専門家である法学者の間ですら解釈が分かれることが珍しくないのに、国民が「一致した認識」を持つなんて無理だ。そこで考えに食い違いが生じるからこそ訴訟が絶えない。

 「フェアユース」導入論へのこうした反応を見ると、彼らがどう現状認識しているのか興味が湧く。訴訟社会でないと考えているのか、訴訟に持ち込まなくていいほど著作権が守られていると考えているのか、「フェアユース」以外に今後の裁判が増える要因が無いのか、など‥‥。
 権利を守るために裁判を起こすような状況がいけないと言うのなら、そう主張する同じ口で、録画ネットのような、日本のテレビ番組を海外で見たいから業者に頼んで録画機を実質的に預けていただけのサービスを訴訟で停止させた放送局を批判してほしい。まねきTVも同様に差止めようと訴訟を続ける放送局を批判してほしい。
 それに、家庭内での様々なコピーを許している著作権法の30条から、「違法」に複製されたものや「違法に」配信されたもの、そして適法に配信されたものまで除外しようとしている文化庁やレコード業界・映画業界を批判してほしい。これだって、結局は裁判に訴えなければ実効性は無いのだから(本筋ではないので長くは書かないが、ユーザーが訴訟の当事者になった場合、適法に入手したものですら証明できないからこそ私はこの種の法改定に反対している)。

 すでに、日本の著作権の世界は、何か新しいことが起これば訴訟に起こされるようになってしまっている。先の録画ネットやまねきTV、あるいは選撮見録、ブレイクTVのような例もある。いずれも「フェアユース」規定があればそれが争点になり得る事例ばかりだろう。適法だと認められるとは限らないにしても、だ。
 三田誠広氏は審議会で、「日本という国はこれまで,裁判で決着をつけるのではなく,なるべく話合いで解決するということが,国民性にも合致しておりますし,長い慣習でもあろうかと思います」と発言しているが、訴訟は現に起こっている。
 だから「フェアユース」導入の是非を考える際にも、誰もが訴訟の当事者になり得るのだと想定する必要がある。かつて法律の条項が書かれた時には想定されていなかった新しい試みを思いつき、実行したために訴えられた挑戦者が裁判で「フェア」な判断を受けられるようにだ。
 これまでは、新しい提案をしても、裁判で「法律に書いてないからアウトね」と判断されるだけだった。試みが無駄になるような不毛な状態を何とかしたい、裁判所の判断基準にも「フェア」かどうかをもっと取り入れて欲しい――という思いが、「フェアユース」導入の動きにはこめられている。
 「フェアユース」という主張のよりどころが与えられても、裁判で敗けてしまう人はいるだろう。しかし武器が無いために潰され放題だったこれまでよりは、僅かでもマシになれってくれればいい。あれもダメこれもダメと禁止事項でがんじがらめにされてきた挑戦者が、「フェアユース」規定で後押しされて、もっと世に出てこられるのならば‥‥。

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私的複製が文化を残す例

 NHKが、1978年から1987年まで放送したFM番組『サウンドストリート』のアーカイブをインターネットで配信し始めた。配信サービスの名前が『NHK青春ラジカセ』。ちょっと恥ずかしい‥‥。
 残念ながら、放送時にかけられた曲は途中を抜かれている。DJの語りを中心にした編集だ。おそらくは著作権の都合で、曲を丸ごとかけたときの使用料まではさすがのNHKも負担できなかったのだろう。仕方ない話ではある。
 ここで聴ける音源は、実はNHK自身の手で保存されたものではない。ウェブサイトで用意された説明書きに「放送当時、NHKにはFMの放送テープを保存する制度がなく、残念ながらほとんどのテープが残っていません」とある。この企画にあたっては、当時のリスナーが録音していたテープを提供してもらって音源にしたという。

 こんな話をどこかで読んだ覚えがあるな、と思った。テレビ番組の保存の問題とまったく同じだ。日本でのテレビ放送は1953年に開始されているが、この頃は生放送しかないので番組が保存されなかった。5年ほどすると制作現場にVTRが導入されるが、当時はまだテープが高価で、放送が終わると消去して新たな番組を録るのに使い回されていたという。放送番組が保存されるようになるのは1980年代からだ(出典:PDF注意。しかも、80年代においても二次利用目的の保存に限られ、保存できるものは保存するという方針に変わったとのは90年代後半に入ってからだという)。
 VTR導入から番組保存が本格化するまで、テレビ局で公式に残してある番組は特別な記念番組などに限られているとのことで、僅かしか無い。それでも今 我々が見ることのできる番組の記録で無視できないのが、一般の人がVTRを回して保存してくれたおかげで残されたものだ。日本で家庭用VTRが発売されたのは1965年、まだオープンリールだった。
 NHKに残された膨大なアーカイブの中に、個人による録画テープが寄贈されたものがある。NHKの『紅白歌合戦』の司会も務めていた故・宮田輝氏が残したVTRには、1965年から1971年の『紅白~』の映像が残されている。また「白壁コレクション」と呼ばれる、個人によるビデオアーカイブには、NHKに残っていなかった連続テレビ小説『鳩子の海』『水色の時』『おはようさん』などが含まれる(出典)。個人の記録がなければ永遠に失われていたかもしれない貴重なものである。

 音楽の場合でも、コンサートの模様などは商品化のためにわざわざ録音しないかぎりは、その場だけで消えてしまう。しかし、これを観客が個人的に録音することがしばしばある。著作権的には「私的複製」なので違法ではないものの、実演するアーティストや興業の側からすれば好ましくないと思うようで、たいていのコンサートでは録音禁止とされている。目を盗んで録音したものが、後になって思わぬ価値を持つ場合もある。
 ビートルズの日本公演が1966年の6月30日から7月2日に行なわれ、全5公演のうち際ションお2回分が公式には残されている。いずれもテレビ局が放送用に収録したものだ。ところが、3回目の公演を観客だった個人が録音していたと判った(2006年10月15日付 スポーツ報知記事「ビートルズ 幻のテープ発見」:当時のブックマーク)。
 コンサートの古い音源を商品化する際に、放送用に収録されたものを使うことも多い。しかし、録音時の事故や長い年月を経るなどしたための欠落を補うため、個人の録音テープの提供を呼びかけることがある。場合によっては、個人の録音からのリマスターでまるごと商品化することもある。これでもファンにとっては重要な記録だ。私自身の嗜好だと、先のビートルズや四人囃子・KING CRIMSONなどを例に挙げていきたいところだが省略する。
 歴史的記録としての価値を持つようになった映像や音声は、その存在自体に意味がある。それがどう記録されたかはあまり問題にされなくなる。

 文化庁の審議会で、世の中に発表された著作物をどう保存するかが検討された。著作権の保護期間が延ばされた場合に、どういう影響が考えられるか、その影響を最小限にするにはどうすれば良いかという観点での議論である(「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」の中間整理を参照)。コンテンツを制作する事業者本人や公共図書館がアーカイブを構築することを前提に検討が加えられた。
 しかしこの議論の中では、民間の第三者が著作物を保存する可能性を考慮されていなかった。著作権があるために複製が認められないという想定だ。今後はインターネットで発表された著作物を保存する必要性もあるとしながら、それを公共図書館に担わせるという。海外ではInternet Archiveに代表されるように、ウェブサイトを記録していく民間団体の存在感が大きい。ネット上の情報をある程度保存しておくには、民間団体や個人の協力も得なければ手が回らないのではないか。

 いま世の中に発表される著作物の多くはインターネットの上にある。これらを保存するには、どこかのサーバーに複製しておく必要があるが、複製を禁じることで著作権を保護してきた今の法律とは真っ向からぶつかってしまう。
 そこを変えて、社会全体で補い合いながらアーカイブとしての機能を果す世界を私は夢見ている。何か突発的な事情でオリジナルが失われたとしても、社会のどこかに保存されたコピーがその作品を残していくという世界だ。
 ネット上のコンテンツは比較的早く消える。書籍も酸性紙のため劣化するという問題がある。映画フィルムも録音テープも、保存状態にはよるが、長い年月の中で劣化していくことが知られている。記録されなかったものは勿論残らないし、記録されたものでもあえて保存や複製をしなければ、いつかは消えてしまうかも知れない。
 世の中に向けた発表された作品が、すべて、いつも、そしてどこかで提供されている世界になってほしい。アーカイブの維持に携わる人を文化庁の議論のように制限してしまって、作品がこの世の中から失われてしまうデメリットを甘受しなければならないとしたら、あまりにも悲しい。

 ――『NHK青春ラジカセ』を聴きながら、そんなことを考えた。当時番組を聴いていた人だけではなく、いま始めて聴く若い世代にとっても、追体験の機会は貴重だ。瞬間瞬間を捉えた記録の価値というものは、後世の人間ほど重く感じられるものではないか。
 私から見ても「ありがとう、残していてくれて!」という思いになる記録は多いのだ。

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2008年11月18日 (火)

ICPFセミナー「アメリカにおけるフェアユースの実情と日本への導入」に行ってきた

 情報通信政策フォーラム(ICPF)のセミナー「アメリカにおけるフェアユースの実情と日本への導入」に行ってきた。講師が城所岩生先生(成蹊大学教授、米国弁護士)で、最初にセミナー開催がアナウンスされた時の仮タイトルは「フェアユース規定の導入を急げ!」だった。こちらの方が話の方向性を伝えているかもしれない。
 今年の3月から、内閣に置かれた「知的財産戦略本部」で「日本版フェアユース」を著作権法に入れようと検討が進められてきた。知財戦略本部は、各省庁を統括する形で知財に関する大きな方向性を決める組織で、フェアユースについてこの17日まで意見募集が行なわれていた。

 セミナーは、そもそも「フェアユース」とは何かというところから話が始まったのだけど、どうにも説明しにくい概念だ。著作権のある著作物を勝手に使っても、その著作権を侵害したとはみなされない「公正な」利用行為の範囲――と考えればいいのか。アメリカの著作権法では106条で著作権を定めて、それと並ぶ形で107条にフェアユースが決められている。先に定めた権利にかかわらず「フェアユース」なら侵害ではない、という書き方だ。たとえばテレビ番組を録画して、見て、すぐ消す場合が「フェアユース」の一例になる。
 これに比べて、日本の著作権法ではフェアユースの規定は無い。それで「入れよう」という話になっているのだが、これまでは、著作権が働かないようにした方がいい利用行為を個別に列挙していく方式が取られていた。私的複製や引用といった事例を個別に並べて著作権を制限していくことから「個別権利制限規定」と言われている。
 さて、アメリカ著作権法では「フェアユース」の範囲をどう決めるのかというと、条文の中に判断基準が4つ書かれていて、「使用の目的および性質」「著作物の性質」「使用された部分の量および実質性」「潜在的市場または価値に対する影響」を総合的に裁判所で判断するという。訴訟の中で著作権侵害かどうかを争い、訴えられた方が「フェアユース」だと裁判所に認めさせられれば勝てるというわけだ。
 この4つの要件は、ただ読んだだけでは判りにくい。そこで城所先生は実際の裁判例を紹介しながら説明をした。

 まず有名なのが、ソニー・ベータマックス判決だ。家庭用ビデオ機器でユーザーがテレビ番組を録画するのは違法だとユニバーサル・スタジオがソニーを訴えて、1984年のアメリカ連邦最高裁でこの判決が出された。実は上で書いた「テレビ番組を録画して、見て、すぐ消す場合」というのがこれで、ビデオ機器のユーザーがこういう使い方をするのは視聴の時間をずらす(タイムシフティング)だけなのでフェアユースだと判断された。ソニーに対しても、ビデオ録画機で違法でない録画ができる以上は責任を問えないとされた。

 検索エンジンに関する裁判でもフェアユースが認められている。たとえば画像の検索をかけた時に検索結果として表示されるサムネイル画像について争われた Kelly対Arriba 第9高裁判決で、「使用の目的および性質」については営利目的だが「変容的使用」(もともとの画像をそのまま使っているのではない)にあたるとされた。「著作物の性質」は、複製されたものが著作物にあたるがネットで公開されているということでフェアユースの判断に「若干不利」。「使用された部分の量および実質性」では、確かに著作物の全体が複製されているけれども、一部を複製するだけでは検索エンジンの有用性が損なわれるの合理的とも言え、フェアユースかどうかの判断は「中立」(不利でも有利でもない)。「潜在的市場または価値に対する影響」は少ないとしてフェアユースに有利。これらの判断を総合した上で、画像検索とサムネイル表示がフェアユースと認められた。
 こうした4要件の判断は、裁判の中で意外と丁寧に行なわれていると城所先生は言う。会員制で提供されていた写真が第三者にサイトに転載され検索エンジンに集められたという Perfect 10対Googleの第9高裁判決でも、「変容的使用」と「市場に悪影響を与える可能性が少ない」ことを理由にフェアユースが認められた。他の2要件では先のKelly対Arribaと同様の判断を下している。なお、これらの判決はサムネイル画像に限定していて、そこをクリックして表示されるフルサイズの画像については判断していない。
 文書検索サービスに関する訴訟では、 Field対Google 裁判でキャッシュページについて争われた。キャッシュページは、Googleがウェブページを取り込んでサーバに溜め込んだものを表示させているから、ウェブページの複製をしているのは間違いない。これがフェアユースかどうかで争われ、複製元の原作にアクセスできない場合でも参照できること、権利者の要求によって後からGoogle内でデータを消せること(オプトアウトの手続きが存在すること)を主な理由として、フェアユースだと判断された。他の2要件は画像検索の時と同様。

 フェアユースかどうかの判決が出る前に和解した例もある。Googleのブック検索は、全米作家協会と全米出版社協会からそれぞれ2005年に提訴され、2008年の10月に和解した。Googleが1億2500万ドルを支払うこと、著作権者へ収益を分配するための非営利団体を作ることなどを条件としている。城所先生は和解に至った理由について、「自分の感触」と前置きしながらも、書籍を取り込んで検索することについては権利者からの事後要求と削除(オプトアウト)の方式が業界で確立しておらず、フェアユースだとのGoogleの主張が認められない可能性があったからではないかと話していた。

 以上のように、検索エンジンについての裁判所の判断はアメリカで積み上がってきている一方、日本では国内で検索エンジンのサーバを設置すること自体が著作権の侵害に当たると解釈されている。アメリカの著作権法と日本の著作権法、フェアユース規定があるのと無いのとでこんなに変わる。その結果、日本での検索エンジンはオプトイン(あらかじめ権利者の許諾を得てからサーバに蓄積する)が主流、アメリカでの検索エンジンはオプトアウト(まずサーバに蓄積して、権利者の要求があったら消す)が主流という違いをも生んだ。
 検索エンジンの誕生は日本もアメリカも1994年だ。それが、今や日本でもアメリカ発の検索エンジンに席巻されることになっている。これは「失われた10年」ではないかと城所先生は話す。実は、著作権に関する行政を担当している文化庁は、検索エンジンのサーバを国内で運用しても違法にならないよう条文を追加しようという結論を審議会で出しているのだが、まだ実現していない。

 日本では、放送関連でベンチャーが登場していながら、番組の権利を持っている放送局からの訴訟で潰されてしまっている例がある。例えばテレビパソコンを自社の事務所へ置いて、海外にいる顧客にテレビ番組を転送するサービスをしていた「録画ネット」の事件。マンションの共用部分にHDDレコーダーを置いて、各戸からテレビ番組の録画・再生の操作を可能にした「選撮見録」の事件。前者と同様のサービスとして、「ロクラク2」や「まねきTV」も訴訟に遭っている。
 日本では放送局にも著作隣接権という権利が与えられていて、裁判でも「まねきTV」事件以外はその権利が侵害されたとの主張が認められている。ユーザーから見れば、自分でレコーダーを用意して録画すれば「私的複製」という個別の規定で認められているので自由にできる。そのレコーダーを事業者が用意して管理してくれるという違いでしかないのに、裁判になるとこれが「私的複製」とは違うという判断になってしまうわけだ。実際、「まねきTV」だけが生き残れているのは、ユーザーに市販の録画・ネット転送の機器を買ってもらって、事務所で預かるという手続きを徹底したためだった。

 日本で著作権に関する訴訟があるとしばしば「カラオケ法理」というのが登場する。もともとはカラオケスナックで客に唄わせることが音楽の著作権を侵害するかとの争いで、最高裁判所が「その場を店側で管理している」「その場を提供することで利益を得ている」という基準を出して、店が著作権侵害をしたとみなした1988年の判断から来ている。実際に唄っているのはお客だったり従業員だったりで、これだけを見れば著作権法では侵害行為ではないとも言える(無償・非営利で唄うことは著作権の侵害ではないと定められている)。しかし、この「カラオケ法理」で実質的に店が唄ってるものと解釈して、JASRACが使用料を徴収できるようにした。
 この「カラオケ法理」は「録画ネット」「選撮見録」「ロクラク2」の裁判でも当てはめられている。録画の操作をしているのはユーザーなのに、事業者が録画をしたとみなされているわけだ。そうした判断を回避しようとすれば、「まねきTV」のように厳格で面倒な手続きを経るしかない。
 アメリカにもこういうサービスはある。「スリングボックス」というサービスは「録画ネット」のようにテレビ番組の録画とネット転送を可能にしている。また、ケーブルテレビ会社が自社にレコーダーを設置して、ユーザーの家庭から遠隔操作して録画・再生ができるサービス(「リモートストレージDVR」と呼ばれる)を行なっている。後者については映画会社やテレビ局から訴えられてたが、著作権侵害ではないと判断された。日本とは対照的な動きだ。
 必ずしもフェアユースだけが日本とアメリカの違いというわけではないのだが、実際に新しいサービスが試みられて、訴訟の末に生き残っていけるかはフェアユース規定の有無に大きく左右されている。日本では、著作権の侵害を否定する根拠が個別列挙にしか無いからだ。しかもその列挙された利用方法に、サービス事業者が主張できる項目が極端に少ない。そうしたハンデに加え、「カラオケ法理」がネット上のサービスにどんどん当てはめられてしまい、ユーザーがしてる行為だからという抗弁が封じられる。これでは、サービスを考える側も萎縮的にならざるを得ない。

 日本でこれから作られる予定の「フェアユース」の実際の中身はまだ判っていない。現時点では、アメリカ著作権法のフェアユースを参考にしながら内容と効果を想像することしかできない。知的財産戦略本部でイメージされているのは、フェアユースを著作権法に入れるという方向性と、今の著作権法で個別に決められた自由利用の範囲をそのまま残し、それ以外で認める必要のある自由利用を「フェアユース」で可能にするという効果だ。それによって、自分でリスクをとって挑戦していくベンチャーが日本でも登場してほしいと。

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2008年11月 7日 (金)

著作権分科会の法制小委「中間まとめ」・保護利用小委「中間整理」パブコメは11月10日までなんだけど、締切り直前になって文化庁が意識調査の内容を公表した件について

 ——いや、べつに文化庁をdisろうという話ではありませんけどね。

 この週末が明けますと、法制小委「中間まとめ」および保護利用小委「中間整理」パブコメの締切りとなります。11月10日です。

http://www.bunka.go.jp/oshirase_koubo_saiyou/2008/chosakuken_hosei_ikenboshu.html
「文化審議会著作権分科会『法制問題小委員会平成20年度・中間まとめ』に関する
 意見募集の実施について」
(文化庁) 2008.10.9

http://www.bunka.go.jp/oshirase_koubo_saiyou/2008/chosakubutsu_hogo_ikenboshu.html
「文化審議会著作権分科会『過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会中間整理』
 に関する意見募集の実施について」
(文化庁) 2008.10.9

 あと面白いことに、パブコメ募集期間の最後の週末を前に、文化庁が意識調査の内容を公表しました。調査を委託されているという社団法人 中央調査社のサイトにも同文面のページが上がっているようです。

http://www.bunka.go.jp/oshirase_other/2008/chosaku_ankeito.html
「文化庁『著作物の利用についてのアンケート調査』の実施について」
(文化庁) 2008.11.7

http://www.crs.or.jp/about_9099.htm
「著作物の利用についてのアンケート調査」
(社団法人 中央調査社)

 保護利用小委(文化庁は「過去小委」と略称)のパブコメへ意見を送った個人が調査の対象になるというのは、以前から案内のあった通りです。そして今回明らかになったことで面白いなぁと思ったのは、どうも意見を送った人が書いた住所に訪問して調査票を渡すらしいのですね。ということは、「訪問でも何でも来いや! 答えてやるぜ」という人は、パブコメを送るときに住所は地番・部屋番号まで書いた方が良いということですか。
 これから意見を送ろうという人はその辺りも考えていただけるとよろしいかと。住所を省略して既に送ってる方でも、まぁ適当に書いて再度 住所をフルに入れた意見を出すという手もありそうですね。

 さて、保護利用小委に送った私の意見は既に公表しておりますが、今度は法制小委の方を公表します。例によってCCLでの公表ですので、好きに使って貰って構いません。ああ、改変しても良いですよ。パブコメの場合は「継承」を外しているということで解釈してもらって構いません(ライセンス的には、私がここで改変許諾を宣言したということでよろしく)。




■「法制問題小委員会平成20年度・中間まとめに関する意見」

5.該当ページおよび項目名:
   第1節 「デジタルコンテンツ流通促進法制」について(全体として)
6.意見: 以下の通り

 「デジタルコンテンツ流通促進法制」の必要性はテレビ番組に限ったものではない。「過去のコンテンツ」でありネットでの二次利用を望まれる(そして現在なかなか流通が進まない)ものの代表としては確かにテレビ番組が想定されるところだが、実際問題として音楽・映像分野でも海外に遅れを取っているのが現状である。
 単純に、海外での配信サービスが日本に上陸しても、本国と同様のカタログを維持できないのは(国による権利関係の違いが原因とは言え)ユーザーから理不尽に映る。

 著作権分科会下の各小委員会では、この「流通促進法制」に関する議論を他の省庁の審議会での議論の経緯を見ながら行なっているところだが、その多くはテレビ番組に限定して議論されたものである。著作権分科会がこの範囲に縛られる必要はなく、むしろもっと広い視野でこの問題を検討していくべきではないのか。
 著作権が関与する範囲も無論放送番組だけでないし、放送番組で指摘される流通阻害要因が他の著作物でも起こっていないのか精査することを望む。
5.該当ページおよび項目名:
   第1節 「デジタルコンテンツ流通促進法制」について
    2 コンテンツの二次利用の円滑化に関する課題
6.意見: 以下の通り

 「デジタルコンテンツ流通促進法制」を放送番組に限って議論すること自体、妥当性を欠き議論を不当に矮小化するものと考えられる。その上「権利者不明等により契約交渉が用意でない場合の問題が中心課題」とするのは問題をさらに矮小化していると言わざるを得ない。多数の権利者が存在する際に一人でも許諾を拒否する者がいる場合こそが問題の本質であり、全員一致で権利行使するのでなく誰かが許諾をすれば流通できるような制度が望まれている。また、これは放送番組に限らず、音楽配信や映画配信ですらも同様の問題を抱えている。

 「権利者不明の場合に十分な調査をした上でも権利者が不明である場合に、一定の条件で利用を認める制度的措置について、早期に実施に移すべき」というまとめ自体には賛成である。しかもこれは保護期間の延長や「デジタルコンテンツ流通促進法制」に関係なく、単独の課題としても解決すべきものである。
 また、これだけでもまだ「流通促進」には不足である。海外で既に新しいビジネスモデルとして進み出しているサービスの内容を、日本で試せない(あるいはその権利を持っている者が試そうともしない)のが実情であり、だからこそ“権利制限すべき”との論が説得力を持ってしまうのである。

 権利を持つ者が自ら集中管理を実効性あるものにする努力を怠らないとするならば、現状のままでもデジタルコンテンツの流通促進は見込めるだろう。しかしそれがまだ不足していることは関係者の一致した見方だ。
 権利制限をも視野に入れた議論は権利者(特に著作隣接権者)に選択を迫る働きがあるのではないか。その意味でも、放送番組に限った議論をすべきではない。
5.該当ページおよび項目名:
   第1節 「デジタルコンテンツ流通促進法制」について
    3 インターネット等を活用した創作・利用に関する課題
6.意見: 以下の通り

 「インターネット等を活用した新たな創作・利用形態に関する課題について、委託調査により、関連事業者等が問題を感じている点を調査」した結果、多くは著作権分科会の検討課題に含まれているが「ストレージサービス等についての法的評価の問題」が指摘されたとある。これはまさに司法で「カラオケ法理」が拡大しすぎていることによる。これに歯止めをかけ、インターネット上で提供されユーザーの利便を高めるサービスを「著作権侵害」から救う制度的方策を早く取るべきである。

 「現在の権利制限の切り口(私的領域かどうか、非営利無料かどうか等)と、実際に権利者の利益を不当に害するか否かの実態とが、乖離してきているのではないか」とあるが、むしろこうした問題設定は複製をそのまま権利者の不利益とみなす考え方から来ているのであって、ここから脱却して素直に私的領域内あるいは非営利無料の複製をありのまま認めるべきである。その上で、本当に権利者のビジネスに不当な影響を及ぼす態様の複製について対処していく考え方で充分だ。
 社会通念からすれば、私的領域内・外あるいは営利・非営利のラインこそが、許される・許されないラインと合致しており、むしろ先の「乖離してきているのではないか」とする著作権法上の伝統的な考えの方が乖離しているとすら思える。

 「不特定多数の者のマッシュアップによって制作が行われる場合について、今後生じてくる可能性のある問題点について、精査と研究を行うことが必要」とある部分については、賛成である。すぐにでも精査・研究を行なうべきであるし、そうした表現の妨げになるような障害はなるべく取り除く(あるいは適切なルールが出来るよう促す)ことが必要である。

(以上、文言は中間まとめ概要より引用した。)
5.該当ページおよび項目名:
   第2節 私的使用目的の複製の見直しについて(全体として)
6.意見: 以下の通り

 私的使用目的の複製の見直しについては、私的録音録画小委員会の議論を受けて法制問題小委員会でも検討されたことになっているが、極めて不足した内容と言わざるを得ない。著作権法30条によって私的複製される範囲の縮小(あるいはこれまで曖昧だった部分の明確化)にどれだけの実効性があるのか、また私的録音録画小委員会での議論の前提が妥当だったのかとの精査は手つかずのままである。
 特に私的録音録画小委員会では、30条縮小を示唆した中間整理に対して多数のパブリックコメントが反対意見として集まったにもかかわらず、その多数意見を無視して30条縮小を押し通したという経緯がある。パブリックコメントの中で指摘された問題点についても私的録音録画小委員会では対処されておらず、法制問題小委員会での検討の前提とするには、あまりにも不適当な形で出されたものである。

 私的録音録画小委員会が打ち出したのは、違法複製物や違法配信物からの私的複製と、適法配信からの私的複製とについて著作権法30条の対象から外すとの方向性である。
 しかし前者は、ユーザーから見て私的複製元の録音・録画物が適法に提供されたものかは知ることができず、またいざ裁判になった場合でも自らが所有する複製物の適法性を証明することは困難である(その複製ソースが手元に無い場合はレンタルCDの例を持ち出すまでもなく少なからず存在する)。さらには日本レコード協会から提案されている「適法マーク」(いわゆるエルマーク)は音楽配信のみに使われ(しかもiTunes Storeには採用されていない)、かつ海外での配信には当然のことながら付されていない。このことは著作権分科会でも指摘されている。しかし私的録音録画小委員会では精査されておらず、更に同小委員会では映画製作者代表の委員から「適法マーク」の使用がまだ準備段階でしかないことが明らかにされた。また、ダウンロードを対象としストリーミングは含まないとの事務局見解についても、その区別をどうするのかについては答えが出ないままである。仮に「情を知って」との要件が加えられるとしても、その証明が(権利者側にもユーザー側にも)困難である以上、違法であるかそうでないか判らない不安定な状態が今後より一層強まるだけである。
 後者については、配信時の契約によってその後のユーザーの複製の許諾範囲を定めるという考え方であるが、現状でも配信時の契約では明らかにされていない私的複製態様は想定される。特に変換・バックアップに伴うような所謂「孫コピー」については契約で定めることは考えられず、また敢えてそれを契約で禁止することでユーザーの利便性を大きく損ねるおそれも生じるところである。私的領域内で行われる複製であるにもかかわらず、社会通念上は認められ得るのに「違法」とされる行為が多く発生し放置されることになりかねない。
 30条へ安易に手を加えることで、著作権法が規範としての役割を果たせなくなることを危惧する。

 私的録音録画小委員会では「録音」「録画」についてのみ30条縮小の対象とされていたが、著作権分科会での委員の指摘を受けて、法制問題小委員会でもプログラム著作物を対象とするか検討が加えられた。結論としてはプログラム著作物について30条縮小を行なうことは見送られた感がある。
 このこと自体は歓迎するが、その理由が「現時点で必ずしも明確といえる状況ではない」というのは問題である。つまりプログラム著作物での被害状況が「明確」になれば30条縮小があり得たということだ。しかし前述の通り、30条縮小自体のもたらす法的効果について(本来は専門的な検討が加えられるべき)法制問題小委員会で議論されなかったことは遺憾である。
 また、他の著作物についても要望が無かったという理由だけで片付けているのは不足と言わざるを得ない。テキスト・絵画・写真等の著作物を30条除外の対象に加えると、社会的にどのような混乱をもたらすのか明確に示すべきだったのではないか。そして、その混乱は録音・録画の場合には起こらないとも必ずしも言えないということも意識すべきである。

 法制問題小委員会は数年前から有識者中心の委員構成とし、専門的な議論が行なえる小委員会として組織されている筈だが、こと私的複製に関する議論では全くその専門性が活かされていないというのが残念でならない。
5.該当ページおよび項目名:
   第3節 リバース・エンジニアリングに係る法的課題について(全体として)
6.意見: 以下の通り

 リバース・エンジニアリングについて、相互運用性の確保を目的としたものは「一定の要件の下で」権利制限を早期に措置するとした方向性に賛成である。ただし「一定の要件」というのがくせものであり、これによって権利制限の対象となるリバース・エンジニアリングが過度に狭められないよう要望する。
 著作権法においては複製を行なった時点を捉えて権利が及ぶか否かを考えるところであるが、リバース・エンジニアリングについては複製段階ではなくその結果の公表段階を捉えて権利行使を考えるべきではないだろうか。複製元のソフトウェアとの「競合性」を判断材料にする案も出されているが、相互運用性の持ったソフトウェアは運命的に元のソフトウェアと「競合性」を持っているものである。「競合性」そのものよりも、不正競争的な観点でもって適法性を考えるべきではないか。

 障害の発見等の目的で行なうリバース・エンジニアリングについても「権利制限を早期に措置することが適当」との方向性を出したことを歓迎する。こうした場面では、分析を必要としながら一刻を争うようなことも想像される。コンピュータが社会の大部分を占める世の中になっている以上、これを安全に運用するための分析行為がはっきりと適法であるとされる意味は大きい。
 逆に「ウィルス作成等の悪意ある目的の場合との区別」も指摘されているところであるが、こうした区別が可能なのかは微妙な問題と言えよう。ここでの「区別」を厳密にしようとするあまり、先の障害発見目的のリバース・エンジニアリングを妨げることになってしまっては元も子もない。権利制限を先行しつつ、「悪意ある目的の場合との区別」を慎重に見極めていただきたい。

 その他プログラム開発の目的で行なわれるリバース・エンジニアリングについては、「範囲が無制限に広がり、不適当」とある。
 しかしながら今回の法制問題小委員会での検討にリバース・エンジニアリングが盛り込まれたのは、表現を模倣するのでなくアイディアを抽出する作業が著作権法で禁じられてしまっていることへの対処である。その原則を貫徹させるならば、「その他プログラム開発の目的」でもリバース・エンジニアリングを権利制限の対象とすべきではないか。
 むしろリバース・エンジニアリングを複製と解釈するのではなく、そのリバース・エンジニアリングからソフトウェアが作られ公表された時点をもって侵害を判断する形にすべきではないだろうか。

(以上、文言は中間まとめ概要より引用している。)
5.該当ページおよび項目名:
   第4節 研究開発における情報利用の円滑化について(全体として)
6.意見: 以下の通り

 研究開発における著作物複製に関する権利制限も法制問題小委員会で検討されたが、「早急に結論を得るべき範囲と、それ以外に分けて検討」するとした結論が出てしまうところに「日本版フェアユース規定」の必要性を感じざるを得ない。時間をかけて個別の制限規定を定めていくのでは世の中の動きに対応できないというのがフェアユース導入論の根拠の一つであるが、法制問題小委員会において(日本版フェアユース規定の導入を見据えながら議論されているのも興味深いが)こうした消極的な議論になってしまうのは図らずもそれを証明してしまったように思えてならない。

 「情報解析分野の研究開発」において権利制限を行なうとの方向性には賛成する。「権利者の利益を不当に害しないこと等の条件の下で」としていることも妥当であろう。

 「その他の研究開発分野」について「大学の研究者の行う複製」に限定してしまっているのは問題がある。この「研究」の範囲に個人研究者まで含められれば、権利制限がもたらした研究の社会への貢献が期待できるのではないか。

 研究開発目的の権利制限においても、複製の時点で権利が及んでいるとは考えずに、その結果を公表する場面に応じて権利を及ぶようにしてはどうだろうか(私的複製物が公衆の前に出された時点で権利制限から外れるのと同じようなイメージ)。この際に営利目的か否かの枠をはめ、補償金を用意するなりして対処すると良いのではないか。

(以上、文言は中間まとめ概要より引用した。)
5.該当ページおよび項目名:
   第5節 機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱いについて
6.意見: 以下の通り

 「機器利用時における蓄積」および「通信を巡る蓄積」に関し複製とみなさないことを法律上明確にすることには賛成である。

 ただし、その要件を設けることにより、新しい通信技術が登場した場合や、今あるP2P通信技術を用いた場合(今回のワーキングでの検討では対象とされなかった)などにやはり「複製」と解される蓄積が出てくるのではないかと危惧される。挑戦的・意欲的な通信事業者にとっての足かせを充分に外すところまでは行ってないのかも知れない。
 こうしたところでも、また「日本版フェアユース」の必要性を意識させられるところである。

 ともあれ、今やれる対処はしておくべきであろう。
5.該当ページおよび項目名:
   第6節 その他の検討事項
6.意見: 以下の通り

 「通信・放送の在り方の変化への対応」に関し、著作権法において放送/通信の区分について実態を見た上で放送関連法と定義を一致させるべきである。要するに、公衆が視聴する映像であって同時性を重視した番組構成のある一方的放映を「放送」とすべきである。

 知的財産戦略本部の「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」において「日本版フェアユース」導入への方向性で報告がまとめられるところであるが、その後 法制問題小委員会において詳細な検討が加えられるものと目されている。この規定の導入は是非とも必要であり、今期法制問題小委員会の報告書でも導入の必要性を書き込んでも良いほどである。
 本「中間整理」が著作権分科会において了承される際、三田委員からフェアユース規定導入への慎重意見が出たものと記憶しているが、「日本という国は裁判で決着するということでなく、話し合いで決めるというのが国民性」とする委員の見解はフェアユース導入を否定する根拠にはなり得ない。なぜなら、既に裁判によって多くのネットサービスが差止められてきたからである。日本版フェアユースの導入が叫ばれるようになってきたのも、こうした実態があってのことである。
 三田委員は同じ会合で、知財本部の「議論の動向を見守りつつ」と言わずぜひ法制問題小委員会としても積極的に議論すべきと発言していたが、私もこの意見に(委員とは反対の意味で)賛成である。繰り返しになるが、法制小委でもフェアユース規定の導入の必要性を、早いうちから積極的に打ち出すべきなのである。

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2008年11月 6日 (木)

「過去小委員会中間整理に関する意見(個人)」

 ――とりあえず提出しましたよ!

 まぁ、基本的には、前に公開したやつをベースに書いたのですが。
 概要の方を見ながらメモを取った後で本文と付き合わせたような書き方ですんで、文言の引用は概要の方が中心になっております。

 保護利用小委(文化庁としては「過去小委員会」)のパブコメは文化庁の「意識調査」へ連動される予定なんですけど、個人名義で送った人にしか「意識調査」の回答権が与えられないようです。なので物申したい方には是非パブコメの提出をお勧めします。出した人全員に意識調査の声がかかるとは限らないかも知れないですが。
 たとえばこんな感じで一言でも良いのではないかと。

タイトル「過去小委員会中間整理に関する意見(個人)」

1.個人/団体の別: 個人
2.氏名: ****
3.住所: ****
4.連絡先: **@**
5.該当ページおよび項目名:
  第3章 保護期間の在り方について(全体として)
6.意見:

 保護期間の延長には断固反対!

 これを kako-syo@bunka.go.jp へ送る、みたいな。




 さて、私が送ったパブコメを以下に転載します。



5.該当ページおよび項目名:

  第2章 過去の著作物等の利用の円滑化(全体として)

6.意見: 以下のとおり



 保護期間を原則死後70年に延ばす際に生じる多くのデメリットが延長慎重論の論拠である(ただしそれらが論拠の全てではない)。これを受けて、そのデメリットを減じる施策を考案し、延長への議論を進めるという手法は論理的にはあり得るところである。

 しかし保護期間延長のデメリットを減じるという触れ込みで“利用促進策”が本「中間整理」で提言されている割には、その範囲は不当なまでに狭い。



 「過去の著作物等の利用の円滑化方策」(中間整理4ページから)については、もっぱら放送番組の二次利用を前提とした著作隣接権の集中管理や、権利者不明の場合の裁定制度の活用など、範囲が限定されすぎていると言わざるを得ない。

 その一方で、延長の際に必ず問題となることが予想され、かつ現に(保護期間内であっても)流通を阻害する要因として考えられるものはこの検討範囲の外にもある。たとえば多数権利者が関わり、そのうちの僅かな反対によって利用が妨げられるケースについて、中間整理はどれだけの方向性が打ち出せているか。

 この種の問題を解決する策として有効だと考えられる権利の集中管理は、確かに著作権分野や放送番組での著作隣接権においては権利者側の努力が始まってはいる。しかし放送番組以外のジャンル――たとえば音楽配信や動画配信(とりわけDVDと競合するようなダウンロード販売によるもの)について、関係権利者間の意向の食い違いが見られ「集中管理」と呼べる状態には無い場合が多い。海外ではさまざまな配信の試みが行なわれ、中にはビジネスモデルとして定着したものも出始めている中、それと同じコンテンツを日本のユーザーが享受できない問題が発生している。iTunes Storeでの米国版と日本版のカタログの差異などはその代表と言えるだろう。

 場合によっては日本から海外のサービスを使うという方法もあるが、それでは国内産業振興の観点から解決策と呼ぶことはできまい。国内での著作権・著作隣接権の集中管理を進め、少なくとも海外で適法配信されている著作物は、日本でも同様の仕様で配信されることが可能なようにすべきであろう(それは原権利者の意思として流通を考えているということでもあるのだか)。



 「アーカイブの円滑化」(中間整理38ページから)については、そのアーカイヴを作成する主体を著しく狭めて検討されているのが問題である。図書館(とりわけ国立国会図書館)・博物館、あるいは自らが番組の権利者でもある放送事業者が作成する場面しか想定されていない。

 しかしながら、インターネットによるアーカイヴサービスが一般化しつつある現在において、むしろアーカイヴの主体として考えるべきはネット上でのサービス事業者や個人ユーザーである。

 特に、ネット上に浮かんでは消えるコンテンツの保存において、そのアーカイヴィングを国立国会図書館だけに委ねるのは、予算の面で言っても手間の面で言っても酷に過ぎると言え、また実際問題として網羅性を確保するのは不可能であろう。そこで重要になってくるのが米国でのInternet Archiveのような民間事業者であったり、個人ユーザーの手によるアーカイヴ(要は転載)である。民間・個人が主体となって非営利で行なわれるアーカイヴについては、一定の要件を付した上で認めるべきである。

 「中間整理」で想定されていた主体以外についても(一定の要件を設けるにせよ)検討を加え、言ってみればインターネット全体がアーカイヴであり続ける施策を打ち出す必要がある。

5.該当ページおよび項目名:
  第2章「過去の著作物等の利用の円滑化」
   第2節「多数権利者が関わる場合の利用の円滑化について」
6.意見: 以下のとおり

 「多数の権利者が関わる場合の利用の円滑化」(中間整理10ページから)において想定されているのは放送番組だけである。実演家の権利が実質的に“買い上げ”られていたり「ワンチャンス主義」で既に消えてしまっていたりするような音楽・映像分野においては、「多数の権利者が関わる」ゆえの流通阻害が起きていないとの前提で検討がなされているようである。
 しかし現実に海外との比較で「流通阻害」が目に見えて起こっているのは寧ろそうした音楽・映像分野である。法律や契約により著作隣接権の行使は出来ないことが多かろうが、原権利者(著作隣接権者)だった実演家が流通を望みながら、現在の権利者によってそれが止められているという「多数の権利者が関わる場合」の流通阻害を解消すべきである。

 また、放送番組に限定して検討された筈の「利用の円滑化」方策においても、結局は「必ずしも不当な理由による許諾拒否とは言い切れず、むしろ、実務上は、インターネットの番組配信がビジネスモデルとして未成熟であることや、引退等の理由で不明者の許諾が得られないことの方が問題」とし、「明確に効果がある制度的な対応策を見出すことは困難だが、引き続き権利の集中管理の促進、適正な利益再分配ができるビジネスモデルの構築等の関係者の取組が必要」との結論に至っている(以上の文章の抜粋は中間整理概要から)。これでは検討する前と変わっていない。何も言っていないのに等しい。
 海外において新たな試みが次々と登場する中、日本ではネット配信ビジネスにおいて閉塞感に包まれている。せめて海外で一定の成果が見られるビジネスモデルについては、同等の条件で許諾を出せるよう方策を考えるべきではないのか。そして如何にして権利者への対価の還元を実現するかを考える方がよほど建設的というものであろう。
 著作物というのは、市場を流れなければ利益を生まない。
5.該当ページおよび項目名:
  第2章 過去の著作物等の利用の円滑化
   第3節 権利者不明の場合の利用の円滑化について
6.意見: 以下のとおり

 現行著作権法にも、権利者不明の場合には一定の要件を求めた上で裁定制度の利用が認められてはいる。しかしこの裁定制度の手続きは、合理的な範囲で簡便になる必要がある。裁定制度のハードルがそのまま著作物利用の妨げとなってしまうのでは本末転倒である。
 また、「著作隣接権について、現行裁定制度と同様の制度が設けられていない」(中間整理26ページ)との認識を重く受け止めるべきである。たとえば一定数の関係権利者(原権利者も一定条件で含めて考えている)の許諾を得られれば利用可能となるような裁定制度なども考慮すると良いのではないか。音楽配信においてレコード会社が許諾を拒否していても、アーティスト側で配信を望んでいる場合には裁定制度の利用で配信可能とできるような。

 中間整理では制度的対応策として、権利制限規定と事後承諾的な使用料支払いによるA案と、第三者機関への供託を定めるB案とが提案されている(29ページから)。
 これらは必ず相反するというものではなかろう。両方を組み合わせて実現することもおそらく可能だ。そうした柔軟な姿勢で、実効性ある制度の実現を目指すことを望む。
5.該当ページおよび項目名:
  第2章 過去の著作物等の利用の円滑化
   第4節 次代の文化の土台となるアーカイブの円滑化について
6.意見: 以下のとおり

 アーカイヴ活動の円滑化に関する整理の中で、「インターネット技術を活用して情報を共有する習慣が広まってきている中で、インターネット等を通じて多くの者が情報を共有できる環境を整備することが重要ではないか」としておりながら、そのアーカイヴの主体を「コンテンツ事業者自ら」と「図書館等を代表例として」しか考えないのは何故か(以上の文章は中間整理概要より抜粋)。
 中間整理の中では「インターネット等を通じて各種のコンテンツに国民が容易にアクセスできる環境を整備することが重要との問題意識に照らした場合には、コンテンツ提供者が自ら構築するアーカイブであっても、図書館等のコンテンツ提供者以外の主体が行うアーカイブであっても、国民が容易にアクセスできるようになるとの面で同様の効果があり」(39ページ)とされているが、やはり重要な点が抜け落ちているように思える。
 インターネット技術の活用という点においては、コンテンツ事業者も図書館も他のネットサービス事業者も個人ユーザーも変わりなく、ある者が可能なアーカイヴ手段は殆どの場合 他者にも可能である。多くの者が関わるなか僅かなリソースでも持ち寄り、世界規模でそれを集積することで巨大な情報アーカイヴを実現するというのがインターネットである。
 情報をほんの何カ所かに集中するのではなく、もっと分散的に蓄積する手段を想定し、制度を考えるべきであろう。
5.該当ページおよび項目名:
  第2章 過去の著作物等の利用の円滑化
   第4節 次代の文化の土台となるアーカイブの円滑化について
6.意見: 以下のとおり

 中間整理42ページから書かれている、国立国会図書館において「納本された書籍等を将来の保存のために直ちにデジタル化(複製)することが認められる」よう著作権法上明確にするとの方向性は支持する。
 その一方で、国立国会図書館でデジタル化された資料について「館内閲覧やコピーサービスのルールについて関係者間で協議が必要」「図書館間の相互貸借を円滑に行うための方策について関係者間で協議が必要」とあるが、これらの資料活用法に制限を加えてしまってはデジタル化した意味が減じられてしまうのではないか?
 最低限、現に絶版などの理由で入手不可能となっている資料のデジタル化されたものについては、館内閲覧・コピー提供・相互貸借を可能とするよう制度的に担保すべきである。またこの担保の際には、無償原則によって図書館が社会的インフラとしての役割を要求されていることも忘れてはならない。

 「記録技術や再生手段の変化に対応するための複製について、著作権法第31条第2号の解釈により可能であることを明確にする」とのことであるが、これが規定で明確にすることではなく解釈によることとした理由をもう少し明らかにすべきではないか。
 これまで図書館が著作権法の権利制限規定を厳格に解釈しそれを遵守してきた過去を踏まえて、図書館側から改正要望が出されていた項目である。このことは、図書館側としては規定を加えた方がより対処しやすいものとも考えられるが、規定を加えることで何か副作用を生じるのだろうか?

(以上、文言自体は中間整理概要より抜粋した。)
5.該当ページおよび項目名:
  第3章 保護期間の在り方について(全体として)
6.意見: 以下のとおり

 保護期間を現在以上に延長することは、その結果が仮に原則死後70年より短かったとしても、反対である。根本的に、こうした保護期間延長によって“利益”を得たり、「権利が切れて困る」と主張しているのはその著作物を作った原著作者ではなく、その承継者である。それが判りきっているのに保護期間を延長するとすれば、もはや著作者のための制度設計とは呼べない。既に亡くなっている著作者への“利益”ではなく、いま生きていて現に創作活動を行なっている者たちへの支援を考えるべきである(そして、その方策は決して保護期間の延長ではない)。
 権利承継者にとってみても、これまでの保護の水準を前提にビジネスを組み立てていたところである。手持ちの権利の期間を延長するということは、労せずして収益増の機会を得るということだけでなく、新たな創作を進めることで利益を得ようとするインセンティブを減じることにもなりかねない。

 また、保護期間延長によって生じる問題をもっと重く見るべきである。――権利者の所在が不明になり著作物利用許諾が困難になる、多くの権利者が関わることで利用許諾が出されにくくなる、ボランティアベースで進められているアーカイヴのプロジェクトが進められなくなる、すでに文化に溶け込んだ表現を過度に保護し次世代の創作を縛る等。
 これらは無論、保護期間が満了していない時期からすでに問題となっているものであり、保護期間延長の議論とは別に対処されるべきものでもある。しかし保護期間が延長されれば、これらのデメリットが増幅されるのは明らかである。著作権(あるいは著作隣接権)が基本的に「禁止権」として設定されている以上、他人の行動への影響を強く与えるものだという意識が制度設計において必要である。
 仮にこうしたデメリットの解消を約束して保護期間延長の合意を取り付けようとしたとしても、その延長の前に、対処の有効策を実現しなければ説得力は生まれない。延長の議論は、本来その解消の後に為されるべきであった。

 現時点では、保護期間延長の議論を行なうこと自体、時期尚早と言わざるを得ない。
5.該当ページおよび項目名:
  第3章 保護期間の在り方について
   第3節 各論点についての意見の整理
6.意見: 以下のとおり

 著作権分科会において説明資料となった中間整理概要について気になった点がある。この資料の中で「プロのクリエーター育成のためには、保護期間延長ではなく、ネットの違法コピー対策など、別の対応策を考えていくべきではないか」とまとめられているが、これは実際の中間整理では92ページに「次のような意見があった」ものとして書かれているものである。それをあたかも代表的な意見として概要に掲載してしまったのは、印象をミスリードしてしまうおそれがあるのではないか。
 また、保護期間延長がプロのクリエイター育成に役立たないのは言うまでもないが、ここで重要なのはクリエイターへの利益還元や支援をどう行なうかということであって、「ネットの違法コピー対策」は直接には関係ない。
 ここで関係があるとの判断をしているとすれば、「ネットの違法コピー対策」が直接的に権利者に利益をもたらす(それまで「違法コピー」をしていた者が正規品へと流れていく)との前提がなければならない。
 しかし、ネット上での有効な著作物流通が不充分な今これをやっても権利者へ利益をもたらすことはあるまい。「ネットの違法コピー」が“地下”に潜るか、そもそも特定の著作物を鑑賞するという習慣が国民の中の少なくない人々から失われるだけであろう。

 折衷案として「死後50年から70年の間は許諾権ではなく報酬請求権にすること」「延長希望者が更新料を支払って登録する制度」「延長の20年で得られた使用料を文化振興基金に充てること」「翻案権等の一部の支分権については延長しないこと等」と書かれている(以上、抜粋は概要から)が、これらはいずれも多く指摘されるデメリットを解消した後でなければならない。想定される懸念の多くは解決しないからである。
 加えて、94ページにおいて「映画の著作物の保護期間について」との項目が設けられており、その期間延長も今後検討され得ることが書かれている。そもそも今回の死後50年から70年へ延長せよとの議論は、映画著作物の保護期間を(公表後起算とは言え)延長したことも発端となっているものであり、そこでまた映画著作物でも延長をすれば次は他の著作物でもさらなる延長が要望されるのは目に見えている。延長していくことで、それが呼び水となってさらなる延長を招きかねないというのも、延長慎重論の根拠のひとつであるが、直接的ではないにせよ中間整理においてそれが示唆されてしまっていることは注目に値する。

 戦時加算については全くいじる必要はない。戦時加算によって著作権保護期間が存続しているものでも、近年のうちに順次切れてきているからである。10年ほど前であればまだしも多少は意味があっただろうが、もはや2008年においては保護期間延長の根拠とはなり得ない。時間が解決する問題である。
 まして戦時加算の解消を条件に保護期間を延長するという主張は一方にしか利することのない身勝手なものであり、検討の余地も無い。
5.該当ページおよび項目名:
  第3章 保護期間の在り方について
6.意見: 以下のとおり

 保護期間延長の「メリット」については、延長を要望する側が説得的に材料を提示すべきところ、それができなかったということが言える。
 「二者択一の形で議論するだけでなく、両方のメリットを受けられる方法なども含めて検討を進めるべき」とまとめているが、これは「メリットを受けられる、少数であるが価値の高い著作物」に限って延長するという方策でも実現しない限り無理である。しかし延長要望側の意見としては、これから何十年経った後に急に「価値の高い著作物」と認められることも想定しており、こうした選択的な保護期間延長を受け入れられるかは疑問である(以上、文言は中間整理概要から抜粋)。
 このまとめはもはやレトリックに過ぎないものであって、実質的な意味は無いのではないか。

 保護期間が延長されても問題があまり生じない著作権制度という観点での提案は果たしてあったのだろうか? そうした著作権制度を論じ、その実現に目処が立たない限り、この議論が延長容認でまとまることは無いだろう。

Posted by 谷分 章優 著作権, 著作権保護期間延長問題, 著作権行政 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年11月 3日 (月)

パブコメラッシュ

 先に著作権分科会(法制小委と保護利用小委)のダブルパブコメについて書いたんですが、他にもパブコメが始まってましてね。
 「日本版フェアユースをめぐる」デジ・ネット専門調査会の報告案やら、青少年ネット規制法がらみやら何やらで一杯ですよ。

 とりあえず紹介だけしておきます。現時点はこれで勘弁して下さい。


●11月14日締切り ※民間の意見募集です

http://www.iajapan.org/filtering/press/20081017-press.html
「『青少年の安全なインターネット利用環境の整備を目指して
 関係者に望まれる取組みについて~書き込み可能なCGMサイト増加への対応~
 (中間とりまとめ)』に関する意見の募集について」
(財団法人インターネット協会) 2008.10.17


●11月16日締切り

http://www.soumu.go.jp/s-news/2008/081017_8.html
「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等

 に関する法律施行令(案)に対する意見募集」
(総務省) 2008.10.17

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=095081280&OBJCD=&GROUP=
「『青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する
 法律施行令(案)』に対する意見募集」
(e-Gov:意見募集中案件詳細)


●11月17日締切り

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/pc/081030/081030comment.html
「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会報告案に関する意見募集」
(首相官邸・知的財産戦略本部)

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=060081030&OBJCD=&GROUP=
「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会報告案に関する意見募集」
(e-Gov) 2008.10.30


●11月22日締切り

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=120080022&OBJCD=&GROUP=
「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の
 規制等に関する法律の一部を改正する法律に関し
 国家公安委員会が定める処分基準案に対する意見の募集について」
(e-Gov) 2008.10.24


●11月21日締切り

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=145207391&OBJCD=&GROUP=
「『通信プラットフォーム研究会』報告書案の公表及び本案に対する意見の募集」
(e-Gov) 2008.10.25

Posted by 谷分 章優 ネット規制, 著作権 | | コメント (0) | トラックバック (0)

法制小委「中間まとめ」・保護利用小委「中間整理」パブコメ締切りまであと1週間

 御無沙汰してしまいました。“やるやる詐欺”みたいになってしまってますが。

 保護利用小委と法制小委のパブコメは結局10月9日に開始され、これの締切りが11月10日に設定されております。あと1週間ですな。

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=185000345&OBJCD=&GROUP=
「文化審議会著作権分科会
 『法制問題小委員会平成20年度・中間まとめ』
 に関する意見募集の実施について」
(e-Gov)

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=185000344&OBJCD=&GROUP=
「文化審議会著作権分科会」
 『過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会
 中間整理』に関する意見募集の実施について」
(e-Gov)

 法制小委では、「中間まとめ」は次のような内容になっております。

「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会
 平成20年度・中間まとめ」

第1節 「デジタルコンテンツ流通促進法制」について
第2節 私的使用目的の複製の見直しについて
第3節 リバース・エンジニアリングに係る法的課題について
第4節 研究開発における情報利用の円滑化について
第5節 機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱いについて
    (デジタル対応ワーキングチーム関係)
第6節 その他の検討課題

 このうち、注目したいのがやはり第2節。いわゆる「ダウンロード違法化」の問題。正確に言えば〈違法複製物および違法配信物からの私的コピーの30条除外〉ということになりますが、その副作用から適法行為の萎縮を招きかねないとの意味を込めて「ダウンロード違法化」と(私は)呼んでおります。
 録音・録画分野、つまり音楽や映像については私的録音録画小委員会で議論されてきたことになっており、今回の法制問題小委員会ではこの30条(私的複製規定)除外にソフトウェアも含めるかということだけを検討しました。私的録音録画小委での議論の妥当性については全く触れておらず、その法的・社会的な効果について法制小委で精査した様子は全く見られません。
 法制小委の本パブリックコメントが始まった後で、私的録音録画小委(10月20日の第4回)では「ダウンロード違法化」の方向性を維持することが確認され、しかも新たにパブリックコメントを募集することはしないとの決定を下しております。事務局が報告書をしたためて、たった1回の小委員会で了承される予定。
 そんなありさまですので、「ダウンロード違法化」の問題について著作権分科会に何か言おうと思えば、この法制小委のパブコメを使うしか無いのですね。

 法制小委では他にも、権利制限関係で重要な検討課題に一定の結論を出しています。リバース・エンジニアリング関連ではかなり踏み込んで法改正の方向を打ち出しています。その一方で、研究開発関連でやや腰が引け気味‥‥。
 権利制限をしよう、という結論については大部分賛成したいところではあります。賛成したいところに意見を述べたって良いんですよ。ただ、議論の経過を見てみると、思うように検討が進んでいないようにも思えるのです。
 世の中で実際に登場してきている新しい著作物利用、あるいはこれまでにもあったのだけどまだ法的課題が残されてきた“古くて新しい問題”などを権利制限規定(著作権法30条以降)で対処しようとすることは、そうした個別事例にのっとって権利制限をするかどうかを考え、するとすればどうした範囲を定めるか(さすがに無制限というわけにいかないですから)との流れで検討が加えられます。だから鳴り物入りで検討課題に加えられても、出てきた結論が何だかみすぼらしいものになったりするんですね。手間暇がかかった割には、かなり制限的な内容になるという。地上デジタル放送のIPマルチキャストを、本放送と同一地域内での同時再送信に限って「有線放送」と同じ扱いにした法改定の事例みたいな感じで。
 知的財産戦略本部でいま「日本版フェアユース」の導入に向けて報告をまとめております(パブコメに付している最中)。法制小委での議論を見ていますと、確かに「日本版フェアユース」の導入が急務であると思わざるを得ません。確かに法制小委でもフェアユース導入を十分意識していて、だからこそ“フェアユースとの関連がありそうなところは後回し”的な姿勢にもなっているのですけど、かえってそれが現在起きている状況に対してスムーズに対処できない(対処しても限定的にならざるを得ない)傾向を強めている感じがあります。ただでさえ個別権利制限規定での対処は時間がかかりすぎるんですがね(だって検索エンジン関係の権利制限って決まったのいつでしたっけねぇ)。
 ともあれ、我々として出すべき意見の方向性は、やると決めた権利制限は迅速にやることとして、法制小委で素早く結論が出せないことが明らかになった権利制限課題のためにも、「日本版フェアユース」規定の導入を急ぐべきだ――ということになりますか。

 お次。
 法制小委と並行してパブコメが募集されているのは、「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」の中間整理。この小委員会、私は「保護利用小委」との呼び名をいつも使っているのですが、文化庁自身も「過去著作物等小委」とか「過去小委」とか呼び方が一定しておりません。もっとも、今回のパブコメは「過去小委員会中間整理に関する意見」とのタイトルで送信することが求められているので、そのあたりは注意して下さい。まぁ、多少間違えて送っても、文化庁側で柔軟に対応してくれるとは思いますが‥‥。
 保護利用小委(ここではこの呼び名で統一させてもらいます)の中間整理は次のような内容でまとめられています。

文化審議会著作権分科会
『過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会
 中間整理』

第1章  はじめに
第2章  過去の著作物等の利用の円滑化
 第1節  検討の経緯等
 第2節  多数権利者が関わる場合の利用の円滑化について
 第3節  権利者不明の場合の利用の円滑化について
 第4節  次代の文化の土台となるアーカイブの円滑化について
 第5節  その他の課題
第3章  保護期間の在り方について
 第1節  はじめに
 第5節  制度の現状
 第6節  各論点についての意見の整理
 第7節  関連する課題
第4章  議論の整理と今後の方向性

 やはりここでメインになるのは第3章「保護期間の在り方について」です。いや、もう、ここについては「保護期間延長反対!」の一言でも良いから、意見を送って下さい。まだ出されていない方で、わざわざここを読んで下さってる方には是非とも。
 なぜ意見を出す必要があるかと言いますと、募集要項にこの一文があるのですね。

今回意見募集と同時に,過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第5回)で発表されました著作権保護期間に関する意識調査を参考に,著作権に関する国民意識調査を実施いたします。メールにてご意見をいただいた方(個人に限ります。)については,ご記入いただいたメールアドレスに,アンケートへの回答をお願いするメールを送付いたします。(11月上旬になる予定です。)

 文化庁が国民意識調査を計画していて、その対象が今回のパブコメを送った「個人」という設定なのです。この「個人」というのが重要で、パブコメでは以前から団体・個人の別を付記して提出するよう求められていたんですが、団体名義で送った場合には今回の意識調査に参加できないというわけですね。だから、団体名義で出された方は、ぜひ個人としても送るのがよろしいかと。国民意識調査への参加権を得るのがパブコメ提出なのだと心に留めてくださいませ。

 ところで、ここ数回のパブコメでは、文化庁は『e-Gov』サイトにしか募集要項を掲載していませんでした。でも今回は早い段階で文化庁サイトにも掲載されていました(内容は『e-Gov』と同じ)。
 良い傾向ですね。審議会の進め方は好きになれませんが、情報公開をしてくれることで多少見直す機会があるのは幸いです。



http://www.bunka.go.jp/oshirase_koubo_saiyou/2008/chosakuken_hosei_ikenboshu.html

「文化審議会著作権分科会

 『法制問題小委員会平成20年度・中間まとめ』

 に関する意見募集の実施について」

(文化庁)



http://www.bunka.go.jp/oshirase_koubo_saiyou/2008/chosakubutsu_hogo_ikenboshu.html

「文化審議会著作権分科会

 『過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会中間整理』

 に関する意見募集の実施について」

(文化庁)




■保護利用小委「中間整理」・法制小委「中間まとめ」に対する私見

 さて。
 偉そうなことを書きつつですね、私もまだ意見をまとめてる最中だったりするのですよ。しかも概要を読んでメモを書いた程度でしかないという。そのメモを以下に掲載します。例によってCCLの対象なので、好きに使ってもらって構いません。
 ただ中間まとめ・中間整理本文との突き合わせをまだやってなくて、対象の項目名やページ数は入れてありません。ひょっとしたら本文を読んだら違うことが書いてある‥‥なんて点もあるかもしれませんが、まぁその時は罠に引っかかったものだと思うことにしまして(笑)。

 ――基本的には私が今までブログで書いてきたことの繰り返しではありますけどね。


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文化審議会著作権分科会
過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会
「中間整理」概要より

●保護期間を死後70年に延ばす際に生じる多くのデメリットが延長慎重論の論拠であるが(ただしそれらが論拠の全てではない)、こうしたデメリットを減じる施策を考案し延長への議論を進めるという手法は論理的にはあり得るところである。しかし保護期間延長のデメリットを減じるという触れ込みで“利用促進策”が本「中間整理」で提言されている割には、その範囲は不当なまでに狭い。
●「過去の著作物等の利用の円滑化方策」については、もっぱら放送番組の二次利用を前提とした著作隣接権の集中管理や、権利者不明の場合の裁定制度の活用など、範囲が限定されすぎていると言わざるを得ない。しかし延長の際に必ず問題となることが予想され、かつ現に(保護期間内であっても)流通を阻害する要因として考えられるものはこの検討範囲の外にある。たとえば多数権利者が関わり、そのうちの僅かな反対によって利用が妨げられるケースについてどれだけの方向性が打ち出せているか。
 集中管理は確かに著作権分野や放送番組での著作隣接権においては権利者側の努力が始まっているが、他のジャンル――たとえば音楽配信や動画配信(とりわけDVDと競合するようなダウンロード販売によるもの)についての集中管理は手つかずであり、日本のユーザーが海外と同等の配信サービスを国内で受けられない現状の原因となっている(場合によっては海外のサービスを使うという方法もあるが、それでは国内産業振興の観点から解決策と呼ぶことはできまい)。
●「アーカイブへの著作物等の収拾・保存と利用の円滑化方策」については、そのアーカイヴを作成する主体を著しく狭めて考えているのが問題である。図書館(とりわけ国立国会図書館)・博物館、あるいは自らが番組の権利者でもある放送事業者が作成するとの前提で議論が進められている。しかしながらインターネットによるアーカイヴサービスが一般化しつつある現在において、むしろアーカイヴの主体として考えるべきはネット上でのサービス事業者や個人ユーザーである。
 特に、ネット上に浮かんでは消えるコンテンツの保存において、そのアーカイヴィングを国立国会図書館に委ねるのは、予算の面で言っても手間の面で言っても酷に過ぎると言え、また実際問題として網羅性を確保するのは不可能であろう。そこで重要になってくるのが米国でのInternet Archiveのような民間事業者であったり、個人ユーザーの手によるアーカイヴ(要は転載)である。
 「中間まとめ」で想定されていた主体以外についても(一定の要件を設けるにせよ)検討を加え、言ってみればインターネット全体がアーカイヴであり続ける施策を打ち出す必要がある。

●「多数の権利者が関わる場合の利用の円滑化」において想定されているのは放送番組だけである。実演家の権利が実質的に“買い上げ”られていたり「ワンチャンス主義」で既に消えてしまっていたりするような音楽・映像分野においては、「多数の権利者が関わる」ゆえの流通阻害が起きていないとの前提で検討がなされているようである。
 しかし現実に海外との比較で「流通阻害」が目に見えて起こっているのは寧ろそうした音楽・映像分野である。法律や契約により著作隣接権の行使は出来ないことが多かろうが、原権利者(著作隣接権者)だった実演家が流通を望みながら、現在の権利者によってそれが止められているという「多数の権利者が関わる場合」の流通阻害を解消すべきである。
●また、放送番組に限定して検討された筈の「利用の円滑化」方策においても、結局は「必ずしも不当な理由による許諾拒否とは言い切れず、むしろ、実務上は、インターネットの番組配信がビジネスモデルとして未成熟であることや、引退等の理由で不明者の許諾が得られないことの方が問題」とし、「明確に効果がある制度的な対応策を見出すことは困難だが、引き続き権利の集中管理の促進、適正な利益再分配ができるビジネスモデルの構築等の関係者の取組が必要」との結論に至っている。これでは検討する前と変わっていない。何も言っていないのに等しい。
●海外において新たな試みが次々と登場する中、日本ではネット配信ビジネスにおいて閉塞感に包まれている。せめて海外で一定の成果が見られるビジネスモデルについては、同等の条件で許諾を出せるよう方策を考えるべきではないのか(そして如何にして権利者への対価の還元を実現するかを考える方がよほど建設的というものであろう)。

●裁定制度については、その手続きが(合理的な範囲で)簡便になる必要がある。また、「著作隣接権には裁定制度自体がない」との指摘を重く受け止めるべきである。たとえば一定数の関係権利者(原権利者も一定条件で含めて考える)の許諾を得られれば利用可能となるような裁定制度なども考慮すると良いのではないか。たとえばレコード会社が配信許諾を拒否していても、アーティスト側で配信を望んでいる場合には裁定制度の利用で配信可能とできるような。
●中間整理では、制度的対応策としてA案(権利制限規定+事後承諾的使用料)とB案(第三者機関への供託)が提案されているが、これらは相反するものではなく、両方を組み合わせて実現するということも可能であろう。そうした柔軟な姿勢で制度の実現を目指すことを望む。

●アーカイヴ活動の円滑化に関する整理の中で「インターネット技術を活用して情報を共有する習慣が広まってきている中で、インターネット等を通じて多くの者が情報を共有できる環境を整備することが重要ではないか」としておりながら、そのアーカイヴの主体を「コンテンツ事業者自ら」と「図書館等を代表例として」しか考えないのは何故か。
 インターネット技術の活用という点においては、コンテンツ事業者も図書館も他のネットサービス事業者も個人ユーザーも変わりなく、ある者が可能なアーカイヴ手段は殆どの場合 他者にも可能である。多くの者が関わるなか僅かなリソースでも持ち寄り、世界規模でそれを集積することで巨大な情報アーカイヴを実現するというのがインターネットである。
 情報をほんの何カ所かに集中するのではなく、もっと分散的に蓄積する手段を想定し、制度を考えるべきであろう。

●国立国会図書館において「納本された書籍等を将来の保存のために直ちにデジタル化(複製)することが認められる」よう著作権法上明確にするとの方向性は支持する。
●国立国会図書館でデジタル化された資料について「館内閲覧やコピーサービスのルールについて関係者間で協議が必要」「図書館間の相互貸借を円滑に行うための方策について関係者間で協議が必要」とあるが、これらの資料活用法に制限を加えてしまってはデジタル化した意味が減じられてしまうのではないか?
 最低限、現に絶版などの理由で入手不可能となっている資料のデジタル化されたものについては、館内閲覧・コピー提供・相互貸借を可能とするよう制度的に担保すべきである。
●「記録技術や再生手段の変化に対応するための複製について、著作権法第31条第2号の解釈により可能であることを明確にする」とのことであるが、これが規定で明確にすることではなく解釈によることとした理由をもう少し明らかにすべきではないか。
 これまで図書館が著作権法の権利制限規定を厳格に解釈しそれを遵守してきた過去を踏まえて改正要望が出されていた項目であり、図書館側として規定を加えた方がより対処しやすいものとも考えられるが、規定を加えることで何か副作用を生じるのだろうか?

●保護期間を現在以上に延長することは(死後70年より短かったとしても)反対である。根本的に、こうした保護期間延長によって“利益”を得たり、「権利が切れて困る」と主張しているのはその著作物を作った原著作者ではなく、その承継者である。それはもはや著作者のための保護期間の設定ではない。
 これまでの保護の水準を前提にビジネスが組み立てられていたところ、手持ちの権利の期間を延長してしまっては、新たな創作によって利益を得るインセンティブを減じることになりかねない。
●また、保護期間延長によって生じる問題――権利者の所在が不明になり著作物利用許諾が困難になる、多くの権利者が関わることで利用許諾が出されにくくなる、ボランティアベースで進められているアーカイヴのプロジェクトが進められなくなる、すでに文化に溶け込んだ表現を過度に保護し次世代の創作を縛るなどの指摘をもっと重く見るべきである。
 これらは無論、保護期間が満了していない時期からすでに問題となっているものであり、保護期間延長の議論とは別に対処されるべきものでもある。しかし保護期間が延長されれば、これらのデメリットが増幅されるのは間違いない。
 仮にこうしたデメリットの解消を約束して保護期間延長の合意を取り付けようとしたとしても、その延長の前に対処する有効策を実現しなければ説得力は生まれない。延長の議論は、その解消の後に為されるべきである。

●「プロのクリエーター育成のためには、保護期間延長ではなく、ネットの違法コピー対策など、別の対応策を考えていくべきではないか」とまとめられているが、これはおかしい。保護期間延長がプロのクリエーター育成に役立たないのは言うまでもないが、ここで重要なのはクリエーターへの利益還元や支援をどう行なうかということであって、「ネットの違法コピー対策」は直接には関係ない。
 「ネットの違法コピー対策」が直接的に権利者に利益をもたらすという前提なのかも知れないが、ネット上での有効な著作物流通が不充分な今これをやっても権利者へ利益をもたらすことはあるまい。「ネットの違法コピー」が“地下”に潜るか、そもそも特定の著作物を鑑賞するという習慣が国民の中の少なくない人々から失われるだけであろう。
●また、折衷案として「死後50年から70年の間は許諾権ではなく報酬請求権にすること」「延長希望者が更新料を支払って登録する制度」「延長の20年で得られた使用料を文化振興基金に充てること」「翻案権等の一部の支分権については延長しないこと等」と書かれているが、これらはいずれも先に指摘したデメリットを解消した後でなければならない。想定される懸念の多くは解決しないからである。
●なお、戦時加算については全くいじる必要はない。戦時加算によって著作権保護期間が存続しているものでも、近年のうちに順次切れてきているからである。10年ほど前であればまだしも多少は意味があっただろうが、もはや2008年においては保護期間延長の根拠とはなり得ない。時間が解決する問題である。
 まして戦時加算の解消を条件に保護期間を延長するという主張は一方にしか利することのない身勝手なものであり、検討の余地も無い。

●保護期間延長の「メリット」については、延長を要望する側が説得的に材料を提示すべきところ、それができなかったということが言える。
 「二者択一の形で議論するだけでなく、両方のメリットを受けられる方法なども含めて検討を進めるべき」とまとめているが、これは「メリットを受けられる、少数であるが価値の高い著作物」に限って延長するという方策でも実現しない限り無理である。しかし延長要望側の意見としては、これから何十年経った後に急に「価値の高い著作物」と認められることも想定しており、こうした選択的な保護期間延長を受け入れられるかは疑問である。
 このまとめはもはやレトリックに過ぎないものであって、実質的な意味は無いのではないか。
●保護期間が延長されても問題があまり生じない著作権制度という観点での提案は果たしてあったのだろうか? そうした著作権制度を論じ、その実現に目処が立たない限り、この議論が延長容認でまとまることは無いだろう。


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文化審議会著作権分科会
法制問題小委員会
「中間まとめ」概要より

●「デジタルコンテンツ流通促進法制」の必要性はテレビ番組に限ったものではない。「過去のコンテンツ」でありネットでの二次利用を望まれる(そして現在なかなか流通が進まない)ものの代表としては確かにテレビ番組が想定されるところだが、実際問題として音楽・映像分野でも海外に遅れを取っているのが現状である。
 単純に、海外での配信サービスが日本に上陸しても、本国と同様のカタログを維持できないのは(国による権利関係の違いが原因とは言え)ユーザーから理不尽に映る。

●「デジタルコンテンツ流通促進法制」を放送番組に限って議論すること自体、妥当性を欠き議論を不当に矮小化するものと考えられるが、さらに「権利者不明等により契約交渉が用意でない場合の問題が中心課題」とするのは問題を矮小化してはいないか。多数の権利者が存在する際に一人でも許諾を拒否する者がいる場合こそが問題の本質であり、全員一致で権利行使するのでなく誰かが許諾をすれば流通できるような制度が望まれている。また、これは放送番組に限らず、音楽配信や映画配信ですらも同様の問題を抱えている。
●「権利者不明の場合に十分な調査をした上でも権利者が不明である場合に、一定の条件で利用を認める制度的措置について、早期に実施に移すべき」というまとめ自体には賛成である。しかもこれは保護期間の延長や「デジタルコンテンツ流通促進法制」に関係なく、単独の課題としても解決すべきものである。
 また、これだけでもまだ「流通促進」には不足である。海外で既に新しいビジネスモデルとして進み出しているサービスの内容を、日本で試せない(あるいはその権利を持っている者が試そうともしない)のが実情であり、だからこそ“権利制限すべき”との論が説得力を持ってしまうのである。
●権利を持つ者が自ら集中管理を実効性あるものにする努力を怠らねば、デジタルコンテンツの流通促進は見込めるだろう。しかし現状がまだ不足していることは関係者の一致した見方だ。権利制限をも視野に入れた議論は権利者(特に著作隣接権者)に選択を迫る働きがあるのではないか。その意味でも、放送番組に限った議論をすべきではない。

●「インターネット等を活用した新たな創作・利用形態に関する課題について、委託調査により、関連事業者等が問題を感じている点を調査」した結果、多くは著作権分科会の検討課題に含まれているが「ストレージサービス等についての法的評価の問題」が指摘されたとある。これはまさに司法で「カラオケ法理」が拡大しすぎていることによる。これに歯止めをかけ、インターネット上で提供されユーザーの利便を高めるサービスを「著作権侵害」から救う制度的方策を早く取るべきである。
●「現在の権利制限の切り口(私的領域かどうか、非営利無料かどうか等)と、実際に権利者の利益を不当に害するか否かの実態とが、乖離してきているのではないか」とあるが、むしろこうした問題設定は複製を権利者の不利益とみなす考え方から来ているのであって、ここから脱却して素直に私的領域内あるいは非営利無料の複製をそのまま認めるべきである。
 社会通念上は、私的領域内・外あるいは営利・非営利のラインこそが合致しており、むしろ先の「乖離してきているのではないか」とする考えの方が乖離しているとすら思える。
●「不特定多数の者のマッシュアップによって制作が行われる場合について、今後生じてくる可能性のある問題点について、精査と研究を行うことが必要」とある部分については、賛成である。すぐにでも精査・研究を行なうべきであるし、そうした表現の妨げになるような障害はなるべく取り除く(あるいは適切なルールが出来るよう促す)ことが必要である。

●私的使用目的の複製の見直しについては、私的録音録画小委員会の議論を受けて法制問題小委員会でも検討されたことになっているが、極めて不足した内容と言わざるを得ない。著作権法30条によって私的複製される範囲の縮小(あるいはこれまで曖昧だった部分の明確化)にどれだけの実効性があるのか、また私的録音録画小委員会での議論の前提が妥当だったのかとの精査は手つかずのままである。
 特に私的録音録画小委員会では、30条縮小を示唆した中間整理に対して多数のパブリックコメントが反対意見として集まったにもかかわらず、その多数意見を無視して30条縮小を押し通したという経緯がある。法制問題小委員会での検討の前提とするには、あまりにも不当な形で出されたものである。
●私的録音録画小委員会が打ち出したのは、違法複製物や違法配信物からの私的複製と、適法配信からの私的複製とについて著作権法30条の対象から外すとの方向性である。
 しかし前者は、ユーザーから見て私的複製元の録音・録画物が適法に提供されたものかは知ることができず、またいざ裁判になった場合でも自らが所有する複製物の適法性を証明することは困難である(その複製ソースが手元に無い場合はレンタルCDの例を持ち出すまでもなく少なからず存在する)。さらには日本レコード協会から提案されている「適法マーク」(いわゆるエルマーク)は音楽配信のみに使われ(しかもiTunes Storeには採用されていない)、かつ海外での配信には当然のことながら「適法マーク」は付されていない。このことは著作権分科会でも指摘されていながら私的録音録画小委員会では検討を加えていないし、更に同小委員会では映画製作者代表の委員から「適法マーク」の使用がまだ準備段階でしかないことが明らかにされている。仮に「情を知って」との要件が加えられるとしても、その証明が(権利者側にもユーザー側にも)困難である以上、違法であるかそうでないか判らない不安定な状態が今後より一層強まるだけである。
 後者については、配信時の契約によってその後のユーザーの複製の許諾範囲を定めるという考え方であるが、現状でも配信時の契約では明らかにされていない私的複製態様は想定される。特に変換・バックアップに伴うような所謂「孫コピー」については契約で定めることは考えられず、また敢えてそれを契約で禁止することでユーザーの利便性を大きく損ねるおそれも生じるところである。私的領域内で行われる複製であるにもかかわらず、社会通念上は認められ得るのに「違法」とされる行為が多く発生し放置されることになりかねない。
 30条へ安易に手を加えることで、著作権法が規範としての役割を果たせなくなることを危惧する。
●私的録音録画小委員会では「録音」「録画」についてのみ30条縮小の対象とされていたが、著作権分科会での委員の指摘を受けて法制問題小委員会でもプログラム著作物を対象とするか検討が加えられ、結論としてはプログラム著作物について30条縮小を行なうことは見送られた感がある。
 このこと自体は歓迎するが、その理由が「現時点で必ずしも明確といえる状況ではない」というのは問題である。つまりプログラム著作物での被害状況が「明確」になれば30条縮小があり得たということだ。しかし前述の通り、30条縮小自体のもたらす法的効果について(本来は専門的な検討が加えられるべき)法制問題小委員会で議論されなかったことは遺憾である。
 他の著作物をこの30条縮小に加えるべきかどうかだけを議論してれば済むような小委員会では無かった筈だ。

●リバース・エンジニアリングについて、相互運用性の確保を目的としたものは「一定の要件の下で」権利制限を早期に措置するとした方向性に賛成である。ただし「一定の要件」というのがくせものであり、これによって権利制限の対象となるリバース・エンジニアリングが過度に狭められないよう要望する。
 著作権法においては複製を行なった時点を捉えて権利が及ぶか否かを考えるところであるが、リバース・エンジニアリングについては複製段階ではなくその結果の公表段階を捉えて権利行使を考えるべきではないだろうか。複製元のソフトウェアとの「競合性」を判断材料にする案も出されているが、相互運用性の持ったソフトウェアは運命的に元のソフトウェアと「競合性」を持っているものである。「競合性」そのものよりも、不正競争的な判断でもって適法性を考えるべきではないか。
●障害の発見等の目的で行なうリバース・エンジニアリングについても「権利制限を早期に措置することが適当」との方向性を出したことを歓迎する。こうした場面では、分析を必要としながら一刻を争うようなことも想像される。コンピュータが社会の大部分を占める世の中になっている以上、これを安全に運用するための分析行為がはっきりと適法であるとされる意味は大きい。
 逆に「ウィルス作成等の悪意ある目的の場合との区別」も指摘されているところであるが、こうした区別が可能なのかは微妙な問題と言えよう。ここでの「区別」を厳密にしようとするあまり、先の障害発見目的のリバース・エンジニアリングを妨げることになってしまっては元も子もない。権利制限を先行しつつ、「悪意ある目的の場合との区別」を慎重に見極めていただきたい。
●その他プログラム開発の目的で行なわれるリバース・エンジニアリングについては、「範囲が無制限に広がり、不適当」とある。
 しかしながら今回の法制問題小委員会での検討にリバース・エンジニアリングが盛り込まれたのは、表現を模倣するのでなくアイディアを抽出する作業が著作権法で禁じられてしまっていることへの対処である。その原則を貫徹させるならば、「その他プログラム開発の目的」でもリバース・エンジニアリングを権利制限の対象とすべきではないか。
 むしろリバース・エンジニアリングを複製と解釈するのではなく、そのリバース・エンジニアリングからソフトウェアが作られ公表された時点をもって侵害を判断する形にすべきではないだろうか。

●研究開発における著作物複製に関する権利制限も法制問題小委員会で検討されたが、「早急に結論を得るべき範囲と、それ以外に分けて検討」するとした結論が出てしまうところに「日本版フェアユース規定」の必要性を感じざるを得ない。時間をかけて個別の制限規定を定めていくのでは世の中の動きに対応できないというのがフェアユース導入論の根拠の一つであるが、法制問題小委員会において(日本版フェアユース規定の導入を見据えながら議論されているのも興味深いが)こうした消極的な議論になってしまうのは図らずもそれを証明してしまったように思えてならない。
●「情報解析分野の研究開発」において権利制限を行なうとの方向性には賛成する。「権利者の利益を不当に害しないこと等の条件の下で」としていることも妥当であろう。
●「その他の研究開発分野」について「大学の研究者の行う複製」に限定してしまっているのは問題がある。この「研究」の範囲に個人研究者まで含められれば、権利制限がもたらした研究の社会への貢献が期待できるのではないか。
●研究開発目的の権利制限においても、複製の時点で権利が及んでいるとは考えずに、その結果を公表する場面に応じて権利を及ぶようにしてはどうだろうか(私的複製物が公衆の前に出された時点で権利制限から外れるのと同じようなイメージ)。この際に営利目的か否かの枠をはめ、補償金を用意するなりして対処すると良いのではないか。

●「機器利用時における蓄積」および「通信を巡る蓄積」に関し複製とみなさないことを法律上明確にすることには賛成である。

●「通信・放送の在り方の変化への対応」に関し、著作権法において放送/通信の区分について実態を見た上で放送関連法と定義を一致させるべきである。要するに、公衆が視聴する映像であって同時性を重視した番組構成のある一方的放映を「放送」とすべきである。
●知的財産戦略本部の「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」において「日本版フェアユース」導入への方向性で報告がまとめられるところであるが、その後 法制問題小委員会において詳細な検討が加えられるものと目されている。この規定の導入は是非とも必要であり、今期法制問題小委員会の報告書でも導入の必要性を書き込んでも良いほどである。
●本「中間整理」が著作権分科会において了承される際、三田委員からフェアユース規定導入への慎重意見が出たものと記憶しているが、「日本という国は裁判で決着するということでなく、話し合いで決めるというのが国民性」とする委員の見解はフェアユース導入を否定する根拠にはなり得ない。なぜなら、既に裁判によって多くのネットサービスが差止められてきたからである。日本版フェアユースの導入が叫ばれるようになってきたのも、こうした実態があってのことである。三田委員は同じ会合で、知財本部の「議論の動向を見守りつつ」と言わずぜひ法制問題小委員会としても積極的に議論すべきと発言していたが、私もこの意見に(委員とは反対の意味で)賛成である。繰り返しになるが、法制小委でもフェアユース規定の導入の必要性を、早いうちから積極的に打ち出すべきなのである。




■参考になる意見

 最後に、ここを紹介させていただきますです。
 この角度で切り込むというが「目から鱗」で、この種のパラダイムシフトというのは私にしてみれば凄くカッコいい。というか、私には出来ない。つい議論の前提を共有してしまおうとしますから(その意味では私は硬直的な意見しか出てこないきらいがある)。

http://www.alz.jp/221b/archives/000677.html
「文化審議会著作権分科会
 『過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会
 中間整理』に関する意見」
(The Baker Street Bakery)

 保護と利用の観点で考えるのではなく共有と保障で考えろ、と。座標軸を変えるという、議論の根本を問う意見であります。

Posted by 谷分 章優 著作権, 著作権保護期間延長問題, 著作権行政, 音楽と著作権 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年10月 3日 (金)

パブリックコメント募集間近の法制小委「中間まとめ」と保護利用小委「中間整理」

 ――御無沙汰しておりました。

 まぁ、挨拶抜きで要件のみを。
 10月1日の文化審議会著作権分科会で、法制問題小委員会の「中間まとめ」と保護利用小委(正確には「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」)の「中間整理」が了承された。これは数日中にはパブリックコメントにかけられる予定だ。
 ただ、10月3日金曜日午後7時現在、まだ募集開始のアナウンスは無い。

 せっかくの週末、大部になってしまった中間まとめと中間整理を読むにはまとまった時間が欲しいところなのだが、パブリックコメント募集要領が出ないことには その対象となる文書も読みようがない(もっとも「案」の段階の文書については既に法制小委での配付資料としてネットに上がってはいる。その後、若干の文言修正があるように思われるが、俺自身もまだ付き合わせていないので確かなことは判らない)。
 そこで、中間まとめと中間整理をまだかまだかとお待ちの方のために、非公式版とはなってしまうが、ここにPDFとして掲載することにする。

1.法制小委「中間整理」・概要版
2.法制小委「中間整理」
3.保護利用小委「中間まとめ」・概要版
4.保護利用小委「中間まとめ」

 上記データ量はMacOS XのFinder上で見た数字なので正確じゃないと思う。
 しかも何の工夫も無く取り込んでたらベラボーに大きくなってしまった。まずは概要版だけ読んで、意見を準備するのが楽かもしれない。

※(ここだけ追記)あまりにファイルサイズが大きかったのと、プリントアウトする時に不便だったのとで、取り込みしなおした。その代わり文字が読みづらくなってる点もあるようだけど、ご容赦のほどを。こういうのに不慣れだな俺。

※(この段落、さらに追記)公式資料がパブコメ募集ページに掲載されたのでリンクを切りました。

 いずれも著作権分科会で配布された資料で、公になっているものでは最新版の筈である。ただその後 文言修正が無いとも限らないので、あくまでパブリックコメントの対象は、募集要領が上がった際に用意された公式版であることに留意されたい。
 パブリックコメントへの準備に役立てていただけたら幸い。

 パブリックコメント募集が始まったら、上記リンクは公式版の方へ差し替えるつもり。

 俺としては、資料の読み込みと論点整理に入らないと意見が書けないタチなので、できれば“中間生成物”も出していけないかと目論んではいる。しかし何分 仕事の合間にやらにゃならない作業なので、いつものパターンだと“やるやる詐欺”で終わってしまう。
 その辺はあまり期待しないでおいてください。

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2008年6月19日 (木)

省庁間合意の興奮さめやらぬ‥‥

 俺が遅筆なのと、次々と新しい情報がウェブに上がるのとでちょっとした悲劇(というか行き違い)があったりする。すみませんね、俺も記事を上げたあとであの大臣会見録を読んだのですよ。で、これからブログに書こうとしている次第。
 最新情報──というか俺自身が見ているものについては、はてなブックマークを見てもらった方が早く情報を掴めます。俺が何か知ったときには必ずここに登録するようにしてるから。あとは『Copy & Copyright Diary』さんがまめにエントリーを上げてらして参考になるのと、同じ方のブックマークも捕捉が早いのでオススメ。とりあえず情報収集についてはそんな感じで。

※俺自身は上記に加え、はてなアンテナとGoogleアラートと『パテントサロン』とTwitter(主としてフォロー先の人たちってことになるが)を駆使して情報収集している。更には まめにググるってこともやるけどね。いつ仕事してんだ俺。

 この記事は以下のエントリーの続きであります──

http://himagine9.cocolog-nifty.com/watchdogs/2008/06/post_139e.html
「朝日記事には驚かされた。」
(エンドユーザーの見た著作権)

http://himagine9.cocolog-nifty.com/watchdogs/2008/06/post_b2af.html
「俺たちの“糠喜び”になるか、文化庁の“足枷”になるか」
(エンドユーザーの見た著作権)




 まずは冒頭で話題にした甘利経済産業大臣の会見から。

http://www.meti.go.jp/speeches/data_ed/ed080617j.html
「経済産業省 会見・スピーチ 大臣記者会見」

 ブルーレイディスクへの課金が「私的録音補償金」だとの言い間違い(だろう多分)があるのだがそれはさておく(実際は「録画」の方ね)。この会見での大臣発言ってのが、私的録音・録画問題に関してかなり突っ込んだ内容になっている。アンタそこまで聞いてないよ──ってほど。
 『Copy & Copyright Diary』さん(ここ経由で当該会見録が上がったのを知った)の記事でも発言がピックアップされていたのだが、こことダブるのを承知で引用しておきたい。

Q: ダビング10の問題ですが、これは著作権団体がHDDに対しても課金すべしという主張をしていたわけですけれども、著作権料の課金の範囲については、どういった形になるのでしょうか。

A: 暫定措置としてブルーレイに課金するということにしました。これは、既に確立されているはずですが、デジタル化しますとコンテンツの持ち主、つまり送るほうで、これは何回まで、それが幾らと全部設定ができるのです。アナログだとできないのですけれども、デジタルだとできるのですから、送り手の自由自在なのです。自由自在になる環境が整うまで、実際に行為としてダビングが行われ、それを利用する対象について、当面、いわば従来のDVD以外の部分を埋めたということでありまして、これはこれで適切な措置だと思います。

Q: おっしゃった暫定的な期間というのは、今回は明示されてないのですか。

A: 特にされていませんが、私が考えるに、デジタル化でコンテンツ送信をするほうの体制が技術的にはとれるのですから、それが整ったということで新たな体制をどうするかということに入れるのではないでしょうか。

 「送り手の自由自在なのです」前後のくだりは、私的録音録画小委員会での文化庁案における「権利者側の要請に基づき著作権保護技術が採用されているもの」(DRM)を先取りするかのような発言だ(文化庁案ではこれを前提に補償金を廃止するとしている)。また、JEITAが出した補償金問題への見解の中の「補償金制度とは、本来、私的複製が際限なく行われることで権利者に重大な経済的損失が生じる場合に、それを補償しようとするものである」「デジタル技術の進展に伴い、技術的にコンテンツの利用をコントロールすることが容易になっていく中で、補償金制度の必要性は反比例的に減少する」と通底するものを感じる。
 一見はトンデモ発言をしてるようなのだが、思想としては結構 打ち合わせ済みっぽい。大臣本人の考えなのか、官僚あるいはJEITAの“入れ知恵”なのか、そのあたりは判らないが。

Q: 先ほどの幹事さんの質問の中にも、著作権団体はHDDのほうをしっかり課金すべきではないかという意見が強いのですけれども、今回の経済産業省、文部科学省の合意によって、ダビング10の早期実施にめどがついたというふうにお考えでしょうか。

A: 環境整備には資するものと思います。よく考えていただければ、ハードそのものに、例えばハードディスクに何回入れようと取り出せないわけですから、取り出した対象に対して課金されれば、それは権利者の権利が移転するという理屈になりますけれども、中に入っているものに何回できたから何回分寄こせとか、あるいはこれによって複数の人たちが恩恵に浴するからといって、取り出せないものは一人でそこでしか見ることができないわけですから、取り出して物理的に分散できるものに対して課金されるという理屈はわかりますけれども、そうでないというのは理屈の上から理解が難しいでしょう。

 注目すべき発言。「ハードディスクに何回入れようと取り出せないわけですから」云々の理屈というのはかなり踏み込んだものと言えるだろう。基本、補償金制度というのは私的複製=不利益として組立てられている。そこに“補償の必要がない態様の複製”という概念が導入されてきたのが ここ数年来の議論ということになるのだが、ハードディスク内蔵型機器からは複製が流出しない(建前上は)ことを前提にした“補償の必要性”という観点は問題提起として鋭いものがある。感覚的にはメーカーというよりもユーザーのものに近い。
 実は、テレビ放送からの録画についての補償を議論されていた時分に(当時想定されていたのはハードディスクではなく、ビデオテープのような外部物理メディアを必要とした録画)、補償必要とされていた根拠は「ライブラリー」化目的の録画であった。タイムシフトについては精査されていたとは言えないが一応視野には入れられており、“録画して取っておく人がたくさんいるもんね”ということでタイムシフト用途のものは実質無視された(もっとも外部メディアに記録する以上はアーカイヴ目的を推定されるのは致し方ないのではないかと俺個人としては思う)。
 ところがハードディスク内蔵型機器というのが出てきたために、このタイムシフト用途の録画が再びクローズアップされるようになってきた。その録画の本質というのが、まさしく大臣が上記発言で指摘された部分と言えるだろう(加えて、ハードディスクという比較的壊れやすく容量も限りあるものに記録するため、保存目的に記録するには心許ないという特徴もある)。

 大臣発言については、トラックバックをいただいた『下級役人のつぶやき』さんもツッコミを入れていらっしゃる。これはこれで一理あるな、とは思った。
 ただ上記の「取り出せない」場合の話については、たった1度しかコピーできない場合(ハードディスク)と家族の分をそれぞれコピーし得る場合(外部メディア)とで補償すべき度合いを調整して判断することはあり得るのではないか(もっとも家族の分のコピーをすることが補償するべきものなのかは別論)。少なくとも何枚もコピーを作る場合よりは“損失”は少ないと考えることはできる。

 ついでに軽くレスめいたものも書いておくと、まずタイムシフトによる「損失」について考える際に〈そもそもDVD化される放送番組が多いとは言えない(しかも放送時にあらかじめ判るものではない)〉〈仮にDVD化されても放送時と同じものとは限らない〉〈再放送がいつされるのか判るわけではない〉〈無料放送のビジネスモデルは視聴者がCMを見ることを期待して既に(スポンサーから)対価が支払われている〉等の観点も加味していただきたいところ。
 DRMを導入(DRMフリーも含む)したときの権利者の意思の推定や「契約法」上の話については私的録音録画小委の中間整理にあったはずなのでそちらも当たられたい(もう既にお読みでしたらすんません)。

 経産大臣がJEITA寄りとも見えるスタンスで発言しているのは、おそらく補償金問題への介入の経緯が影響しているのだろうと思われる。補償金問題では文化庁はとても中立的とは見えなかった。




■さて省庁間合意後の動きとしては──

 JEITAの声明が正式に上がった。

http://www.jeita.or.jp/japanese/detail.asp?pr_id=1367
「経済産業省と文部科学省による『ダビング10の早期実施に向けた環境整備』に係る
 JEITAの見解について」
(JEITA / Hot Issues)

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0806/18/news085.html
「JEITA、権利者からの質問状に直接回答拒否 『小委員会で議論』」
(ITmedia News)

 次にいつ私的録音録画小委員会が開かれるか不透明な時に、公開質問状を送られて回答しないというJEITAの姿勢には疑問を禁じ得ない。
 特に、例の文化庁案が「補償金廃止の道筋が見えない」とするJEITAの考えに俺も同感なだけに、こういう逃げ回るような対応には憤りを感じるところだ(もっともガチでやりあう気がなくて、手のひら返しの伏線ということも考えられる)。

 権利者団体側の動きとしては、さきの声明文がJASRACサイトにも上がった。内容はCPRAでのものと同じ。
 面白いのは日本映像ソフト協会が独自に声明を上げたところ。「私的録画問題に関する当協会の基本的考え方について」とのタイトル。

http://www.jva-net.or.jp/news/news_080617.pdf
「私的録画問題に関する当協会の基本的考え方について」
(日本映像ソフト協会・PDF)

 あと椎名和夫氏がTech-On!(日経エレクトロニクス)のインタビューに答えている。6月11日のものということで、経産省・文科省の暫定合意が明らかになる前だ。個人的には、椎名氏の口調を再現しようと苦心されてる様子がなかなか興味深い(氏については小寺信良・津田大介共著『CONTENT'S FUTURE』やITmediaでの椎名氏vs小寺氏の対談を参照されたし)。
 映像ソフト協会と椎名氏の言い分には突っ込みたいところが幾つかある。この文章を書いてるだけで時間切れになりそうなのでそれは改めてということで。

http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080618/153434/
「『権利者から見ると文化庁案が最大限の妥協』
 ——CPRA 椎名和夫氏に聞くダビング10問題の真因」
(産業動向オブザーバ - Tech-On!)

 6月24日には権利者団体側の記者会見があるという話なのだが、何とかして潜り込みたいと思っているところ。ITmediaの記事だと「権利者側は何の説明も受けておらず、先週末に『合意しました』と報告を受けただけ」というコメントが出ていて、これがその通りなら省庁合意→JEITAへの公開書簡→合意発表→権利者の声明発表→JEITAの声明発表→デジコン→権利者記者会見という不自然なほどスムーズすぎる流れについての説明があるのか(はたまた記者からのツッコミが入るのか)楽しみなところではある。

 すみません。力尽きました。

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2008年6月18日 (水)

俺たちの“糠喜び”になるか、文化庁の“足枷”になるか

http://himagine9.cocolog-nifty.com/watchdogs/2008/06/post_139e.html
「朝日記事には驚かされた。」
(エンドユーザーの見た著作権)

 情報が出揃ったてきたということで、エントリーを改めて行きますです。
 上のやつの続き、ね。

 俺がこの話を知ったのは朝日の記事を(確か はてブ経由で)読んだのが最初だった筈。そのあと産経の記事を知って、日経の記事を知って‥‥という順番で書いていったのが上の記事。
 そのあとこの話がバンバン出てくるようになってきて(ちょうど経産大臣と文科大臣が会見で発表したあたりから‥‥の筈)、俺も追うのがウンザリしてくるほど。だから続きの今回は主要なやつしかピックアップしない。

 あと権利者団体がJEITAに出した公開質問書の件は後回しにします。すんませんです。




■報道

 どこからやるかね。
 まず経産大臣と文科大臣が会見したのを受けて報じた読売の記事。

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20080617-OYT1T00440.htm
「著作補償金のブルーレイ課金、経産・文科省が合意」
(YOMIURI ONLINE(読売新聞))

 権利者側のコメントは日経の記事でも取っていたのだが、読売は「日本芸能実演家団体協議会の椎名和夫常任理事」ということで実名で掲載している。「権利者の意見は反映されておらず、勝手に決められたという印象を受ける。これではコピー制限緩和は受け入れられない」、とまぁ予想通りの内容。

http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080617/153362/
「Blu-ray Discレコーダーを録画補償金の対象に,
 ダビング10問題の打開に向け経産省と文化庁が合意」
(産業動向オブザーバ - Tech-On!)

 日経エレクトロニクス(サイトは『Tech-On!』)の記事でも椎名氏のコメントが取られている。「今回の措置がデジタル放送に着目したものか明らかでなく,今後,補償金制度の枠組みがどうなるか明確でない。本来,Blu-ray Discレコーダーはとうの昔に録画補償金の対象になってしかるべき機器」──あと記事の地の文として「今回の決定がダビング10実施に直接つながる可能性を否定する見解」とされている。
 この記事ではさらにJEITA(広報)からもコメントを取っている。「関係省庁間の調整に感謝する。引き続きダビング10の早期実施に向け努力したい」。えらく憎らしく思えるのは俺だけか。
 あと、これが重要なのだが、文化庁の著作権課からもコメントが取ってある。「ダビング10実施のための環境作りの一環として現行法の枠内で行った。私的録音録画補償金制度の抜本的な改正については,(文化審議会傘下の)『私的録音録画小委員会(録録小委)』で引き続き議論する」とのこと。

 報道が最初に出た時にはハードディスク内蔵型への課金が見送られたとの方向性で報じられた。そのためネット界隈が色めき立ったのであるが、いくらなんでも文化庁がiPodへの補償金を諦めるところまで譲歩するとは考えにくかった。

 「ダビング10」と補償金の議論を切り離すために、まずブルーレイへの課金を決定して情報通信審議会がゴーサインを出す。HDD内蔵型については私的録音録画小委で検討を続ける──なんてシナリオもありそうだな。「現時点では見送る」との書きぶりではそう読むことも可能なようだ(「当面見送る」じゃないもんな‥‥)。

 ──なんてことを朝日の記事の段階で書いた俺なんだけど、この慎重姿勢で間違ってなかったみたい。結局、私的録音録画小委員会での話し合いは続き、あのクソみたいな文化庁案を叩き続けないとならないわけだ(まぁお下品な私)。




■権利者団体のカウンター

 「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」──要するに補償金問題に首を突っ込んでいる著作権者・著作隣接権者の団体だが、今回の省庁間合意に対して声明を発表した。

http://www.cpra.jp/web/news/news_080617_3.html
「『ブルーレイディスクを現行補償金制度の対象と
  することについて』への声明文発表」
(CPRA 実演家著作隣接権センター)

http://www.cpra.jp/web/news/080617_3/bluelay.pdf
「ブルーレイディスクを現行補償金制度の対象とすることについて」
(デジタル私的録画問題に関する権利者会議28団体
 社団法人日本芸能実演家団体協議会加盟61団体(賛同団体))

 まったくの余談になるが、前のJEITAへの公開質問状がJASRACのサイトで、今回の声明文がCPRAサイトというのは何とかならんのだろうか。確かこの権利者会議は『Culture First』サイトも持ってた筈だが、この種のアピールは一箇所にまとめないと正直 見逃すおそれがある。まぁ俺が文句を付ける筋合いのものではないけれど‥‥せめて相互にリンクするとかそういうのはしてほしいよなぁ。

 さて。肝心の声明文の方なのであるが、恨み辛みが書かれていてなかなか面白い。主張の方向性としては、当然あの暫定合意を拒否することになるのは予想済みだ。いや俺から見てもあの暫定合意は無い。決定の場から権利者を外して一方的に決めたようなものだ。あの暫定合意で妥協したのは誰か。少なくとも、総務省でも経産省でもない。

 その一方で、首をひねりたくなる部分もある。

・ ブルーレイレイディスクの指定がデジタル放送に
  着目したものであるか明確でないこと。
・ 既に文化庁が提案している補償金制度の枠組みに関する
  今後の取り扱いが明確でないこと。
との2点から、どれだけの意味を持つものかについて現時点では判断ができません。

 かつ、両大臣は、情報通信審議会で議論されているダビング10の問題にも触れておられますが、以上を考えた場合、現行法でのブルーレイディスクの指定が「権利者への適正な対価の還元」に当たるかどうかについては、はなはだ疑問であり、今回の両大臣のコメントには、戸惑いと失望を感じざるを得ないというのが正直なところです。

 たとえば、ダビング10の開始を前提にブルーレイへ課金するという話をしているのだから、「ブルーレイレイディスクの指定がデジタル放送に着目したものであるか明確でない」というのはおかしい。しかも地上アナログの放送をわざわざブルーレイへ記録する人がどれだけいるのかを考えれば、「ためにする議論」ではないかと思わざるを得ない。
 「既に文化庁が提案している補償金制度の枠組みに関する今後の取り扱いが明確でない」というのは確かにそう。しかしそれは権利者側にむしろ有利なことなのではないか? ここでもし私的録音録画小委員会での議論とリンクされてハードディスク内蔵型には課金しないよ!──などという合意をされてしまっては却って困るではないか。これもまた、拒否をアピールするための論立てのように見えてしまう。

 また、これが致命的なんじゃないかと思ったりする部分が、「現行法でのブルーレイディスクの指定が『権利者への適正な対価の還元』に当たるかどうかについては、はなはだ疑問であり」とするところ。いやいや、現状において「権利者への適正な対価の還元」を行ない得るのは私的録音録画補償金の他には無いって言ってなかったけ、権利者の面々は!? ブルーレイディスクへの課金が「権利者への適正な対価の還元」に当たらない(「はなはだ疑問」)だとするのなら、ブルーレイには課金しなくても良いということなのか。

 いや。あの暫定合意に対して権利者側が言いたいことは解る(解ってるつもりになってるだけ。笑)。
 要するに、ハードディスク内蔵型が合意から外されているのが許せないのだ。ブルーレイへの課金だけでは足りないと言っているのだ。その程度では「権利者への適正な対価の還元」には当たらないのだと。
 ならば、何故そう言わない。どうもこの声明文では主張が遠回しに過ぎる。

 確かに政治決着という形で経産大臣・文科大臣をも巻き込んだものとなってしまった以上、そう簡単に腐すわけにもいくまい。声明冒頭の「省庁間の垣根を越えてこのような努力が行われたことについて、まず権利者として関係各位に心よりの謝意を表したいと考えています」という一文のなんと痛々しいことか。こう言うしかなかったのだ。
 声明の終盤ではきっちり締めてはいる。「権利者としてはこの合意を以って、ダビング10の実施期日の確定ができるものとは考えておりません」「この合意がダビング10の議論を前進させるものでもないと考えております」。これが本音だろう。

 俺自身は、今回の流れについてはかなり権利者に同情的である。いやハードディスク内蔵型に課金するってのは今でも反対だけどね! しかしこのような不透明なプロセスで“トップダウン”(実態は知るべくもないが)に結論が出されたこと、それにおいて極めて政治的な線の引き方をされていることなどを見ると、決して歓迎すべき事態ではない。
 たまたま今回は、ユーザーにとって“最悪の決着”はまぬがれている(権利者にとっては最悪だろうけどね)。しかしそれはたまたまであって、どこがどう転んでいたら「ハードディスク内蔵型も課金!」なんてことになっていたか判らない。それは決して論理的な議論の末の結果ではない、妥協的に線が引かれた上での話でしかないのだ。
 そうやって考えると、俺自身もこんな暫定合意を歓迎する気にはならない。




■今後はどうなるのか?

 ──俺にはまだ見えない。
 とにかく、ITmediaの記事によれば6月24日に権利者団体側で記者会見を開くそうだ(もし中の人がこれを読んでたら案内頂戴。絶対に行くから)。ちなみに6月23日には情報通信審議会の情報通信政策部会#30が、6月27日には情報通信審議会総会#19が予定されている。ということは、おそらく今週中にはデジコン検討委が開かれるだろう。ダビング10関連ではそうした流れのなかで権利者団体の記者会見がセッティングされていることになる。
 情報通信政策部会でほぼ先が見える状態になるのだろうし、これを受けた形で権利者の主張がアピールされるのだろうと思う。その内容がどうなるのか‥‥それはデジコンと部会の流れによるだろうから何も言えない。

 また、今月の下旬に文化審議会著作権分科会の私的録音録画小委員会が予定されている筈だが、いまだに開催案内が一般に出ておらず傍聴受付も始まっていない。前回もギリギリまで開催案内・傍聴案内が出ず、結局そのまま流れてしまったという経緯がある。それを考えると、傍聴受付にも一定期間必要なだけに案内が遅れているのは不吉に思えなくもない。

 俺自身は文化庁案には全力で反対する考えである。「補償金縮小の道筋が見えない」とするJEITAの主張を、この部分についてのみ支持する。俺もそう考えている。
 その一方で、今回 経産省という存在が露骨に入り込んできた(今までもその介入は示唆されてきたところではあるが──たとえば権利者団体の記者会見等々)ことで、権利者とメーカーとの間の対立がより激化するおそれを抱いている。
 “俺史観”からすれば、状況をここまで悪化させたのは文化庁以外の何者でもないと考えているのであるが(そのきっかけ──文化庁の「叩き台」については俺がまだブログを更新していた時期のことだけあって相当書き込んである筈だ)、いま出ている「20xx年」の補償金廃止やらDRM前提やらCD・無料デジタル放送への補償金存置やら、議論のネタとして出されている案すら悪い方向にしか作用していないと考えている。
 そのうえ議論になりようもない要素がさらに増えたとしたら?

 今後 私的録音録画小委でも継続して議論は続けられるらしいが、はたしてそれは経産省の影響から離れたところで行なえるだろうか? あるいはJEITAが暫定合意を前面に押し出して膠着状態を引き起こしたりしないのか。
 よっぽど「ちゃぶ台」をひっくり返した方がすんなり議論できるんじゃないの?と思わなくもない。




■ここで決定版

 俺が文章書いてる間にこんな記事が出てたよ。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0806/17/news117.html
「Blu-rayに補償金の『なぜ』 『ダビング10』『iPod課金』はどうなる」
(ITmedia News)

 一体型だから著作権法を改正しないとならないってのは文化庁が勝手に持ってきた解釈で、最初の法制小委での議論で委員の側から指摘されたものではないんだよねぇ。どちらかと言うと、iPodへの課金を見送るための方便という風にも見えた。その気になれば政令指定だけで課金は可能だと思うよ(むしろ著作権法施行令の中でどう文章を書いて規定するかの方が問題)。
 たとえば音楽を録音するのに使われているからといって政令指定しなければならないわけではない(iPodがこれまで指定されてこなかったように)。つまり理論上は、一体型でも機器だけに課金して記録媒体に課金しないことも可能ではないのかという(あるいは逆)。
 この話は文化庁の自縄自縛といった感じがしてならない。

 記事の中で権利者側にコメントを取ってあるのと、今後のスケジュールをまとめてある丁寧さに拍手。読む価値あります。
 でも一番いいのは、権利者のうちの誰かがブログか何かやって頻繁に生の声をネットに載せることだと思うけどね!(以前は「著作権課長がブログやれ!」って言ってたけど、そっちはもうどうでもいいや。)

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2008年6月17日 (火)

朝日記事には驚かされた。

 裏事情に通じてるわけではない俺にとっては判断に困るんだが。

http://www.asahi.com/digital/av/TKY200806160327.html
「ブルーレイにも著作権料を課金へ 文科省と経産省が合意
  - デジタル機器 - デジタル」
(asahi.com(朝日新聞社))

 正直言って、この種の“新聞辞令”には辟易してしまうところもある。しかしよく情報を掴んだもんだなぁ(さすがプロの記者だ)と感心すると同時に、この内容が本当なのかと疑いの目で見てしまうのも事実。
 実は驚愕の内容よ、これ。さらりと書かれているけれども。

 「文部科学省と経済産業省は16日、テレビ番組を録画するブルーレイ録画機とブルーレイディスクに、著作権料の一種である補償金を課すことで大筋合意した。ハードディスク駆動装置(HDD)への課金は現時点では見送る。17日にも発表される」とあるけれども、ここだけでも目を剥きたくなる。ブルーレイの機器とメディアに課金されるのは解る。文化庁案でもその線だった。
 問題はここ。「ハードディスク駆動装置(HDD)への課金は現時点では見送る」? 本当なのかこれ。権利者にとってはここが本丸だろう。そこを妥協する形で文化庁が合意に至るなんてことはあり得るのか。ましてどういう理屈で?
 そして「17日にも発表される」と。今日はずっとPCの前にいないとダメか。

 「最近の録画機やiPodなどの携帯音楽プレーヤーの多くはHDD内蔵型。‥‥事態打開のため、著作権団体を所管する文科省と、メーカー側のまとめ役の経産省は水面下で協議を重ね、ブルーレイ課金で折り合った。‥‥デジタル放送を所管する総務省の情報通信審議会は、こうした情勢をにらみつつ、ダビング10の解禁を検討する」。
 「ダビング10」と補償金の議論を切り離すために、まずブルーレイへの課金を決定して情報通信審議会がゴーサインを出す。HDD内蔵型については私的録音録画小委で検討を続ける──なんてシナリオもありそうだな。「現時点では見送る」との書きぶりではそう読むことも可能なようだ(「当面見送る」じゃないもんな‥‥)。

 いずれにせよ、続報ないし正式発表が無いことには判断できん。
 権利者団体の質問状に対するツッコミを用意してる間にこんなことになって、俺も戸惑ってるよ。とりあえずは速報的に記事を上げた。続報があれば追記する形をとりたい。




■産経でも記事が載った

http://sankei.jp.msn.com/economy/business/080617/biz0806171054003-n1.htm
「ブルーレイに著作権者への補償金 文科省と経産省が合意」
(MSN産経ニュース)

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0806/17/news050.html
「Blu-rayに録画補償金 文科省と経産省が「暫定的」合意 iPod課金は見送り」
(ITmedia News)
※産経の記事と同内容

 閣議決定のあとで、文科大臣が会見で明らかにしたらしい。
 産経でも「iPodなどハードディスク内蔵型の機器への課金は見送った」としているな。ただ気になるのは、「渡海文科相によると、今回の合意は8月に行われる北京オリンピックに向けた暫定的なものだとしている」という点。
 言ってみれば「ダビング10」を人質に取られた権利者側(このニュアンスを楽しんでください)が「暫定的」にとはいえ妥協を強いられた図。ここで益々意固地になったりしないのかと心配になる。JEITAの“籠城戦”が奏功したのか否か。

 大臣会見の内容をもう少し知りたいね。
 これがどうなっていくのか今後も見守りたい。
 ──私的録音録画小委までは日数が結構あった筈なんだよなぁ。

 ところで省令を改定するのにパブコメに付さないのかな?




■荒れる予感

 日経でも記事が出ていたらしい。

http://www.nikkei.co.jp/news/main/20080617AT1G1700M17062008.html
「ブルーレイも著作権の課金対象に 文科・経産が折衷案」
(NIKKEI NET(日経ネット))

 これも大臣の会見を受